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「第2回ウェアラブルEXPO」開催。人の生活に密着したスマートデバイスの未来がここに
簡易ヘッドマウントディスプレイ(アイウェア)やスマートウォッチなどのいわゆるウェアラブル端末に関する総合的な展示会だ。ウェアラブル機器専門の展示会としては,世界最大規模のものとなる。ゲームとは直接関連しないのだが,将来的なスマートデバイスのあり方などを探る意味も含めて,目に付いた展示を紹介してみたい。
●網膜走査型レーザーアイウェア
HMDというよりはアイウェアというか,片眼式の投射デバイスが主流だ。スカウタータイプといったほうが分かりやすいだろうか。その多くは,頭の横から投影された映像を,メガネのレンズ面にあるプリズムを通し,目の方向から見たときに焦点を結ぶように調整している。
それらとは異なる投射方式を採用したのが,ミツイワが展示していたレーザーによる網膜走査型アイウェアだ。レーザーと小型のDMD(デジタルミラーデバイス)を使った超小型プロジェクタといった感じのデバイスである。
かけてみると,位置調整はちょっとシビアだったものの(位置が悪いと映像が欠ける),全体にクリアな映像が視界内に表示される。目の悪い人の見え方をシミュレートするために作られたという,かなり度の強そうなレンズを間に入れてのデモも行ったが,それでも画像のクリアさはまったく変わらない。このデバイスでは見る人の視力(近視だとかメガネをかけているとか)いったことを問わずクリアな映像が実現できるのだ。
映像表示はレーザーの走査によって行われているので,このあたりの理屈については,1本1本のレーザー光について考えてみれば分かりやすい。レーザー光線はレンズを通ったところでたいした拡散は行われずに網膜に到達する。つまり,レンズの影響で像を結ぶ位置がずれることはあっても画像自体がボケることはないのだ。
●両眼式アイウェア「b.g.」
ちょっと珍しい両眼式のアイウェアを展示していたのはメガネスーパーで,「b.g.」(beyond glasses)と名付けられたデバイスは,一般的なメガネに取り付けるような構成となっていた。メガネスーパーによれば,見えやすさやかけ心地といったメガネ屋ならではの発想で開発した製品とのことだった。
実際に使ってみると,この手のアイウェアとしては視野角はかなり広めで,非透過方式ながら視野の中央部に表示されるのも特徴といえるだろう。
両眼式で,本来ならは両眼に同じ映像が表示されるはずなのだが,左右の調整が結構難しく,試用時にはついに合いきらなかった。このあたりは慣れもあるのだろうが,着脱式,左右独立で調整可能などといった自由度の高さが裏目に出ていた感じだ。
デモは,物流分野でバーコードに従って商品を収めた倉庫から注文に応じて取り出す「ピッキング」作業をサポートするもので,バーコードリーダーでチェックすると次の注文の商品と個数などを視界内に表示してくれることが確認できた。このデバイスを使うことで両手がハンズフリーになり,作業効率を上げられるというデモだ。
ただ,ハンズフリーといっても,バーコードリーダーは持っていたので,バーコードリーダーに情報表示画面を付ければ(この目的に関して言えば)より合理的だったかもしれない。このデバイスだと表示画面にふさがれて,実際の作業場面が見えにくいのだ。
「両眼で見ることのほうが自然なため」採用された両眼式だが,片眼式であれば大きな画面でもそのような問題は発生しないので,用途でメリットとデメリットを勘案することが必要になりそうだ。
●電導性繊維「AGposs」
「ウェアラブル」という単語からストレートにイメージされるような「着られる」デバイスの開発も進んでいる。いくつか方向性はあるのだが,ここでは実際に製品化されている例として,電導性の繊維を使ったものを紹介しておこう。
ミツフジのAGpossは,糸の表面に銀をメッキすることで,電導性を持たせた繊維で,そのまま織り込んだり,ミシン糸にしたりなどで,普通の布の質感のまま電気配線を行うことができる。銀を付着させているということで,抗菌や防臭効果があるというのも面白い。
まあ,「汗をかいたり濡れたりしたら?」というのは確か去年も聞いてみたことなのだが,そういうのに配慮するとやはり配線部を樹脂などでコートしておく必要はあるらしい。なので,普通の服の着心地のウェアラブルシャツができるかどうかは想定される環境次第というところではあるが,かなり面白い素材といえるだろう。
会場では実際にこれを使った製品も展示されていた。フランスの企業Bioserenityが開発したもので,てんかん患者のバイタルデータをモニタリングするための服と帽子のセットとなっている。見て察しが付くようにあちこちにデバイスが入ってはいるのだが,それでも一般的な服のシルエットに収まっていることが分かる。
バイタルデータを取りたい人が多そうな運動分野(汗をかく)には向かないかもしれないが,この例のように平常時に普通に身につける用途として医療関係は有望そうだ。
●電導性フィルム/ペースト各社の動き
繊維ではなく,電導性樹脂(ペースト)を布に塗ることで配線を行うというアプローチも何社かで行われている。ここでは東洋紡とデュポン エレクトロニクスマテリアルの例を紹介しよう。
どちらも絶縁性の樹脂で電導性の樹脂を挟んで貼り付けるといった感じのもので,片や「フィルム」,片や「ペースト」と呼んでおり,製品製造工程の違いがうかがえるものの大筋ではそう違いはなさそうだ。東洋紡のほうはイメージとしては,アイロンプリントみたいなものだと思っておけばいいだろう。デュポンのほうは直接布に印刷していくイメージだろうか。どちらも高い電導性を持ち,絶縁可能で布に合わせて伸縮もするということで,布への配線では有望な技術といえる。
どちらも衣服への電気配線を行う技術であり,興味深いのが洗濯についても考慮されているところだ。耐久性は,東洋紡では手洗いで30回程度だという。一方のデュポンでは100回でのデータも示されていた。ただし,これは配線の状態にもよるとのことで,細い配線は洗濯で剥がれてしまいがちで,大きな部分は選択を繰り返すと欠けることもあるとのこと。まあいたしかたなしといったところだろうか。
繊維に電導性樹脂を塗りつけてウェアラブル配線に応用するという,基礎的な技術はほぼ確立しているようで,実用に向けてはどうやって剥がれにくくするかが課題となりつつあるようだ。
さて,そういった素材メーカーの動きがある一方で,接着剤メーカーのセメダインでは電導性接着剤も展開している。「強い接着から剥がれない接着へ」ということで,まさに同社の専門分野である。
会場では,セメダインの電導性ペーストを使用してLED回路を貼り付けた着物の展示が行われていた。電導性接着剤というのも古くからあるテーマであり,すでに実用度はかなり高いのではないかと予想される。
まだ市場的に確立されているわけでもないが,ペースト系ウェアラブル配線技術では各社が鎬を削る状況のようだ。
●薄型固体リチウムセラミックバッテリー
ウェアラブルデバイスで問題になるものの一つが電源である。たとえ多機能でも電池のもちが非常に悪いスマートウォッチではいまひとつ魅力が薄い。小さく軽くが求められるウェアラブルデバイスでは,電池は本質的な問題となっているのだ。また,現在主流のリチウムイオン電池では,ときおり破裂,炎上などの事故が報告されている。
PROLOGIUM TECHNOLOGYのリチウムセラミックバッテリーは液体の電解質を使用しない固体電解質を使用しており,パッケージが破損しても炎上などの心配がないのだという。
展示で目を引いたのは,曲がるシートタイプの電池で0.3mmの薄さながら,1枚で250mAhの容量となっていた(もちろん枚数を増やせば容量は増やせる)。ウェアラブル機器用の電池としては画期的なものかもしれない。
●太陽光発電テキスタイル
ウェアラブル機器の電源としては,ウラセが展示していた太陽光発電テキスタイル(織物)も面白い存在だ。
これは小さな球状の太陽電池をビーズのようにつないで布の表面に配置したもので,使い勝手としてはシート状の太陽電池だと思えばよいだろう。太陽電池自体はビーズ型なので,シート自体が折れ曲がったりしても(配線が切れない限り)影響はない。大電力は期待できないものの,さまざまなものを発電物にすることができる。
別途,電導繊維でLEDをリボン化したものも展示されていたので,太陽光で充電しつつ,夜中に光る服なども夢ではない。
●防水ネジ「ラビロック」
どういう仕組みかと実物の拡大写真を見ると,ネジの頭の部分の内側に2列の溝が掘られていることが分かる。ここの空気層によるエアキャップ効果とラビリンス効果で水の浸入を食い止めるのだそうだ。頭の部分が規格品より大きめになるものの,現状で(内容はよく分からないが)IPX7,8といった高い耐水性が得られているのだそうだ。
細かな技術だが,このようなものの積み重ねが今後登場するであろうウェアラブル機器を支えるのであろう。今回紹介したもの以外にも多くの展示が行われているので,興味のある人は会場まで足を運んでみるのがいいだろう。展示会は15日まで開催されている。
ウェアラブルEXPO公式サイト
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