― レビュー ―
製品版リビジョンで確認するCore 2 Extremeの実態
Core 2 Extreme X6800(B2-Step)
Text by 宮崎真一
2006年7月28日

 

 2006年7月14日のプレビューで,その衝撃的なパフォーマンスについてお伝えした「Core 2 Extreme」「Core 2 Duo」。正式発表が行われたこともあり,待ちきれなくなっている読者も少なくないのではないだろうか。Core 2 Extreme/Duoの詳細については,7月27日の記事で詳しくお伝えしているが,スペックと1000個受注時の価格など,デスクトップ向け製品のラインナップ概要を表1にまとめたので,参考にしてほしい。

 

 

Core 2 Extreme X6800のリテールパッケージ

 さて,記事中でも断っているとおり,先のプレビューでは,製品化直前版となるB1ステッピング(B1-Step)のCore 2 Extreme/Duoを用いている。だが,実際に店頭に並ぶのはB2ステッピング(B2-Step)のロットだ。
 Intelに確認したところ,B1ステッピングとB2ステッピングのアップデートでは「極めて特殊な状況で発生する不具合(エラッタ)の修正」が行われたとのこと。性能面の差はまったくないとのことなので,CPUの純然たるパフォーマンスについては,プレビューの結果が,そのまま製品でも同じように再現されると見ていいだろう。しかし,プレビューでは,オーバークロック設定が行えなかったり,省電力機能である拡張版Intel SpeedStepテクノロジ(Enhanced Intel SpeedStep Technology,以下EIST)のテストが行えなかったりといった不具合もあった。そこで今回は,店頭に並び始めたばかりのCore 2 Extreme X6800(の評価用サンプル)を用いて,製品版マザーボードと組み合わせ,オーバークロック動作やEISTの挙動を改めてチェックしてみたいと思う。

 

入手したB2ステッピング版Core 2 Extreme X6800評価用サンプル。「CPU-Z」で確認すると「Revision」に「B2」とあるのが分かる(※画像をクリックすると全体を表示します)

 

 

B2ステッピングのCore 2 Extreme X6800で
オーバークロックとEISTを検証

 

 B2ステッピングのCore 2 Extreme X6800を動作させるマザーボードとしては,Intel 975X Express搭載のASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)製マザーボード「P5W DH Deluxe WiFi AP」を利用した。同製品は,チップセットがサポートしていないPC2-6400 DDR2 SDRAM(DDR2-800)を独自にサポートしているため,テストに当たってはPC2-5300ではなくPC2-6400 DDR SDRAMモジュールを利用。Athlon 64 FX-62とメモリ環境を揃えた。Athlon 64 FX-62用のマザーボードは,同じくASUSTeK Computer製のnForce 590 SLIマザーボード「M2N32-SLI Deluxe」を用意している。

 

P5W DH Deluxe WiFi AP
無線LANアクセスポイント機能を提供するIntel 975X Expressマザーボード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
実勢価格:3万6000円前後
M2N32-SLI Deluxe WiFi-AP
こちらはnForce 590 SLI搭載で無線LANアクセスポイント機能を提供
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
実勢価格:3万円前後

 

 このほかテスト環境は表2のとおり。ベンチマークテストは,4GamerのベンチマークテストレギュレーションVersion 1.0に準じるが,プレビュー時に,高解像度になるにつれてグラフィックスカードがボトルネックとなっていたため,今回,1920×1200ドット環境でのテストは割愛した。

 

 

 

リテールCPUクーラーで3.47GHz動作!
Athlon 64 FX-62との差はさらに拡大

 

 では,まずはオーバークロックのテストから。
 言うまでもないことだが,オーバークロック動作はメーカー保証外の行為である。4Gamerとして推奨するものではないし,もし読者が試してみて,ハードウェアに深刻なダメージを負ったとしても,4Gamer編集部および筆者は一切その責任を負わないので,この点はあらかじめご注意を。また,どこまでオーバークロックが可能かについては,CPUやマザーボードなどの個体差が影響する。今回の結果は,あくまで試用した個体の結果であることを,十分理解しておいてほしい。

 

 話を戻そう。オーバークロックに当たっては,Core 2 Extreme X6800が,規定倍率の11倍よりも上の動作倍率を設定できるという仕様を利用し,マザーボードのBIOSからFSB設定および動作倍率を変更。動作が不安定になった場合は,CPUコア電圧を引き上げるという,オーソドックスな手法を採用した。
 結果,CPUコア電圧を1.45V(定格は最大1.30V前後)にまで高める必要があったが,Pentium Dのリテールパッケージに付属のCPUクーラーを用いた状態において,最高3.47GHz(FSB 267MHzの13倍設定)で安定動作。標準の動作クロックは2.93GHzなので,500MHz以上引き上げることができた計算だ。
 対するAthlon 64 FX-62は,同条件,つまり同CPUのリテールパッケージに付属のCPUクーラーを用いた状態において,CPUコア電圧を1.55V(定格は1.35〜1.40V)まで引き上げた結果,3.01GHzが限界だった。FSB設定201MHzの15倍設定となり,標準の動作クロックとなる2.80GHzからすると,約200MHzの上昇ということになる。

 

 というわけで,今回は標準の動作クロックとは別に,上で判明したオーバークロック状態で,Core 2 Extreme X6800とAthlon 64 FX-62を比較してみることにする。
 グラフ1は,「Quake 4」(Version 1.2)における平均フレームレートをまとめたものだ。一目見ると分かるとおり,Core 2 Extreme X6800では,オーバークロックによるパフォーマンスの上昇が,低解像度で顕著である。とくに,1024×768ドットでは,20%強という,圧倒的なまでの伸びを示しており,強烈な印象だ。3.01GHz動作でも,定格動作のCore 2 Extreme X6800を捉えられないAthlon 64 FX-62の差は明らかである。
 なお,高解像度でスコアの差が小さくなるのは,グラフィックスカードがボトルネックとなり,オーバークロックの効果が薄れてしまうため。プレビューと同じ傾向を見せる,と言い換えてもいいだろう。

 

 

 「F.E.A.R.」(Version 1.06)における平均フレームレートをまとめたのがグラフ2だ。
 プレビューで明らかになっているように,F.E.A.R.においては,そもそもCore 2 Extreme/DuoがAthlon 64 FX-62にかなりのスコア差を付けている。それもあって,Quake 4のような,オーバークロックによる劇的なスコアのブーストのようなものはないが,ポイントは,やはりここでも,オーバークロックしたAthlon 64 FX-62が,定格動作のCore 2 Extreme X6800にまったく歯が立たない点だろう。Core 2 Extreme/Duoが持つ,4MBの共有L2キャッシュの効果は,やはり大きい。

 

 

 続いてグラフ3は,「TrackMania Nations ESWC」(以下TMN)のテスト結果をまとめたもの。Athlon 64 FX-62は,クロックの上がり幅が小さいためか,オーバークロックによるフレームレートの向上がわずかなのに対し,Core 2 Extreme X6800では,1024×768ドットで約10fpsと,オーバークロックの効果がしっかり結果として出ているのが分かる。

 

 

 グラフ4は「Lineage II」のテスト結果だが,これも同じ傾向といっていいだろう。3.47GHzのCore 2 Extreme X6800は,1024×768ドットで87fpsと,強烈なまでに良好なスコアを叩き出している。ここでも,Core 2 Extreme X6800のオーバークロックには意味があることを裏づけるデータが出たというわけだ。

 

 

 最後に,グラフィックスカードへの負荷が非常に高い「3DMark05 Build 1.2.0」と「3DMark06 Build 1.0.2」の結果をグラフ5,6に示した。ゲームにおける高解像度設定時と同様,グラフィックス描画負荷が高い場合は,オーバークロックの効果はあまり感じられなくなる。

 

 

 

 

製品版でEISTの有効/無効設定が可能なのを確認
有効時には確実に消費電力を低減

 

 プレビューで用いたD975XBXで,EISTは正常に動作していなかった。
 これはなぜかというと,EISTの管理をマザーボードのBIOSが行っているためだ。実際,プレビュー記事掲載後にIntelが公開したBIOS(バージョン1334)では正常に動作しており,EISTを無効化できることを確認できた。

 

P5W DH Deluxe WiFi APから確認した,EIST有効時におけるCore 2 Extreme X6800の挙動。2〜2.2GHzの間に中間クロックがある(※画像をクリックすると全体を表示します)

 

 翻ってP5W DH Deluxe WiFi APではどうかというと,表2で示したBIOS 0701で,EISTは問題なく有効/無効の切り替えが可能だった。また,EISTを有効に設定してから「FINAL FANTASY XI for Windowsオフィシャルベンチマークソフト 3」を実行し,Windows XPの「パフォーマンスモニタ」で確認すると,266×8の2.13GHzという中間クロックで動作することがあるのを確認。もちろん断言はできないが,デスクトップ向けCore 2 Duoシリーズには,最高/最低クロックは別に,中間クロックが用意されていると見ていいのではなかろうか。

 

EISTを有効化した状態における,アイドル時の様子

 以上を踏まえて,システム全体の消費電力をワットチェッカーにより測定することにした。OS起動後から30分放置した直後を「アイドル時」,なるべくCPUだけに負荷がかかっている状態にするため,MP3エンコードソフトの「午後べんち」を用意して30分間連続実行した状態を「高負荷時」として,結果をまとめたのがグラフ7だ。

 

 Core 2 Extreme X6800の消費電力が低い傾向にあることは,プレビューで明らかになっているが,EISTの有効/無効で,約30Wの差が生じているのは,新たな発見である。
 一方,オーバークロックを行うと,さすがに動作クロックも動作電圧も上がっている関係で,Core 2 Extreme X6800の消費電力は大きく上昇した。もっとも,システム全体の消費電力はAthlon 64 FX-62のように200Wを大きく超えているわけではない。この点は高く評価できそうだ。

 

 

 続いて,アイドル時/高負荷時におけるCPUコア温度を,ASUSTeK独自のモニタリングソフト「ASUS PC Probe II」で測定した結果をグラフ8にまとめた。
 Core 2 Extreme X6800とAthlon 64 FX-62では,CPUクーラーから何から異なるため,直接比較はあまり意味がない。よって,あくまで傾向を見ていくことにするが,EISTは,AMDの省電力機能「Cool’n’Quiet」と同等レベルの「クールさ」を提供すると見てよさそうだ。一方,EIST無効時には,3.47GHz駆動Core 2 Extreme X6800のCPU温度が頭抜けていて気になるが,まあ,高すぎるというほどではない。

 

 

 

汎用性の高い,保守的な作りであるがゆえに
「速い」Core 2 Extreme Duo

 

 製品版サンプルにより,改めてそのポテンシャルを確認することになったCore 2 Extreme/Duo。Pentium DやAthlon 64などといった従来のCPUと比べて,ゲームにおける性能は段違いに高いが,この理由としてIntelは,当然のことながら,Coreマイクロアーキテクチャの優位性を挙げる。上位モデルが搭載する4MBの共有L2キャッシュや,パイプラインのステージ数削減による,ストール時のペナルティ低減は,確かにゲームに“効く”だろう。

 

 だが果たして,それだけで,これだけの差がつくのだろうか?

 

 よく,Pentium 4/Dは「エンコード(だけ)は速いCPU」と言われてきた。これはなぜかというと,Pentium 4/DのNetBurstアーキテクチャが,「最適化したプログラムでは高いパフォーマンスを見せる」ようになっていたからである。
 だがこれは裏を返すと,さまざまなプログラムに対応する汎用性に弱点を抱えてしまうということでもある。連載「ソフトにハードの物語」第4回でも説明しているように,エンコードなどの処理は,少なくともゲームに比べれば単純であるため,プログラム側で最適化を行いやすい。だがゲームでは,何かを最適化しようとすると,ほかも最適化しなければゲーム全体のパフォーマンス向上を実現できないという問題がある。そのため,なかなかNetBurstに最適化するゲームが出てこなかったのだ。これが,先ほどの評価や,「ゲームならAthlonシリーズ」といった評価につながっていたのである。

 

 これに対し,インテルのチャネル事業本部 第二営業部 シニア フィールド アプリケーション エンジニアの天野伸彦氏は,Core 2 Extreme/Duoを「汎用性の高いCPU」と説明する。Coreマイクロアーキテクチャでは,汎用性に注力した設計が施されており,ゲームのように,特定のCPUに特化している場合の少ない,ある意味保守的なプログラムでは,パフォーマンスが大きく伸びる結果となった,というわけだ。

 

 

 ……と「理由」を探してみたが,いずれにせよ,Core 2 Extreme/Duoは疑いなくゲームにおいて高速で,かつ消費電力も低い。少なくとも現時点で,購入をためらう理由は(もちろん予算の都合はあるだろうが,それ以外には)まるでなくなったといっていいだろう。
 Core 2シリーズに押しやられる格好で,既存のPentium 4/Dシリーズは大バーゲンが始まっており,Athlon 64シリーズも,Core 2シリーズに対抗する格好で値下げが行われ,,以前と比べるとかなり安価になった。このため,食指が動くかもしれないが,はっきり言って,ゲームにおけるパフォーマンスを最大限に考慮するのであれば,今からそれらを購入する理由はない。
 これからゲームのためにPCを購入,あるいは新調するのであれば,Core 2シリーズが断然のお勧めである。

 

タイトル Core 2
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/07/27 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

(C)2006 Intel Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/conroe_b2/conroe_b2.shtml