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Access Accepted第380回:2年連続で「アメリカ最悪の企業」に選ばれたElectronic Arts
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印刷2013/04/15 12:00

業界動向

Access Accepted第380回:2年連続で「アメリカ最悪の企業」に選ばれたElectronic Arts

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 消費者の投票によって決まる「アメリカ最悪の企業」に,Electronic Artsが2年連続で選出された。環境汚染や資金の不正流用など,社会的にも重要な事件を起こした他分野の企業を押さえての不名誉な選出であり,この結果に対して同社のCOOであるピーター・ムーア(Peter Moore)氏が反論を試みている。今回は,そんな同社の過去と現在についてを見ていきたい。果たしてElectronic Artsには,消費者から最悪の企業だと名指しされるだけの理由があるのだろうか?


「アメリカ最悪の企業」に選ばれたElectronic Arts


 ピーター・ムーア(Peter Moore)氏は,長らくシューズメーカーReebokに勤めたあと,SEGA of Americaでゲーム業界に参加し,Microsoft時代にはXbox/Xbox 360のセールスに携わるという経歴を持つ,日本でもよく知られる人物だ。2007年にElectronic Artsに移籍し,EA SPORTSの責任者として辣腕を振るい,現在は同社のCOO(チーフオペレーティングオフィサー)を兼務しつつ,約9000人の従業員を抱える大企業の経営を担っている。

 そんなムーア氏が北米時間の2013年4月5日,「We Can Do Better」(我々は,もっと良くなれる)と題したエントリーを公式ブログ「The Beat」で公開した。これは,約25万人の消費者の投票で選ばれる「2012年のアメリカ最悪の企業」に,Electronic Artsが2年連続で選ばれてしまったことに応じたものだ。

Electronic Artsと最後まで「アメリカ最悪の企業」の座を争ったのは,不正事件や反トラスト法違反の賠償問題などで揺れたBank of America。2年連続の選出により,ゲーム業界やゲーマーとは関係ない消費者にも,同社の名が(良くない意味で)知られてしまった
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 「アメリカ最悪の企業」とは,利害関係のある企業をスポンサーとしない非営利団体,Consumer Unionが消費者の投票によって選出するもので,同団体の公式サイト「The Consumerist」で発表される。The Consumeristは,月あたり約400万部の部数を誇るConsumer Unionの月刊誌「Consumer Reports」の電子版だ。
 Electronic Artsが選ばれたのは,上記のように2011年に続いて2回目で,その前の「2010年のアメリカ最悪の企業」には,メキシコ湾で原油流出事故を起こしたエネルギー大手BPが選ばれている。つまりElectronic Artsは,「甚大な環境破壊を引き起こした企業」に肩を並べるどころか,追い抜いてしまったわけだ。

 The Consumeristの総評によると,Electronic Artsが消費者から嫌われた理由として,「『Mass Effect 3』騒動に見られるように,ファンの求めるゲームが作れなかったこと」「ゲームの単価が高過ぎること」,そして「デジタル配信システム『Origin』にこだわったことによる,カスタマーサポートのまずさ」という3点が挙げられている。

Microsoft時代,「Halo 2」の刺青をE3のプレスカンファレンスで披露するなど(のちに偽物だったことが判明),ユニークな行動や歯に衣着せぬ発言で知られるピーター・ムーア氏。実質的なElectronic Artsのナンバー2として,経営の舵取りを行っている
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 筆者個人としては,以上の理由が環境破壊などの社会問題と同等に扱われることについては納得しづらい。まずゲームの価格だが,Electronic Arts一社でどうこうしているものではないはずだ。一般消費者の感覚としては,同社が「ゲーム価格を左右できる影響力を持つ業界リーダー」に見えるのだろうか。
 また,Mass Effect 3のエンディングがファンの不満を集めたことも,Electronic Artsに限ったものではない。しかし,多くの消費者が票を投じていることそのものは,動かしがたい事実だ。

 ムーア氏はエントリーで,「我々が過去,多くの間違いを犯してきたのは間違いない」と認めつつ,「我々はその間違いを正すことに懸命に取り組んでいる」とし,年間約3億5000万件も寄せられるユーザーコメントや問い合わせにも細かく目を通していると続けている。
 そのうえで,「ニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・レイカーズ,そしてマンチェスター・ユナイテッドのように,伝統と成功に裏打ちされたElectronic Artsは,最後には必ず勝者になる」と,いかにもEA SPORTSの責任者らしい例をひいて,強気の姿勢を崩さない。結びの言葉は,「高い木は風を受けやすい。我々は誇り高く,前向きに風に立ち向かっている」というものだ。


Electronic Artsの履歴書


 一般的にかどうかは別にして,Electronic Artsに対してネガティブなイメージを持つゲーマーが多いのは事実で,その理由はおそらく,同社が資金力にモノをいわせて有名デベロッパを買収し,実績が挙げられないと見るや迷うことなく閉鎖してきた印象が強いためだろう。
 「勝者となるプラットフォームは,我が社のタイトルがリリースされるプラットフォームだ」と豪語した1990年代後期から2000年代初めにかけては,確かにそのとおりだった。

 1995年に買収したピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏のBullfrog Productionsを閉鎖したのは2004年で,MMORPG以前の時代からMUD(Multi-User Dungeon)で知られていたKesmaiの門を閉じたのも同年のこと。RTSの元祖といわれる「Command & Conquer」シリーズを生み出したWestwood Studiosを同社のロサンゼルススタジオに統合させたのは2003年で,さらに翌2004年には,リチャード・ギャリオット(Richard Garriott)氏の設立したOrigin Systemsを消滅させている。ほとんどの場合,新作が不発に終わり,運営の修正が求められた結果の統廃合なのだが,「もっと辛抱強く育てていくべきだった」というファンの声は,今も根強い。

 こうしたネガティブな印象に拍車をかけたのが,2004年に起こった「EA Spouse」だ。この年,Electronic Artsの一従業員の妻という人物がEA Spouse(EAの配偶者)と題したブログを公開し,「“クランチタイム”と呼ばれる開発の最終段階になると,従業員は朝9時から夜10時まで,残業手当もなく仕事をすることが求められ,そのうち家に帰ってこなくなる。そのため夫とは数か月も顔を合わせることがない」などと告発したのだ。さらに,同僚の家庭崩壊や健康被害などを赤裸々に語り,その結果Electronic Artsは,アーティストやプログラマーなど部門別に結成された被害者団体に,総額3000万ドルの賠償金を支払うことになった。
 筆者の知る限り,クランチタイムの超過勤務はゲーム開発者なら多かれ少なかれ経験することだと思うが,この事件がElectronic Artsに“悪の企業”というイメージを与えたのは間違いない。

「Battlefield 3」「FIFA 13」「SimCity」など注目作のリリースで,今や3900万アカウントに達するというElectronic Artsのデジタル配信システム「Origin」。評判は必ずしも良くないが,サードパーティのゲームやインディーズタイトルもリリースし始めており,5000万アカウントの「Steam」に肉薄しつつある
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 さらに,理由の一つに挙げられている「Origin」が,ゲーマーの間で不人気なのも事実だろう。
 2011年6月に正式サービスが開始されたOriginは,もともと2005年から使われてきたデリバリーシステム「EA Downloader」をアップグレードしたものだが,登録時に確認させられる使用許諾契約に,「ソフトウェア/ハードウェアの使用状況についてのデータ収集を容認する」という項目があったため,多くの使用者にスパイウェアではないかと疑われてしまったのだ。
 しかも,あるドイツのユーザーが「Originが,納税ソフトや画像など,ゲームとはまったく関係ないものにアクセスしている証拠」とするスクリーンショットを公開。さらに,ドイツの週刊誌「Der Spiegel」がOriginについての調査を行った結果を,2011年末に記事にするなど,ドイツを中心に大きな話題になった。
 スパイウェア疑惑についてElectronic Artsは,そうした事実はないと真っ向から否定するとともに,使用許諾契約に「スパイウェアではないが,データは継続して収集する」という一文を書き加えている。筆者は事の真偽を判断する材料を持っていないが,ゲーマーの疑惑が払拭されていないのは間違いなく,実際,SimCityがリリースされる際にも「スパイウェアだから買わない」という意見を見かけている。


開発者が首を吊るための十分な長さのロープを与えてくれる


 ピーター・ムーア氏のエントリーで興味深いのが「批判の中には,到底受け入れられないものもある」と,投票の中に一部ユーザーの組織票があることを示唆している点だ。
 ムーア氏が指摘しているのは,「Madden NFL 13」のパッケージにお気に入りのアスリートが使われていないことを不満に思ったユーザーが,コミュニティサイトで活動した結果,組織票が入ったという。
 これもまた,真偽のほどは筆者には分からないのだが,少なくともネット上ではいわゆる「祭り」や「炎上」といったことが起きやすいことは,4Gamer読者ならよくご存じだろう。

 こういったものに加えて,保守層の反感もあるという。最近のElectronic Artsタイトルには,LGBT(レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランセクシュアルの頭文字を取った造語)キャラクターの恋愛場面などが見られるようになってきたが,アメリカの保守層には,そういったオープンな表現に対して反感を持つ人が少なくないのだ。
 LGBTに寛容なElectronic Artsの姿勢を批判するメールが,保守系サイトなどから2012年だけで数千通も届いていたとのことで,ムーア氏は「そんなことで最悪の企業に選ばれるのなら,これ以上議論する余地はない」として,“ノイジーマイノリティ”の批判に対して正面から対決していく姿勢を示している。

LGBT表現に寛容なElectronic Artsタイトルの中でも,BioWareの作品は非常に先進的だ。The Florida Family Associationなどのキリスト教系保守サイトは,Mass Effectの性描写を問題視している
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 そんな中,BioWareから身を引いた創業者の一人,グレッグ・ゼスチャック(Greg Zeschuk)氏に対するインタビューが,ゲーム情報サイトGame Industryに掲載された
 タイミング的には「アメリカ最悪の企業」の結果発表前に行われたインタビューだと思われるが,ともあれ,その中でゼスチャック氏は「Electronic Artsは,我々開発者が首を吊るために十分な長さのロープを与えてくれる」と語っている。
 日本語にするとひどくElectronic Artsを批判しているようにも聞こえるが,ゼスチャック氏の言わんとするのは概略「Electronic Artsはクリエイターのやりたいことに口を出さない。それどころか大きなサポートを与えてくれるので,そこからどんな失敗作を生んだとしても,それはクリエイターの責任だ」という意味合いだ。大企業であるにも関わらず,開発者に大きな自由を与えるElectronic Artsの社風が浮かび上がってくる。

 シリーズの続編を作り続ける欧米の大手パブリッシャの中にあって,Electronic Artsには挑戦的な内容のタイトルが多いという印象を筆者は持っている。EA DICEの「Mirror's Edge」やPandemic Studiosの「The Saboteur」,そしてMaxisの「Spore」など,結果は残せなかったかもしれないが,新しいことをしてやろうという意志が感じられる。さらに,シリーズ作品であるとはいえ,新作と言っていいほどの時間と予算をかけたPC専用タイトルSimCityなどは,Electronic Artsでなければ生まれてこなかったものだろう。

 Battlefield 3で似たような事態が起きていたにも関わらず,SimCityでもローンチに失敗したOriginは,決して誉められたものではない。しかし,その後の対応は模範的とも言えるものであったし,Originの不備を「アメリカ最悪の企業」であると断ずる根拠の一つにするのはいかがなものかと思う。反米運動が起きた国や地域で真っ先にマクドナルドが襲撃されるように,良くも悪くもElectronic Artsはゲーム業界のシンボルと見なされているのだろう。

無料DLCとして,日産の車が登場するものが追加されたSimCity。こうしたゲーム内広告への取り組みもElectronic Artsらしいが,SimCityのサーバー問題は,現在でも尾を引いている
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 ここ5年ほど,Electronic Artsは赤字の続く苦しい経営が続いており,企業価値ではActivision Blizzardに大きく水を開けられている。その一方,ゲームエンジン開発やインディーズメーカーへの支援,そしてモバイルゲームやFree-to-Playなどのオンライン事業への進出など,新しい分野に積極的に挑戦している姿は,筆者の目には業界トップの名にふさわしいものに映る。今回の「アメリカ最悪の企業」2年連続選出について読者の皆さんはどう思うだろうか。筆者自身は,今後も新分野への挑戦を続けてほしいと願っている。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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