インタビュー
「JOGA」っていうオンラインゲームの団体は,一体何をしているんだろう?――JOGAに直接聞いてみた
ちょうど先頃,JOGA後援の「ハッキング事例及び対策/セキュリティ動向セミナー」が開かれたことだし,そもそも2月にイメージエポックの御影社長がした「アイテム課金に規制が入る」という趣旨のツイートについて聞いてみたかったこともあり,今回はJOGAという業界団体にライトを当ててみようと思った次第だ。
一般読者のみなさんにはもしかしたらあまり興味がない話かもしれないが,オンラインゲームを取り巻く環境の一端を担う業界団体について知っておいても損はないと思う。ぜひご一読いただきたい。
4Gamer:
さて,4月12日にJOGA(日本オンラインゲーム協会)の「オンラインゲーム会社向けハッキング事例及び対策/セキュリティ動向セミナー」が開かれますが,ふと考えてみたら,JOGAという団体のことを思ったよりも知らないことに気付いたので,「直接聞いてみればいいや」とばかりに,お声がけさせていただきました。
はい,よろしくお願いします。確かにあんまり派手な告知とかしないですしね。
4Gamer:
業界団体ですしね。
というわけで,JOGAという業界団体がどういうもので,オンラインゲーム業界の中でどういうことをしているのかについてのお話と,オンラインゲームの諸問題に関するJOGAの見解,という感じでお聞かせいただきたい,と思っています。
植田氏:
2月の御影氏のツイート近辺でも話題になりましたが,お客様と我々の間,お客様同士など,オンラインゲームについてさまざまなトラブルがあるのは,むろん把握しています。とはいえ我々JOGAは――というか我々JOGAこそが――健全な業界発展が望ましいと思っており,各種の問題に対していろいろな取り組みを行っているというのも,せっかくですので紹介できると嬉しいです。
4Gamer:
業界の中にいてさえ,我々のようにパブリッシャー業務を行っていない組織だと,JOGAという団体が具体的に何をやっているのかキチンと把握できていませんし,恥ずかしながらちゃんと調べたこともありません。おそらくは読者のみなさんの多くもそうでしょう。メディアも,ちゃんとJOGAについて記事にしたことはなかった気がします。
というわけでまずは,JOGAはいつごろどういう経緯で作られたのかという部分と,掲げる目的を改めて説明していただけると。
JOGAの元々のスタートは,関東近県のコンテンツ&ITベンチャーの支援からでした。経済産業省の産業クラスター計画というのがあって,そこに,新しいコンテンツ&ITビジネスのベンチャーを支援する目的の勉強会があったんです。ちょうどブロードバンドの時代が到来し,韓国でオンラインゲームの産業が成立して,日本でも近い将来そういう状況になるだろうと予想して,オンラインゲームをテーマにした勉強会をやりましょう,ということになりました。
4Gamer:
話の内容からして,日本でオンラインゲームの会社が増えだしたあたりですね。
川口氏:
そう,2003年くらいです。
まさに今おっしゃられたように,そのころ国内にもオンラインゲーム会社ができ始め,その辺りが中核になった「オンラインゲームフォーラム」というものが,2004年にできあがりました。そこで色々な問題を解決していきましょうとなったのが,JOGAの始まりですね。
とはいえ当初は問題解決というよりも,時代も時代ですし,マーケットをどうやって大きくしていこうか,といった課題を協議したり情報を共有する場でした。
4Gamer:
2003年とか2004年っていうと,まだオンラインゲーム業界は「ほんの走り」でしかなかったですね。RO(ラグナロクオンライン)があったかな,くらいの。
植田氏:
本当にそんなころです。ROとかリネージュくらいですかね。ゲームポットがサービスをスタートしたのが2004年のパンヤからですし。
4Gamer:
当時そのフォーラムは何社くらいで始まったんですか?
川口氏:
せいぜい10社くらいだったと思います。NHNさんとかゲームオンさん,それからガンホーさんやゲームポットさん,ガマニアさん……。
4Gamer:
業界の黎明期から存在する,名だたる会社が一通りですね。
川口氏:
そうですね。そこで,情報共有目的をメインに活動を始めました。
当時一番大きかった活動は,やはり融資や投資関連でしょうか。株式公開を目指そうにも市場規模が分からないから証券会社が動いてくれないという話もあり,それで我々が最初に市場調査を始めました。それも2004年でしたね。
植田氏:
まぁ,なんというか,いま名だたる会社とはいえ当時は弱小ばっかりで,金融機関からお金を借りるにしても投資を受けるにしても……。
4Gamer:
マーケットの指標がないとちょっと厳しいですよねえ。いくら「盛り上がるんです!」と熱っぽく力説したところで。
植田氏:
ええ。なのでまず,そういうものを当時の主力メンバー達で作っていこうと。
4Gamer:
そうやって今振り返ってみると,ずいぶん大きな役割でしたね。
植田氏:
そうですね。とくに,PCのオンラインゲームにフォーカスしたレポートというのは,かつても今もほとんどないんですよね。もちろん,PS2とかXboxとかの「オンライン」の市場規模というのは野村総研さんとかから出ていたんですけど,ことPCに関してはまったくなくて。
川口氏:
で,当時調べてみたところ,578億円ありました。
4Gamer:
2004年当時ですか? すでに意外とありますね。
川口氏:
ええ。そしてそのあたりを機に,各社さんが株式公開されたんです。
4Gamer:
一時期続きましたね。
また,当時インターネットでの「出会い系」などが社会問題化していたこともあり,インターネットのビジネスにおいては先手を打って市場環境を作っていかないと健全な市場にならないという不安もありました。オンラインゲームにおいては事業者が自主的に行動してしっかりした市場を作っていこうと。
オンラインゲーム会社さんとJOGA(編注:当時のオンラインゲームフォーラム)は,そうやって二人三脚のスタンスでずっとやってきました。
産業規模が大きくなってから「団体を作りましょう」といってできたものではなく,産業規模そのものが小さいころからみんなで一緒に活動してきたので,そこが,ほかの団体と違う点かもしれません。
植田氏:
オンラインゲームという商品の性格上,海外との取り引きが非常に多いという部分もありまして,そこもJOGAが積極的にフォローアップしてきた部分です。小さい会社が自分達だけでおいそれとできるものではないですし。
4Gamer:
それは「入」も「出」も両方ですか?
植田氏:
ええ。海外企業とのマッチング全般です。2004年当時から,韓国のゲーム業界団体や台湾のゲーム業界団体と提携するという形で,定期的にビジネスの場を設けて,そこで商談会みたいなものを開いています。
4Gamer:
それは,産業規模がそれなりになった今でもやってますよね。
川口氏:
JOGAは現在,韓国,台湾,シンガポール,フランス,ロシア,エジプトのゲーム関連団体と提携しています。昨年開催した,国産タイトルの海外へのライセンスアウトを目的としたマッチング会は,オランダ,ブラジル,フィンランド,アイルランド,中国など11か国のPCやモバイルのオンラインゲーム,ソーシャルゲーム会社が参加しました。
企業活動に必要な情報をあまねく提示するJOGA
4Gamer:
ただ,当時はむろん,業界も小さくてそれぞれの会社もいまほどは大きくないですし,JOGAの役割は事業活動の隅々までフォローアップできる,存在意義も依存度も大きなものだったと思うんですけど,昨今はおそらくその姿を少し変えてるんじゃないでしょうか。
川口氏:
そうですね,最近は,会員企業さんのニーズを把握しながら活動のテーマを決めているんですけれども,一番最近多いのはデバイスの多様化にともなうニーズですね。
4Gamer:
その場合の「デバイス」は「プラットフォーム」の意ですか?
川口氏:
そうですね,オンラインゲームは,PCやコンソールゲーム機以外にもスマートフォンやタブレットPCでもプレイできるようになってきました。
ネットワークゲームの概念が広がり,会員企業でも携帯電話を含め全デバイスでオンラインゲームをサービスする会社も出てきたりして,こうした会員のビジネスを支援する活動を行っていて,JOGA自体もだんだん活動範囲が広がっているわけです。
4Gamer:
ということは,いまのオンラインゲームパブリッシャさん達は,そういう方向に非常に興味があるということですね。
川口氏:
昨年末には,マイクロソフトさんにWindows Phone7のセミナーをやってもらったり,近々Androidの海外の市場動向に関するセミナーやFaceBook関連のセミナーを行う予定です。こういういろいろな会員向けセミナーを開催していますが,単なる勉強会というよりは,もっとビジネスの実践寄りの情報共有の場としてとらえています。
植田氏:
あとは,これから会計基準が変わるという部分に関しても。トーマツさん――JOGAの会員さんなんです――のセミナーを7回に分けて行ったりとか。とくにバーチャルアイテムの取り扱いというのが,ちょっと変わってきますので。
4Gamer:
ちょっと,ではなくてぼんやりしてると結構厄介なことになると思うんですが。
植田氏:
JOGAの会員企業さんは,前もってほとんどその基準になっているので,そこまで大きな混乱はないと思ってます。あとは昨年,資金決済法に絡んで,金融庁の方をお招きしたりとか。
金融庁担当の方に来ていただき,セミナーとQ&Aを2時間くらいやりましたね。会計基準に関しては,日本よりも先に韓国がIFRSの導入を行っており,JOGAは韓国企業も多いので,そうした企業の情報を提供していただき,日本企業の対応に役立ててもらっています。
またセミナーでは,ガチャに関する法律セミナーも開催しました。
4Gamer:
ヤバいんじゃないか,とか?
川口氏:
というよりは「正しい売り方」のためのセミナーですね。弁護士さんを呼んで。とにかくいろいろなセミナーを開催していますね。先ほども言ったように,海外情報の収集と提供も結構やっています。海外の団体とも提携していますし。
4Gamer:
それは,提携して何をしているんですか。情報交換?
川口氏:
はい。自社タイトルを海外にライセンスアウトするにしても,海外の市場状況がなかなか分かりませんから。現在,韓国,台湾,シンガポール,フランス,ロシア,エジプトのゲーム関連団体と提携しています。
たとえばシンガポールの団体からは,インド系の会社が日本に行くので企業訪問をサポートしてほしいとか,先日はロシアの団体経由でゲームタイトルの売り込みもありました。オランダやアイルランドの大使館と提携して,現地進出のサポートもしています。
植田氏:
幸い,JOGAには韓国企業も台湾企業も中国企業もあるので,グローバルな情報交換とか提携とかがやりやすいのです。あとジェトロさんにご協力いただいて,イベントなんかにも出展したりとか。
川口氏:
ジェトロさんに支援していただいて,昨年上海万博の展示会場を1コマ頂いて,そこで国産タイトルの展示と企業マッチングも行いました。
4Gamer:
それは初耳でした。表立って出てこないけどいろいろやってますねえ。
……ところでJOGAの活動資金ってどこから出てるんですか?
植田氏:
基本的に,JOGA会員企業からの会費だけです。
4Gamer:
会費っておいくらくらいなんですか。
植田氏:
資本金によって変動するんですけれど,平均して30〜40万円/年くらいですかね。
4Gamer:
いろいろなことをやってるにしては,想像より安いですね。
オンラインゲーム産業そのもののレベルアップを目指して
4Gamer:
4Gamerも,それなりに長いことオンラインゲーム業界を見てきましたが,結局のところ昨今のこのビジネスモデルは,まだまだ「あこぎ」という意味で,微妙にレベルが低いものであることは否めないと思うのです。言うならば「取れるところから徹底的に取る」路線といいますか。
植田氏:
なるほど。
4Gamer:
ここでアイテム課金の是非を問うつもりはありませんし,アリかナシかで言うならば個人的には「アリ」だと思います。例えば経験値Upのポーションとか,移動速度が速くなる巻物とか,そういうアイテムにとりわけいえることですが,お金を出した人が,ちゃんと出しただけ「いい目にあえる」のは必然で,むしろそうならないほうが問題ですし。
植田氏:
はい,おっしゃることは分かります。
4Gamer:
ただやっぱり,ガチャを筆頭とする射幸心をあおる形での課金システムというのはやはり難もあって,それなりの数の人の反発を招きかねない手法ですよね。実際,いままでに何度か問題として騒がれたこともありましたし。
オンラインゲームというものが市民権を得てからそれなりに時間が経つわけですが,ガチャや,例えばアカウントハックや,そういった,オンラインゲームそのものとは「直接関係のない」ことによって業界全体にネガティブなイメージがついてしまっていることは否定できないと思うのです。
川口氏:
確かに,ネトゲ廃人とかオンラインゲームのイメージは,あまりよくないですね。
4Gamer:
JOGAという業界団体が,いろんな取り組みをしているのは今のお話で良く分かったんですけど,産業として規模を大きくするだけでなく,そういうネガティブな部分もキチンとつぶしていかないと,業界全体がなんとなく上に上がっていけないと思うんですよ。産業として,ほかの産業に肩を並べられないというか。
まぁ別に並べる必要はないんですけど,業界全体を本当に盛り上げていくなら,やはりどこかで一枚脱皮しなくてはいけないと思うんです。JOGAさんとしては,そのあたりは何かお考えでしょうか。
おっしゃろうとしていることは分かります。
JOGAが成すべきことは,業界全体の健全な発展のためのサポートです。つまりそれは言い方を変えると,会員企業のみなさんに啓蒙していって,その会員企業のみなさんとの協力による自助努力が必要だと思うんです。
4Gamer:
そうですね。一社でどうにかできるものでもないですし。
植田氏:
もちろんそれは,一日にして成りません。ずっと,長く,啓蒙し続けなくてはならないことだと思っています。その一環でJOGAでは,オンラインゲームガイドラインというものを発行していて,定期的にアップデートしております。
これはJOGAのWebサイトから入手できるんですが,例えば決済に関してなどは,やはり課金額の上限の設定というのを設けるようにと各社さんに申し上げてるんですね。上限金額とか,連続の課金とか,そういう何かしらの制限というんでしょうか,ゲームを安心してプレイできるような内容です。とはいえJOGAには強制力はありませんし,やはり会員各位の努力に頼らざるを得ませんが。
4Gamer:
しかしそれはやはり,「安心してプレイできない」というクレームもそれなりにある,ということの裏返しだと言ってもよいんでしょうか。
植田氏:
クレームが多い云々以前に,インターネットにおけるビジネスの基本として,ある程度のルール作りとエンドユーザーさんを含めた啓蒙が必要だと思うんですよね。
確かに,課金に対してのクレームというのは,それはもちろんそれなりにあります。ただ,現状我々がとりわけ問題視しているのは,不正アクセスとアカウントハックです。そこの問い合わせがここ何年かものすごく増えてきたんですね。
そこに対しては,例えばワンタイムパスワード※というものを,JOGA共通基盤として導入しています。これは,準会員企業のサードネットワークさんと共同でやってるのですが。
(※コンピューターのアカウントのようなアクセス制限されたリソースからの未承認アクセスを防ぐための技術。従来の固定パスワードよりも高い効果を得られる。参考:Wikipedia)
4Gamer:
ということは,JOGA会員企業は同じものを使ってるんですね。
川口氏:
2010年は,自社開発システム導入企業を含めてこうしたシステムを導入している企業は9社で,今年も導入企業が増える予定です。
植田氏:
言ってる自分のところ(編注:ゲームポット)がまだこれからなのでお恥ずかしいのですが,やはりちょっと大がかりな開発案件は,やろうと言ってから1年くらいかかったりしちゃうんですよね……。
ともあれそういう取り組みを通じて,少なくとも自分のID――というかキャラクターかな――を守りたいという意志があるプレイヤーさんに対して,安価で提供できるような仕組みを作っていくべきだと思うんです。
4Gamer:
そういう取り組みでほかに大きなものはありますか。
植田氏:
3Dセキュア※ですかね。ええと……今9割くらいかな?
(※クレジットカードによるインターネットでの決済に利用される本人認証サービス。Wikipediaより)
川口氏:
2010年内に会員企業の95%が3Dセキュアを導入しています。
植田氏:
そう。95%くらいのJOGAの会員企業が導入しています。もしかしたら「なるほど」とおっしゃるだけかもしれませんが,実はインターネット上のECサイトなどと比較すると,これはすごい数字なんですよ。
4Gamer:
なるほど。
植田氏:
(笑)。確か,日本のECサイトの3Dセキュア導入率はそんなに多くないですよ。
4Gamer:
そうですか? ……まぁでも確かに,そんなに多くは見かけませんね。
植田氏:
ですよね。元々VISAさんから相談があったんです。不正決済が多いということで。
4Gamer:
……VISAって昔――といっても数年前,というレベルですが――オンラインゲームを決済するのを嫌がってた時期がありましたよね。VISAがオンラインゲーム決済をしなくなる,とまで言われてた時期。
確かにそういう時期もありましたね。
でも今は,3Dセキュアを導入することを徹底させることとか,ワンタイムパスワードの導入によって,かなり問い合わせというか被害の件数というのは減っているらしいです。同時にJOGAでは,不正課金を減らすための様々な対策や情報の共有も行っていますし。
4Gamer:
理屈では分かっていましたが,やっぱり効果は相当あるんですね。
……しかし不正アクセスってそんな多いんですか。確かにここ数年,結構そういう事件を見聞きするな,という印象はありますが。
植田氏:
3年くらい前が結構ピークでしたかね。とくに中国から。
4Gamer:
今は違うところですか?
植田氏:
まぁ今でもやっぱり中国からが多いんですけど……。
4Gamer:
3年ほど前がピーク,ということはいまは数が純粋に減ってるんでしょうか。
植田氏:
不正課金に関しては確実に減少しています。3Dセキュアとかワンタイムパスワードとか,そういう取り組みを始めてからは,とくに少なくなってきています。
サーバーへのハッキングやアカウントの盗用などの問題は,対策をすれば新しい手口が出てきて,いたちごっこですね。何か対策すればすべて解決ではなく,継続して取り組んでいく必要があるので,JOGAの会員の中での情報共有を徹底しているんです。不正アクセスというのは,一つの特定のゲームだけに起こることではないので。
4Gamer:
当然,連鎖しますよね。
植田氏:
ええ。やはり,どこかで大きなトラブルがあったとなると,当然それは横に飛び火していくので,そういった部分をいち早く会員企業内で共有できるような仕組みも,JOGAは持っています。
川口氏:
セキュリティワーキンググループでは,参加各社と機密保持契約を交わして,被害状況や有効な対策など有益な情報をオープンにしているんです。どういうユーザーサポートが有効だったのかなど。
4Gamer:
文字どおり「全部」ですね。
川口氏:
そうです。もちろん,オンラインゲーム会社の被害を少なくするということがJOGAとしては大事なのですが,最終的にはエンドユーザーさんに安心して遊んでもらえる環境を作ることが重要だと考えています。
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