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取締役COOソン・ジンホ氏に聞く,HUE今後の展開:「グラナド・エスパダ」基本プレイ無料化から,日本向け課金アイテム,そしてカジュアルゲーム市場参入まで
2006/12/22 16:13
 ハンビットユビキタスエンターテインメント(以下,HUE)が運営するMMORPG「グラナド・エスパダ」が,12月19日に基本プレイ無料+アイテム課金制へと移行した(アイテム課金は1月19日からの予定)。月額固定料金で正式サービスを開始してから約5か月,鳴り物入りでスタートした期待の大作が,半年足らずのうちにビジネスモデルを変更した事実は,さまざまな方面の注目を集めている。
 12月19日に行われた記者発表会「新大陸無料上陸宣言」終了後,HUE取締役COOであるソン・ジンホ氏に,グラナド・エスパダの基本プレイ無料化に踏み切った経緯や,HUEにおける2007年以降の展開について聞いてみた。



■9月には内定していた基本プレイ無料+アイテム課金制への移行

4Gamer:
 本日は発表会お疲れ様でした。そしてグラナド・エスパダの基本プレイ無料への移行が無事始まったようでなによりです。


Song, Jin-ho (ソン・ジンホ)氏:EA Korea設立時のセールスマネージャを経て,Hanbitsoftゲーム事業総括理事に。その後,米国ペンシルバニア州Arcadia Universityにて経営学を学び,2005年5月にHUEの取締役COOに着任した
ソン・ジンホ氏(以下,ソン氏):
 ありがとうございます。最初に,こちらからお聞きしたいことがあるのですが,グラナド・エスパダの1プレイヤーとして,今回の基本プレイ無料化をどうとらえますか? 

4Gamer:
 えっ? それはこちらが最初に質問しようと思っていたことなのですが,先制されてしまいました(笑)。そうですね……,個人的には,1日に1〜2時間程度しかプレイする時間がなかったりしますし,まるまる1週間プレイできないこともあります。そういうときは,月額固定料金だと損というか,もったいない気分になることがありますね。ですから,今回の基本プレイ無料化は歓迎です。

ソン氏:
 なるほど。仕事を持っている社会人ならではの意見ですね。

4Gamer:
 どちらがインタビュアーか分からなくなってしまいそうなので(笑),気を取り直して質問を。
 今回,グラナド・エスパダのビジネスモデルを基本プレイ無料に変更した経緯を教えてください。

ソン氏:
 きっかけは,日本のオンラインゲーム市場におけるビジネスモデルのトレンドが移行したことですね。現在のトレンドは,月額固定料金から基本プレイ無料+アイテム課金へと移っていますので,それに従うのは自然だったということです。

4Gamer:
 確かに,MMORPGで月額固定料金のスタイルを取っているタイトルは減ってきていますね。

ソン氏:
 グラナド・エスパダは「いい」ゲームという自信はあるのですが,月額固定料金が壁となり,気軽にプレイを始められないのではないかとも感じていました。そこで,多くのプレイヤーにゲームを提供したいということで,社内でも基本プレイ無料+アイテム課金制への移行について検討し始めました。

4Gamer:
 では,それが本格化したのはいつ頃でしょうか? 

ソン氏:
 本格的に基本プレイ無料+アイテム課金制に対する検討が始まったのは,今年の9月ですね。「日本の市場では,月額固定料金よりもアイテム課金のほうがマッチするかもしれない」と開発に伝えたところ,多くの賛成を得られました。まずは10月からハイブリッド課金という形式で,NPCカードをはじめとするアイテム販売を期間限定で始めたんですが,おおむね好評を得られました。その結果を考慮して,日本では基本プレイ無料+アイテム課金制に移行しようと決定しました。

4Gamer:
 今後は他社タイトルでも基本プレイ無料+アイテム課金制に移行するMMORPGタイトルが多くなると考えているのですか?

ソン氏:
 そのとおりです。北米での例を挙げれば,「World of Warcraft」はパッケージ販売という課金形態ですが,サーバー間のキャラクター移動などの付加サービスは別途課金になる予定ですよね。それと同様に,他社も続々とアイテム課金制や部分有料制を取り入れていくと思います。

4Gamer:
 それはどのようなことが根拠として挙げられるのでしょうか。



ソン氏:
 2005年のオンラインゲームフォーラムの資料によれば,日本のオンラインゲーム企業はおよそ108社,ゲーム自体は310タイトル前後でした。2006年はもっと増えているはずです。
 すなわち,オンラインゲーム市場の競争は激しくなっているわけですが,月額固定料金というのは,その中で大きなハンデになるのではないでしょうか。プレイヤーは,あえて月額固定料金のゲームを選ばなくとも,別のゲームをプレイするという選択ができます。そのため,よほど大きな競争力を持つタイトルでもなければ,月額固定料金によるサービスの維持は難しいでしょう。

4Gamer:
 月額固定料金での正式サービス開始から,今回の基本プレイ無料化までの期間はかなり短かったと感じるのですが。

ソン氏:
 実は,グラナド・エスパダが正式サービスを開始する前から,私自身は日本での基本プレイ無料+アイテム課金の採用を主張していたんです。
 しかし当時は日本だけでなく,中国や台湾をはじめ,世界各国でグラナド・エスパダを展開している最中でした。そのためワールドワイドな戦略に合わせて,日本でも最初は月額料金制でスタートしたという経緯があります。

4Gamer:
 なるほど,基本プレイ無料化については,実際にはだいぶ前から考えていたのですね。
 基本プレイ無料化を本格的に検討し始めたという9月は,韓国で「RF online」「CABAL ONLINE」が,基本プレイ無料化に移行して成功を収めた時期と重なります。これらのタイトルに何か影響を受けたりはしましたか?

ソン氏:
 基本プレイ無料+アイテム課金制移行の決定自体には影響していません。ただ,そうした他社タイトルが課金形態の移行によってプレイヤーに与えたものよりも,グラナド・エスパダがさらに多くのものを提供するためにはどうすればいいか,あるいはプレイヤーがアイテム課金制を拒絶しないような自然な流れを作るにはどうすればいいか,という点では参考にしました。

4Gamer:
 それが,今回の発表会における補償にあたるわけですね。

ソン氏:
 そうです。それと,現在,インターネット市場自体が“プッシュ戦略”から“プル戦略”に移行しています。
 プッシュ戦略は,企業が中心となって「うちのゲームをやってみてはどうですか?」とプレイヤーに勧める形になります。もう一方のプル戦略は,「プレイヤーにまずゲームをプレイしてもらい,冷静な評価をしてもらう」というものです。
 今回の基本プレイ無料+アイテム課金制移行には,そのプル戦略を採用したという側面もあります。

4Gamer:
 なるほど。ゲームのクオリティに自信があるから,より多くのプレイヤーに評価してもらうことによって,さらにプレイヤーを増やしていくという戦略ですね。

ソン氏:
 そうですね。



■プレイヤーの傾向を踏まえた日本独自の課金アイテムを数多く用意

4Gamer:
 そういえば先日,韓国ゲーム大賞でグラナド・エスパダが大統領賞を受賞しましたよね。その感想などを聞かせてください。


ソン氏:
 2006年,韓国ではグラナド・エスパダと「SUN(Soul of the Ultimate Nation)」「ZerA: Imperan Intrigue」のいわゆる「BIG3」に注目が集まっていました。
 その中でグラナド・エスパダは,MCC(マルチキャラクターコントロール)をはじめとする斬新な内容,原画や音楽で日韓のクリエイターが活躍したこと,そして韓国では4年振りとなる大規模なタイトルだったことで,その作品性を評価されたのだと思います。商業的には,ちょっと成功したとは言いかねる部分もあるんですが……。

4Gamer:
 グラナド・エスパダを含めて,BIG3は日韓とも事前の期待が大きかったにもかかわらず,ふたを開けたら商業的には今一つ奮わなかったわけですが,その原因についてどのような分析をされていますか?

ソン氏:
 それは難しい質問ですね(笑)。
 ほかの2タイトルのことはお答えできませんが,グラナド・エスパダに関しては,まずオープンβテスト開始時に用意したコンテンツを,プレイヤーが消費する速度が予想以上に速かったんです。そのため,プレイヤーの満足度を高められなかったのが,最も大きな失敗要因ですね。
 そこでプレイヤーの満足度を高めようと,システム上の難度を高くしてみたのですが,それがさらにプレイヤーをイライラさせる要因になってしまいました。プレイヤーの皆さんにはご迷惑をおかけしましたが,今はようやく安定してきたところです。ゲームバランスの問題は,今後も重要な課題として取り組んでいきたいと思います。

4Gamer:
 基本プレイ無料化で,今後プレイヤーも増えるでしょうし,ぜひお願いします。それでは次の質問に移ります。2007年1月19日に導入される予定の,課金アイテムはどのようなものを考えていますか?



ソン氏:
 まず,オンラインゲームというものは,仮想現実の中でプレイヤー自身が努力して,レベルを上げたりアイテムを探したりしながら,自分達のもう一つの世界を作り上げていくものです。しかし,実際にはプレイヤーの現実生活との兼ね合いの中で,それがうまくいかない場合もあります。
 例えば,レベル20までゲームをプレイしたけれど,レベルアップのための時間が取れず,その先は全然進めない,というような人もいるでしょう。そうなると,ゲームをプレイするモチベーションは半減してしまいます。課金アイテムは,そうしたプレイヤーを少しだけ手助けするものだと考えています。
 さらにHUEでは,プレイヤーの好みによって,さまざまなアイテムを組み合わせて利用してもらえるようなラインナップとシステムを考えています。

4Gamer:
 具体的には,どのようなアイテムが用意されるのでしょうか?

ソン氏:
 日本のプレイヤーは強化アイテムよりも,自分達の個性を発揮するようなアイテムを求める傾向があります。自分の個性を表現したい,自分だけのユニークな何かを持ちたいという欲求が強く,中でもイラストや原画を忠実に再現したグラフィックスを好んでいます。
 そうした要望に応えるため,コスチューム関連を中心とした,それぞれの個性を強調するようなアイテムの開発に重点を置いています。

4Gamer:
 韓国のプレイヤーは,コスチューム系のアイテムにそれほど関心を持たないのでしょうか?

ソン氏:
 韓国でもコスチューム系の要望はもちろんありますが,日本よりは少ないですね。むしろ,能力値や獲得経験値が一時的に上昇するようなアイテムを好みます。

4Gamer:
 ちなみに,日本のプレイヤーと韓国のプレイヤーで,傾向の違いは何かあるんでしょうか?

ソン氏:
 それは,私がいつも悩んでいる問題ですね(笑)。
 極端なたとえですが,日本のプレイヤーはPK(Player Killing)を好みません。これは拒絶ということではなく,一方的にPKしたりされたりするのを好まないということです。お互いに了承したルールのうえでのPvP(Players vs. Players)なら楽しんでいるんですよね。一方,韓国のプレイヤーはPK自体に慣れているので,いきなり誰かに倒されても,いちいち深刻に捉えない傾向にあります。



4Gamer:
 そのあたりが,バージョン2.0で導入される決闘システムに反映されているわけですね。

ソン氏:
 そうですね。ほかには,ゲーム内イベントで,プレイヤーの皆さんがGMの指示に従ってくれるのには驚きました。日本のプレイヤーはルールをきちんと守りますね。ちなみに,クローズドβテストやオープンβテストに参加するにあたって,あらゆる情報を収集して自分の趣味嗜好に合うかどうかを判断してから臨む傾向にあるというのも,韓国のプレイヤーとはまったく傾向が異なっています。

4Gamer:
 日本と韓国でのコミュニティのあり方についての違いはどうでしょう?

ソン氏:
 日本ではオンラインでの結束が中心ですが,韓国ではお互いに電話を使って連絡を取り合ったりと,オフラインの結束が強いですね。また韓国では普段の狩りではそうでもないのですが,一度戦闘となるとみんなで一致団結して「血柱」をあげて戦います。日本では,むしろ普段の狩りをワイワイ楽しんでいる雰囲気があります。
 極めて簡単に説明すると,韓国ではいわゆる“血盟”,つまりプレイヤー同士がまるで家族であるかのようなつき合い方をするのですが,日本ではサークル活動のようなつき合いが中心ですね。

4Gamer:
 なんとなく分かるような気がします。課金アイテムの話に戻りますが,能力値/経験値が一時的にアップするような課金アイテムについては,「課金アイテムはゲームバランスを大きく崩してしまう可能性がある」という意見もあります。そのあたりについてはどう考えていますか? 

ソン氏:
 ……実は,ゲームバランスを崩しかねないような高額アイテムも候補に挙がっているのですが,こちらはいろいろな角度から調整中です。もちろんゲームバランスの問題があるので,以前の失敗と同じ轍を踏まないよう,慎重に対応するつもりです。販売時には,ゲームバランスを崩さない範囲で「いいアイテム」となるよう試行錯誤しています。そういったことの積み重ねは,運営としての姿勢やノウハウにもつながっていくと思います。



■MMORPGの今後と,2007年以降のHUEが抱くビジョン

4Gamer:
 韓国ではオンラインゲームの人気がMMORPGからFPSに移り,また日本でもMMORPG市場の飽和感が見られますが,こうした傾向をどうお考えですか?


ソン氏:
 現在の韓国におけるオンラインゲームの市場は,三つのカテゴリに分けられると思います。すなわちMMORPG,FPS,そしてカジュアルゲームですね。
 韓国でのMMORPG市場は,周知の通り,リネージュシリーズを中心として爆発的に流行した時期がありました。しかしMMORPGは開発期間が非常に長くなってしまいます。また運営中の収入は多いのですが,その代わりにシステム維持費などのコストも多くかかるという問題を抱えています。開発側としては,MMORPG以外のゲームを制作したいというのが本音でしょう。

4Gamer:
 そこでMMORPGの“次”のジャンルとして,FPSが注目されたんですね。

ソン氏:
 そうですね。FPS市場では,韓国だと元々「Counter Strike」が人気でした。FPS市場は主に男性プレイヤーをターゲットにしていますが,これは韓国で施行されている徴兵制と大きな関係があると思います。

4Gamer:
 なるほど。カジュアルゲームについてはどうですか? 

ソン氏:
 カジュアルゲーム市場には,否定的な側面も当初はあったのですが,最近ではMMORPGと同等の売り上げを出すタイトルもいくつか登場しています。短期間で制作できる,女性ユーザーを獲得しやすい,プレイしやすいといった利点があることから,今後この市場は拡大していくと思います。
 「ムーアの法則」の中に「技術の市場は2年ごとに変わる」というものがあります(編注:元来の意味は「トランジスタの集積密度が18〜24ヶ月で倍になる」というもの)が,オンラインゲーム市場は1年ごとに変化していきます。MMORPGの制作にはだいたい3〜4年かかりますが,完成時にそれがヒットするかどうかはまったく分かりません。大変リスクが高くなっているため,相当にクオリティが高いものを制作できない限り,MMORPG市場は今後衰退していくでしょう。

4Gamer:
 話の流れからすると,HUEでもMMORPG以外のタイトルを手がける予定で考えているように聞こえますが,実のところどうなんでしょうか?



ソン氏:
 もちろん予定はありますよ(笑)。まだ詳しい話はできないのですが,韓国で現在オープンβテスト中の「グルーヴパーティ」というダンスゲームをサービス予定です。そのほか,いくつかカジュアルゲームのサービス開始について検討中です。

4Gamer:
 そのほか,2007年あるいはそれ以降についての計画を教えてください。

ソン氏:
 そうですね,私個人は企業で最も重要なのはIP(知的財産権)だと考えています。HUEのIPはゲームコンテンツで,それは“人”が作っているものですから,常に人を最優先しなければならないと考えています。
 2007年は,今お話ししたとおり,3〜5タイトルの新たなゲームコンテンツのサービス開始を予定しています。そして2008年以降は日本の優秀な開発者やクリエイター,すなわち“人”を起用した自社コンテンツの開発も検討しています。
 これまでは韓国で開発したものを日本でサービスするという形式でしたが,逆に日本で開発したものを韓国をはじめ中国やアメリカなど世界でサービスするというプランですね。

4Gamer:
 おお,それは楽しみですね。それでは最後に,日本のプレイヤーに向けてメッセージをお願いします。

ソン氏:
 ゲームそのものは,韓国Hanbitsoftを中心に開発・提供されるわけですが,日本でサービスするにあたってのカスタマイズは私達HUEの役目です。すなわちプレイヤーの要望を分析して,それをゲームに反映させていくことが私達の仕事です。そのために,プレイヤーの皆さんから要望,不満などさまざまな意見を求めています。できる限りゲームに反映していきますので,ゲームに関する意見をこれからもどんどん送ってください。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

 性急に見えたグラナド・エスパダの基本無料プレイ化に関して,「商業的な不振による影響が大きいのではないか」など,やや厳しい質問を準備して臨んだ今回のインタビュー。しかしこちらの予想に反して,日本での基本プレイ無料化は正式サービス開始前から十分に検討され,9月以降3か月以上の期間を経て入念に準備されたものだった。
 さらにソン氏は,こちらが口にする前に自ら「商業的不成功」という言葉を使い,その原因を実に的確に指摘していた。また,日韓のプレイヤーの傾向の違いに対する分析も,日本と韓国を頻繁に行き来して双方を良く知るソン氏ならではのものといえるだろう。
 グラナド・エスパダの基本無料プレイ化は,状況を的確に把握したうえで,冷静な判断によって決定された。課金アイテムには,日本のプレイヤーの傾向を踏まえた日本独自のものも数多く用意されているそうだ。2007年1月19日に実装される“バージョン2.0”,そして2007年以降にサービスが開始される予定のカジュアルゲーム群とともに期待したい。(ライター:大陸新秩序,photo by kiki)

※収録:2006年12月19日


グラナド・エスパダ
■開発元:IMC Games
■発売元:ハンビットユビキタスエンターテインメント
■発売日:2006/07/21
■価格:基本プレイ料金無料,アイテム課金
→公式サイトは「こちら」

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