― レビュー ―
人類の1万年の歴史を追体験する重厚なスケールのRTS
エンパイア・アースII 日本語版
Text by Sluta
2005年10月28日

 

■4年の歳月を経てパワーアップした「エンパイア・アース」

 

進化したのはグラフィックスだけではない。EE2独自の新要素ももちろんだが,これまでのRTSの各作品のよいところもうまく取り入れられている

ヒストリカルRTS「エンパイア・アースII」(原題 Empire Earth II。以下EE2)について述べる前に,まずは前作「エンパイア・アース」に触れておきたい。エンパイア・アースは2001年にリリースされ,当時のRTSとしては画期的なフル3Dグラフィックスと,原始時代から近未来までの,人類の歴史を1本のゲームで再現するという,桁違いのスケールで人気を博した作品だ。
 RTSといえば,日本では「Age of Empires」(AoE)シリーズが代名詞的存在になっているが,エンパイア・アースは,AoEの開発にも携わったRick Goodman氏をデザイナーに迎えて制作された。AoEシリーズの流れを受け継ぐ一方で,強大なパワーを行使できる「プロフェット」や都市の成長の概念など,後の作品に影響を与えるような新しい試みも導入しており,脈々と続くヒストリカルRTSの流れの中でも,とりわけ重要な位置を占める作品なのである。

 

 その後継作品たるEE2で,プレイヤーは14の文明から一つを選び,15の時代に分けられた10000年にわたる歴史をなぞりながら,自国の繁栄と他国の征服を目指して戦っていくことになる。
 前作の基本的なゲームデザインをそのまま残しつつ,天候の変化や領土制など新しいシステムを導入しており,大幅な進化を遂げた大作となっている。以下では,ゲームプレイの流れを追いながら,EE2の全体像に迫ってみたい。

 

 ゲームは,「街の中心」という建物と,何人かの「市民」ユニットを保有した状態で始まる。市民を使って資源を採集し,各種の建物を建設,軍事施設で生産したユニットを使って敵を征服するという展開は,オーソドックスなヒストリカルRTSの流れそのままで,同ジャンル他作品をプレイしたことのある人には,詳しく説明する必要もないだろう。
 EE2の特徴としてまず目を引くのは,マップがあらかじめ数個〜十数個の「領土」に分割されている点だ。各領土については,街の中心を建設することで領有権が得られ,自国の領土内では戦闘や内政にボーナスがつく。各プレイヤーは陣取りゲームさながらに,領土の争奪戦を演じながら勢力を拡大させていくわけである。
 領土にはあらかじめ建設できる建物の上限が決まっており,領土の拡張と国力は比例関係にある。例えば技術の研究を行う「大学」は1領土に1個しか建設できないし,人口上限をアップさせる「住宅」は1領土に6個までと決まっている。
 内政を拡大させるには領土の拡張に乗り出すほかない。だが,とにかく拡張すればよいわけではなく,建物を敵に占領されると保有する資源の一部を略奪され,かえって損害を受けてしまう。あくまで軍事力に見合った拡張をする必要があるわけだ。

 

攻撃態勢に入ると自動的に伏せる歩兵など,ユニットの細かい動きにもこだわりが感じられる 本格的な攻城戦が楽しめるのもEE2の特徴。これが「Rise of Nations」との大きな違いといえる 「民族の象徴」は,建設するとさまざまな恩恵を受けられる特殊建築物で,文明グループごとに合計12種類ある

 

これが最大までズームインさせた視点。前作ではもう少し低いアングルにもできたが,視野の設定範囲は狭まった 文明は合計14種類。文明ごとに固有の特徴やユニークユニットはあるものの,全体的として個性がやや乏しいかも 道路の上では移動速度が上がる。各領土間は道路でつないで,ユニットが素早く動けるようにしよう

 

 

■RTSの操作性を大きく改善する,二つの新機能

 

EE2では爆発,破壊などのエフェクトがとにかく派手で,プレイしていて気持ちがいい

 さて,領土をいくつか保有し,生産拠点が分かれてくると,一度に複数の場所を管理して,指示を出すのは難しくなってくる。その問題を解決するため,EE2では「PIP(ピクチャー・イン・ピクチャー)ウインドウ」と「フルスクリーンマップ」という,二つの新機能が加わっている。
 PIPウインドウとは,要するにサブ画面の役割をするものだ。メイン画面の右下部分に配置されており,最大6か所を"ブックマーク"して,表示しておくことができる。驚きなのは,PIPウインドウ上でもメイン画面と同様の操作ができる点だ。視点のズームイン/ズームアウトはもちろん,PIPウインドウ内でユニットを選択して指示を出すこともできる。画面の小ささを別にすれば,まさに第2の操作画面として使えるのだ。ブックマークした地点を自動で巡回表示させることも可能なので,慣れれば操作性の向上に大いに役立ってくれる。
 また,プレイ中にTabキーを押すと,メイン画面とフルスクリーンマップが切り替わる。フルスクリーンマップでは一つの画面にマップ全体が表示され,戦闘の起きている地点や資源のある場所がアイコンで表示される。資源のアイコンには,そこで何人の市民が働いているかも表示されていて,左クリックでそこへ市民を割り当て,右クリックで外すというように,市民の振り分けが簡単に行える。
 RTSの操作が煩雑になってしまう理由としては,この「資源採集作業への市民の振り分け」が非常に大きかった。EE2はフルスクリーンマップを採用することで,問題解決に向けて大きく前進している。内政管理の便利さという点では,同ジャンル他作品を大幅に凌駕しているといっていい。
 ゲームのシステムやコンセプトなどは人によって好みに差があるものだが,基本的な操作性は誰にとっても重要であり,強く問われる部分だ。EE2は,PIPウインドウおよびフルスクリーンマップでの市民管理機能という2点で,非常に優れた操作性を実現している。

 

 話を戻して,プレイの流れを見ていこう。EE2では資源を採集したり,軍隊を育成したりするのと併行で,テクノロジーの研究と時代の進化に努めていく。EE2において,これらには「テクノロジーポイント」という資源のみが必要とされる。テクノロジーポイントは,大学と神殿にユニットを配置することで獲得する。
 各時代には軍事・経済・帝国という三つのカテゴリに4種類ずつ,計12のテクノロジーがあり,このうちどれか6種類を研究することで,次の時代に進める。
 ただし,テクノロジーの効果は時代が進んでも続くうえ,研究しなかったテクノロジーをさかのぼって研究することはできないため,とにかく進化というバランスにはなっていない。
 テクノロジーポイントはテクノロジー研究と時代進化にしか使わないので,軍事や内政との兼ね合いを考える必要はない。EE2の進化は,タイミングを選ぶだけの非常に簡単なものになっている。

 

 戦闘に関しては,AoEや「Rise of Nations」などの同ジャンル作品とほぼ同じプレイ感だ。ユニット同士に相性がある点や,聖職者でユニットを"転向"させる,スパイで工作を行う点も同様で,すんなり入っていけるだろう。あえてEE2の特徴を挙げるとすれば「消耗の激しさ」だろうか。とにかくユニットがすぐ死に,やられたそばからどんどん生産する。味方も敵をあっという間に撃滅される感じだ。爆発エフェクトの派手さともあいまって,一種の爽快感がある。もっともこれは,前作から引き継がれている要素だが。

 

画面右下にあるのがPIPウインドウ。港の部分を映しておけば,攻撃されたときや,新しい船が生産されたときにすぐ分かって便利 侵攻ルートを提示/提案するための機能「ウォープラン」。マルチプレイで緻密な共同作戦を行うのに,たいへん便利な機能だ フルスクリーンマップでの市民管理の様子。マップ上の資源の場所,働いている市民の数が一目で分かるようになっている

 

エンサイクロペディア(百科事典)の充実ぶりは素晴らしい。EE2に関するあらゆる情報が詳細に解説されている スカーミッシュは設定できるオプション項目が豊富で,長く遊べる。このように,ゲームバランスを調整する項目もある 終了後の結果画面の一つ。「〜の戦い」などと自動で記録される。歴史を振り返るだけでなく戦術研究にも有用

 

 

■AoE3のライバルに,十分なり得る作品

 

砂嵐が起こると,視野が狭くなり,移動速度が低下する。遠距離武器の命中率にも影響がある

 新要素である「天候の変化」にも言及しておかねばならない。これは,季節に応じて雨や雪が降ったり,雷が落ちたり,吹雪や砂嵐が起こったりするというもの。非常に興味深いシステムなのだが,正直に言うと現段階では,天候がゲームプレイに多大な影響を与えるとは感じられなかった。
 例えば雨が降ると視界が狭まり,ユニットの移動速度が低下するのだが,だから戦闘を避けるというほどのものでもない。落雷でユニットがダメージを受けることがあるが,単に運が悪かったというだけだ。環境エフェクトとしては悪くないのだが,プレイの面白さにはほとんど貢献していないように思う。そうなると少しでも動作を軽くするために,「天候の変化をオフ」にしてプレイしてしまいがちだ。天候は,うまくゲームに取り入れればきっと面白く使えるはずなので,もう一工夫欲しかったところだ。

 

 ゲームモードについて。シングルプレイはキャンペーンとスカーミッシュの2種類で,キャンペーンは,チュートリアルの4ミッションに加えて,朝鮮(B.C.2333 〜 676),ドイツ(1220 〜 1871),アメリカ(1898 〜 2070)をテーマにした3本があり,それぞれ8ミッションで構成されている。どれも史実を題材にしているが,もちろんかなり仮想シナリオに近いミッションもある。それぞれの国の歴史に関心がある人にとっては,とくに興味深いだろう。
 このほか,ノルマンディ上陸作戦をテーマにしたシングルシナリオをドイツまたは連合軍で,中国の三国時代をテーマにしたシングルシナリオを魏または呉でプレイできる。
 スカーミッシュについては,プレイオプションの豊富さが特筆に価する。「征服」「首都占領」「チェックメイト」など9種類の勝利条件をはじめとして,人口,資源の量,外交設定,マップ形式,進行速度など,さまざまな項目をプレイヤー自身で設定可能だ。さらには進化コストやダメージ量など,ゲームバランスを調整する項目まである。長く遊んでいるうちにこうした細かいところを調整したくなることはよくあるので,嬉しい仕様といえるだろう。
 マルチプレイはゲームスパイ経由かTCP/IPによるダイレクト接続で,スカーミッシュを最大10人でプレイできる。

 

 近々リリース予定のRTSの中では,やはり「Age of Empires III」の注目度が非常に高い。EE2はその陰に隠れてしまい,いま一つ存在感が薄くなっているが,作品の出来という点では決して負けてはいないと思う。とくにスケールの大きさやプレイの迫力という点では,EE2のほうが上だといってもよいだろう。どちらにもそれぞれ良さがあるが,今年は大作RTSの当たり年でもあることだし,可能ならば,ぜひとも両方プレイしてみてほしい。

 

戦闘を起こすタイミングは春〜夏,晴れというのがベストだろう。監視塔は天気予報機能を持つので,ぜひ活用したい 外交画面では,プレイヤー間で資源・ユニット・領土の受け渡しができる。取引の際に条件提示が細かくできるのもよい 参考までに最低画質の画面がこれ。快適な動作のためには画質を落としてプレイする場合も多いが,それでも前作より美しい

 

シングルプレイ重視の人や,長く遊びたい人にとって,マップエディタの充実は嬉しいポイントだろう。ユニットの配置や地形生成が直感的な操作で簡単にできる。既存のキャンペーンやミッションの改造も自由に行える

 

タイトル エンパイア・アースII 日本語版
開発元 Mad Doc Software 発売元 ライブドア
発売日 2005/10/28 価格 8980円(税込)
 
動作環境 対応OS:日本語Windows2000/XP
CPU:Pentium4 1.5GHz以上 【推奨:Pentium4 2.2GHz以上】
サウンドカード:DirectX9.0c以降に対応したサウンドカード
メモリ:512MB以上【推奨:1GB以上】
ディスク容量:2GB以上の空き容量
グラフィックカード:DirectX9.0cに対応した、ビデオメモリ64MB以上の以下カード
 【推奨:128MB以上(※)】
ネットワーク:LAN、TCP/IP
DirectX:9.0c以降
磁気ドライブ:12倍速以上対応のCD-ROMドライブ
 【推奨 :16倍速以上対応のCD-ROMドライブ】
その他:マウス、キーボード

※ハードウェアT&L、ピクセルシェーダ対応のビデオカードが必要です。

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