お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
Access Accepted第313回:「QuakeCon 2011」で見た,LANパーティーというカルチャー
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2011/08/08 18:13

業界動向

Access Accepted第313回:「QuakeCon 2011」で見た,LANパーティーというカルチャー

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第313回:「QuakeCon 2011」で見た,LANパーティーというカルチャー

 日本では今一つ一般的とは呼べない「LANパーティ」。欧米では数名の仲間によるものから超巨大な規模のものまで,さまざまなLANパーティが行われているが,今回,テキサス州ダラスで開催された「QuakeCon 2011」に参加し,参加しているゲーマー達を間近に見ることができた。ブロードバンドの発達によって,年々存在意義が失われつつあると思われてるLANパーティーだが,実際に参加している彼らの様子からは衰退の気配は感じられない。LANパーティーを代表するこのイベントの模様をレポートしよう。


米国最大規模のLANパーティー


自分のPCを持ち寄り,4日間にわたってゲームを楽しむゲーマーの祭典「QuakeCon 2011」は,2011年8月4日から7日まで,id Softwareが本拠を置くテキサス州ダラスのヒルトン アナトールホテルで開催された。賞金つきのゲームトーナメントを中心に,さまざまなイベントが行われた
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第313回:「QuakeCon 2011」で見た,LANパーティーというカルチャー
 2011年8月4日〜7日,テキサス州ダラスで開催されたイベント,「QuakeCon 2011」に,久々に参加した。今回はプレスとしての立場なので,自分のPCを持参したりゲーム大会に参加することはできなかったが,独特の雰囲気を持つQuakeConの会場に身を置くことは,id SoftwareやBethesda Softworksの情報を聞き出すのと同じくらいの貴重な体験だった。

 QuakeConは,「Quake」がリリースされた1996年から続く,長い伝統を持つBYOC(Bring Your Own Computer=参加者が自分のPCを持ってくる)形式のLANパーティーだ。無料で参加できるものとしては北米最大規模であり,プレイヤーに同伴する家族や友人,恋人などを合わせれば,今回の参加者数は約3000人。1000人以上のプレイヤーが昼夜を問わずゲームをやり尽くすという,ゲーマーにとって至福のイベントだった。
 ただ,現在でこそ,id Software,Bethesdaに加え,Intel,NVIDIA,そのほかのメーカーがスポンサーになり,賞金つきのトーナメントが開催されたりする巨大なイベントになってるが,もとは数十人のQuakeファンが集まった小規模なイベントだった。

 全米各地で開催されるさまざまなゲームイベントは,それぞれが独自の雰囲気を持っていると思うが,このQuakeConは,コスプレなど派手な催しがほとんど見られない,生粋のゲーマーの集まりといった印象だ。PCケースの改造をやっているいわゆる“ケースモッダー”(Case Modder)達が,自慢のPCを目立つ場所にこれ見よがしに並べる一方,15インチほどの小さなディスプレイと小さなPCで対戦に熱中しているゲーマーもいる。テーブルにはピザの箱やジュースの缶,そして,会場で無料配布されているドリンクなどのケースが山積みされ,その傍らに自分のクランの旗が立ち,壁には大きなポスターが貼られている。

 プレイされているのはやはり,「QUAKE LIVE」「Enemy Teritorry: Quake Wars」などのQuake系タイトルが中心だが,それ以外に「Team Fortress 2」「Left 4 Dead 2」,そしてBethesda Softworksの「Brink」の人気も高かった。
 Quakeを冠してはいるが,「Defense of the Ancients」「StarCraft II: Wings of Liberty」,それはまだいいとして,中には「Sid Meier's Civilization V」「Minecraft」を楽しんでいる人もおり,PCゲームならFPS/TPSに限らず,何でもありな状態。もっとも,Xbox 360版の「MARVEL VS. CAPCOM 3 Fate of Two Worlds」で対戦しているグループまでいて,PCゲームという枠さえも怪しかったりする。

メイン会場は真っ暗。その中で黙々とゲームをする参加者。すべてのPCにつなぐケーブルの長さは24kmにもおよぶという。テーブルにはピザの空箱や空き缶が山のように積まれているが,これはLANパーティーの風物詩
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第313回:「QuakeCon 2011」で見た,LANパーティーというカルチャー


LANパーティ小史


 日本ではあまりなじのないゲーム系カルチャーであるLANパーティーだが,もともとは1980年代,アメリカの大学生がコンピュータルームに集まって「Rogue」「Hack」などのシングルプレイゲームを楽しむことを指す言葉だったらしい。シングルプレイなのになぜLANパーティーなのかといえば,彼らが使っていたのがPCではなく,大型のUNIXマシンにLANでつながった端末だったからだ。
 やがて,PCが登場して普及が進み,PCゲームも一般化していく中,1993年の「DOOM」がヒット。マルチプレイを楽しむために,プレイヤーが自分のPCを持って一か所に集まるというカルチャーが生まれ,それがLANパーティーという言葉に重なっていく。

 大きなPCとディスプレイを持って歩くのは大変だが,アメリカの郊外の住宅地では車での移動が基本で,また家も広いため,集まる場所には事欠かなかった。ただ,こうした条件に当てはまらない大都市や,日本などでは,あまりLANパーティーは流行していない。

 Quakeのリリースで爆発的に広がったLANパーティだが,その後のブロードバンドの急速な普及により,オンラインを使ったマルチプレイが一般的になってくる。その流れを見たid Softwareは1996年12月,オンラインで簡単にQuakeを楽しめる「QuakeWorld」をリリースした。
 QuakeWorldは,プレイヤーの動きを予測することでネットワークの負担を軽減する“Client-Side Prediction”や,データを効果的に圧縮する“Delta Completion”といった高度な技術を盛り込んだ画期的なソフトであり,「Ultima Online」とともに,オンラインゲーム隆盛へのはずみをつけたゲームとしてよく知られる。

 まだアナログモデムが普通に使われていたような時代でもあったため,当初はLANパーティーに親しんでいるゲーマーの反発も大きかったようだが,サーバーサーチソフトである「QSpy」(のちに「GameSpy」に発展)や,QuakeのMODである「Team Fortress」などが次々に登場したことや,さらに進むインフラ整備などで,自宅にいながらにしてのマルチプレイはすぐに当たり前のことになった。そして,相対的にLANパーティーの存在意義は薄くなり,コアなPCゲーマーが楽しむ特別なイベントになっていった。


ゲーマー参加型イベントの価値


 だが今回,QuakeConに参加して,LANパーティーの意義をもう一度考えてみたくなった。参加者の多くはダラス近郊に住むのゲーマーだが,中にはジョージア州やインディアナ州,さらにはカナダやスウェーデンからやってきた人までいた。その多くがホテルではなく,友人の家に泊まり込み,ゲームに疲れたら寝るために友人の家に帰るといった感じだった。筆者がいる数日間,42℃という熱波に襲われたダラスだけに,さすがに車内で寝るような人はいなかったが,会場のPCの前でうずくまって眠る人も少なくない。長時間ゲームで遊び続けるのは,体力勝負でもあるのだ。

 参加者の多くはリピーターで,筆者が話を聞いた人は「大学卒業後は別の州に住んでいるが,QuakeConのたびにネット上の友人と会うためにダラスに帰ってくる」と話してくれた。Blizzard Entertainmentの「BlizzCon」でも似たような話を聞いたことがあるが,LANパーティーはふだん会うことができないオンラインの対戦相手に実際に会い,友情を確かめ合う機会になっているのだ。

QuakeCon 2011で気になった掲示板。中古グラフィックスカードの売り出しや,デリバリーを行ってくれるレストランのリストなどに加えて,「ジョニー,帰って来てください。お母さんが病気です」というメモが……
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第313回:「QuakeCon 2011」で見た,LANパーティーというカルチャー
 QuakeCon以外に行われている北米のLANパーティーとしては,ケンタッキー州のLanwarやワシントン州シアトルなどで開催されるPenny ArcadeのBYOCイベントが有名だ。また,ヨーロッパでは,スウェーデンで行われるDreamHackが規模の大きさで飛び抜けており,2010年には,1万2754人もの参加者がお互いのパソコンをつなぐというLANパーティー史上の世界新記録を達成している。
 さらに,ブラジルで始まったCampus Partyが,2012年にカリフォルニアに逆輸入されたり,南アメリカのOrganized Chaos,そしてインドのXtreme Gaming BYOCが規模を拡大していたりなど,世界的にもLANパーティに再びスポットライトが当てられている。

 id Softwareのチーフアーキテクトであり,FPSの生みの親として知られるジョン・カーマック(John Carmack)氏は,基調講演の中で「異常な事件が起きると,すぐにゲームのせいにされるけど,そう主張をする人はぜひQuakeConに来てほしい。コアの中のコアゲーマーであるQuakeCon参加者が,どれほどオープンで優しい人間であるかということが理解できるはずだ」と話していた。QuakeConには小学生くらいの子供も参加しており,いたって健全なイベントだ。そしてLANパーティーはゲーマーの祭典として,またゲーマー同士の友情をはぐくむ場所として機能しているのだ。

 Activisionは2011年9月に,「Call of Duty XP 2011」というファンイベントを開催する予定であり,そこでは,PCだけでなくコンシューマ機のゲームトーナメントも行われる。こういったイベントは,同じBYOCでも Bring Your Own “Consoles”と言われており,LANパーティーがプラットフォームを超えて広がっていく可能性もすでに見えている。このように,ゲームメーカーが主催するファンミーティングの場としてのLANパーティーも今後,増えていきそうだ。

著者紹介:奥谷海人
 本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。

来週2011年8月15日の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のため休載いたします。
  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:04月25日〜04月26日