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舞台は“あれから”十数年後! 「放課後ライトノベル」第58回は,まさかの再始動を果たしたフルメタ最新作『フルメタル・パニック! アナザー』を紹介
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印刷2011/09/10 10:00

連載

舞台は“あれから”十数年後! 「放課後ライトノベル」第58回は,まさかの再始動を果たしたフルメタ最新作『フルメタル・パニック! アナザー』を紹介



 ある作品の続編が出るというのは,普通,その作品のファンにとって嬉しいことだ。自分が好きな作品の世界に,いま一度触れることができるのだから。世の中,続編の“ぞ”の字も出ないまま消えていく作品も少なくないことを考えると,続編が出るというのはそれだけで多くのファンがいることの証明であり,ファンにとっても作品にとっても幸福なことだと言えるだろう。

 だが残念なことに,世の中にはファンが幸福になれない続編というものも存在する。たとえば元となる作品が,綺麗な結末を迎えていた場合。そうした作品の続編というのは,往々にして作品の方向性がまるで変わっていたりして,ファンを喜びから落胆へと突き落としたりする。感動的なエンディングで多くのプレイヤーが涙した作品の続編が,まるでアイドルコンサートと見まごうようなPVと共に発表されたりすれば,そりゃあファンだって戸惑おうというものである。

 そして,実際どうなるかは蓋を開けてみれば分からないものの,実物を見る前から,ファンにそうした不安を与えていたのが,今回紹介する『フルメタル・パニック! アナザー』だ。1年前,「放課後ライトノベル」の第7回でその怒濤のエンディングを紹介した作品のまさかの続編,しかも(原著者が監修につくとは言え)執筆するのは別人と来れば,単なる蛇足になってしまうのではないかとファンが不安に思うのも当然と言えよう。そうした戸惑いの中ついに刊行された本作は,果たして名作の名をいただくに値する作品だったのか? 答えは以下の本文で!

画像集#001のサムネイル/舞台は“あれから”十数年後! 「放課後ライトノベル」第58回は,まさかの再始動を果たしたフルメタ最新作『フルメタル・パニック! アナザー』を紹介
『フルメタル・パニック! アナザー1』

著者:大黒尚人
原作・監修:賀東招二
イラストレーター:四季童子
出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫
価格:609円(税込)
ISBN:978-4-8291-3669-0-C0193

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●ASとの突然の接近遭遇! 高校生,傭兵になる!?


 舞台は『フルメタル・パニック!』本編の物語が完結してから,およそ10年あまりが過ぎた世界。21世紀初頭の冷戦終結後,軍事産業ではPMC(民間軍事会社)が台頭,社会では二足歩行の人型重機,パワー・スレイブ(PS)が徐々に普及していた。

 建設会社社長の息子である市之瀬達哉(いちのせたつや)は,都立陣代高校に通う高校3年生。年齢相応にスケベで学校の成績も決して良くはないが,幼い頃から慣れ親しんでいたPSの操縦は玄人はだしの腕前。そんな彼の人生はしかし,ある事件をきっかけに一変する。

 父親の会社の仕事を手伝い,山中で作業をしていた達哉は,突如として人型兵器アーム・スレイブ(AS)の襲撃を受ける。自衛隊と,PMCのD.O.M.S.社との共同演習中,1機のASが暴走し演習場を脱走,偶然近くにいた達哉たちを襲ったのである。このままでは妹の由加里(ゆかり)の身が危ないと知った達哉は,暴走ASを追ってきたものの動けなくなった別のASに乗り込み,負傷したパイロットの代わりに暴走ASに決死の戦いを挑む。

 辛くも勝利を収めた達哉のもとにやってきたのは,その腕を見込んだD.O.M.S.社のスカウトだった。ASの操縦に強く魅了された達哉は,父の会社の厳しい台所事情もあり,悩んだ末にD.O.M.S.社への入社を決意する。素人の達哉の教育係を務めるのは,達哉が代わりに操縦したASの本来のパイロット,アデリーナ・アレクサンドロヴナ・ケレンスカヤ。達哉と同年代の少女だが,ASオペレーターとしては一流で,達哉のシゴキ方にもまるで容赦がない。
 平凡な高校生から一転,過酷な傭兵生活に放り込まれた達哉。彼の明日は果たして!?


●待っていたのは,とっても過酷な訓練生活。達哉よ,根性見せろ!


 行動力はあるがベースは普通の高校生な達哉と,実力は確かだが無愛想なアデリーナ。まるで原作の宗介とかなめの性別と立場を入れ替えたかのような本作だが,その違いは内容にも現れている。

 ひと言で言うなら,原作にあった殺伐とした雰囲気が,本作では相当に薄められているのだ。主人公の達哉は,一度味わったASを操縦する快感が忘れられず,PMCに入ってしまうような無邪気さの持ち主。幼い頃から血で血を洗う戦場に身を置いてきた宗介の持つ陰の部分が,彼にはない。

 導入部の戦いこそ一歩間違えば命を落としかねないものだったが,その後の展開はひと言で言うなら「達哉のPMC奮闘記」。アデリーナに鍛えられ,厳しい訓練に耐えながら,ド素人の達哉がPMCの中で自分の居場所を築いていく様は「友情・努力・勝利」を地でいく王道的なものだ。

 一方のアデリーナも,傭兵としては優秀ながら微妙に一般常識が欠けており,社長に言われるまま体操服やナース服などのコスプレをしたり,ASのことになると話が止まらなくなったりと,原作短編の宗介を彷彿とさせるボケっぷりをかましてくれる。そのほかにも,天才的な狙撃の腕を持つ10歳くらいの少女,なんていうとんでもないキャラクターも登場している。いずれも「こいつの活躍をもっと見てみたい」と思わせる,魅力的な連中ばかりだ。


●もう一つの『フルメタ』。それは,平和の時代の物語


 さて,そんな『フルメタル・パニック! アナザー』,果たして原作のファンが読んで失望することなく楽しめるものだろうか? その一人である筆者が自信をもって断言するが,答えは「Yes」である。

 確かにこの設定では,仲間を失いながら,それでも死力を尽くして戦う,といった展開は描けないかもしれない。だが宗介たちの戦いによって,世界に大きな変化が訪れた――誤解を恐れずに言えば,それを“平和が訪れた”と言い換えてもいいかもしれない――以上,そこで描かれる物語もまた,変化して当然なのだ。その意味で,作中の時間が一気に10年以上進み,現実に追いついた(その間に世紀も変わっている)ことは,非常に象徴的な出来事であると言える。これは『フルメタ』であって『フルメタ』ではない。“今”という時代に再スタートを切った,まったく新しい『フルメタ』なのだ。

 そして一方では,本家よりも強化された部分というのも存在する。それがメカニック周りの描写だ。もともとこの『アナザー』,「『フルメタ』の設定を生かし,メカ重視で」というコンセプトらしく,ASの開発史や各ASのスペックなどが,原作以上に詳細に設定されている。その濃さは,原作の「サイドアームズ」を思い起こさせる。

 それぞれ異なる面白さを持っていた原作各編のエッセンスを凝縮させつつ,新たな魅力をも放ちつつある『アナザー』。これほどファンの期待をいい意味で裏切った続編というのも珍しい。原作は終盤まで巨大な謎を抱えたまま物語が進んでいったが,本作も現時点で多くの謎を孕んでいる。それらの正体がいつ明かされるのか,これからの展開から目が離せない。

 最後になるが,本作には原作のファンなら感涙もののキャラクターやエピソードが随所に登場する。それらを自分の目で見るためだけでも,往年のファンは手に取る価値があると言えよう。

■あらためて振り返る,『フルメタル・パニック!』の軌跡

『フルメタル・パニック! マジで危ない九死に一生?』(著者:賀東招二,イラスト:四季童子/富士見ファンタジア文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/舞台は“あれから”十数年後! 「放課後ライトノベル」第58回は,まさかの再始動を果たしたフルメタ最新作『フルメタル・パニック! アナザー』を紹介
 1998年にスタートしてから,10年以上にわたり多くの読者を魅了し続けてきた『フルメタル・パニック!』。今さら原作について説明する必要もないかもしれないが,『アナザー』の刊行を機に復習の意味で今一度その軌跡を振り返ってみたい。
 物語は,極秘の軍事組織・ミスリルに所属する傭兵の相良宗介が,日本にやってくるところから始まる。ある秘密を持つがゆえに,さまざまな組織から狙われる立場にあった千鳥かなめを護衛するため,宗介は彼女の通う高校に潜入。以降,シリーズは宗介本来の傭兵としての姿を描く長編と,戦争ボケと揶揄される彼が学校内で巻き起こす騒動を主軸とした短編の2本柱で進行する。またそれ以外に,主にミスリルの人物たちにスポットを当てた短編集「サイドアームズ」もある。
 物語が佳境に入ってからは長編シリーズ1本で進められていたが,その長編が2010年8月に完結。現在までに,三度にわたるTVアニメ化や多数のコミカライズが行われており,近年では「スーパーロボット大戦」「Another Century's Episode」といったゲームへの出演や,果てはパチンコ化まで果たしている。
 なお,今回紹介した『アナザー』1巻と同時に発売された,原作短編集の第9巻「マジで危ない九死に一生?」収録の書き下ろし短編「テッサのお墓参り」は,本編の後日談,つまり原作と『アナザー』の間に位置する話。内容的に『アナザー』の伏線になっているエピソードもあるので,合わせて読むことをおすすめする。

■■宇佐見尚也(ライター/アグロ萌え)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライターにして,「放課後ライトノベル」の献血によく行くほう。すでにどちらも一度プレイしているにも関わらず,「ICO/ワンダと巨像 Limited Box」を予約したという宇佐見氏。新作ではなく過去に気に入った作品の再プレイに惹かれる自分を振り返るにつけ,「枯れたなあ……」としみじみ感じているそうです。とりあえず,アグロ(ワンダの愛馬)に萌えてる隙にテッサちゃんはもらっていきますね。
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