インタビュー
地球上に存在しないPCを作る! Alienware CEO Arther Lewis氏に聞く日本展開
Arther Lewis氏は,Alienware創設メンバーの一人で,現在Dellのゲーム事業部担当副社長 兼 ゼネラルマネージャーという役職にある。Dellというと,BTOに強い大手PCメーカーという印象が強い人も多いだろうが,過去にQuad SLIを標準搭載して話題になったXPS 600 RENEGADEなど,XPSシリーズをゲーマー向けと位置付けて展開していた。Alienwareを買収し,ゲーマー向けPCにいっそうの力を入れており,2006年の買収から3年めにしてついに日本市場にも本格参入してきたわけだ。
洋ゲーの情報を漁っている人なら,かなり以前から海外のゲーム情報サイトでAlienwareの広告を目にしてきたことだろう。また,国内だと1社も採用しないようなノートPC用のハイエンドGPUが登場すると,真っ先に搭載されるのは決まってAlienwareの製品だったりした時期もあった。非常に先鋭的なゲーマー向けPCを作るメーカーとして知られていたわけだが,具体的にどんな製品を作っているのかは日本ではあまり知られてなかったというのが実際のところだろう。
今回の新製品については,先日のレポートを参照してほしいのだが,個人的な感想では,正直いって少し意表を突かれた感じだった。開発のコンセプトが,まず違うのだ。同時に,海外のGeekから支持を集めるのも当然だと理解した。そんなAlienwareを率いてきたLewis氏にいろいろ聞いてみたので,ご一読いただきたい。
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,Alienwareを設立した経緯から教えてください。
Lewis氏:
小さい頃からゲームが好きで,PCゲームのためのモノを提供していこうと思っていました。1996年に仲間で集まってPCゲームのための会社を興したんです。最初は「Sakai of Miami」という社名でした。日本の有名な戦士の名前から取った名前です(マイアミのサカイさん?)。その後,現在の社名に変更しています。ご存じのように2006年にDellと合併しました。
そもそも,なんで「エイリアン」だったんですか?
Lewis氏:
昔からゲームの中でもSFモノが好きでハードウェアが好き。両者を組み合わせて作った社名です。同時に,この地球上に存在しないようなものを作りたいという意味も込められています。
4Gamer:
なるほど。
天板のスリットは動作温度に応じて自動的に開閉する |
「はめ込むだけ」のドライブベイ |
Alienwareには,設立当初から三つのこだわりがありました。すなわち,デザイン,パフォーマンス,そしてイノベーションです。この三つを柱としてきています。
デザインについては,このM15xを見ても(手元のPCを引っ繰り返して),ほら,このタグの部分以外ネジが見えないでしょう。液晶画面も表示部分だけガラスで周りに枠をつけるのではなく,全面ガラス張りにして一体感を出しています。それぞれの機能にあわせてデザインを作るように心がけています。
パフォーマンスでは,いうまでもなく世界で最高のものを提供しています。
イノベーションについては,「この地上で我々が初投入するものを作る」といった意味です。自動開閉するエアダクトやケーブルレスのドライブベイなど,ほかにはないものを実現してきました。
4Gamer:
デザインなども個性的ですよね。
Lewis氏:
デザインは,とにかく目立つものにということで,アグレッシブなものにしています。一目で見てAlienwareだと分かり,他人が持っていたら,自分もほしいなと思わせるようなデザインを狙っていきました。
デザイン以外に機能的な部分でも,業界でベストのものにするために,ATIの最新GPUなど現時点で業界トップの製品をいち早く導入しています。
(スペック表を指して)これ(Core i7 920XM:ClarksfieldベースのCPU)って,もう発表されてましたっけ。
Lewis氏:
アメリカで(アメリカ時間の)昨日発表されたばかりです(注:取材の数時間前にIDFで発表されていた)。
4Gamer:
なるほど,早いですね(笑)。
それにしても,東京ゲームショウでの出展がこんな大規模になるとは思いませんでした。DellがゲームPC市場に力を入れている理由はなんでしょうか。
Lewis氏:
2008年のPCゲーム市場はワールドワイドで1兆3000億円の規模になっています。さらに前年比で18%もの伸びを見せています。そして,アジア市場がその50%を占めているという事実があります。
Alienwareは欧米市場では高い評価を得ていますが,アジア市場ではまだまだ認知度は高くありません。PCゲーム自体の市場が急成長していること,アジア市場には大きなチャンスがあるということ,それが今回の東京ゲームショウで大きく出展を行った理由です。
独立系のPCメーカーからDellのような大きな企業に編入されて,仕事の仕方などは変わりましたか?
Lewis氏:
おそらく,思われているほどには違いはないといっていいでしょう。確かに,Alienwareは元は小さな会社でしたので意思決定が非常に速かったのですが,Dellのような大きな会社では,そこまで速くはできません。逆にいうとそれくらいの違いです。
ただ,Michael(Michael Dell:Dell会長)をはじめ,DellのトップはAlienwareのブランドに絶大な信頼を寄せててくれていますので,我々の決断もかなり尊重してもらっています。そういう面では,恵まれていますね。
4Gamer:
Dellとの合併でよかったことというのはなんでしょうか。
Lewis氏:
Dellとの合併によってビジネスのバックエンドが大幅に強化されましたね。Dellは非常に大きな会社ですから,それまでできなかったようなスケールメリットが出せたり,自分達だけではできなかった拡張戦略が取れるようになりました。
また,成長の可能性が非常に広がったのもメリットですね。Alienwareは,昨年の段階では,6か国4言語にしか対応していませんでした。今年は,6月時点で35か国17言語,現時点で70か国に対応しています。
4Gamer:
ほかのメーカーと比べて,Alienwareだからできるといういちばんの強みは,どのあたりでしょうか。
Lewis氏:
我々はほかのメーカーに対して多くのアドバンテージを持っていると思います。いちばんということになると,ちょっと難しいですね。そうですね。いろいろなテクノロジーをくまなく検討して我々の要求に見合った製品を作り出し,それをベストのパフォーマンスかつベストプライスで提供できるというところでしょうか。
企業の原動力という意味では,カスタマイズの柔軟さも強みですね。多くのPCメーカーでBTOに対応していますが,ここまで完全なかたちでやっているところはないでしょう。
Alienwareを特徴づける独特なPCのデザインに関してなのですが,世界各国でデザインの好みの違いというものもありますよね。丸いのが好きとか直線的なのが好きとか,光ってるほうがいいとか光るのはダメとか。世界展開を行っていくにあたって,そのあたりはどのようにお考えですか。
Lewis氏:
現状では,とくに地域によってデザインを変えるということは考えていません。ライトに関しては,好きな色に設定できるほか,完全に消すこともできますので問題はないでしょう。
ちなみに,デザインに関しては自動車や飛行機,とくに戦闘機などから影響を受けることが多いです。
自動車や飛行機では,とくにお好きなものはありますか。
Lewis氏:
飛行機に関してはSR-71が好きですね。
4Gamer:
ああ,なんか分かる気がします。
Lewis氏:
自動車に関しては,もうすべてが好きですので,どれかを選ぶというのはできませんね。どの女性がいちばん綺麗かというのと同じで,選びようがありません。アウディ,ポルシェ,フェラーリ,ランボルギーニなど,買える買えないは別として,デザインはどれも好きです。
4Gamer:
分かりました(笑)。
では,日本展開についてですが,欧米での知名度に比べて,日本ではゲームに詳しい人でも御社を知らないという人が多いです。日本展開,アジア展開はどのようにやっていく方針でしょうか。
Lewis氏:
ですので,戦略的には1996年にAlienwareを立ち上げたときと同じように,とにかく使ってもらって,よさを実感してもらうことが重要だと考えています。ベンチマークテストなどで,他社とは違うということを実感してもらえれば,必ず評価してもらえると信じています。
ブランド展開には時間も要求されますので,日本のマーケット部隊と綿密に連携を取って進めていく予定です。日本には大規模なゲーム市場が確立されていることに疑問の余地はありませんし,ゲームをするにあたってPCが非常によい選択肢であることも確信しています。では,その大きなゲーム市場で,PCがどれほどよいプラットフォームであるかをどのように伝えていくことができるかを,これから十分検討していきたいと思います。
4Gamer:
先ほど,アジアでのPCゲーム市場が大きく広がっているという話もありましたが,日本についていえば,PCパッケージゲームのプレイヤーは少なく,PCゲームのほとんどはオンラインゲームとなっています。オンラインゲームの要求スペックを満たすには,ハイエンド機種は必要なく,だいたい10万円程度の価格帯の製品で十分であるという認識があるのですが,Alienwareでは,今後そういった価格帯の製品も予定されているのでしょうか。
ええ,会場内でもゲーム用PCを出しているのは自分達だけですね(笑)。
今回発表した製品はハイエンドのものだけですが,市場でどのようなものが求められているのかについては,今後精査を進めていきます。そういう需要があるのであれば,世界で我々が初めて提供できるような製品を作ることも検討していきますよ。
少し補足すると,会社の方針としては,まず,我々にとってコアなカスタマーの需要は必ず満たしていきます。処理能力,解像度やグラフィックス,入力機器など,ユーザーエクスペリエンスという意味では,PCが最高のゲームプラットフォームであるという確信がありますので。現時点では,コア層に対してPC本体以外の周辺機器,キーボードやマウス,ヘッドフォンといったものもトータルなパッケージで提供できるようにまでなってきました。
その次に考えるべきは,コアでないプレイヤー層についてです。今後はそういった部分も視野に入れてやっていきたいと思っています。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
Alienwareが日本に本格進出をするに当たって,東京ゲームショウ2009では,Dellの名前ではなく,「Alienware」の名前でかなり大きなブースを設置するなど,並々ならぬ力の入れ具合が窺えた。
そして,一挙に5機種発表された新製品は,それぞれ本気モードを感じられる仕様であり,搭載されている最新のパーツ,とくにATI Radeon HD 5870やCore i7 920XMは,どちらもAlienware製品発表の前日に発表されたばかりの製品だ。
日本のPCゲーム市場はそんなに大きくないので,ここまで気合を入れられるとなにやら申し訳ない気持ちにもなってしまうのだが,「それは分かってるよ」とLewis氏は笑う。欧米に比べて,アジア地域ではAlienwareの認知度はかなり低い。Dellでは,今後アジアにおけるPCゲーム市場の急拡大を見込んでおり,日本はその拠点という位置付けのようだ。
製品の特徴的な外見,パフォーマンスはいうまでもない。PCとして魅力的なスペックなのは当然として,すでに紹介した製品を見ていただければ,それだけに留まらず,単にパーツを組み合せているだけのPCメーカーではないことはお分かりだろう。
しかし,現状で,このようなハイエンドPC製品がどの程度受け入れられる市場があるのか,正直いって分からない。Lewis氏がいうように,日本のPCゲーム市場の拡大というか掘り起こしから行っていく覚悟があるというのは頼もしい。同社の今後の展開に期待しよう。
Dell Alienware製品ページ
https://www.4gamer.net/news/history/2006.01/20060106190611detail.html- 関連タイトル:
Alienware
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(C)2012 Dell