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印刷2011/02/28 12:00

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第296回:ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語

奥谷海人のAccess Accepted

 軽度のものまで含め,ゲームをプレイするのに支障をきたす障害を持つ人の数は,全米の4人に1人という統計がある。だが,たとえハンデキャップを抱えていてもゲームを楽しみたいという気持ちは同じであり,ゲームにおける「アクセシビリティの高さ」(高齢者や障害者でも,そのサービスを利用できるかどうかの度合い)が最近,話題になるようになってきた。今回は,そうした問題に関する,欧米の事例をいくつか紹介しよう。

第296回:ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語

 

音だけでゲームをプレイするという神業
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全盲でありながら,Oddworld: Abe's Exoddusを最初から最後まで失敗することなくクリアできるという天才ゲーマー,テリー・ギャレットさん。効果音を聞いてゲームのタイミングを覚えていったというが,それを達成するのにどれほどの成功と失敗を繰り返したのだろうか。空手や機械いじりに熱中するなど,アクティブな生活を送っている
(画像: Oddworld.com)

 1999年にリリースされたPlayStation向けの横スクロールアクション,「Oddworld: Abe's Exoddus」は,日本でも「エイブ99」というタイトルで発売されている。残念ながら日本では大きなヒットにはならなかったものの,独特の世界観を持った,どこか不気味でグロいアートに惹きつけられた人も少なくないはずだ。

 このOddworld: Abe's Exoddusを,最初から最後までほとんど死ぬことなくプレイできる若者がアメリカにいる。ごくシンプルなタイトル,例えばファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」なら,失敗なく何周できるかを友人と競い合った思い出も筆者にあるのだが,より複雑になった1990年代後半のゲームともなると,ノーミスでクリアするのは言うほど簡単なことではない。しかし,なによりこの若者のスゴいところは,彼が全盲であることだろう。

 これは,Oddworldシリーズの公式サイトに掲載されたインタビューで紹介された話だが,現在,コロラド大学で機械工学を専攻するテリー・ギャレット(Terry Garret)さんは,5歳の頃に左目を,10歳の頃に右目の視力を失った。最初はもちろん辛かったそうだが,家族や友人の助けを得て,今では週3回空手のクラスに通うなど非常にアクティブな生活を送っているという。
 それほどゲームばかりやっている雰囲気ではないのだが,Oddworldシリーズを始めたきっかけは子供の頃,兄がプレイするPC版の「Oddworld: Abe's Oddysee」(邦題: エイブ・ア・ゴーゴー)を聞いていて,キャラクターが話す,「ハロー,ついて来なよ」というセリフに興味を覚えたことだという。

 当初,テリーさんは「横スクロール」というコンセプトさえ理解できず,キャラクターをうまく操作することはできなかった。しかし,兄の説明を受けながら何度も繰り返して挑戦しているうちに,効果音の違いやBGMの聞こえてくるタイミング,そして足音の数などでゲームを進めていく方法を覚えていった。
 水の流れる音や爆発音,土と草原で異なる足音などで自分のキャラクターのいる場所を把握し,まるで音に包まれているような感覚でプレイできるようになったというのだ。

 テリーさんは,ほかにもいくつかのゲームに挑戦したが,セリフが少なくて場面の状況が分かりづらかったり,敵が音もなく近づいてきたり,微妙な操作が必要だったりする作品が多く,あまり楽しめなかったという。
 もちろんゲームは,目と耳,そして体を使って楽しむことを前提に設計されているため,それ自体は仕方ないことかもしれない。しかし,楽しめるのがOddworld: Abe's Exoddusだけだったというのは,なんとなく悔しい気もしてくる。

 

ゲームのアクセシビリティを高めたゲーマー達の団結力
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重い障害を持つGareth150さんが,自分のアゴを使って器用にマウスを操作し,「Fallout: New Vegas」をプレイしている様子が,YouTubeにアップされている。ますます高度化するゲームだが,このへんでアクセシビリティの問題を考えてみる必要はあるのだろう

 もちろん,ゲーム開発現場がハンデキャップを持つ人のことをまったく考えていないわけではない。世界中のゲーム開発者で組織された,International Game Developers Associationsでは,2004年に開催されたGame Developers Conferenceに合わせて研究会を立ち上げ,ゲームのアクセシビリティに関する白書「Games in Accessibility」を同年6月に発表している。
 白書によると,色盲など軽度のものを含め,ゲームのプレイに支障をきたすような障害を持つ人は,アメリカの15歳以上の全人口のうち,実に23%に達するという。
 障害があっても楽しめるゲームを制作するメーカーが,税制面で優遇を受けられるように政府に働きかけようといった提言が行われているものの,やはり実際にゲームを作るにあたってはさまざまな困難もあるようで,7年経った今でも状況はそれほど変わっていないのが現実だ。

 しかし,たとえハンデキャップを持っていても,熱心なゲーマーである人もいる。イギリス在住の,ハンドルネームGareth150という青年は2011年1月末,PCユーザーの集うファンサイトにあるメッセージを送った。
 それは「今日,Dead Space 2を買いました。ゲームをインストールしましたが,どのように設定を調整しても,マウスボタンを使って前に進むことができません。やり方が分かる人,いますか?」というもの。

 PCのアクションゲームでは,マウスとキーボードを併用する操作方法が一般的であるため,「なぜ,わざわざマウスを移動に使いたいんだ?」などと,最初は誰も真剣に取り合ってくれなかった。しかし,Gareth150さんは,自分が重度の障害を持っていることを明かし,手足を動かせない彼が,自分のアゴを器用に使って,「Fallout: New Vegas」や「Need for Speed: Hot Pursuit」などをプレイしている動画をYouTubeにアップしたのだ。
 そんな彼の行動に動かされたコミュニティのメンバーは,すぐさまリクエストサイトに専用ページを作成し,Dead Space 2を開発したVisceral Gamesにキーアサインの変更を可能にするように訴えたのだ。サイトには,1週間ほどで約2万5000人の署名が集まり,同社のプロデューサーもすぐさま下記のようなメッセージを公開した。

 「我々は,障害を持ったプレイヤーがコントロールの問題を抱えていることを承知しております。何人かのメンバーは,このことについて熱意を持って動いており,キーのマウスへのリマップを可能にするよう,次のパッチで必ず修正いたします」

 Dead Space 2は,このメッセージが書き込まれる直前にパッチがリリースされたばかり。そのため,本稿執筆時点ではまだGareth150さんの希望は叶えられていないが,Visceral Gamesはファンコミュニティの要望に真剣に取り組むことでよく知られており,近いうちに必ず対応されるものと見られている。

 かくして,Gareth150さんの送った1つの書き込みは,コミュニティや開発者を巻き込み,感動を覚えるほどの経過をたどっている。彼の書き込みに対する1500ほどのメッセージに目を通すと,最初困惑していたコミュニティのメンバーが,序々に結束していく様子が追っていける。ゲームのアクセシビリティという問題について,当事者とコミュニティ,そしてゲーム開発者が同じ方向を向いた良い事例として,これからも記憶されることだろう。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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