業界動向
Access Accepted第458回:我々のプレイスタイルを変えるかもしれない新感覚のゲームハード
これまで「ゲームを楽しむ環境」といえば,コンシューマ機を接続したテレビやデスクトップPCなどの据え置き型がメインだったが,ゲームハードの小型軽量化が進み,近年は携帯型コンシューマ機やタブレットPC,そしてスマートフォンといったデバイスが大きな位置を占めるようになってきた。最近では,VR対応のヘッドマウントディスプレイに代表される,これまでとは違うタイプのゲームデバイスが出現し,今や,さまざまな方法でゲームが楽しめるようになってきた。今週は,もしかするとゲームプレイのスタイルを変えるかもしれない,新感覚のゲームハードをいくつか紹介したい。
ハードウェアの進化がゲームの進化を牽引する
Electronic Artsが,日本時間の2015年4月18日に詳細を明らかにした「Star Wars Battlefront」。公開されたトレイラーには,まるで実写のようなゲーム映像が収められており,発表以来,約2年間待たされたファンを驚かせ,大いに盛り上げさせてくれた。発表から3日後に公開された開発者ビデオダイアリーでは,この映像に「フォトグラメトリ―」という新しい技術が使われていることが明かされたが,これは,本連載の第449回「新たなゲームテクノロジー『フォトグラメトリー』とは」で詳しく紹介したように,2014年頃からゲーム開発に取り込まれるようになった新しい技法だ。こうした新しい技術を積極的に使った「Star Wars Battlefront」は,ゲームグラフィックスの向上を体験できる重要なマイルストーンになるかもしれない。
このように,ゲームの開発技術に「これで終わり」はなく,日々進化している。ほかのエンターテイメント分野も状況は同じかもしれないが,これほどドラスティックな変化がしばしば起きるのは,ゲームだけではないだろうか。
新技術が登場するたびに欧米のゲーム開発者は挑戦を繰り返し,我々を驚かせたり楽しませてくれたりするが,ときには思ったほどのものにならず,派手に散ったりすることもある。技術面から見たゲームの歴史は,そんなトライアンドエラー(試行錯誤)の積み重ねといってもいいだろう。
一方で,ゲーム開発技術の進化にはハードウェアの進歩も必要だ。2015年中には,自宅で仮想現実(VR)を楽しめるVR対応ヘッドマウントディスプレイが市場に投入され,プレイヤーが360°を見回せる仮想世界の体験が可能になるはず。多くのゲーム開発者達が,この新しい技術に対応したゲームの開発を進めており,最初は失敗もあるだろうが,いずれは我々が思いもしなかったゲームが生み出されていくことになるだろう。
そんな,我々のゲームプレイのスタイルを変えてしまうかもしれない新しいハードウェアと,それに対応するゲーム開発の取り組みについて,簡単に紹介したい。
タッチスクリーンを使った「スマートテーブル」
安価なノートPCやタブレットPCにも採用されるなど,今や当たり前の存在になったタッチスクリーン。Lenovoの「HORIZON 2」のように,27インチという大型サイズでマルチタッチに対応したタブレット製品が登場し,テーブルの上に置いて家族全員で使ったりなど,新しい使用方法が訴求されている。もちろん,これを使って,例えばカードゲームやエアホッケーのような対戦を楽しむことも可能だ。
欧米には,こうした巨大タッチスクリーンのタブレットPCを,ダイニングテーブルやコーヒーテーブルに組み込んだ「スマートテーブル」を作成する工房が登場している。アメリカの教育機関では,メーカーがスポンサーとなってスマートテーブルを学校に設置する動きも見られ,情報を複数の生徒がシェアしたり,アート制作の共同作業を行うといったことが行われている。大型ディスプレイをテーブルに設置するというコンセプトが定着すれば,そこから新しいゲームのアイデアが生まれてくるかもしれない。
Microsoftが「HoloLens」のゲーム向け利用を加速
Oculus VRの「Rift」やSony Computer Entertainmentの「Project Morpheus」などが話題になる中,2015年1月にMicrosoftが発表した「HoloLens」(関連記事)は,上記デバイスと異なるAR(オーギュメンテッドリアリティ=拡張現実)を採用したことで注目を集めた。
「Google Glass」と同様,現実世界にビデオ映像や立体的なオブジェクトを投影させられるというもので,リビングルームで「Minecraft」のブロック世界を浮かび上がらせるといったデモも行われている。必ず現実世界が背景になるため,VRに比べてゲーム作りは難しそうだが,対応ソフトの開発も進められているようだ。
そんな折,Microsoft Games傘下のスタジオLionhead Studiosを2年にわたって率いてきたジョン・ニーダム(John Needham)氏が,レドモンドのMicrosoft本社に異動し,XboxとHoloLensに関連する新規プロジェクトを立ち上げることが発表された。具体的な内容は現時点で不明だが,Lionheadのゲーム開発力と,Microsoftの技術でAR対応のゲームを大きく前に進めてほしい。
Bossa Studiosが「Apple Watch」向けのゲームアプリを開発中
Appleが満を持して市場に投入したスマートウォッチ「Apple Watch」。すでに出荷体制に入っているという情報も聞こえてくるが,38mm版で272×340ドット,42mm版でも312×390ドットという限られた解像度,そして操作できるのがおそらく片手だけになることで,ゲーム機としてはいささかきついハンデを持つことになる。しかし,調べてみると,いくつかゲームプロジェクトがすでに進行しているようで,中でも目をひくのが,イギリスのBossa Studiosが発表した「Spy_Watch」だ。
「Surgeon Simulator」や「I am Bread」など奇抜なゲームで知られるBossa Studiosだが,この「Spy_Watch」は,ジェームス・ボンドがつけていそうなスパイ用腕時計をモチーフにしたゲームだ。プレイヤーは,各地に散らばって極秘ミッションを遂行しているスパイ達のリーダーという役どころで,メッセージをやり取りしながら指示を与えていき,部下に任務を達成させ,彼らのレベルアップを図ることが目的になるのだ。
プレイヤーの反射神経をテストするなどといったありがちなものではなく,インタラクティブストーリーに近い雰囲気だが,スマートウォッチがゲームプラットフォームとして活用できるかどうかの良い試みとなるのではないか。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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