※このレビュー記事は英語版をもとに作成していますが,最後に日本語版についての情報があります
■食傷気味のチームFPSに風穴を開ける風雲児となるか!?
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すべてを当時のままに「再現」という言葉がまさにピッタリくる本作。ソフトシャドウがかかっており,画面が柔らかい感じに。兵士の表情にもご注目 |
プレイヤーは,米陸軍101空挺師団第502パラシュート歩兵連隊の分隊長マット・ベイカー軍曹となって,この8日間の激戦を生き抜かなければならない。この作品では「史実に基づいた設定が徹底」されており,作戦行動や時間軸はもちろんのこと,部隊に所属した兵士の氏名,さらに当日の天候までもが史実通りに再現されているのだ。アメリカ国立公文書館の資料や現地に出向いてのロケなど,膨大な資料に基づいているようで,それを誇示するかのように,ゲーム内のメニューから資料の一部を閲覧できる。
このゲームを開発したのはGearbox Software。FPS通なら見覚えがあるかもしれないが,「Counter-Strike」のβ版を手掛け,その後も「Half-Life」の追加パックや「Halo」のPC版への移植など,表舞台に出にくい形で活躍してきたチームだ。そんな彼らの初パッケージ製品となるのが,このBIAである。
本作品は,おおまかにいうとチームを指揮するリアル系ミリタリーFPSだが,RTS的な要素を取り入れるなど斬新さが散りばめられていて,意外にオリジナリティの高い作品である。初オリジナル作品とはいえ,FPS制作に長らく携わってきたデベロッパだけに隙のない作品に仕上がっている。
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輸送機を対空砲弾が直撃! まだ準備は万全ではないが,墜落する前に脱出しなければならない | 対空砲の容赦ない攻撃に次々と撃墜される連合軍の輸送機。空挺部隊もバラバラに散ってしまう | チャプターが終了するとメダルが授与され,資料などの隠しコンテンツのロックが解除される |
■見事な雰囲気の描写と優れたチーム指揮インタフェース
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あらゆる場面で,最適の武器を使用するように訓練された部下達。頼りになる戦友だ |
BIAはいわゆる第二次世界大戦モノだが,有名な地名も作戦も登場しない。ノルマンディ上陸作戦の決行日D-Dayから8日間,つまりD+8 Dayまでの,同系FPSとしては異例ともいえる短期間を題材としている。とはいえキャンペーンのボリューム的には十分で,市街戦を中心に農場や墓地など,さまざまなシチュエーション戦闘が楽しめる。
キャンペーンはプレイヤー扮するマット・ベイカー軍曹が,部下を指揮しながらミッションを進めていく。部下は強襲チームと攻撃チームで編成されており,その特性を生かした指揮をする必要がある。強襲チームは軽めの武器と多めの手榴弾を携行し,機動力を生かした行動が得意。攻撃チームは射程の長い小銃や機関銃を持っているので,制圧射撃をおこなって強襲チームの行動をサポートするのに適しているといった具合だ。
それぞれのチームへの命令は,マウスのクリック操作でポインタを目標に移動させるだけで下命でき,このあたりの操作性は「フルスペクトラムウォーリア」に酷似している。チームの選択もシフトキーで切り替えるだけなので,操作自体すぐに体得できるし,操作性の煩わしさを感じることもない,非常に優れたインタフェースといっていいだろう。
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状況把握モードでは俯瞰視点で敵と見方の位置取りが確認できる。このモード中は時間が流れない | 崩れかけた民家の2階にも敵が。これぞ市街戦の醍醐味だが,少々厄介な敵であることに間違いはない | これぐらいの近接戦でもアイアンサイトを覗かずに命中させるのは至難の業。噴き出す血しぶきが…… |
■徹底したリアル性の追求と完成度の高いAI
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さまざまなシチュエーションでの戦闘が用意されている。降り注ぐ迫撃砲は早めに始末する必要がある |
BIAが同様のFPSと決定的に異なるのは,交戦が始まると「状況把握モード」により戦術的な思考ができることにある。状況把握モードでは一時的に時間の流れを中断し,通常の一人称視点から上空へ視点を移し,俯瞰的に状況を把握できる。このため強襲チームをどこに向かわせるか,あるいは攻撃チームにどの敵の制圧をさせるかといった戦術を練れるようになっている。しかし残念ながら,個人的にこのモードは現状ではあまり有効には見えず,操作性も悪いと感じられた。いいアイデアだとは思うのだが,もう少し使い勝手が良くてもよかったのではないだろうか。
このゲームでは制圧という概念が非常に大きなポイントとなっている。敵の頭上には制圧状態指針と呼ばれるメーターが表示され,制圧射撃によって敵の行動を封じ込められる。制圧状態となった敵は,遮蔽物に身を隠したまま,たまに周囲の状況を確認したり散発的かつ盲目的な攻撃しかしなくなってくる。こうした被弾への恐怖心は,ゲーム内のすべてのキャラクターに適用されるので,非常に緊迫した状況が生まれるのだ。プレイヤーのキャラクター自身も例外ではなく,近くを弾丸がかすめるとビクッと動いてしまい,照準がずれるのである。ただでさえ弾が当たらないゲームなのに,こうした措置もあるため,最初は苛立ちを感じるかもしれないが,すぐにこれこそが戦場のリアリティだと気付くだろう。
AIは敵を倒さなければという使命感と,被弾に対する恐怖心を持ち合わせているわけで,これだけでもAIの優秀さを物語っているのではないだろうか。弾丸がびゅんびゅん飛び交う中をノコノコ歩み出たりすることもなく,場合によっては命令をすぐに聞き入れようとせず,充分に間合いを見計らうこともある。
そうした優秀さを持つAI達は遮蔽物をかなり有効に使うので,膠着状態に陥ることも多く,交戦がしばしば長引く。敵との駆け引きという面白さに加えて,攻撃チームに制圧射撃をさせながら,強襲チームを遮蔽物の側面や背後に回りこませるといったチーム戦術が楽しめるゲームなのだ。
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爆発光で目もくらむ壮絶な激戦地で戦う勇敢な兵士達。戦場ではこのような光景が日常茶飯事なのだろうか | 霧の中での交戦。見通しが利かないため,気付いたときには敵はすぐ目の前ということに。慎重に進むべし | 戦車同士の一騎討ち。通常はこのような位置取りで戦うことは避けるべきで,側面を取ったほうが勝ちとなる |
■こんな良質のFPSが売れないようでは困るのだよ諸君!
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敵味方,多くの死体に囲まれ呆然とする隊員。守れるはずの仲間を死なせてしまった喪失感は大きい |
当然本作は,スポーツFPSのような爽快感を目的としたものではなく,戦場の緊迫感や焦燥感をひしひしと感じながら,敵との交戦をじっくりと楽しむゲームだ。かなり当たりにくいFPSということもあり,「オペレーションフラッシュポイント」や「レインボーシックス」あたりのリアル系FPSが好きな人に最もオススメしたい。ちょっと骨のある作品に挑戦してみたいと思っているFPSファンにもうってつけとなるだろう。
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当たらないFPSであるBIAだが,スナイパーライフルだけは例外。ここだけちょっと別のゲーム並のバランス | 普段は冷静な隊員でさえ,最前線の極限状態に置かれ気が動転してしまう……。砲撃の爆風で帰らぬ人に | 室内戦では屋外に比べ遮蔽物が多いので,膠着状態に陥りやすい。いかに敵の注意を分散させるかが鍵 |
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高射砲や対戦車砲などは爆薬を仕掛けることで爆破できる。仲間の航空機を着陸させるためにも必要な措置だ | 攻撃チームに制圧させつつ,強襲チームに突撃を指示する。勇ましくも人間らしい彼らの活躍に期待しよう | ゲーム画面はプレイヤーキャラクターの目そのもの。被弾すれば鮮血が飛び散り,瞬間的に視界が遮られる |
■2005.9.29 日本語版レビュー追記
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2005年9月15日,待望の「ブラザー イン アームズ 日本語版」が発売されたので紹介していこう。上記レビューにもあるとおり,2005年4月に発売された"英語版,日本語マニュアル付き"は,ゲーム中に英語字幕が表示できるとはいえ,ストーリーや仲間との会話などを把握するには英語力が必要だった。英語がさっぱりという理由で買い控えていた人も多いのではないだろうか。そんな人には,今回の日本語版発売は素直に喜べるところだろう。
日本語版ではメニュー周りは当然のこと,ゲーム中の会話やムービーシーンの字幕など,すべて日本語テキストで表示される。筆者は英語版も一通りプレイしたが,英語の苦手な人間にとって,日本語版と英語版の面白さは段違いだったといえよう。何より,登場する兵士達への感情移入が違ってくる。
第502パラシュート歩兵連隊の分隊長を務めることになってしまった主人公マットベイカー軍曹の本音,極限の戦場で一緒に戦う仲間との会話など,「こんなことを話していたのか」と日本語版で初めて理解できた部分が非常に多い。
ゲーム中では,当時のアメリカでの流行の言葉や言い回しなどを含んだ,イカしたセリフが多いのだが,このあたりはできるだけ当時の雰囲気を出しつつ翻訳しようと努力がなされている。日本人ならめったに口にしない(できない)ようなシニカルなセリフがいちいち面白く,それが数十年前に同じ人間が実際に立たされた過酷な境遇の中での言葉かと思うと,心に響いて仕方がないのだ。
また,ミッションを一つクリアするごとに1部ずつ閲覧可能になっていく,アメリカ国立公文書館の当時の資料やゲーム開発の裏側など,"ボーナス"のドキュメントも,すべて日本語でじっくり読める。このドキュメントの数々,「こんなの軍事マニア以外は喜ばないのでは」などと敬遠してはいけない。長らく国家機密だった作戦指令書や,当時の兵士が書き残した本物の手記など,そこに書かれた情景がそのままゲーム中で再現されていたりする。ゲーム中盤に登場する"コール突撃"の,コール中佐のオフィシャルレポートといったドキュメントもあるのだ。これらはゲーム内容と密接に関連しているといってもいいだろう。
本作を隅々まで楽しむにはストーリーやセリフの理解が不可欠といっていい。英語が苦手な人は,ぜひ日本語版で真の(?)ブラザー イン アームズを堪能してほしい。(Text by UHAUHA)
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