インタビュー
「マジオペ」完結&「はるカナ」始動記念!! 芝村裕吏氏,しずまよしのり氏に超ロングインタビュー
果たしてコサック国家の建設は成るのか?
4Gamer:
「マジオペ」と「はるカナ」の世界観につながりを持たせるという案は,企画の段階から決まっていたのですか?
芝村氏:
そうですね。最初からです。お話のつながりという意味だと,「マジオペ」ではアラタの持つ異常な戦術指揮能力に対する解説が足りていなかったので。だから新田を通して「ああ,この一族って代々こんな感じだったんだ」という風に知ってほしかったんです。アラタの親父さんなんかは普通の人なので,隔世遺伝で軍事的才能が回ってきた,というような感覚ですね。
4Gamer:
先祖のほうは自ら戦場で刀を振るうようなタイプだったんだなぁと……。
その辺はやはり時代の違い,あるべき指揮官像の違いですよね。日露戦争時代における“優秀な指揮官”は,先頭に立って戦う人間のことを指していましたから。あの頃はまだいわゆる“英雄信仰”があって,兵士も「英雄に率いられて俺達は戦うんだ!」という感覚が強かった。
でも「マジオペ」のような近代戦では,安全な場所で情報を管理している存在こそ優秀な指揮官になるわけで。
4Gamer:
ほかにも変装が得意な“伊藤さん”が出てきて「おやっ」と思いました。
芝村氏:
そこはもう小ネタですね(笑)。「昔は今につながってるんだよ」という感じを出したかったので,面白く書けたらなぁと。最初はもっと南のほうを舞台にしようかとも思っていたので,ジブリールのご先祖様も出そうかなと思っていました。結局,変わってしまいましたが。
4Gamer:
ストーリー的には1巻で極東へと渡り,2巻以降から本格的にコサック国家の建設に向けて動き始めると思うのですが……今後の展開って,もう結末まで考えられているのでしょうか?
芝村氏:
もちろん。でないと,伏線を張れませんから。やっぱりゲームと同じで,最初から設定していないとあとから不具合がいっぱい出てきて困ってしまうんですよ。適当にやっていると,あとになるほど苦しくなるんです。
4Gamer:
もしこのまま史実通りに歴史が動くとしたら,このあとまた大きな戦争があるじゃないですか……そこまで描くおつもりなのでしょうか?
芝村氏:
それは……人気次第ですね(笑)。小説って,マンガやアニメと比べて大胆に時間を飛ばせるという点が強いんですよ。それこそ,第二次世界大戦までの騎兵の没落っぷりを書こうと思えば書けちゃうんです。戦車が登場したりね。みんなが歴史の流れとしては知ってるけど,「どうしてそうなったのか」という部分を見せられたらいいなとは思っています。
平林氏:
もし史実通りに進むと,ウクライナの独立戦争でウクライナ側は負けてしまうわけじゃないですか。そうしてウクライナ独立はソ連の崩壊まで待たなければいけなくなるのですが,「はるカナ」でどう描くつもりなのか非常に気になるんですよ。
芝村氏:
それは,ぶっちゃけどこから介入があるかによって変化しますね。読者がもし「介入する!」を連呼し始めたら,私は弱い男なので(笑)。
4Gamer:
ソフィのように,運命が変わる可能性がある!
芝村氏:
現時点でパターンはいくつか作ってあります。「マジオペ」で言うなら,当初はオマルが死ぬ場合とソフィが死ぬ場合で展開が違っていました。ソフィが死ねばその立ち位置にはホリーさんが入ることになっていましたし,オマルが死んでたらランソンがそのポジションに収まっていたはずです。
平林氏:
あー,そんな話もしていましたね。
芝村氏:
やはり,リアルタイムに読者の意見を聞きながら書いていける点はうまく活かしたい。読者の声をまったく聞かないとなると,それは完全に独りよがりになってしまうので。それこそ,梶田さんみたいに「ソフィが! ソフィが!」って言っているような人がいたら,私も「もしかして悪いことした?」と思い直したりしますよ(笑)。
4Gamer:
芝村さんがユーザーフレンドリーなクリエイターさんで本当に良かったです(ニコッ)。
芝村氏:
筋道は決めるけど,ちゃんと変更はできるようにしておかないと。
平林氏:
そうですねぇ。史実で言えば,結局コサック国家は成立していないわけですし……。
4Gamer:
う〜ん……1巻を読んだ印象だと,もしコサック国家が実現しなかったら多くのファンが「なんでや! オレーナ可哀想やろ!」ってなると思うんですけど(笑)。
しずま氏:
また梶田さんのインタビューで方向性が変わる(笑)。
4Gamer:
「マジオペ」の例で行くとまだ確定ではないと思うのですが,「はるカナ」は全何巻の予定でしょうか?
芝村氏:
もちろん人気次第ですが,現状では3巻までを予定していますね。
4Gamer:
3巻では終わる気がしませんね……。
平林氏:
つまり「3巻までは確実にやる」という認識で捉えていただければと思います。
しずま氏:
でも2巻で強い引きがあったら,「あ,これ終わらない」って思うでしょうね。
平林氏:
じゃあしずまさん,ここから2年くらい先までスケジュールをください。
一同:
(笑)。
しずま氏:
星海社さんのお仕事については,ある程度考えてスケジュールを組んでますから大丈夫です。もうここまで付き合って来たからには,優先的にやっていきますよ!
芝村氏:
しずまさんの絵が無かったら,本当にどうなっていたことやら(笑)。
平林氏:
付き合いの長いチームになって,良かったと思います。
「艦これ」に魅入られた男達
そういえば「はるカナ」で平林さんから日露戦争に関する資料をもらった時,Twitterで日露戦争の資料のことを書いたんですよ。そしたら「これは! 『艦これ』に“三笠”来るか!」ってリプライが……(笑)。
一同:
(笑)
しずま氏:
「艦これ」のおかげでフォロワーさんがたくさん増えたので,勘違いさせてしまいました(笑)。
芝村氏:
でも三笠が来たら,ファン的にはかなりテンション上がりますね(笑)。
しずま氏:
普通に呟いても全部「艦これ」のほうに流れていくので,へたにツイートできなくなりました(笑)。
4Gamer:
それにしても「はるカナ」は陸軍で,「艦これ」は海軍ですよね。なんかもう,そっち方面のイラストレーターだと思われているのでは……(笑)。
しずま氏:
ミリタリーに強いイラストレーターだと思われている(笑)。
4Gamer:
せっかく芝村さんと話せる機会ですし,ゲームクリエイターの観点から何かと話題の「艦これ」についても少しお聞きしたいです。
芝村氏:
「艦これ」は何が素晴らしいかというと,まず「良心経営」ですよね。やっぱりそれが大きい。パチンコのホール経営に例えると,出玉の戻り率が異常にいいんですよ。この安心感のおかげで,ドック開放などの部分で気楽にお金を落とせますし。
4Gamer:
どんなにレアな艦娘でも,ドロップや建造,イベントで手に入るというのはほかのブラウザゲームじゃありえなかったですもんね……。
芝村氏:
おかげでユーザー数は十分すぎるほどに確保できているし,「面白いからお金を使う」という素晴らしいバランスになっていると思います。ちなみに「艦これ」が成功した今なら,そういった形態のゲーム企画を出しても通ると思うのですが……「艦これ」が出る前に“良心経営”を意識した企画なんか出していたら,間違いなく怒られていたと思います。そういった意味でエポックメイキングな存在ですよね。
4Gamer:
不思議なことにドックを開いたり,そういう部分にお金をかけることに抵抗があまり無いんですよね……。
平林氏:
「こんなに遊んでるし,さすがに2000円くらい払わなきゃマズいだろう」という気持ちになる(笑)。
芝村氏:
ドックは早い段階から開けておけばバケツの節約にもなりますし……。
4Gamer:
全開放しちゃいました(笑)。
芝村氏:
同じく(笑)。
しずま氏:
自分もです(笑)。
平林氏:
僕も……ドックだけでなく艦娘保有数まで。
4Gamer:
この集まり,ドハマリ率100%じゃないですか……。
芝村氏:
全艦1隻ずつ保有しようとすると,足りなくなりますよね(笑)。
平林氏:
あの数も絶妙で,最初のうちはまったく足りないとか思わないんですよね。
芝村氏:
私はもしもの時のために2隻目を用意したくなっちゃいますし,5-3とか突破しようとしたら中破でも進まなきゃダメですから……。
しずま氏:
おお,芝村さんかなりやってますね(笑)。
平林氏:
自分はもう,1隻中破したら進まないですよ。前に島風を沈めちゃったので……。友人に「お前しずまさんの担当なのに,合わせる顔があるのか!」って怒られちゃいました(笑)。
しずま氏:
いやぁ……僕も天龍を沈めました。
芝村氏:
でもゲームバランス的に,駆逐艦は轟沈覚悟のほうが進めやすくないですか?
4Gamer:
ファッ!? 芝村さんマズイですよ! その考え方は!!
芝村氏:
そりゃ私だって,レベル70の響が沈んだら心が折れますよ。でも,レベルが低ければ痛くないし,勝利ランクもほとんど落ちないじゃないですか。だから,駆逐艦とかは低レベルで……。
4Gamer:
う,うわあ! ブラック鎮守府だー!!
芝村氏:
先に進むために,ある程度の損害は仕方ありません(笑)。
4Gamer:
芝村提督は冷徹なお方ですわ……。
そういえば,実は僕,まだ長門を持っていないんですよ……。一番好きな戦艦なんですけど……。
平林氏:
まだ出ていないんですか!? それは,なんというか……。僕のをあげたいくらいです(笑)。
4Gamer:
生みの親であるしずまさんが長門を持っていないとか,シビアすぎる……。しかし,「艦これ」でも思ったのですが,やはりしずまさんは「キャラクターを立たせる」パワーが群を抜いているんですよね。担当キャラはみんな人気上位ですし。
しずま氏:
艦娘の露出度がかなり高めじゃないですか。「マジオペ」で露出できなかったぶんが,あっちに出てるんですよ(笑)。
平林氏:
いやいや,5巻は超露出してましたよ!
しずま氏:
5巻は頑張りました!
4Gamer:
おお,それは楽しみです(笑)。
芝村氏:
ジブリールが,まさかのワイシャツ姿で登場ですからね……。
4Gamer:
おお,そんなシーンありましたね。あそこ,挿絵が付いているんですね!
しずま氏:
2年間やってきて,最後に描いたのがあの絵だという(笑)。
一同:
(爆笑)
「はるカナ」2巻は,2014年2月発売予定!
4Gamer:
いやいや,最後に「艦これ」で盛り上がってしまいましたが……。「マジオペ」完結,そして新たに始まる「はるカナ」について,一言ずつメッセージをもらって締めたいと思います。
芝村氏:
はい。今後の展開の話をすると,書けるかどうか分からないのですが“世代交代”を描ければ嬉しいなと思っています。
しずま氏:
新田が「俺の屍を越えてゆけ!」って叫ぶんですか(笑)。
一同:
(笑)
芝村氏:
それと,スピード感のある展開を意識しようかなと。ジブリールとアラタがくっつくまでは,すごく時間がかかったので。「はるカナ」はもっと早くてもいいんじゃないかなと思います。それでシリーズを続けていくとなると,世代交代が必要なんですよねぇ。だから人気が出るといいなと思います。
4Gamer:
期待しております。では,しずまさんからはイラスト面での見どころを……。
しずま氏:
どれだけ芝村さんの曾祖母様をロリ巨乳にしてやろうかと。可愛く描いていこうかと,企んでいます(笑)。
一同:
(笑)
しずま氏:
キャラクターの成長も含めて,楽しみにしていただければと思いますね。
平林氏:
ちなみに,2巻は来年2月の発売予定です。
4Gamer:
お,意外と早いんですね。
平林氏:
あと,僕の野望としては大ヒットしたらみんなでロシアへ取材に行きたいです!
4Gamer:
その際はぜひ,4Gamerで密着取材を……! 本日は長々とありがとうございました!
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以上,あまりにも聞きたいことが多く,途中で会議室から飲み屋に移動してまで続けたために4時間以上にも及んだ本インタビュー。話が盛り上がり過ぎて,たびたびおかしな方向に話が飛んだりしたものの,結果的にはかなり濃厚な記事に仕上がったのではないかと思う。その分,読み切るのに相当なカロリーを消費するボリュームになってしまって申し訳ないが,楽しんでいただけたならば幸いだ。
純粋にいちファンとして,最新作「はるカナ」の展開が楽しみなのはもちろんのこと,今回のインタビューで言質を取ることに成功した(?)「マジオペ」外伝にも大いに期待したいところ(主にソフィ)。もはやゲームデザイナーとしてだけでなく,小説家としても確固たる地位を確立したと言っても過言ではない芝村氏,そして「艦これ」のブレイクによって一躍トップイラストレーターの仲間入りを果たしたしずま氏の,ますますの活躍ぶりに注目していきたい。
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