■ヒートパイプでファンレス化したnForce4 SLIマザーボード
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A8N-SLI Premium |
ASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)のnForce4 SLIマザーボード「A8N-SLI Deluxe」は,nForce4 SLIシリーズの定番製品といっていいだろう。どのくらい売れているかまでは分からないが,多くのショップ店頭では一番人気となっており,本誌読者の中にもユーザーは多いと思う。
今回紹介するASUSTeK製マザーボード「A8N-SLI Premium」は,そんなA8N-SLI Deluxeの上位モデルに当たる製品だ。チップセットがnForce4 SLIである点は変わらないが,チップセットクーラーがファンレス化したり,PCI Express x16スロットのレーン数切り替え用ミニカード「ASUS EZ Selector」が省略されたりと,重要な変更点がいくつも見られる。そこで今回は,これらの変更点を一つ一つチェックしつつ,性能や使い勝手から,A8N-SLI Premiumがゲーマーにとって価値のある製品かどうかを検証していこう。
■ゲーマーにとって価値のあるマザーボードとは
さて,いきなり少し横道に逸れるが,そもそも「ゲーマーにとって価値のあるマザーボード」とはいかなる製品だろうか?
マザーボードはCPUやメモリと並ぶ,PCの重要なキーデバイスの一つだ。ということは,まず絶対的に安定していなければならない。そして,マザーボードの安定性を判断する大きな基準の一つが,CPUやグラフィックスカードなどの熱対策である。
マザーボードに限らず,PCの構成部品のほとんどは,熱によって製品寿命が変化する。実際,構成部品には耐熱温度が明示されているものがあり,それを超えてしまえばPCの動作が不安定になったり,構成部品の製品寿命が短くなったり,最悪壊れたりしてしまうのだ。
つまり,安定して長時間ゲームをプレイすることを考えるなら,まずはきちんと発熱対策が行われている製品を選ぶべきなのである。もちろん,読者がケースファンなどを用意して熱対策するのが大前提だが,マザーボード側にも,意味のある冷却機構が設けられているか,構成部品の耐熱温度が高いかといった,安定感を左右する構成部品の品質が問われている。マザーボードを選択するときには,何よりも注意したい部分といえるだろう。
次に重要なのは性能だが,それも安定ありきであることは覚えておいてほしい。あとは騒音レベル(=うるささ)にも気を配ったほうがいいかな,といった程度だろうか。ほかは「お好みで」と言い切ってしまってもいいほどだ。
ちなみに,一般的なPC雑誌や,PCマニアの個人サイトで注目されがちなオーバークロック機能だが,ゲームにおいてはあまり重要ではない。こう書くと「パフォーマンスが重要なのだから,オーバークロック機能が充実しているのは評価すべき点では?」という反論をいただきそうだが,オーバークロックするということは,各パーツに規定値以上の無理な動作を要求することとイコールだ。もちろん,オーバークロックでパフォーマンスが上がるなら,それは素直に歓迎すべきだろう。だが,それでPCの安定性が失われて,ゲームが止まってしまっては本末転倒である。ベンチマークマニアではないのだから,この点は十分理解しておきたい。
■冷却機構の変更で静音性が向上
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比較用に用意したA8N-SLI Deluxe。定番のnForce4 SLIマザーボードといっていいだろう 問ユニティ コーポレーション news@unitycorp.co.jp |
話をA8N-SLI Premiumに戻そう。冒頭で述べたとおり,A8N-SLI Premium最大の特徴はチップセットクーラーを含めた冷却機構にある。A8N-SLI Deluxeでは,チップセット冷却にファン付きのチップクーラーが用いられているのだが,これの風切り音はかなりのもので,使用しているとかなりうるさい印象を受ける。対してA8N-SLI Premiumでは,チップセットクーラーがファンレスのものに変更され,当然のことながら,チップセット用クーラーからの騒音がゼロになった。
これまでファンが必要だったところからファンを取り去った以上,冷却能力への不安は当然出てくるが,A8N-SLI Premiumでは「AI Cool-Pipe」という機構によって解決されているとしている。これは,チップセットクーラーと,CPUへの電源供給を担うVRM(Voltage Regulator Module,電圧変換器)クーラーをヒートパイプで結ぶことにより,熱伝導を促進し,チップセットの発する熱をVRMクーラーで冷却してしまおうというものである。詳しくは図を見てほしい。図は分かりやすさを重視して少々端折っているが,Athlon 64のリテールパッケージに付属するCPUクーラーを利用すると,CPUクーラーからの風が常にVRMクーラーへ当たるようになり,効率的な冷却を行なえるというわけだ。
そこでA8N-SLI PremiumとA8N-SLI Deluxeについて,チップセットクーラーとVRMクーラー,また,A8N-SLI Premiumに関してはヒートパイプの温度を,横河M&Cのデジタル放射温度計「53005」で測定してみた。テスト環境は表のとおり。温度測定に当たって,OSが起動して30分後を「アイドル時」,「3DMark05 Build1.2.0」(以下3DMark05)のリピート実行30分後を「グラフィックス高負荷時」,さらに,「午後べんち」のリピート実行30分後を「CPU高負荷時」として測定している。
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Centurion 530。ケース側板には,CPUクーラー用のパッシブダクト(ファンなしのダクト)と,グラフィックスカード冷却用の空気孔が設けられている。電源ユニットは別売り。サイズは235(W)×495(D)×460(H)mmで,ドライブベイは5インチ×5,3.5インチオープン×1,3.5インチシャドウ× 5。実勢価格は1万2000円前後 問い合わせ先:高速電脳 TEL:03-5297-3210 |
なお,今回は測定に当たり,Cooler Master製のスチールATXケース「Centurion 530」に組み込み,側板を閉じた状態でテスト直前まで放置。直前に側板を取り外して,対象を測定するという方法を選択している。
結果はグラフ1のとおりだ。チップセットクーラーの温度は,三つの負荷状態すべてにおいてA8N-SLI Premiumのほうが低い。VRMクーラーを見てみると,アイドル時こそA8N-SLI Premiumnのほうが若干高いものの,高負荷時/CPU高負荷時はほぼ同じといっていいだろう。さらに,ヒートパイプの温度はVRMクーラーより高い数値を示している。
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つまり,チップセットの熱がヒートパイプを伝ってVRMクーラー部へ確実に移っているから,チップセットクーラーの温度が低くなっているというわけだ。しかも,その熱はVRMクーラーで効率よく冷却されている。このとき,ワットチェッカーを用いてシステム全体の消費電力を見た結果をグラフ2にまとめたが,A8N-SLI PremiumとA8N-SLI Deluxeでほとんど差はなく,ここからもA8N-SLI Premiumが持つ冷却機構の優秀さが分かる。
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次に,NVIDIA SLI動作時における,2枚のグラフィックスカード間の基板温度も計測し,結果をグラフ3にまとめた。アイドル時はそれほど変わらない一方,高負荷時にはA8N-SLI Premiumのほうが4度近く温度が低い。チップクーラーの熱がファンによって拡散していないため,と断言はできないものの,拡張スロット周りの温度もA8N-SLI Premiumのほうが低いのは確かだ。
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A8N-SLI Premiumでは,採用する電解コンデンサがすべて日本製のものに変更されている。電解コンデンサは温度の影響を受けやすいデバイスで,高温であればあるほどその製品寿命は短くなり,いきおい,マザーボードの寿命も短くなる。その点,冷却性能がそもそも高く,電解コンデンサの品質が高いA8N-SLI Premiumは,冷却能力が高いうえに,熱に対しても強いマザーボードといえるだろう。