スペインのバルセロナ市で現地時間2009年2月16日に開幕する,モバイル機器展示会,
「Mobile World Congress 2009」。これに合わせてNVIDIAは,同社の小型端末向けプロセッサ
「Tegra」の最新動向を明らかにした。本稿では,アジア太平洋地区の報道関係者に向けて行われた事前電話説明会の内容を基に,Tegraの現状をまとめてみることにしたい。
GeForceベースのMIDが99ドルで手に入る?
Windows Mobileに加え,Androidのサポートも
Tegra(テグラ,正確には「NVIDIA Tegra」)は,2008年6月の「COMPUTEX TAIPEI 2008」における
製品発表以降,とんと音沙汰がなかった。そのため,「Tegraってなんだっけ?」という人も少なくないと思われるが,一言で説明すると,ARM11ベースのCPUコアに,GeForceベースのグラフィックスコア,ビデオプロセッサ,I/Oコントローラなどを統合したチップだ。
Tegraのブロック図。ARMというのは同名の企業による組み込み機器向けプロセッサアーキテクチャ(32bit RISC CPU)。企業としてのARMは,アーキテクチャのライセンスビジネスを行っており,そのライセンスを受けてTegraは開発されている。念のため断っておくと,PC用プロセッサのx86とは互換性がない
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COMPUTEX TAIPEI 2008の時点では,
- 携帯電話やカーナビゲーションシステムなどに向けた「Tegra APX」
- 「純粋なPCほどの多機能性は持たないが,PCと同じようにインターネットへ接続してコンテンツを利用でき,かつ,Netbookと比べると圧倒的にバッテリー駆動時間や携帯性に優れる」端末として位置づけられ,“NVIDIA語”としての「MID」(Mobile Internet Device)用となる「Tegra」
の2モデルが用意されており(※詳細は
2008年6月2日の記事を参照のこと),当初は2008年中にも搭載製品が市場投入されるのではないかとも言われたが,Netbookの台頭もあって,最近はすっかり影が薄くなっていた。
……と,ここまでが復習。
今回のアップデートでは,次の3点が明らかになっている。
- 2009年内に,99ドルのMIDを実現すること
- 携帯電話向けの新製品「Tegra APX 2600」をリリースすること
- Tegra APXで,OSとして新たに「Android」をサポートすること
公開されたMID用Tegraモジュールのイメージ
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事前説明会では,NVIDIAでモバイルデバイス関連のゼネラルマネージャーを務めるMichael Rayfield(マイク・レイフィールド)氏が,まずTegraについて「Netbookの3分の1の価格で,フルHDコンテンツの再生やインターネット体験を可能にする」と強調。既存のNetbookや,NVIDIAのIONプラットフォームと比べて,Tegraには価格面で大きなメリットがあるとした。さらに,「Netbookは一度の充電で数時間しか使えないが,“Tegraデバイス”なら,日単位でバッテリー運用が可能」と,省電力性をアピールすることも忘れない。
「10年前,Nokiaの携帯電話は99ドルだった。10年後の今日,HDビデオの再生が可能で,インターネットに接続できるMIDが,同じ価格で手に入るようになる」と,Rayfield氏はTegraベースのMIDが持つ価値をアピールする
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パフォーマンスと価格を軸にした場合における,TegraベースMIDの位置付け。GeForce搭載のノートPC,IONプラットフォームのNetbookの下に,99ドルのMIDが置かれる
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バッテリー持続時間はノートPCと比較にならないレベルにあるというスライド
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なお,「フルHD」というキーワードは,氏のセッションで繰り返し出てきたが,MID向けTegraの現行製品「Tegra 650」「Tegra 600」だと,フルHD(1920×1080ドット)のビデオデコードをサポートするのは前者のみなので,99ドルというのはTegra 650搭載製品のことを指しているものと思われる。付け加えるなら,Tegra 650のディスプレイインタフェースがサポートする解像度は最大1680×1050ドットなので,フルHDビデオをMID単体でドットバイドット表示できるわけではない。この点は注意が必要だろう。
もっといえば,液晶ディスプレイなり筐体なりといったコストを考えると,99ドルという価格は難しいと思うのだが,インセンティブ込みの市場価格としてみれば,あり得ない話ではない,といったところだろうか。
Netbook用Atomモジュール(右)との大きさ比較
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実際にNetbookのマザーボードへ取り付けた例。空いたスペース分,TegraベースのMIDではNetbookよりも小型化が可能というわけだ
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Tegra APX 2600
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次に携帯電話向けのアップデートとなる2.と3.についてだが,まずTegra APX 2600に関しては,電話会議で詳細が明らかになっていない。別途入手した資料によると,従来製品「Tegra APX 2500」では,720pのVC-1/WMV9形式のデコード機能が「Main Profile」に留まっていたのが,Tegra APX 2600では「Advanced Profile」へ拡張されているのが,主な違いのようだ。
続いて,Googleが開発する携帯電話用OSであるAndroidのサポートだが,これはかなり重要な発表といえるかもしれない。
Tegra APXは当初,Windows Mobileのみをサポートするとアナウンスされていたが,Rayfield氏は,2012年にもスマートフォン市場におけるAndroidのシェアは,Windows Mobileを逆転するとの見通しを示す。市場動向を見て,Androidを重視する方向へと舵(かじ)を切ったのだろう。
Rayfield氏が示したスマートフォン市場におけるOSのシェア。AndroidがWindows Mobileを抜き去ると,NVIDIAは見ている
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「2008年はいち早く市場に製品を投入するためWindows Mobileを採用したが,2009年は新しいプラットフォーム,新しいOSを採用し,よりよいマルチメディア&グラフィックス性能を実現する」というスライド(上)。最終版ではご覧のとおり,2009年のところにWindows MobileとAndroidが共存しているが,電話会議の時点ではAndroidのロゴしかなく(下),「新しいプラットフォーム,新しいOS」というのが何のことなのかより分かりやすかったが,大人の事情が働いたということなのだろう
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Tegra APX搭載のスマートフォンは,2009年第3四半期以降に,まずはWindows Mobile搭載機が2台,投入される見込みという。Android端末はもうちょっとかかる,ということなのかもしれない
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Tegraに向けたゲームデベロッパの支援を実施
モバイル市場での遅れを挽回できるか?
Tegra搭載MID(上)とTegra APX搭載スマートフォン(下)のイメージ
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実際のところ,NVIDIAのスタート位置は,決して有利な場所にない。PCゲーマー的な立ち位置からすると,ついに業界の巨人がモバイルへ本腰を入れた,と見てしまいがちだが,ARMコアをベースとした携帯電話向けSoC(System on a Chip)部品で,ビデオ再生や3D性能にフォーカスしたものとしては,すでに米Imagination Technologiesの「PowerVR SG」「PowerVR SGX」が採用を広げている。NVIDIAがパイオニア,というわけではないのだ。
また,
2008年6月5日の記事でお伝えしているため,Tegraなら「Quake III Arena」が動作するほどの3D性能があり,それが差別化の武器になると思うかもしれないが,実は,
同じようなデモ(※YouTubeへのリンクになります)がPowerVRでも行われていたりする。Tegra(=Tegra APX)が,先行するPowerVRに勝てるのか,遅れを挽回できるのかは,未知数なのである。
ただ,事前説明会中,4Gamerの質問に応える形で,Rayfield氏が,Tegra/Tegra APXに向けた,ゲームデベロッパのサポートを行う計画があると述べた点には注目しておきたい。
99ドルで出てくるというMIDには,モバイルゲームデバイスとしても期待したい
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立ち上がりつつあるAndroidベースのアプリケーション市場で,NVIDIAが,これまでの経験を生かしたゲームデベロッパ支援を積極的に行えば,Androidベースの3Dゲーム環境や,PCとモバイルを横断的に利用できる新たなゲームタイトル,あるいは3Dゲームの技術を生かした新しいサービスなどが起こってくる可能性はあるからだ。
いずれにせよ,今後に注目するだけの価値はある発表がなされた,とは言っていいだろう。まずは,1製品でも2製品でも,日本市場に投入される日を待ちたいところである。
NVIDIAの考える,(IONプラットフォームの)低価格ノートPCとMID,スマートフォンの棲(す)み分け。99ドルのMIDは,Windows CE機になるようだ
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