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映像は4K時代に突入。立体視はどうなった? CEATEC会場で見た最新映像機器レポート
今年のトレンドの一つとして挙げられるのが「4Kディスプレイ」だ。これは4000×2000ドット程度の解像度が表示可能なディスプレイで,いわゆる「フルHD」の4倍の情報量を持つ表示デバイスのこと。東芝が4K対応液晶テレビのREGZA 55X3,ソニーが4K対応のプロジェクタの発売を発表したのをはじめ,多くのブースで対応機器の出展が確認できた。ただし,4Kコンテンツの普及などが先決の問題であり,まだ普及段階とはいえない。今後の方向性として認識しておこう。
東芝 4Kディスプレイ「REGZA 55X3」
もともと多視差の裸眼立体視では解像度が犠牲になるため,東芝では凄い解像度の液晶を使っており,そういった関係もあってか,4Kディスプレイでは一番乗りとなった。画素数はフルHDの倍となる3840×2160ドット。9視差の裸眼立体視時の解像度は,1280×720ドットとなる。実は,昨年発表された裸眼立体視テレビと画素数は変わらないのだが(昨年は立体視での1280×720ドットと発表されていた),4K映像を入力して,そのまま表示できる製品としては初となる。
そこで東芝の超解像技術で情報量を補おうということなのだが,確かにボケは軽減されるものの,ノイジーになる場合があったり,強調しすぎではないかと感じる部分も見受けられるなど,過大な期待はしないほうがよいかも。
会場のデモではフェイストラックがオフにされていたので,どの程度の効果が出るものなのかは確認できなかったのだが,裸眼立体視方式では最適な視聴位置を確保することは非常に重要なので,テレビ側がそれに合わせてくれるというのは画期的だ。
製品自体は9視差に対応したディスプレイだが,10人分のフェイストラックに対応しているという(さすがに,10人が好き勝手な位置にいると全員に最適な状態を確保するのは無理だと思うが……)。
三菱電機 レーザーバックライト液晶テレビ
液晶テレビのバックライトとしてレーザーを使った製品では,従来の液晶ディスプレイに比べて,1.3倍の色再現域を達成しているという。
なぜレーザーがいいのか? それには,LEDバックライトに使われている白色LEDの構造を理解する必要がある。最近ではすっかりお馴染みになった液晶ディスプレイのLEDバックライト。あの白色光源には,基本的に青色LEDが使われている。青色は単波長だから,非常にピュアな発色となる一方で,それだけではフルカラーを出すことはできない。フルカラー発色に必要な緑と赤については,蛍光による発光で補われている。つまり,赤と緑を含む広い周波数帯の蛍光(発光色としては黄色)を発する物質が併用され,青色LED+黄色蛍光体によって白色光が作られている。それらの成分が混ざった光を,3色のフィルタ越しに出すことでカラー表現が行われているわけだ。
これまでの黄色光を発する蛍光体だと,ピュアな赤などは取り出しにくく,フィルタを使っても濁った色になってしまっていた。今回展示されていたレーザーバックライトの製品では,3色すべてをレーザーに変えるのではなく,LEDバックライトの赤の部分のみをレーザーに置き換えるようなものとなっていた。つまり,
青 単波長LED
赤 単波長レーザー
緑 蛍光体
といった構成だ。蛍光体による発光となる緑色についても,従来より幅の狭い帯域の蛍光物質を使うことで,よりピュアな発色が得られているという。
LEDバックライト自体は,低消費電力で非常に素晴らしいものなのだが,レーザーバックライトは,色彩,とくに赤色の発色が素晴らしい。なんというか,純度が高い。一応,デジカメで画面を撮ってはみたものの,仮に正確に撮影されていたとしても,表示デバイスが普通の液晶ディスプレイだと絶対に同じ色は出ないので,そこはご了承いただきたい。
ちなみに,光源として3色のレーザーを使ったものとしては,すでにリアプロジェクタ「レーザーテレビ」が発売されている。プロジェクタはDLP方式のもので,75インチながら奥行きは38.4cm。バックライトで赤レーザーを使ったものよりもさらにピュアな発色が得られるという。ただ,リアプロということもあって,解像感自体は液晶テレビのほうが上な感じには思えた。
日立 実空間融合3Dディスプレイ
昨年より1.6倍高解像度化されたとのことなのだが,ご覧のとおり,まだかなり粗くて見づらい感じだ。QVGAからVGAの間くらいの解像度はあるそうだが,非常に解像度が低く感じられる。これは上部にあるレンズアレイの粗さが模様として出ていることも関係しているとのこと。
全方向からの多視差映像を作っているようで,コンテンツは現状ではCGのみ。ただし,実写映像を加工することも不可能ではないそうだ。
情報通信研究機構 200インチの自然な立体像表示技術
それが200インチの大画面で展開されており,動画にも対応している。映像はクリアで裸眼立体視でありがちなフォーカスを見失うようなことはまずない。かなり大規模な設備が必要な展示ではあるのだが,かなり魅力的な立体視表示デバイスだといえる。
ちなみに顔を動かすだけではダメで,身体ごと動かすようにとの注意があった。かなり大きく動かないと真価が体感できないので,映画館などには向いてないかもしれない。デジタルサイネージ向きなのだろうか。
各社立体視展示の模様
この結果に関して,個人的にはコンテンツと見せ方の問題だと思っている。
立体視ディスプレイをアピールするのに,やはり「飛び出る画像」以上に効果的なものはない。しかし,昨年の「3Dテレビ」では,もっぱら「奥行き感」がアピールされていた。もちろん,奥行き感を強調するのには,それなりに理由がある。メインコンテンツとして売りたい立体映画などは,ほとんど奥行き感重視で作られているからだ。
飛び出し感を有効に使うには,飛び出るオブジェクトが画面のエッジにかかってはいけないという鉄則があるので,どうしてもコンテンツが作りにくい。剣や拳を突き出したりといった,意図的なシーン撮影を行うか,CGできちんと制御するかといった具合だ。
遠景にあるものは,少々視差をつけて撮影しても,あまり遠近感が感じられない。立体視のありがたみが薄くなる。そこで,再現側の視差量を大きくして遠近感を強調することがよく行われるのだが,これをやっても,目は,ある程度補正して物体を認識するので連続的な部分の立体感はさほど大きく感じられない。代わりに非連続な部分で距離補正が行われる感じで,レイヤー感だけが強調されるという映像になる。立体視コンテンツとしては,正直,3流というしかない。かといって,控えめにすると,自然すぎてありがたみがまったくない映像になる。
立体視に適したコンテンツがなかなか作れないのには,こんな事情があるということを頭の隅に入れておくとよいかもしれない。
パナソニックは,プレゼンテーションでは飛び出す画像を多用していたものの,立体視対応カメラのデモなどでは,奥行き型でやや視差強調気味な調整。なお,パナソニックでは,152インチの大画面で立体視対応のディズニー映画と日本映画の予告編上映が行われていたのだが,立体視対応コンテンツ制作力の差は歴然だった。日本映画のほうは,単に立体カメラで撮ってみただけといった雰囲気なのに対し,ディズニー映画では,ちゃんと「立体視を意識した演出」がされていたのだ。
そのほかだと,東芝は基本的に奥行き系で,奥行き量もナチュラル指向。日立は奥行き系でレイヤー感が強し。ソニーはいくつか飛び出し系コンテンツをアピールしていたものの,基本は奥行き系で視差強調を軽く入れている感じ。
画面から2m離れた位置から見ているとして,1m50cmくらいまでイルカが飛び出してくる感じ。こういう,手を伸ばせば触れられそうな映像を体験しないと,立体視映像の魅力は伝わりにくい。
この映像は,LC-70X5にも内蔵されているとのことなのだが,10秒程度しか収録できなかったとのこと。ぜひロングバージョンを添付してほしいところである。
私が初めて4K映像を見たのは,10年ほど前のシャープの発表会でのことなのだが,正直,そんなに凄い映像という印象はなかった。私以外の取材陣も,「それだけ解像度があれば,まあ綺麗ですよね」といった程度の反応だったのだが,デモの途中に,全画面でExcelが起動された瞬間に「こんなに凄かったのか」と,場の空気が変わったのを思い出す。空の表が表示されただけなのだが,画面を埋め尽くすセルの量に圧倒されたのだ。データ表示用としては高解像度大画面は非常に有用なのだが,映像用としての超高解像度の需要は少ないのではないかと感じている。4Kディスプレイも,きちんとした見せ方をしないと,今の立体視ディスプレイの轍を踏んでしまうのではないかと心配するのは杞憂だろうか。
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