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奥谷海人のAccess Accepted / 第203回:オバマ大統領の誕生とゲーム業界
中東の情勢不安や金融危機など,大きな問題を抱えながらオバマ新政権がアメリカで発足した。アフリカ系アメリカ人の大統領誕生はアメリカの歴史上初めてのことであり,「世界最大の移民国家」の歴史に新たな1ページが加えられたのだ。今回は,ゲーム内でもお祝いされた大統領就任式前後の様子をお伝えし,大統領の交代がゲーム業界にどのような影響を及ぼすのかを考察する。
第44代アメリカ大統領に就任したバラク・オバマ氏は,ゲームを規制するよりも先に解決しなければならない問題が山積みだ
1月20日,アメリカ合衆国第44代大統領に,バラク・オバマ氏が就任した。各TV局がこぞって就任式をライブ中継しただけでなく,アメリカ市民が前夜から自前の就任祝賀パーティを開いて楽しんでいた様子が海外にも報道されたので,日本でも話題になった。
大統領就任式が,ここまで盛り上がるのはめずらしいことだ。やはりアフリカ系アメリカ人大統領の誕生が,困難を越えて新しく生まれ変わるアメリカの象徴として受け止められているのだろうか。
オバマ大統領が就任した現在,アメリカを取り巻く状況は,かなり厳しいといえる。戦争処理やテロ対策という決して簡単ではない仕事があるだけでなく,アメリカに端を発する金融危機は,改善に向かう気配すらない。社会保障や教育など,過去数十年にわたって先送りされてきた問題も山積みだ。そういった状況をしっかり認識しているからこそ,オバマ大統領は就任式で「夢」を語らず,「国と国民が何をすべきか」を現実的に説いていたのだと思う。
オバマ氏の大統領就任は,ゲーマーコミュニティでも話題になり,「Second Life」では,就任式の前夜,有志によるパーティが開催された。男性はタキシード,女性はドレスをアバターに着せて参加するというもので,かなり盛り上がったようだ。ちなみに,Second Lifeでは,1300人を超えるオバマ親衛隊が組織されているという。
「World of Warcraft」でも同じようなイベントが開催され,PLAYSTATION 3用のアクションゲーム「リトルビッグプラネット」では,オバマ大統領就任を祝ったステージがファンによって公開された。多くのゲームフォーラムで,新大統領に関するスレッドが特別に立てられるなど,多数のゲーマーからも関心を寄せられていたようだ。
ホワイトハウスから去ったばかりのジョージ・ブッシュ前大統領の場合,銃で撃たれるゲームが作られるなど,ゲーマーにあまり歓迎されていなかった。だが,今のところオバマ大統領の就任は,前向きに捉えられているようだ。
Second Lifeでは,オバマ新大統領の就任を祝う前夜祭が実施された。一方で,毎月のようにゲームに対する規制法案が州議会に提出されている。ニューメディアに理解があるといわれるオバマ氏が大統領になっても,こうした流れに劇的な変化は期待できそうもない
さて,オバマ大統領の誕生は,ゲーム業界にどんな影響をもたらすのだろうか。アメリカの業界ウォッチャー達は,早くもそんな話題で盛り上がっている。
アメリカの民主党は,PTAや教員組合とのつながりが伝統的に強く,ゲーム産業に手厳しい態度を取ることが多い。また,新政権で国務長官となったヒラリー・クリントン氏や,カリフォルニア州議員のレランド・イー氏らは,数年前から過激な表現のゲームを規制する法律の制定に積極的だ。
先日,ニューヨーク州のキース・ライト議員,サウスカロライナ州のロバート・フォード議員は,「ゲームから卑語を完全に除外する」という内容の法案を,それぞれの州で提出した。しかもフォード議員の法案には,違反者が刑事罰の対象になることも盛り込まれている。
オバマ大統領は,ゲームを規制するような法律の制定に関わったことはない。また,「最後に遊んだゲームはPong」とコメントしており,ゲームにはそれほど関心がないように思える。しかし,オバマ大統領に投票した人には,ゲームに慣れ親しんでいる若い世代が多い。また,「第193回:ゲームのメインストリーム化時代」で述べたように,オバマ氏の大統領選中の広報活動はゲーム内でも行われていた。
ちなみに,新政権のメディアテクノロジアドバイザーに就任したケビン・ワーバック氏は,「World of Warcraft」で二つのギルドをかけもちするほどのゲーマーらしい。
愛娘のため,Wiiも一緒にホワイトハウス入りしたという話もある。ひょっとしたら,娘さん達と一緒にゲームを楽しんでいるのかもしれない。
なんにせよ,オバマ大統領には,ゲームを規制するよりも先に解決しなければならない問題が多いのは確かだ。大統領自らが率先して,ゲームの規制に動く可能性は低いだろう。
とはいえ,ゲームに批判的な議員は党を問わずに存在し,最近では「Video Game Health Labelling Act of 2009」という法案が提出されている(関連記事)。これは,ゲームのパッケージに「必要以上に暴力的なゲームやそのほかのメディアに接すると,攻撃的な行動に結びつきます」という警告文を,掲載しなければならないというものだ。
ゲームや映画内にある過激な表現が,現実の暴力を引き起こすということは,現時点で科学的に証明されておらず,その段階でこういった表現を強制する法律を制定するのは,いきすぎだという意見もある。
大統領は新しい歴史を刻んだが,ESA(Electronic Software Association)などがロビー活動を行い,反ゲーム活動派を牽制するという図式は,以前のままで残り続けるようだ。
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