業界動向
Access Accepted第385回:欧米ゲーム業界の雇用問題
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コンシューマ機は次の時代に向かい,昨今の欧米ゲーム業界では組織の再編成が活発に行われている。その背後で,人員整理や企画の見直しによって職を失う開発者も増えているようだ。こうした人材の流動性の高さが欧米ゲーム業界の強さの理由の一つと言われてきたが,プロジェクトごとに人を集め,開発終了と同時に解散する「ハリウッドスタイル」の雇用形態に疑問を持つ人も少なくはないようだ。
「基礎から間違っているビジネスモデル」
2013年4月2日に正式サービスを開始したTrion Worldsの新作「Defiance」は,北米のケーブルテレビ局「Syfy」の同名ドラマと同時にスタートすることでPR効果を狙った,いわゆる“トランスメディア”コンテンツとして(思惑どおりに)話題を集めたMMORPGだ。対応機種はPCおよび,PlayStation 3,Xbox 360で,現在のところ,すべてのプラットフォームのトータルで約100万アカウントを獲得したと発表されているが,ヒット作というには少々物足りない印象だ。
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そんなTrion Worldsが,正式サービス開始から6週間後の5月16日,多くの従業員を整理したことを発表した。これまで北カリフォルニアと南カリフォルニアに2つのオフィスの合計で200人ほどの従業員がいたが,その半数近くが整理の対象になったとされている。同社は今年1月にも「Rift」運営チームを対象に40人ほどの人員削減を行っているため,海外メディアに大きく取り上げられることになった。
ただ,Defianceは大型タイトルであり,しかもMMORPGという人手のかかるプロジェクトであったため,開発が終了した時点で余剰なスタッフが別のプロジェクトに移ったり契約解除されたれするのは珍しいことではない。Trion Worldsは,大人数参加型のストラテジーゲーム「End of Nations」を2013年内にリリースする予定となっており,整理された人員がすべて解雇されたわけではなく,単なる部署異動というケースも含まれるだろう。
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2013年1月にTrion Worldsを解雇されたというハーツマン氏は,大量の人員整理を伝えるニュースが流れた17日,自身のFacebookで「ゲーム開発のビジネスモデルは,基礎から間違っている」と書き込み,業界関係者と思われる友人達と議論を繰り広げた。
ハーツマン氏の指摘は,Trion Worldsの体制に対する批判というより,北米ゲーム業界の方法論そのものに対する疑問だ。本連載でも何度か書いたが,現在のアメリカのゲーム業界は,プロジェクトごとにスタッフを集め,開発が終了すると解散する「ハリウッドスタイル」が一般的になっている。ハリウッドでは,「映画関係者の99%がフリーランス」と言われる状況になっており,特定の会社に所属している人はほんの一握りしかいない。
ハーツマン氏は,こうしたハリウッドスタイルによるゲーム開発が,基礎から間違ったビジネスモデルであると主張しているのだ。
欧米ゲーム開発の現在の主流「ハリウッドスタイル」
ゲームの開発は各段階で必要とされる職種が異なり,例えば開発前半にはプログラマーやアーティストが活躍し,後半はデバッガーやクオリティコントロールの担当者が腕を振るうことになる。したがって,プロジェクトの進捗に応じて人員整理を行うのは,ビジネスサイドとしては当然の措置なのだが,必要な仕事が終わったとたん,はい,さようならと背中を押され,渡り鳥のように次の仕事を探すのは,あまり健全な労働環境とはいえないだろう。
ゲームは映画に比べて制作期間が長く,長期間にわたって同僚と同じ時間をオフィスで過ごすことになる。それだけプロジェクトに対する精神的なつながりも深くなり,受け持ちが終わったからといって,次の仕事にあっさり移れるものでもないだろう。また,若者達が中心になってゲームを作っていた黎明期に比べ,現在は開発者の年齢も上がり,扶養家族を抱える人の割合も高い。安定した職場環境を望む声は,これからも増え続けるはずで,ハーツマン氏のいう「基礎部分から間違ったビジネスモデル」は,今後アメリカのゲーム業界が抱える問題の一つになっていきそうだ。
とはいえ,長期的な雇用を保証したままで合理的,効率的にゲームを開発するための処方箋はない。
インディーズゲーム開発をモデルに
そんな中,一つのサンプルになりそうなのが,インディーズゲームの開発者達かもしれない。彼らは,自分の担当が終わればそれでおしまいというわけではなく,最初から最後までゲーム開発に携わり,製品に対する責任を共有する。一人が複数の仕事をこなす必要があるため,メンバーに高いスキルが要求されるが,自分が開発に貢献しているという意識を維持しやすく,モラルの向上が期待できる。また,意志決定も速いため,スピーディな開発も可能だ。
小さな開発チームが生み出した有名な作品としては,Riot Gamesの「League of Legends」やMojangの「Minecraft」などがあり,少人数だからといってヒット作品が生まれないということはない。
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もっとも,こうした開発スタイルで,例えば「Call of Duty」シリーズや「Halo」シリーズなどのブロックバスター作品が作れるかといえば,当然作れないだろう。反対に最近の欧米ビッグタイトルは,1000人近い開発者が投入されるハリウッドスタイル化がますます進んでいる。そんな中,インディーズゲームの開発スタイルは一つの可能性につながるかもしれないが,欧米ゲーム業界は今後も試行錯誤を続けていくことになりそうだ。ハーツマン氏を含め,整理されたTrion Worldsのスタッフが,また別のどこかで素晴らしい作品を生み出してくれることを願いたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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