業界動向
Access Accepted第374回:ハードウェアからサービスに力点が移ったPlayStation 4
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ついに,PlayStation 4が発表された。Sony Computer Entertainmentがニューヨークで開催した「PlayStation Meeting 2013」では,踏み込んだ説明や予定こそなかったものの,いくつかのポイントが明らかになった。3月のGDC,6月のE3,8月のGamescom,そして9月の東京ゲームショウと,発売が近づくにつれてさまざまな情報が明らかになっていくはずだが,今週は最初の発表で筆者が感じたことをお伝えしたい。
PlayStation 4,ついに発表
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米国現地時間の2013年2月20日,ニューヨークで「PlayStation Meeting 2013」が開催され,そこで発表された新型の据え置き型コンシューマ機「PlayStation 4」のニュースが世界中を駆けめぐった(関連記事)。Ustreamのライブ中継は50万人から60万人のファンや関係者が視聴しており,欧米向けの公式サイトのアクセスがイベントの後半には困難になってしまったほどで,反響はかなり大きかった。
イベント開催の発表以前は,2013年3月にサンフランシスコで行われるGame Developer Conference 2013で初公開され,そこでXbox次世代機とぶつかるという予測があり,それを期待していたファンも多かったはずだが,結局は単独イベントでの発表という形になった。次世代機の発表についてはMicrosoftに一歩先んじた形だが,これは,PlayStation 3の発売がXbox 360より1年ほど遅れ,結果として北米ゲーム市場において現在までXbox 360に水を開けられているという,Sony Computer Entertainmentの苦い経験によるものだろう。PlayStation 4の発売は,2013年末が予定されている。
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伝説的なゲームデザイナーであるマーク・サーニー(Mark Cerny)氏が,イベントの冒頭に登壇し,PlayStation 4のシステムを説明したことに驚いた人も少なくなかっただろう。
さらに,「Gaikai」のデイビッド・ペリー(David Perry)氏,インディーズゲーム業界で注目される「The Witness」のジョナサン・ブロウ(Jonathan Blow)氏,カプコンの小野義徳氏,そしてQuantic Dreamのデイビッド・ケイジ(David Cage)氏,そしてMedia Moleculeのアレックス・エバンス(Alex Evens)氏など,一般には知られていないかもしれないが,ゲーム開発者やゲーマーにとって著名な,非常に濃いメンツが続いたのだ。
こうした,いわゆるE3的なショーとは一線を画すイベントになったのは,これもまたPlayStation 3の反省に立ってのものだろう。発表当初,SCEはPlayStation 3を「ゲームの枠に留まらない家庭用スーパーコンピューター」としていた。これには,PlayStation 2に比べて上昇したPlayStation 3の価格を正当化するといった事情もあったのかもしれないが,消費者や開発者達をやや鼻白ませたのも事実だ(後に「PlayStation 3はコンシューマ機である」とアピールされるようになった)。
今回,壇上に立った著名ゲーム開発者が「こんなアニメーションや,物理効果が実現できる」「Moveでこのように作業が可能になる」「既存のゲームエンジンを,容易に対応させられる」といったコメントを次々と口にしたのも,過去のイメージを払拭し,ゲーム開発者やゲーマーに,「コンシューマ機としてのPlayStation 4」をアピールしようという狙いがあったのではないだろうか。
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また,PlayStation 4では,PlayStation 3向けに新規開発されたCELLプロセッサに代えて, x86-64系のCPUを搭載しているようだが,携帯端末やタブレットPCなど「ゲームのできるデバイス」が群雄割拠する現在,ゲーム開発を容易にするという点でも妥当な選択といえそうだ。ハードウェア的な面白さは減ったかもしれないが,PlayStation 3では,ゲーム開発者達がCELLプロセッサの習得に時間を要し,ラインナップの拡充が遅れたという過去がある。
今回の発表では,さらに興味深いことがいくつか明らかになっている。次にそれを書き出してみよう。
PlayStation 4の,筆者が注目する部分
(1)クラウドゲームサービス
クラウドゲームサービスのGaikaiを,2012年夏に買収したSCE。手に入れたクラウドゲーム技術は,PlayStation Networkに組み込まれるという。ブロードバンド化が進んでいるとはいえ,気になるゲームのデモ版を時間をかけてダウンロードする必要なく,1クリックで遊べるというのは大きな魅力だ。
「Steam」などではすでに,購入したゲームをある程度ダウンロードした段階で遊べるシステムが用意されているが,PlayStation 4によって提案されることになる,ダウンロードなしでデモからデモへ,テレビのチャンネルを切り替えるように楽めるという感覚は,かつてなかったもの。消費者にどのように受け入れられるのか,興味深い。
また,CPUを大きく変更したことで,下位互換性を維持することが現実的でなくなったPlayStation 4だが,クラウドゲームサービスを使えば,コンパチビリティを気にする必要はなくなる。価格やサービス内容は現段階で分からないものの,クラウドゲーム技術を使った新しいサービスに期待がかかるところだ。パブリッシャにとっては,悩みの種である中古ソフト対策にもなるので,このあたりもサードパーティの囲い込みに貢献できるはずだ。
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(2)最も開かれたプラットフォーム
本体が公開されなかったPlayStation 4だが,個人的に気になるハードウェア的フィーチャーが,コントローラにあった「Share」ボタンだ。Ustreamとの提携によって,このボタンを押すだけで自分のプレイの様子をライブ配信でき,それをほかのプレイヤーとシェアしたり,それに誰かがコメントしたりすることが可能になるという。イベントで公開されたデモムービーでは,174人のビューアーが,「Knack」のデモプレイをライブで視聴するといったシーンが確認できた。
このストリーミングでは,単に自分のプレイを他人に見せるだけでなく,例えばミッションが達成できない場合,誰かに助言をもらうという使い方も考えられる。イベントでは,プレイヤーのゲームに他の人が参加できるようになる,という将来像が語られている。この機能はまた,ゲーム大会などでも活躍しそうだ。
TwitterやFacebook,ソーシャルゲームなど,もはや現代人のライフスタイルに完全に組み込まれた「ソーシャル」だが,PlayStation 4はそんな時代に応じた「最も開かれたコンシューマ機」であるという。ソーシャルの面に関してはまだ未発表部分も多そうだが,変化の激しいソーシャル業界にどれだけ柔軟に対応していけるのかも鍵になりそうだ。
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(3)多くのPCゲームのメーカーが参入を表明
SCEのプレスリリースによると,PlayStation 4の開発に参入を表明しているメーカーは,日本45社,アジア4社,北米47社,そして欧州が30社の,計126社(関連記事)。
特徴的なのは,Bohemia Interactive(ARMA 2),Double Fine Productions(The Cave),CD Projekt(The Witcher),inXile Entertainment(Wasteland 2),そしてTelltale Games(The Walking Dead Episodes)など,PCゲーム市場ではよく知られているが,コンシューマ機のプレイヤーにとって,あまりなじみがないと思われるメーカーの名前が並んでいることだ。
また,このリストにはなぜか掲載されていないのだが,Blizzard Entertainmentの存在も大きい。PCにリソースを集中させながらゲーム業界に大きな影響を及ぼすメーカーとしては,このBlizzardとValveの名前が挙げられそうだが,そんなBlizzardとパートナーシップを結んだPlayStation 4は,これまでPCを中心に展開してきたメーカーに対して強いメッセージを与えていくことになるだろう。
さらに,Mojangのようなインディーズ系のメーカーも少なくない。これまでXbox LIVEでの活躍が目立っていた17-BIT(Skulls of the Shogun)やKlei Entertainment(Mark of the Ninja),さらに任天堂ハードに強いGaijin Games(Bit.Trip)や 5th Cell(Scribblenauts)などもPlayStation 4への参入を表明している。
Double Fineのティム・シェーファー(Tim Schafer)氏は,公開されたムービーの中で「今回は,向こうからアプローチしてきた」と語っており,サードパーティの誘致は,かなりアグレッシブに行われているようだ。
ただし,上記のリストには,大手メーカー傘下の企業名も見えるので,すべてのメーカーがゲームタイトルを提供することになるわけではないだろう。これはあくまで「参加表明」であり,メーカーとしても,ハードウェアの売れ行きで判断する部分があるのかもしれない。ともあれ,PlayStation 3の経験を活かして,決定的なタイトルを生み出してほしいところだ。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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