業界動向
Access Accepted第475回:ニュースで見る,最近の北米VR市場の動向
![]() |
コンシューマゲーム機やVHS,DVDといったものの歴史を振り返ってみると,新しいハードウェアの普及には,「キラーソフト」や「キラーアプリ」と呼ばれるソフトウェアの存在が不可欠であることが分かる。2015年末から2016年にかけて次々に市場に投入されるVR(Virtual Reality=仮想現実)対応ヘッドマウントディスプレイでは,何がそうなり得るのだろうか。今週は,いよいよ我々の前に姿を見せるVR関連の最新ニュースを,いくつかピックアップしてみた。
VR市場確立のカギを握るのは「キラーソフト」
2015年末から2016年にかけて,さまざまなVR(Virtual Reality=仮想現実)対応ヘッドマウントディスプレイが市場に投入される。ValveのSteamVRに対応したHTCのヘッドマウントディスプレイ「Vive」では,2015年11月中に限定的なリリースが始まり,またOculus VRの「Rift」は2016年初めのリリースを予定,そしてSony Computer Entertainmentの「PlayStation VR」も2016年内の発売を目指している。東京ゲームショウ2015やOculus Connect 2といったイベントでも,VR対応ヘッドマウントディスプレイや周辺機器,そしてソフトウェアコンテンツなどの具体的な情報が公開され始めており,新たな時代の足音が次第に近づいているのは,読者の皆さんも感じているところだろう。
![]() |
そのため,Oculus VRは早々と「Minecraft: Windows 10 Edition」の「Rift」対応を発表し,さらに,アニメーションスタジオPixerで経験を積んだディレクターやアーティストを招聘して,Oculus Story Studiosというスタジオを設立した。そして「VRストーリーテリング」と呼ばれるインタラクティブ映画の新ジャンルを提案することにより,コンテンツ面で具体的な道筋を見せようとしている。
また,Oculus VRが「VR時代のペイントツール」と呼ぶ3Dモデル生成ソフト「Oculus Medium」も発表されている。新型コントローラ「Touch」を利用した「Oculus Medium」については,筆者もデモに触れる機会があったのだが(関連記事),例えば3Dプリンタとの連動を図るなど,用途を広げることで「Rift」の価値がさらに高まると感じられた。
VR対応ヘッドマウントディスプレイの特徴は「没入感」だが,とくに,現実では体験できないようなことを可能にする,疑似体験タイプのソフトに筆者は注目している。
1990年にリリースされた「Wing Commander」以降,これまで無数のスペースコンバットシムに触れてきたが,VRに対応したCCP Gamesの「EVE: Valkyrie」やFrontier Developmentの「Elite: Dangerous」の,コクピットの中で首を振って左右を確認できるというのは格別な感覚だった。同様に,レースゲームやローラーコースターを体験するゲームなどでも,これまでにない体験が味わえるだろう。また,Vertigo Gamesの「World of Diving」も,ヘッドマウントディスプレイをスキューバのマスクに見立てているところが巧みだ。
![]() |
しかし,映画やゲームだけで新しいハードウェアの市場浸透を牽引できるとかといえば,それを疑う声もある。Oculus Connect 2で話す機会のあった大手テレビ会社のレポーターは,「VR機器を普及させるには,アダルト産業への進出しかない。私はそうしたイベントに参加したことがあるが,もう30社以上が『Rift』のリリースに合わせたコンテンツを制作していた」と教えてくれた。ビデオデッキが登場したときの状況を思えば納得できる話でもあり,「International CES 2015」の際,筆者のインタビューに対して,Oculus VR副社長のネイト・ミッチェル(Nate Michell)氏が「内容の規制は考えていない」と話したように,Oculus VR側もこうした現実を意識しているのかも知れない。
そんな北米VR市場だが,最近もいろいろな動きがあった。その中から,興味深いニュースや情報を以下にまとめてみよう。
![]() |
SpaceVR
ISSにカメラを取り付け,VRで地球や宇宙を鑑賞可能に2015年にサンフランシスコで設立されたSpaceVRが,Kickstarterで「SpaceVR」プロジェクトの資金獲得に成功した。
「SpaceVR」とは,ISS(国際宇宙ステーション)のモジュール「キューポラ」に観測用の3Dカメラを取り付け,そこから地球や宇宙空間の風景を撮影した映像を配信するというサービスで,宇宙飛行士が見ているままの世界を地上で堪能できるとアピールされている。
3Dカメラは同社が開発したもの,簡易型のVR対応ヘッドマウントディスプレイ「DoDo Case」も30ドルで販売される予定だ。映像は,地球一周,オーロラ,流星群などのテーマで数10分単位で配信され,50ドル払えば,契約期間中すべての映像が閲覧可能になるという。
すでに一般からの投資受付は終わっているが,NASAが主催したアプリ選考会で注目され,元宇宙飛行士のエドガー・ミッチェル(Edgar Mitchell)氏や,「Ultima」シリーズの生みの親として知られ,またソユーズ宇宙船でISSへ旅した経験を持つゲームデザイナーのリチャード・ギャリオット(Richard Garriott)氏が顧問を務めるなど,本格的なプロジェクトとして期待されている。
Kickstarter「SpaceVR」プロジェクト紹介ページ
SoftKinetic 3D
ソニーもARテクノロジーに関心。次世代のPlayStation向けデバイスはメガネ型になる?10月8日,ベルギーのベンチャー企業であるSoftKineticをソニーが買収した。SoftKineticは,光の到達時間から距離を測るToF(Time of Flight)技術を用いた距離画像センサー(Range Image Sensor)を研究するメーカーであり,International CES 2015で公開された映像を見る限り,Microsoftの「HoloLens」に似た,AR(Augmented Reality=拡張現実)型のデバイスに応用することを目的として開発が進められていたようだ。
ただし,ソニーのプレスリリースによると,同社は「SoftKineticのToF技術を,すでに保有する技術と組み合わせて次世代の距離画像センサーを生み出し,さまざまなアプリケーションに応用していく」とのことで,「PlayStation VR」もしくは次世代「PlayStation Move」「PlayStation Eye」などに活用される可能性が高い。SoftKineticのトレイラーを見ても,複数の家電製品を連動させるといった解説がなされており,ソニー製品における重要な地位を確立していくかもしれない。
THE VOID
史上初のVRヘッドマウントディスプレイを使ったテーマパークが,近日中にオープン1992年,アメリカ生まれの「バトルテックセンター」が日本に上陸し,話題になった。これは,ロボットのコクピットを模した大型筐体に乗り込み,3Dグラフィックスのゲーム画面を見ながら,最大8人で対戦を行うというアトラクションだ。日本ではすでに姿を消したが,アメリカでは今でも運営されている。
そんなバトルテックセンターを思い出させる施設が現在,ユタ州のソルトレイクシティで建設中だ。2016年夏のオープンを目指すこのテーマパークの名称は「THE VOID」で,VR対応のヘッドマウントディスプレイを使ったアトラクションが特徴となる。すでにいくつかのアトラクションの体験が可能になっているようだが,それを体験できる予約券は,発売から数時間で売り切れてしまったという。
このTHE VOIDには,SFシューティングやカーレース,中世ファンタジー世界を舞台にしたアクションなど,さまざまなアトラクションが用意されており,来場者は,独自に開発された「Rapture HMD」と呼ばれるVR対応ヘッドマウントディスプレイのほか,センサーを搭載したベスト「Rapture Vest」やグローブ「Rapture Gloves」などのデバイスを着用して楽しむことになるという。
それぞれのアトラクションには大きなスペースが用意されており,安全のため内装は角や突起のないツルりとしたものになっている。VR画像だけでなく,空気や振動,水しぶきなどを使い,3Dを超える“4D体験”が楽しめるとのことだ。類似の施設はすでにオーストラリアでオープンしているが,今後,VR技術を使った新たなテーマパークがあちこちに作られていくことになるかもしれない。
SteamVR
40%以上のユーザーは,VR機器をベッドルームで使う予定Valveが2000人以上のPCゲーマーを対象に行ったアンケートの結果が発表された。それによると,全体の42.83%がゲーム用PCをベッドルームに設置しており,これは,リビングルーム(24.40%),専用のコンピューター部屋(20.5%)を大きく引き離す数字だ。さらに回答者の69.37%が,「VR体験のためにPCを別の場所に移動させる予定はあるか」の質問にNoと答えている。
多くのPCゲーマーが,狭くて家具や小物も多そうなベッドルームで1人,座ってプレイしているという事実は,ゲームをデザインするうえで重要な意味を持ち,それはVRでも変わらないはずだ。
これまでのVR対応ヘッドマウントディスプレイのデモは,ほとんどの場合,リビングから家具を取り払ったような大きな部屋で,立ってプレイするようなものだった。だが,そういう状況と,潜在的購買層のプレイスタイルは大きく異なっている。楽な姿勢で,たいした準備もいらず,長くプレイできる,という観点からのゲームおよびコンテンツの開発が必要になってくるだろう。
![]() |
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
- この記事のURL:





















