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「World of Tanks」の世界大会「The Grand Finals 2017」の決勝戦がモスクワで開催。ドラマチックな展開と様変わりしていくゲームの現状が見られたイベントの模様をレポート
「World of Tanks」における世界最強チームを決めるこの戦い。激戦の模様を,さまざまな視点から追ってみたい。
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「World of Tanks」公式サイト
「The Wargaming.net League Grand Finals 2017」
公式サイト
Tier10の戦車が激突
まず最初にルールの確認をしよう。
The Grand Finals 2017は,1チーム7人,バトルポイント68という条件で戦われる。
バトルポイントというのは,簡単に言えばそのチームが使う戦車のTier数の合計だ。バトルポイント68で7人チームということは,一般的に
・Tier10の戦車×6両,Tier8の戦車×1両
または
・Tier10の戦車×5両,Tier9の戦車×2両
のどちらかとなる。
公式大会のルールは,「Assault」が適用される。攻撃側と防御側に分かれ,攻撃側は時間内に敵の拠点を占領できれば勝ち。防御側は守りきれば勝ちだ。このほか,敵チームを全滅させても勝ちになる。言うまでもなく,大会でリスポーンはない。
なお,一般的な「Random Battle」とは異なり,防御側が守るべき基地は2つある。そのどちらかでも占領されたら防御側の敗北になる。
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トーナメントの場合,予選は12チームを4つに分けてリーグ戦が行われ,上位2チームが決勝へ進出する。そして,決勝戦はシングルエリミネーションとなる。つまり「負けたらそれまで」の,シンプルかつ番狂わせが起きがちなフォーマットだ。
決勝トーナメントにコマを進めた8チームは以下のとおり。
・EL Gaming(中国)
・Elevate(アメリカ)
・DiNG(EU)
・Oops - The Tough Giraffes(EU)
・TORNADO ENERGY(CIS)
・Natus Vincere G2A(CIS)
・Not So Serious(CIS)
・Kazna Kru(EU)
それぞれ,上から2組ずつが試合を行い,勝ち残ったチームが準決勝へコマを進めることになった。
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Mausをめぐるメタゲーム
さて,現在の7人制バトルにおいて,ゲームの焦点になっているのは,ドイツ重戦車Mausの存在だと言えるだろう。機動力が何より重要になるマップを除いて,Mausをどう使うか,敵のMausにどう対応していくかが,試合の行方を決める大きな要因になる。
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また中国の113や日本のType 5 Heavyといった重戦車もよく使用されるし,マップ「ヒンメルズドルフ」ではT110E3のような固定砲塔を持つ重駆逐戦車が数を揃えて運用されることも珍しくない。チームによっては,Tier8枠で自走砲(M40/M43あたり)が使われることもある。
実際,今までのトーナメントではあまり見られなかった車両を使うチームは,今回かなり多い。アップデート「9.18」で追加されたTier10の軽戦車やスウェーデンのStrv 103BやUDES 03,また,回転砲塔を持つアメリカの駆逐戦車T110E4や,果てはJaged Panzer E100まで使用されているが,それでもなお,勝利を収めたチームの多くはMausを中核とした編成を維持していた。
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こうした状況を見るに,Tier10の軽戦車を使った展開などは,可能性はあれど,いまだ発展途上というのが正直なところなのかもしれない。
しかし,Tier10軽戦車やStrv 103Bは,従来の戦車では登れなかった坂を単独で登攀可能という性能を持っている。このため「そういうことができる」ということを正しく把握し,「そういうことをされたらどうすべきか」という対応を事前に準備できていないと,割と大変なことになるというシーンも散見された。
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実際,スコア的に勝負の行方が決まった試合で,優位に立っている側のチームが,ほとんど全部Bat-Chatという懐かしい編成で勝負を仕掛けたことがあったが,なすすべもなくその試合を落とした。
Bat-Chatの利点が失われたわけではないにせよ,少なくとも現状のフォーマットでは(昨年の段階でもすでにそうだったのだが)困ったらBat-Chatにしておけという戦い方はまるで通じないと断言できる。
強豪が初日で姿を消し,アメリカ勢が躍進
では,実際の戦いを見ていこう。
決勝トーナメント第1回戦において,最も注目を集めたのは,TORNADO ENERGYとNatus Vincere G2A(以下,NaVi)の試合だった。
どちらもCISで活躍するチームだが,TORNADO ENERGYはかつて「Hellraisers」と名乗っており,2015年のGrand Finalsで優勝し,昨年は準優勝した強豪だ。2017年はGrand Finalsのスポンサー企業でもある飲料会社TORNADO ENERGYをスポンサーにつけ,会社の看板を背負っての参戦となった。
対するNaViはGrand Finals優勝の常連であり,昨年は決勝でHellraisers(つまりTORNADO ENERGY)を下している。NaViもまたスポンサーであるG2Aの看板を背負っての参戦だ。
結果を言えば,この事実上の決勝戦と呼ばれた戦いは,カウント7-3でTORNADO ENERGYが圧勝した。
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しかしながらTORNADO ENERGYとの試合については,NaViが研究不足だったのではなく,TORNADO ENERGYが強すぎたと言ったほうが正確かもしれない。それくらい,TORNADO ENERGYの戦い方は圧倒的だったのだ。
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さて,決勝トーナメント第1回戦には,もう1つ注目される試合があった。それが,EL GamingとElevateの戦いだ。
正直,Grand Finalsではこれまで,アメリカのチームはあまり良い成績を残していない。中国やAPACから出場したチームが大健闘する中,たいした印象も残さずに破れ去るというシーンが続いていたのだ。
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そんなElevateに対するのは,もはやGrand Finalsの常連で,毎年素晴らしい戦績のEL Gaming。下馬評では「Elevateはよく戦ってきたけれど,さすがにEL Gamingには勝てないだろう」と囁かれていた。
だがフタを開けてみると戦いはもつれにもつれ,マッチカウント6-6という大接戦を演じた。そして,最後の1勝をもぎ取ったのは,Elevateだった。
かつて中国およびAPACから出場してきたチームは,「番狂わせを演出する,油断ならないチーム」として,Grand Finalsにその名を何度も刻んできた。EL Gamingは,その最先鋒にいるといってもいい。だが,追うものはいつか追われるようになる。Elevateは,EL Gamingを相手に「番狂わせ」を達成したのだ。
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とにかく強い,TORNADO ENERGY
かくしてベスト4が決定した。顔ぶれは,アメリカのElevate,EUのDiNG,CISのTORNADO ENERGYとNot So Seriousだ。
ここから先,語るべきことはそれほど多くない。TORNADO ENERGYは強かったに尽きるのだ。
カウントを見ると,Elevate対DiNGは2-7でDiNGの勝ち。TORNADO ENERGY対Not So Seriousは7-2でTORNADO ENERGYの勝ち。
決勝戦のDiNG対TORNADO ENERGYは2-7でTORNADO ENERGYの優勝と,圧倒的な力の差を見せつけたと言う以外には表現できない勝ち方だった。
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このドイツ重戦車の分厚い装甲は,3200というゲーム中最高のHPを生み出している。攻撃力も馬鹿にできず,単発こそ低めだが,分間ダメージは2450と重戦車の中ではかなり高く,リザルトでMausがダメージトップを取っている試合はかなり多かった。
TORNADO ENERGYは,このMausをチームとして運用する技術が極まっていた。
彼らはときに3両,多いときは4両といった体制でMausを使い,その膨大なHPを巧みに消費しながら,戦術的優位を確保していった。結果,序盤は相手チームのほうが有利だったとしても,終盤になるとなぜかTORNADO ENERGYのMausがしっかり生き残っていて,そのまま逆転されるという展開が多くなる。
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また,上に「MausのHPをうまく消費する」と書いたが,TORNADO ENERGYのHPの使い方は,他のチームと明らかに一線を画するレベルにあった。
ほかのチームがしばしば複数両のMausのうち1両だけがとくに重いダメージを負う中,TORNADO ENERGYのMaus軍団はダメージの受け方が非常にうまく,なかなか陥落しないのだ。もちろん,これには各選手の射撃能力が高いという理由もあり,攻防においてTORNADO ENERGYのMausが大活躍するシーンが何度も見られた。
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とはいえ,今回のトーナメントで行われた試合の模様は動画として公開されているわけで,今頃,各チームともTORNADO ENERGYの戦術を徹底的に研究しているはずだ。それを考えれば,今後も戦術が変わり続けることは疑いない。
果たしてGrand Finals 2018ではどんな戦いが見られるのかというところまで含めて,TORNADO ENERGYの今後の戦い方に注目していきたいところだ。
Wargaming.net League twitch 公式チャンネル:
個人の戦いとしてのGrand Finals 2017
さて,比較的あっさりと決着がついた決勝トーナメントだったが,個人的には,ある2人の選手の活躍に注目していた。
1人はDiNGの中核を担う,ealien_選手だ。ポーランド出身の彼は,第1回Grand Finalsにも出場した経験を持つ,まさに歴戦の選手だ(現在22歳なので,最初のGrand Finals出場のときは,ティーンエージャーだった計算になる)。
その後も何度かGrand Finalsに出場し,2015年には4位に入る活躍を見せ,今年はついに2位までたどり着いたわけだ。所属チームは以前のKazna KruからDiNGに移籍しており,ここに至る道が決して平坦ではなかったことを感じさせる。果たして彼がWorld of Tanksの頂点に立てるのか,今後の活躍に期待したい。
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もう1人は,優勝したTORNADO ENERGYのapplewow選手だ。
昨年のGrand Finalsを見ていた人ならご存知のとおり,決勝はNaVi対Hellraisersで戦われ,決着は,Hellraisersで唯一残ったBat-ChatがスタックしてHellraisersが負けるという,プレイヤーにとってみれば悔やんでも悔やみきれない場面での幕引きとなった。そして,そのBat-Chatをスタックさせてしまったプレイヤーこそが,applewow選手だったのだ。残酷なことに,彼の名前をネットを検索すると,決定的な場面で自車をスタックさせた動画が容易に閲覧できる。
だが,applewow選手は今年もGrand Finalsに姿を現し,自分の役割をきっちり果たしてチームの勝利に貢献し続けた。
しかも,DiNGを相手にカウント6-2で迎えた戦いでは,決定的なリベンジのチャンスが訪れた。Tier9のBat-Chatを駆る彼は,Tier10のチェコ戦車TVP T 50/51との一騎打ちにもつれ込み,この格上戦車との戦いで卓越した機動と射撃能力を見せ,あと一撃というところまで追い込んだのだ。
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見守る観客の間からは,彼が崖を降りて追撃しはじめた場面で,どよめきが上がった。
もしここで昨年のような失敗をして,戦車を横転させたら? 勢い込んで落下ダメージを受けてしまったら? 見ているほうもハラハラする中,applewow選手は冷静にBat-Chatを駆って安全に崖下に降りると,たっぷりと時間を使って照準し,TVPにトドメを刺した。
そしてこのショットが決まった瞬間,TORNADO ENERGYが,Grand Final 2017を制したのだった。
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しかしあの局面,しかもよりによって因縁のマップで果敢に追撃し,最後の一撃を命中させるために,どれほど強い心臓が必要になるかは,筆者の想像を超える。
applewow選手はそれをやり遂げ,そしてチームは栄冠を掴んだ。文字どおり,心からの拍手を贈りたい。
――以上,個人の戦いではさまざまにドラマチックなGrand Finals 2017だったが,戦い全体を振り返れば,繰り返しになるが,TORNADO ENERGYが強すぎた以外に言葉がない。
とはいえ,ついにElevateがベスト4に進出したように,追うほうと追われるほうでは,追われるほうがキツイもの。今後,TORNADO ENERGYに各チームがどこまで食らいついていくのか,興味が尽きないところだ。
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「World of Tanks」公式サイト
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