業界動向
Access Accepted第315回:Gamescom 2011つれづれ
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欧州の経済危機が話題になってはいるが,ドイツのケルンで開催されたGamescom 2011は,過去最大となる27万5000人もの来場者で大賑わい。年末には大作といえるタイトルが数多くリリースされるので,発売前にプレイしたいというドイツのゲーマーが大集合したのだ。最近の欧米ゲーム業界のトレンドと呼べそうなソーシャル/モバイルゲームの台頭などを含め,今年のGamecomを総括してみよう。
入場者数27万5000人という超大型ゲームイベント
2011年8月17日〜21日,例年のようにヨーロッパ最大のゲームイベントGamescom 2011が,ドイツのケルンにおいて開催された。世界遺産であるケルン大聖堂や,オーデコロン発祥の地としても知られるケルンに加わった新たな名物としてGamescomの挙げてもおかしくないほど,大規模なイベントになっている。街には「Willkommen」(ようこそ)と書かれた旗がはためき,ゲームの看板が街中に立ち,広告がバス,タクシーを覆う。筆者は,フランクフルト空港でドイツに入国する際,「Gamescomに参加するのですか?」と職員に質問されており,ケルン以外の都市でもGamecomはよく知られているようだ。
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イベント会場になったケルンメッセを運営するKoelnmesseによれば,今年の入場者数は前年より2万人以上多い27万5000人。参加企業は前年より約10%増えた557社を数えた。また,ヨーロッパで初めて公開されたゲームタイトルは約300本(前年は約200本)だったという。フロア面積は,東京ドームの2.5倍におよぶ約12万平方mだが,これほど広い会場にも関わらず,いったん足を踏み入れてしまうと,人波にもまれてなかなか思った場所にも行けないほどの来場者数で,前年に比べて増えているのは体感でも分かるほどだった。
改めて説明すると,Gamescomは東京ゲームショーと同じくプレイアブル展示を主体とする一般のゲームファン向けのイベントであり,メディア/バイヤー向けのE3とは趣を異にする。会場には試遊台がずらりと並び,どれもだいたい30分程度遊べる。中には制限なくひたすらプレイできるものもあり,10台以上の試遊機が用意されたブースでも3〜4時間待ちは当たり前という世界。そのため,来場者がいくら頑張っても,数作ぶんしか遊べないということも起きる。メーカーにとっては,試遊台の回転率を上げ,より多くのプレイヤーに自分達のゲームを知ってもらうことも大きな課題になっている。
「Gamecom 2011」レポート記事一覧
ドイツゲーム市場はソーシャルやモバイルに急速旋回中
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Gamescomに併催されるゲーム開発者会議「GDC Europe 2011」では,「ウルティマ オンライン」で知られるRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏や,Epic GamesのMichael Capps(マイケル・キャップス)氏が基調講演を行っていたが,Garriott氏は「Portalirium」という開発中のソーシャルゲームについて語り, Capps氏が「Infinity Blade」などの小型プロジェクトについて講演するなど,いずれもソーシャル/モバイルゲームがテーマ。
また,WoogaというメーカーのJens Begemann(ヘンス・ベゲマン)氏が,基調講演のスピーカーとして名を連ねていたのも注目すべき点だろう。
日本だけでなく,アメリカでもほとんど知られていないと思われるWoogaだが,2009年にベルリンで設立されて以来,ソーシャル/モバイルゲーム市場で急成長しており“ドイツで最もホットなIT企業”として業界の視線を集めている。「Diamond Dash」や「Bubble Island」といったカジュアルゲームを中心に,現在は,PopCap GamesやPlaydomよりも多い,3500万人のMAU(月間アクティブユーザー数)を誇るまでになった。
Woogaは,Gamescom 2011で「Best European Game Developer」を受賞しており,わずか2年で“ヨーロッパ最高”のお墨付きを得たことになる。
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実際,Woogaのほか,Bigpoint GamesやGameForgeなど,今回のGamescom 2011でドイツを代表していたのは,ブラウザベースのオンラインゲームやモバイルゲームをメインとするメーカーばかりだった。
ソーシャルゲームやモバイルゲーム市場に新たな可能性を見出しているのは,アメリカのゲーム業界も同じことだが,Gamescom 2011を見る限り,ドイツではその勢いが急激に加速しているようだ。コンシューマ機市場に乗り遅れたドイツのメーカーが,ソーシャル/モバイルゲームに活路を見いだしたということなのかもしれない。今のところ,世界に影響を与えるほどの規模ではないにせよ,PCゲーム市場がいまだに大きく,ゲームに関しては保守的だと思われてきたドイツでこういう現象が見られることが興味深い。来年2012年のGamecomで,ドイツのソーシャル/モバイルゲーム市場がどのように変化しているのか気になるところだ。
さて,最後にGamecom 2011の取材中,ちょっと目にとまった話題を3つほど挙げておこう。
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Gamecom 2011で,ちょっと気になった話題
シリーズ初。ドイツで「Gears of War 3」がリリース
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GDC Europeで基調講演を行ったEpic GamesのCEO,Michael Capps氏も驚いたようで,「聞いたときはびっくりした。Gears of War 3がドイツで発売されるなんて」と語っている。Gears of War 3には,血しぶきなどの表現を緩和するためのオプションがあるが,同じものはシリーズ従来作にも搭載されていて,別に今回が初めてというわけではない。Capps氏は,「Gears of War 3の表現は,前作よりはるかにすごいと思う」と続け,Epic Gamesとしては,今回なぜ審査をパスしたのか分からないようだった。
メキシコも,ゲーム市場に国家支援を開始
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そんな中目についたのが,おそらく初参加ではないかと思われるメキシコのブース「Mexico Games」だ。ブースの看板から,メキシコ国内のメーカーが10社ほど共同参加しているようだが,すべてがソーシャル/モバイル向けゲームであり,カジュアルなゲーマーはともかく,コアゲーマーを惹きつける要素には弱いという印象を受けた。
もちろん,開発資金が乏しくても参入できるのがこういったジャンルのゲームであるので,これは仕方がないことだ。アメリカに近く人材が豊富という条件がカナダをゲーム開発の中心地に押し上げたように,ソーシャルゲームで実力をつけたメキシコが今後,新勢力になる可能性もないわけではない。
個人的には,「粋」という漢字をロゴにあしらったIKI Gamingなど,日本語を利用するメーカーが目立った。メキシコは今,漢字ブームなのだろうか?
なぜ今,ランボー? 「Rambo: The Video Game」登場
Gamescom 2011に限らず,こうしたイベントでの楽しみの一つが,これまでに聞いたことのない新作ゲームに出会えることだ。
Blizzard Entertainmentainmentの「StarCraft II: Hearts of the Swarm」やNCsoftの「WildStar」のようなメジャー級タイトルの初公開も重要だが,Paradox Interactiveの「War of the Roses」,Wargaming.netの「World of Warplanes」,Larian Studiosの「Dragon Commander」などといった,渋めの新作も捨てがたい。しかし,そんな中,筆者がどうにも気になって仕方なかったのが,あのシルヴェスター・スタローン主演のアクション映画をライセンスした「Rambo: The Video Game」である。
古めのIPは比較的安価にライセンスできるらしく,最近では「バック・トゥー・ザ・フューチャー」や「ゴーストバスターズ」といった1970〜80年代の映画が突然ゲームになるケースが増えている。このRambo: The Video Gameもそいった流れの一つだとは思うのだが,ちょっといまさらな感じもないわけではない。
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このゲーム,イギリスのパブリッシャであるReef Entertainmentブースに大きくタイトルが描かれており,さっそく取材したのだが,看板の割には実際にプレス向けのデモが行えるような状況にはなく,また,ゲームに関する情報を教えてくれるような開発者や広報担当者もいないということで取材はあっさりと終了してしまった。結局どんなゲームになるのか分からずじまいであり,そのためさらに興味が増しているところだ。
著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。
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