インタビュー
津田大介&南治一徳&清水亮らが語る,ゲームとプログラミングの今は昔。ゲームやプログラムはもちろん,大震災にまで話が及んだ座談会を掲載
今,プログラミングをする動機ってなんだ?
4Gamer:
お話を聞いていて思ったんですが,今の時代,プログラミングを始める動機って何になるんですかね? 1980年代であれば「ゲームやりたい!」って不純な動機(?)が強かったと思うんですけど。
そう,この頃はゲームソフト買えなかったし,ネットもなかったから,プログラミングしないと手に入らなかったんだよね。
南治氏:
しかも,一度入力したら「100円払わずにゲームができる」んですよ(笑)。
田中氏:
うーん,僕の動機は変わってるかもしれないですけど,最初はブログのプラグインを作りたくてプログラムを始めました。
南治氏:
プラグインっていうのは,どんなことするやつ?
田中氏:
例えば,タグの機能を実装したりとか。
清水氏:
へー。でもその後ってFlashとかにいってるんじゃないの? 弾幕ゲームを作ってたりするじゃない。
田中氏:
弾幕ゲームが好きだったので,作ってみたいなぁとは思っていました。
津田氏:
でも好きっていっても,「雷電」とかは知らないのだろうなぁ……
清水氏:
雷電はやったことある?
田中氏:
ないです。
清水氏:
じゃあどんなの遊ぶの?
田中氏:
東方Project(以下,東方)とかですかね。
清水氏:
あー,東方かぁ。
津田氏:
同人ゲームが最初なんだねぇ。
4Gamer:
東方ってどういう経緯で遊び始めたんですか? あれも広がり方が不思議ですよね。
学校の“日陰の人達”の間で流行ったというか……。
南治氏:
日陰の人達なんだ。
清水氏:
ウチの会社にも,彼と同じ世代ぐらいの子が何人かいるんだけど,なぜかみんな縦スクロールのシューティングゲーム(以下,STG)作ってるんだよね。
南治氏:
なるほど。そういえば,以前に専門学校でゲームの作り方を教える機会があったんですけど,そのとき,先に生徒達にどんなゲームの話が良いかって事前に聞いておいたんですよ。そうしたら「弾幕シューティングがいい」って言うから,そのときも「へー」って思いましたね。
田中氏:
なんか流行ってるんですよね。
清水氏:
流行ってるのか? 俺からみると,流行ってるんじゃなくて,昔からみんな「縦スクロールSTG作りたいんだ」って気がするんだけどね。なんか人間の欲求を満たす普遍的な何かが,縦スクロールSTGには含まれてるんじゃないかって思ったぐらい。
田中氏:
STGって比較的ロジックがシンプルで,ちゃんと作ろうとしたら大変ですけど,とりあえず弾を出したりするだけでも形になりますからね。
清水氏:
パズルゲームみたいにややこしいルール考えなくていいしね。
南治氏:
あっちは“ゲーム(ルール)の発明”が必要ですからね。
津田氏:
テトリスとかぷよぷよ以上のものを作るのは難しいしねぇ。
清水氏:
そうだよね。あと作ってみたいものは?
津田氏:
飛ぶね,話が。
清水氏:
いや俺が何を言いたいかっていうと,つまり「時代は変わっても,パソコンオタクが作りたいものは変わらない」ってことなの。
津田氏:
ゲームなんか,こういうの見てるとそう思うよね。
清水氏:
そうそう,これを見てよ。1983年のI/Oだって,10年後のI/Oとほとんど同じ内容だもん。
南治氏:
やってることはかぶってますよね。
清水氏:
まぁ作ってみたい云々で言うと,あと言語処理系は作ってみたいものの一つだよね。ルーツってやっぱ知りたいじゃん。CPUとか設計したくない? 俺だけかな。エンジニアが行き着くとこは,CPUとOSだと思うんだけどね。
清水氏:
そういえば,田中くんはプログラム最初にやったとき,オブジェクト指向って勉強しなかった?
田中氏:
勉強しました。
清水氏:
あ,したんだ。どういうステップで勉強してきたのか知りたいな。
田中氏:
気が向いたらプログラム書く,みたいな感じです。ずっとひたすら勉強してたわけじゃなくて。最初Perlやったりして,それで一回自分で書いたプラグインで,ブログサイトみたいのを作ろうとしたんですが,結局公開もせずあきらめました。またPerlのオブジェクト指向は当時ちょっと分かりにくくて,自分はなんだか飽きてしまって。半年ぐらいしてから「Rubyカッコいいかも」と思って,前PerlでやってたことをRubyでやったりしたんですが,そのときは一応最後までブログのサイトを作り切りましたね。
清水氏:
え,でもブログそのものは書かないんでしょ?
田中氏:
そうですね……。まぁ,なんか作ってみたかったんですよ。
清水氏:
なるほどなー。今の時代,こうなってるんだな。ゲーム遊べちゃうから,動機が弱いっていうか。
昔はゲームがなかったから,ゲームを作るっていう。自分で作ったゲームだから何でも楽しいみたいなね。
清水氏:
逆に「もったいない」気がするんだけどね。オッサンだからそう感じるだけなのかな。
津田氏:
今は選択肢が多すぎて,選びにくいっていうところはあるんじゃないですか。
清水氏:
僕の会社に入ってきた若者も,本当はゲームを作りにきたわけじゃないからさ。だけど,みんな自分の力で何かやれることをやりたいわけじゃん。でも今は,あまりにもなんでもタダだし,凄いものがゴロゴロしているし。コンパイラやエディタだってタダじゃない。もちろん,それはいいことでもあるけどさ。田中くんとかは知らないと思うけど,昔はエディタって高かったんだよ。
南治氏:
高かったっすね。
清水氏:
5万円とか出してテキストエディタ買ってたんだよ。知らないでしょ。
田中氏:
へぇ。
4Gamer:
「VZ Editor」が価格破壊だったんですよね。
清水氏&南治氏:
9800円!
南治氏:
やす!! みたいな(笑)。
清水氏:
究極のエディタだったね。
南治氏:
しかもVZ Editorは,ソースコードまで付いてくるのが凄いところで。
清水氏:
そうそう。9800円で売ってるエディタにソースが入ってるってのが凄いんだ。
津田氏:
つーか,もうね。「VZ Editorの価格が革命的だっ!」とかいう話をしていて,この座談会は本当に大丈夫なんですか?(苦笑)
4Gamer:
だ,大丈夫かな。
清水氏:
まぁ,そういう時代もあったんですよ。昔はエディタ作ったらヒーローだったんですよ。秀まるおさんとか,まだそれで食えてるくらいだしね。
オタクの行動原理は今も昔も変わらない
清水氏:
で,田中くんはほかにやりたいことってないの?
田中氏:
んー,ジェネレーティブアート(※)とか?
※コンピュータソフトウェアのアルゴリズムで生成/構築される芸術作品のこと
清水氏:
ああ,ロジックを使ったアートだよね。
4Gamer:
メガデモ(※)みたいな奴ですか?
※デモシーン (Demoscene)とも言われ, コンピュータグラフィックスをリアルタイムに表示するプログラム(デモ)を作成する文化を指す
清水氏:
メガデモはちょっと違うかも。っていうか,田中くんはメガデモ知らないでしょ? メガデモも近いんだけど,プログラムによってのみ表現するアートがあるんだよね。それで毎年競ってるんだけど,今もまだやってんだっけ?
南治氏:
やってるとしたら,レギュレーションってどうなってんだろ。
メガデモは,その名前の由来でもある「1MBの制限」があって,1MBの中でプログラムだけでどんだけ難しいことができるかっていう競技。ま,僕はメガデモ否定派だったんだけどね。限定された条件でプログラムを書くのって,誰でも速くできるし。その技術をほかの何に使うのかって考えると,あんまり応用が利かないから。んー,最近で言うと,そうだな。いわゆるベンチマークソフトあるじゃん,クソ重たい3Dポリゴンが出てきて,新しいGPU買ったら試すやつ。知らない?
4Gamer:
「3DMark」とかですね。
田中氏:
知らないです。
清水氏:
う,そうなんだ。でもPCの自作とかはしないの?
田中氏:
しないですね。
清水氏:
ふーむ。確かに自作しないとあれはあんまり使わないもんな。昔は自作したPCがどんだけ速いのか知りたくて,みんな円周率をひたすら計算させたりとかしてたんだよ。バカバカしいでしょ。
4Gamer:
いや,今もたくさんいるんじゃないですか。私の身近にも……。
清水氏:
そういえば,うちの営業もそういう人種だったな。プログラムは一切書けないんだけど,とにかく自作の鬼で。クーラーとか改造して,CPUを強引に冷やしてオーバークロックしてみたり。液体窒素とか使ってさ,それでも一度走らせるだけでCPUが焼き付いちゃうから,計測のチャンスが一度しかないとか。そうやって10万円くらいのCPUを使い捨てていくの。
南治氏:
でも出てくるデータは円周率なんですね。
4Gamer:
最近では「パイ焼き」っていう言葉があって,要するに「Superπ」という円周率計算ソフトでベンチマークをするんですよね。
清水氏:
そうそう。円周率なんて計ってもしゃあないんだけど。とにかく速くコンピュータ動かしたい! っていう暴走族が世の中にはいる。まぁ結論としては,オタクっていうのは今も昔も変わらないというかね。
ゲーム開発のハードルを下げる「enchant.js」の目的
津田氏:
でもまぁ,昔は夢があったよねぇ。
今は,夢がないよなぁ。
津田氏:
一瞬App Storeとかがでてきて,「一人で億万長者!」みたいな夢があったけどね。
清水氏:
結局,誰もなれなかったけどね。
南治氏:
「Angry Birds」ぐらいですかね。あれは会社で作ってるみたいですけど。
津田氏:
一人で億万長者になるみたいなドリーム感はあんまないよね。結構リアリティのある数字が出回っちゃってるから。
4Gamer:
インターネット黎明期も今は昔ですしね。
津田氏:
で,改めて聞くけど,今日の主題はなんなのよ(笑)。
清水氏:
ああ。実は俺,この田中くんにゲーム開発のハードルを下げるための「enchant.js」ってゲーム用のライブラリを作ってって頼んだんだよね。
津田氏:
ほうほう。
清水氏:
JavaScriptだけで動くライブラリなんだけど,これを無料で配って,若い人がゲームを簡単に作れるようにしたいわけよ。
(サンプルゲームを見ながら)おお,なんか動いてる! 可愛い!
南治氏:
結構凄いですね!
清水氏:
でしょでしょ? これがまた,かなりエレガントにコードを書けるんだ。要するに,BASICをなぞっても効率の悪い書き方に戻るだけだから,これはちゃんとオブジェクト指向になってるんですよ。
4Gamer:
普通にブラウザだけで動かしてるんですね。
清水氏:
そうなんです。実はJavaScriptのみにするってことは,大事な意味があってさ。これは極論だけど,Twitter(Twitterクライアント)の中で動くのよ。そしたらさ,ゲームの考え方も変わってくるよね。
津田氏:
ってか,これを作ることで何を目指しているの?
清水氏:
とりあえず「ハードルを下げよう」と思ってる。ゲームを作るのって面白いぞ,ということをより多くの若者に知ってもらいたいと思ってる。こういうものを用意することで,あのカンブリア期みたいな,有象無象がたくさんあった熱い時代がもう1回こないかなーと。
津田氏:
なるほどねぇ。
清水氏:
インターネットって面白いし,ブログでも動画でも,誰でもいろいろできるんだけど,プログラマにはなかなか日の目が当たらないじゃない。世の中には,若い天才みたいな子が本当はいっぱいいると思うんだよね。そういう人達を可視化したいっていうか。ニコニコ動画が変な芸人とかを可視化したように,ああいう感じで,プログラマの卵みたいなのを可視化できたら面白いよなぁと。
南治氏:
うんうん。
清水氏:
そして,そのためのプラットフォームとして,スマートフォンとJavaScriptって凄く良いなって思うんだよね。ちょうど現代版のBASICがJavaScriptというか。
南治氏:
ああ,緩そうな感じが。
清水氏:
あと最近よく思うのが,なんというか,今は「世の中に出る手段」が実はあんまりない気がするんだよね。世の中に出るというか,「世の中で成功するための手段」かな。
津田氏:
でも今はインターネットがあるし,ブログとかで発表して,スターとまではいわないけど,名を売るぐらいはできるじゃん。
清水氏:
でも,それも最近は難しくなってきたと思う。ピックアップする手段が結局は「はてなブックマーク」みたいなものしかないし,それに,はてブってオーソリティ(権威)を指定する仕組みじゃん。だから,若者には不利な世界にも見えるんだよ。Twitterのほうがまだフラットかな。
南治氏:
あと最近は,情報が多いぶん消費が速いですよね。仮にピックアップされても,すぐ忘れられてしまう。
津田氏:
みんながみんな,ネットという大きな存在の中でモジュールの一つになっている感はあるかもね。これだっていう個性的な人が突き抜けられないみたいな。
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