インタビュー
[AOGC2007#06]オンラインゲーム国際分業の現在と未来について。ハイファイブ代表取締役社長 澤紫臣氏にインタビュー
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設立から2年目に突入したばかりの新興パブリッシャながら,「ブライトキングダム オンライン」「天道オンライン」という二つのMMORPGを正式サービス中のハイファイブ。さらに,そう遠くない時期に,MMORPG「アリアスストーリー」や「テニスゲーム(仮)」,アフィリエイト広告収入モデルの「完全無料MMORPG」など,さらなるコンテンツを展開する予定だというのだから,その勢いは相当なものである。
そのパブリッシング事業の核となっているのが,ハイファイブの設立当初から澤氏が提唱/推進してきた,日本/中国/韓国による「オンラインゲームの国際分業」である。このテーマについては,同社設立記者発表会や,ブロードバンド推進協議会 オンラインゲーム専門部会の第8回研究会など,さまざまな場面で触れられている。しかし,設立から1年が過ぎたハイファイブにとって,このテーマは単なる理想やヴィジョンでなく,結実しつつある状況として受け止められるものだろう。
澤氏には,AOGCに先駆けて,今だからこそ語れるオンラインゲーム国際分業の現状を語ってもらった。ハイファイブの今後の動向や,国際分業の概要について興味がある人は,ぜひ本稿に目を通してほしい。
■適切な国際分業によって「スピード&ボリューム」を実現
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本日はよろしくお願いします。
澤紫臣氏:
こちらこそ,よろしくお願いします。
4Gamer:
澤さんは,AOGCの2日目である2月23日に,「オンラインゲーム国際分業〜日中韓の現場から〜」という講演をされるわけですが,まずは,その内容を簡単に説明してください。
澤紫臣氏:
日本のオンラインゲームパブリッシャは,韓国や台湾,中国などからタイトルを買い付けて,それをローカライズして運営するのが一般的です。そういう意味では,すでに国際分業というものは普通に行われているわけです。
しかし当社の場合,韓国産のオンラインゲームを日本でパブリッシングするだけでなく,中国・北京の光宇維思科技有限責任公司(COSWIZ)を通じて,開発にも携わっています。
4Gamer:
なるほど,パブリッシャでありながら,デベロッパでもある。先日,「ブライトキングダム オンライン」のデベロッパであるARAGON Networksとの業務提携強化を発表したし,「アリアスストーリー」をはじめとするタイトルを開発中のCOSWIZは,ハイファイブの子会社でもある。オンラインゲームの国際分業を,そこまで密に行っている新興企業というのも,そうそうないですね。
澤紫臣氏:
はい。当社の設立当初からアピールしてきた「日本の企画力」「韓国の技術力」「中国の人材力」の融合が,ようやく軌道に乗ってきました。
AOGCの2日目(2月23日),立命館大学政策科学部 助教授の中村彰憲氏が,「オンラインゲームの国際ビジネス事情:中国オンラインゲーム市場最新事情と,海外で進むゲーム産業のグローバルゲーム開発ネットワーク」という講演をされます。そちらでは,詳細なデータや考察が提示されると思いますが,僕は中村先生の講演とかぶらないように,国際分業の現場からの声を,具体的にお伝えしようと思います。
4Gamer:
中村氏とは,2006年7月のBBAオンラインゲーム専門部会でご一緒されてましたね。当時はまだ,ハイファイブにとっての国際分業もスタートしたばかりという状況だったと思うのですが,会社設立から1年を迎えた今,実際の国際分業はどのようなフェーズに差しかかっているのでしょうか。
澤紫臣氏:
分かりやすい例としてブラキンを取り上げてみましょうか。ご存じのようにブラキンは,韓国のARAGON Networksが開発しているMMORPGです。当社はそれをローカライズし,日本で運営しているわけですね。
しかし2006年末あたりから,先述したCOSWIZを通じて,キャラクターのモデリングデータなどを制作しているんですよ。
4Gamer:
韓国ARAGON社が開発するMMORPGのグラフィックスデータを,中国COSWIZで制作しているんですか。
澤紫臣氏:
はい。ブラキンのようなパブリッシングタイトルにおいても,ハイファイブの主導で国際分業化を進めているんです。ARAGON Networksとの業務提携をより強固なものとしつつ,当社のリソースであるCOSWIZを通じて,3Dグラフィックスのモデリングをサポートしているんです。
4Gamer:
ブラキンに関しては,新規アイテムの追加に関するリリースが非常に多い印象を受けるのですが,それは,COSWIZのモデル制作によるメリットと考えていいのでしょうか?
澤紫臣氏:
はい,その通りです。講演の中では「スピード&ボリューム」と表現する予定なのですが,パブリッシングタイトルにおいても,中国の人材力をフル活用し,ゲーム内コンテンツの拡充に努めていく。これこそ,国際分業におけるメリットの具体例と言えるでしょうね。
4Gamer:
ハイファイブにとっての国際分業は,もはや未来の話ではなく,現実的なシステムとして機能していたわけですか。
澤紫臣氏:
ただ,それに関しては「これは中国でモデリングしているんですよ」なんて,わざわざ説明することでもないですからね。新規アイテムが頻繁に実装されるという結果こそが,プレイヤーにとって最も大切な部分ですから。
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■「アリアスストーリー」における国際分業
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ハイファイブの設立記者発表会で,初めて国際分業の構想を聞いたときから,最初のモデルケースはアリアスストーリーになるんだろうな,と考えていました。実際にはブラキンで口火を切りましたが,アリアスストーリーにおける国際分業は,現在どのように進んでいるのでしょうか。
澤紫臣氏:
23日の講演の中では,アリアスストーリーの開発作業における問題解決の事例,国際分業の事例などを紹介させてもらいます。詳しい内容については,講演のほうに譲りたいのですが,ここでも軽くお伝えしましょうか。
2006年12月22日,「アリアスはじめの一歩」という形で,アリアスストーリーの機能限定テストを行いましたよね。
4Gamer:
ゲームに登場する四種族のキャラクターメイキングと,ホームタウンとなる村の散策,チャット機能のみが体験できるという,3日間限定のテストでしたね。
澤紫臣氏:
その通りです。実は12月12日から,通常のクローズドβテストを開始する予定だったのですが,当時の完成度をチェックして,僕がちゃぶ台をひっくり返してしまったんですよ。こんなのお客さんに出せるか! と(笑)。
4Gamer:
あの機能限定テストの裏には,そんな事情があったんですか(笑)。
澤紫臣氏:
他社さんでも,表に出していないだけで,こういったことがあるとは思うんですけどね。しかしアリアスの場合は,さんざんファンの皆さんを待たせてしまっているし,いい加減しびれをきらしている人が多いと思うんです。
でも,あの状態で公開していたら,従来のMMORPGとなんら変わらない,新鮮味の薄いタイトルというレッテルが貼られていたかもしれません。機能限定テストは,これ以上は譲れないという,妥協案だったわけです。
4Gamer:
苦肉の策,ということですか。しかしその割には,コンスタントな同時接続者数を記録していたような印象を受けたのですが。
澤紫臣氏:
ゲーム内でやれることが少ないのでステイタイムは短かったのですが,それでも常時,200人前後のプレイヤーが接続していたようです。また,体験できる機能が少ないからこそ,プレイヤーに自由に妄想してもらったうえで,そこから湧き出る要望を,多く吸収できました。
4Gamer:
キャラクターモデルについては,発表当初からかなり注目されているタイトルですし,機能限定テストであれば,ポジティブな要望ばかりが得られそうですね。プロモーションとしても効果的でしょうし。
澤紫臣氏:
そうですね。そのとき,COSWIZの開発スタッフに来日してもらい,テストの結果を基にあれこれ話し合ったのですが,さまざまな部分をそぎ落としたアリアスストーリーを通じて得られた要望を生かすために,そぎ落とした部分を元に戻すのではなく,よりよい形に作り変えようというコンセンサスが得られました。
4Gamer:
ハイファイブとCOSWIZの間には,日本人と中国人,パブリッシャとデベロッパという立場の違いがあるわけですが,そこにプレイヤーの生の声が入ることで,スムースな意見の一致が得られたのかもしれませんね。
そういえば,先日ティザーサイトの「運営だより」で,アリアスストーリーのBGM収録風景が紹介されていましたね。
澤紫臣氏:
はい。これも国際分業の一環と言えるかもしれませんが,アリアスのBGMは,国内の著名な作曲家が作曲しています。オーケストラ演奏も非常に豪華です。グラフィックスやゲーム性だけでなく,音楽のクオリティにもぜひ期待していてください。
4Gamer:
日本のゲームミュージックといえば,ドラゴンクエストシリーズやファイナルファンタジーシリーズの例を挙げるまでもなく,世界的に評価が高いですからね。
澤紫臣氏:
ええ。当初,アリアスのBGMも,COSWIZのほうで準備することになっていたんです。ですが,それぞれの強みを生かすのが国際分業の基本だろうということで,ゲームミュージックに関しては,日本の強みを採用した形です。
4Gamer:
構想段階から国際分業が適用されているアリアスストーリーが,どのような作品に仕上がるのか。一ゲームファンとしても,非常に楽しみです。
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■各国の強みと,文化の違いについて
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企画力の日本,人材力の中国,技術力の韓国ということで,各国の強みを生かせることが国際分業のメリットとなるわけですが,一方で文化の違いから,例えば日本の企画意図が伝わりにくいなどといった問題もあると思います。
澤紫臣氏:
ありますねぇ。MMORPGのモンスターとして登場する“ドラゴン”を例にとると,日本や韓国では完全に敵キャラクターとして設定できます。しかし中国では,“龍”は神聖な存在として認識されているので,主人公の味方として登場させるのが基本となります。
4Gamer:
それは,中国でのパブリッシングを考慮した場合には,ということですよね?
澤紫臣氏:
その通りです。それはゲームの中の設定についての文化差の例ですが,それ以上に中国は,輸入ゲームに対する規制が非常に厳しいんです。
4Gamer:
「World of Warcraft」初の拡張パック「World of Warcraft: The Burning Crusade」中国版の発売が延期された件にも,現地の規制が関連していましたね。
澤紫臣氏:
そうですね。幸いにもブラキンの中国語版は,すんなりと審査を通過して,3月からクローズドβテストをスタートさせられると,ARAGONから連絡がありました。
ともあれ,中国の国策として,海外ゲームの輸入には厳しい審査がついてまわります。そしてその傾向は,今後より強くなるでしょう。
4Gamer:
その点,国際分業のデベロッパ役を務めるCOSWIZは中国の企業ですし,アリアスストーリーの中国パブリッシング事業に関して,ハイファイブは有利ということですね。
澤紫臣氏:
はい。広範囲なアジア展開を考えるうえで,国際分業における中国の役割は,非常に高いと言えるでしょう。アリアスに関しては,中国のCOSWIZが制作しているので,扱いとしては輸入ゲームでなく,中国産ということになります。中国でのパブリッシングについても,COSWIZが主導で動けば,比較的スムースに実現するわけです。
4Gamer:
なるほど。国際分業は,プレイヤーの国民性の違いだけでなく,地域ごとの国策の違いに対しても,非常に有益なスタイルであると。先日,中国の大手インターネットカフェ事業者である北京喜安科高科技有限公司との戦略的提携を発表したのも,文化の違いを考慮した,まさに戦略的な動きと言えますね。
澤紫臣氏:
その通りですね。中国展開に関しては,動きの激しい大手パブリッシャよりも,広範囲で安定した利用者数を誇る大手ネットカフェ事業者と協力するのが,ベストだと信じています。
より具体的な,国民性の違いを考慮したゲームデザイン論などについても,いろいろ持論はあるんですが……。あまり詳しく語ってしまうと,当社の手の内をさらけ出しちゃうことになるので,今回はこのくらいにしておきます(笑)。
まぁ,先ほどのドラゴンの話と近い話題ですけれど,「主人公の服の色は赤に決まっている」など,中国ならではの文化というか,一般認識みたいなものは多々ありますからね。そういった基本的な部分からじっくりと煮詰めていくのが,アジアで勝負する際の基本と言えるかもしれません。
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なにやら,アリアスストーリー以外にも,いろいろと隠し球がありそうですねぇ……。
澤紫臣氏:
詳しくは言えないんですが,まぁ,そういうことですね。時期がきたらお話ししますので,もう少し待っていてください。
ところで,以前から私は,国際分業を円滑に進めるために,韓国と中国へ日本人社員/役員を派遣/常駐させていました。
4Gamer:
中村氏のいう「ブリッジスペシャリスト」という存在ですね。
澤紫臣氏:
はい。ただ現在は,事業のフェーズが変わってきたので,日本に呼び戻しています。 ブラキンに関しては,ARAGON Networksの社内に日本人スタッフを常駐させていたのですが,2006年8月からはソウル市内の共同事務所に机を借りて,そこからARAGON社へ通うようにしてもらったんです。
4Gamer:
その理由は?
澤紫臣氏:
単純に,ブラキンのARAGONに常駐していると,天道オンラインのLIZARD社に行きづらいからで(笑)。些細な問題かもしれませんが,ARAGON社からしてみれば,LIZARD社は競合とも言えますからね。現地での人間関係だけでなく,そういったところまで考慮するのが,スマートなやり方だと考えています。
4Gamer:
フェーズが変わったというのは,ブラキンも天道オンラインも,ある程度軌道に乗ってきたし,すでに十分な信頼関係を築けたから,ということになりますか?
澤紫臣氏:
そうですね。ただ,密な関係は今も続いています。先日テレビ会議システムを導入したのですが,映像とはいえ,相手の顔を見て語り合うのは,気持ちがいいですよね。本当だったら,ずっと現地に滞在するのがいいのかな,とも考えていたんですが,ケースバイケースですね。
4Gamer:
なるほど。事業の段階や相手との距離感によって,コミュニケーションの質や種類も変化してくると。基本的なこととはいえ,それを企業が,適切に実行するのは案外難しいような気がします。その成果が如実に現れる日を,大いに期待しています。
では最後に,コンテンツ単位の収益という問題ではなく,企業としての飛躍という意味において,これまでの仕込み/努力が実を結ぶのは,大体いつ頃になると考えていますか?
澤紫臣氏:
うーん,タイミングとしては,アリアスストーリーの正式サービスを日本と中国でスタートする,今年の夏くらいですかねぇ。そして秋頃になったら,当社が最も注力している開発タイトルについても,紹介できるかもしれません。
もちろん,ビジネスとしての成功は大前提としてあるのですが,個人的には,そのコンテンツがどれだけ親しまれるか,ということを常に考えています。既存タイトルも,新規タイトルも,精一杯努力していいものに仕上げていくので,今後ともよろしくお願いします。……そういった理想が夢物語に終わらないためにも,商売として成り立たせていかないとならないんですけどね(笑)。
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当初,AOGCの講演に沿った内容のインタビューを想定していたのだが,サービス精神旺盛かつ話術に長けた澤氏だけに,その話題は多方面へと及んだ。ハイファイブ・エンターテインメントの隠し球の話題や,画期的な会員獲得手段/ビジネスモデルの詳細については,しかるべきタイミングで,改めて話を聞いてみようと思う。
ともあれ,ハイファイブ・エンターテインメントの設立当初から澤氏が最重要視していた「日中韓の国際分業」だが,その思想は確かな手応えを生み出すまでに,育まれているようだ。
そういった努力もあって,パブリッシャ/デベロッパとしてのポテンシャルを着実に高めてきているハイファイブ。設立1年目にはさまざまなコンテンツ/パフォーマンスでオンラインゲーム業界を盛り上げてくれたが,2年目となる2007年も,あの手この手で話題を振りまいてくれそうだ。夏〜秋にかけて訪れるという「これまでの努力が開花する日」はもちろん,その前後の動向からも目が離せそうにない。(大路政志)
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