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Access Accepted第290回:クリエイター主導のゲーム開発がさらに加速
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印刷2011/01/17 16:29

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第290回:クリエイター主導のゲーム開発がさらに加速

奥谷海人のAccess Accepted

 北米の調査会社であるNPD Groupのレポートによれば,2010年の北米ゲーム市場はハードウェアセールスの不振により,前年より5%ほど縮小したとのこと。とはいえ,それでも日本の4倍の規模を持つ,世界最大のゲーム市場であることに変わりはない。そんな巨大市場にゲーム開発者の目が向くのは当然のことで,最近,日本の優れたクリエイター達が北米のパブリッシャと契約を結ぶケースなども目立っている。これは,ゲーム開発の主体が従来のパブリッシャから,実際に制作を担当するデベロッパに大きくシフトしていることの表れではないだろうか。

第290回:クリエイター主導のゲーム開発がさらに加速

 

海外パブリッシャと強力なタッグを組んだ,ヴァルハラゲームスタジオ
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以前掲載したインタビュー記事によれば,Devil's Thirdは「苛烈なシューター」になるという。海外のヒット作をを見ると,スポーツものや任天堂タイトルなどを除いて,ほとんどが17歳以上を対象にしたMレーティングだ。日本と違って強く「全年齢対象」を要求されないのは,クリエイターにとってもやりやすいだろう

 「NINJA GAIDEN」や「DEAD OR ALIVE」のプロデューサーとして知られる板垣伴信氏が,古巣のテクモ(現コーエーテクモゲームス)を離れて設立したValhalla Game Studios(以下,ヴァルハラゲームスタジオ)。このヴァルハラゲームスタジオが制作するアクションゲーム「Devil's Third」が,北米のパブリッシャであるTHQから発売されると,2010年6月に開催されたElectronic Entertainment Expo(E3)で発表され,日米のゲーム業界の話題になった。
 日本のメーカーと海外のパブリッシャが組んでゲームをリリースするのは,実はそれほどレアなケースではないのだが,最近の傾向としてビッグネームが増えつつあるような印象を受ける。例えば,須田剛一氏ら複数の著名な日本人クリエイターを擁するスタジオ,グラスホッパー・マニファクチュアも,北米のElectronic Artsをパブリッシャとして「シャドウ オブ ザ ダムド」をリリースする予定だ。

 ヴァルハラゲームスタジオとTHQとのパートナーシップは非常に強力であるようで,THQ傘下のカナダのデベロッパ,Relic Entertainmentと技術提携を行っているとも報道されている。詳細は明らかにされていないが,「Company of Heroes」や「Warhammer 40,000: Space Marine」などで知られるRelic Entertainmentの高い技術力が,ヴァルハラゲームスタジオの開発ノウハウや企画力と組み合わされたとき何が完成するのか,考えるだけで期待が高まってくる。

 日本と異なり,PCゲーム市場が大きな存在感を見せていた欧米ゲーム業界では,とくにPCゲームを中心にテクノロジー重視の傾向が強く,高解像度グラフィックスなどさまざまな技術が試されており,その蓄積が,HD(ハイデフ)時代に突入した,最新のコンシューマ機へのスムーズな移行を可能にしたとされている。
 また,長引く不況や少子化の影響で市場体力の低下が懸念される日本市場に比べると,欧米のゲーム開発現場および市場は現在も十分な活力を持ち,例えば「『Red Dead Redemption』の開発に1億ドル(約85億円)超」とか「『Call of Duty: Black Ops』が1か月で1600万本のセールス」といった景気のいい話も少なくない。

 日本のゲーム開発が岐路に立っているという話はよく耳にするが,その理由が,上記のような技術の積み重ねの少なさや市場規模の小ささに由来するという意見も多く聞かれる。
 そういう意味で,ヴァルハラゲームスタジオの新作をTHQがパブリッシングすること,そしてヴァルハラゲームスタジオとRelic Entertainmentがパートナーシップを結んだことは,非常に次世代的な開発手法だといえそうだ。海外から技術と資金の提供を受け,日本に居ながらにして世界で最も大きな市場を相手にできるこのやり方は,「クールジャパン」を配信する機会として実に有望であるように思える。

 

クリエイターがさらに力を持つ時代へ
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より多くの人々に自分の作品を評価してもらいたいという願いは,クリエイティブな仕事に就く人に共通のものだ。日本と比較してはるかに巨大な北米ゲーム市場での成功を希望する人は,今後もますます増えていくだろう。画像は,EAブランドでリリースされるグラスホッパー・マニファクチュアの「シャドウ オブ ザ ダムド」

 ゲーム産業におけるクリエイターの重要性は,改めて指摘するまでもないだろう。大手パブリッシャが膨大な資金を投じて名のある開発メーカーを買収しても,クリエイターがいなければ,何も生み出せないのだ。
 例えば1995年,Electronic Artsがイギリスの伝説的ゲームデザイナーであるピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏が率いるBullfrog Productionsを買収したが,その後,モリニュー氏をはじめとする基幹社員のほとんどが退職してしまい,結局Electronic Artsはいくつかのタイトルの知的財産権(IP)を得ただけに終わっている。
 最近では,Activision Blizzardの扱いを不満に思ったInfinity Wardsの中核メンバーが独立し,新たなデベロッパであるRespawn Entertainmentを設立した。

 これまでにも本連載でたびたびお伝えしてきたように,パブリッシャとデベロッパが,ゲームの知的財産権(IP)をめぐって裁判沙汰になったり,そこまで行かなくても,激しい論争を巻き起こすケースがしばしば見られた。これまで,ゲームのIPは資金を提供したパブリッシャのものという意識が強かったが,欧米ゲーム業界を中心に,その考えに変化が起きつつあるようだ。

 最近では,ゲームIPを保有したままパブリッシャと契約を結んだり,傘下に入ったりすることを望む開発会社が増えており,例えば,Electronic Arts傘下のBioWareや,Zenimaxに買収されてBethesda Softworksの姉妹会社となったid Softwareのように,パブリッシャ側がその要望に応えることも多い。
 パブリッシャがIPを保有しない場合,マーケティングやフランチャイズ化の際に問題が起きることも考えられるが,それでもこのような事例が増えてきているのは,それだけデベロッパが重要視されていることの裏返しともいえそうだ。

 加えて昨今は,インディーズ系のゲームメーカーであってもパブリッシャの力を借りずに勝負できる環境が整いつつあるため,相対的にパブリッシャの立場はさらに低下しているようだ。
 たった一人で開発した「Minecraft」が,100万本以上のセールスを記録したスウェーデンのMarkus Persson(マーカス・ペルソン)氏の例に見られるように,ゲームの価値に過去の開発実績やデベロッパの規模,開発地域は無関係だ。こうした,ある意味当たり前のことが認識された欧米ゲーム業界が,クリエイター主導の産業へ進みつつあるように思われる。
 そういう意味で,日本から世界に乗り出したヴァルハラゲームスタジオやグラスホッパー・マニファクチュアの今後の活躍に注目したい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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