連載 : PCビギナー救済連載「PCゲームのお作法」

PCゲームのお作法

 

(6)CPU編・前

 

 第2回以降,4週間かけて「PCゲームをプレイするとき,いかにGPUが大事か」ということを説明してきた本連載。しかし,ゲームの動作環境にはGPUのほかにもいろいろ書かれており,「GPUだけ理解しても,ゲームが動作するかどうか分からない」という人はいるだろう。そこで今回から何回かは,GPU以外の項目に何が書かれていて,どこに注目すればいいのかを説明していきたい。まずはGPUの次に重要な「CPU」からだ。

 

 

そもそもCPUってなに?

 

「MELTY BLOOD Act Cadenza Ver.B」より。対戦格闘では,2P(や場合によっては1P)側を,“CPUに”任せられる

 (以前に比べると)最近は格闘ゲームが下火ということもあって,それほど頻繁に使われる言葉ではなくなったが,それでも対戦ゲームで一人プレイすることを「CPU戦」と呼ぶことは,多くのゲーマーにとっておなじみの表現ではないだろうか。
 一人プレイである以上,CPU戦で戦う相手は人間ではない。では誰かというと,誤解を恐れずにいうならゲームプログラムという「命令文」である。命令である以上,言われたことを解釈して実行する“誰か”が必要だ。そう,その“誰か”こそがCPUであり,だから一人プレイはCPU戦と呼ばれるのである。

 PC/ゲームメーカーによっては「プロセッサ」とも呼ばれるCPUは,「Central Processing Unit」の略。「中央演算処理装置」という堅苦しい日本語訳が充てられているのだが,実はこれ,けっこう的確な訳語だったりする。というのもCPUは,まさにPCの中央にあって,さまざまな演算(=命令文のとおりに計算すること)を行うハードウェアだからだ。

 

CPUの例。一辺40mm弱という小さなハードウェアだが,PCの頭脳として活躍する。GPUを搭載していない(=グラフィックス機能統合型チップセットを採用している)PCは存在するが,CPUを搭載していないPCは存在しない

 このあたりは,ゲームを例に考えてみるのが一番分かりやすいだろう。
 あるゲームを動作させるとき,CPUはただゲームプログラムを起動させて「はい,おしまい」なのではない。まず,GPUに対して「こんな画面を描画せよ」と命令を出すのはCPUの役目だ。キーボードやマウス,ゲームパッドなどを通じて逐一送られてくる,プレイヤーの入力を正確にゲーム内へ反映させる必要もある。ゲーム内でキャラクターが移動すれば,キャラクターがいまどこにいるのか,誰かとぶつかってはいないか,その結果パラメータに変化はないかをチェックして,ゲームに破綻を起こさないように調整する仕事も発生。シミュレーションゲームなら,何かイベントが起こる度に膨大なデータを読み出したり書き換えたりする作業も必須となる。
 さらに,BGMや効果音を正しい場所で鳴らしたり,あるいはオンラインゲームなら,ゲームサーバーとプレイヤーのPCの間でデータに食い違いがないよう,データを共有したり確認したりし続けないと大変なことになってしまう。全体としてCPUの仕事は,図1のようなイメージだ。

 

図1 「ゲーム中にCPUが行う処理」のうち,代表的なものをピックアップしてみた。右上でデータをやり取りしている相手はゲームサーバである。いうまでもないが,本稿で対象とするPCゲームはWindows上で動作するため,「ゲーム中はWindowsを停止させる」わけにはいかない。この図に示した作業以外に,CPUはWindowsを動作させ続けるという仕事も,並行してこなしているのだ

 

 要するにCPUとは,GPUが担当するグラフィックス周りの処理以外,残るほぼすべてを処理しているハードウェアなのである。そのため,どんなに新しい世代でクラスの高いGPUを搭載したPCでも,CPUが遅いと,グラフィックス関連以外のところが軒並み遅くなってしまい,結果としてゲームは快適に動作しない。逆にいえば,CPUの性能が高ければ高いほど,プレイヤーはストレスなくPCゲームをプレイできるようになるのだ……と書くと,GPU以上に重要なハードウェアのような気がしてくる。

 

「テストドライブ アンリミテッド 日本語版」より。同タイトルだと,CPUの動作条件は「Pentium 4 2.4GHzまたはAthlon 2800+以上」(※イーフロンティアのWebサイトより原文ママ)とされている

 しかし,さまざまな演算をこなす存在であるCPUには,「世代」の概念がGPUほど重要ではないという,大きな特徴がある。
 第4回で説明したとおり,グラフィックスに関して,新しい世代のDirectXで拡張された部分を動作させるには,新しい世代のGPUが必要になるが,もしCPUに同じルールを適用すると,CPUの汎用性を確保できなくなってしまう。「ゲームプログラムが正常に動作しても,ゲームサーバーとはデータをやり取りできない」なんてことが起こっては元も子もないので,CPUには世代ごとの大きな違いが設けられないのである(※小さな違いはたくさんあるけれども,ゲームプレイにおいてそれほど重要ではない)。

 これが,ゲーマーにとってCPUよりもGPUのほうが重要な理由だ。GPUが動作環境を満たしていなければ3Dゲームは起動すらしない場合が多いのに対し,仮にCPUが動作環境を満たしていなくても,3Dゲームが動作しないということはまずない
 もちろん,CPUがグラフィックス表示周り以外のほぼすべてを担当する以上,CPUが動作環境の要求を満たしていない場合,キャラクターの動きがカクカクする,俗にいう「コマち」状態になったり,操作に対するキャラクターの反応が遅かったり,最悪の場合「ゲームが停止したのではないか?」と思えるほど動作が遅くなったりすることは起こり得る。だが,それも,GPUが要求される動作環境を満たせないときに起こる「起動しない」「画面がおかしくてゲームにならない」問題に比べればかわいいもの。だから,CPUスペックについて,GPUほどにはシビアに考えなくてもいいというわけなのだ。

 

 

あなたのCPUはゲームの動作環境をクリアしている?

 

Intelのロゴ

 以上を踏まえて,CPUの具体的な製品について見ていくことになるが,まず,PCゲーマーが押さえておくべきCPUメーカーは「Intel」と「AMD」の2社である。
 ここまでの連載で前者は「グラフィックス機能統合型チップセットのメーカー」,後者は「ATI Radeonのメーカー」として紹介されてきたが,両社とも,本業はCPUメーカーである。とくにIntelはテレビコマーシャルなども盛んで,メーカー製PCのコマーシャルにも独特のBGMとセットでロゴが出てきたりするから,PCビギナーの間でも,比較的よく知られているのではないだろうか。

 

AMDのロゴは第4回で紹介済みなので,ここではAthlon 64 X2の写真を紹介。ちなみにAMDは次世代CPU「Phenom」(フェノム)の存在を明らかにしており,早ければ2007年内にも発売の予定だ

 ちょっと(かなり?)面倒なのは,IntelもAMDも,さまざまな名称のCPUを出してきて,さらに今後もさまざまな製品名のCPUを発売する気満々ということ。
 2007年夏の時点で購入できるゲーマー向けPCをざっと見ただけでも,Intel製CPUだと「Core 2 Duo」(コアツーデュオ)や「Core 2 Quad」(Quad:クアッド),「Pentium Dual-Core」(ペンティアム デュアルコア)。AMD製CPUなら「Athlon 64 X2」(アスロンろくじゅうよんエックスツー)や,「Turion 64 X2」(Turion:テュリオン)といった具合である。

 

 もう一つ,CPUの性能を規定する重要な要素として,「動作クロック」という値もある。「クロック周波数」「動作周波数」とも呼ばれるが,4Gamerでは基本的に動作クロックと呼ぶので,この点はご注意を。

 

「英雄伝説 空の軌跡 the 3rd」より。必須動作環境はPentium III/800MHz以上とされている。「1秒間に8億回動作できるPentium IIIというブランド名のCPUが必要」ということだ

 さて,動作クロックとはなんぞやという話だが,誤解を恐れずに簡略化して説明すると,「CPUが(1秒間で)動作するテンポ」のこと。音楽と同じく,テンポが上がるとスピードが上がるようになっている。その単位は「Hz」(ヘルツ)で,500MHz(M:メガ,100万の意)なら5億回,1GHz(G:ギガ,10億の意)だと10億回,1秒の間に動作できるというわけ。

 「ということは,動作クロックをチェックすればCPUの性能が分かるってこと?」と思うかもしれない。
 だがCPUの場合,大別してブランドごとに「1回の動作でこなせる作業量」が異なる。「動作クロックは低いけれども,1回の動作でこなせる作業量の多いCPU」のほうが,「動作クロックは高いが1回の動作でこなせる作業量の少ないCPU」より性能が上ということが生じ得るのだ,そのため,動作クロックだけで,CPUの性能を比較することはできない。もっとも,1回の動作でこなせる作業量がだいたい同じになる場合,つまり,同じブランド名同士の比較であれば,性能の違いを知るヒントになり得るということでもあるのだが。

 ……要するに,CPUにはだいたい,以下のような“お約束”が存在すると理解しておくといいだろう。

  • GPUと異なり,CPUのブランド名は山ほど存在すること
  • ブランド名の後ろに英字や数字が並んだ場合,それが必ずしも性能を示すわけではないこと
  • CPUには「動作クロック」という重要な概念があるが,必ずしも性能の違いを示すわけではないこと
  • ただし,同じブランド名のCPUであれば,動作クロックから性能の違いをある程度推し量れること
「女神転生IMAGINE」公式Webサイトより。このように,ゲームの動作環境は「CPUのブランド名+動作クロック」で示されることが非常に多い

 いよいよ袋小路に入ってきた感を受けるかもしれないが,しかしちょっと待ってほしい。実際のところ,ゲームの動作環境で要求されているのは,ほとんどの場合「CPUのブランド名+動作クロック」の形。ということは,動作環境に書かれている条件を,手持ち,あるいはこれから購入しようとしているPCのCPUがクリアしているかどうか,クリアしているとして,どれくらい上回っているのかが分かればいいのだ。
 CPUの性能を決定する要因は,本稿で触れていないものもいくつかあるのだが,今回は思い切って無視。動作環境にある,CPUのブランド名動作クロックだけにフォーカスしてみたいと思う。

 というわけで,IntelとAMDそれぞれのブランド名と動作クロックによる性能――もちろんゲームにおける性能で,ほかは一切考慮していない――の違いを,時系列に沿って並べたものを,図2,3として下に示した。図の横軸が時間の流れ,縦軸が性能を示しており,図で上にあればあるほど性能が高い(ラインナップが存在する)ことになる。
 スペースの都合上,記したのは主要なブランド名のみ。先ほど,IntelもAMDもさまざまなブランド名を用いたさまざまな製品名を出してきていると述べたが,主要なブランド名から派生するブランド名については,それぞれ図の下に用意したテキストを参考にしてもらえるとたいへんありがたい。

 

図2
「Core 2」に含まれるCPU:Core 2 Duo,Core 2 Quad,Core 2 Extreme,Pentium Dual-Core(※Pentium Dual-CoreはPentium D/4/Mに含まれない)
「Core」に含まれるCPU:Core Duo,Core Solo
「Pentium D」に含まれるCPU:Pentium D,Pentium Extreme Edition
「Pentium 4」に含まれるCPU:Pentium 4,Mobile Pentium 4-M,Pentium 4 Extreme Edition
「Pentium M」に含まれるCPU:Pentium M
※Pentium III以前には「Pentium II」「Pentium」というCPUがあった

 

図3
「Athlon 64 X2」に含まれるCPU:Athlon 64 X2,Athlon X2
「Athlon 64」に含まれるCPU:Athlon 64
「Turion 64 X2」に含まれるCPU:Turion 64 X2
「Turion 64」に含まれるCPU:Turion 64
「Athlon XP」に含まれるCPU:Athlon XP,Mobile Athlon XP-M,Athlon MP,Mobile Athlon 4

 

「バトルフィールド2142」より。同タイトルのCPUにおける必須動作環境はPentium 4/1.70GHz以上とされている。図2,3と照らし合わせるに,例えばAthlon XPなら1.6GHzあたりでクリアといったところだろうか

 図2,3とも,世代をまたいでの比較を行えるようにしたつもりだ。
 4Gamerでは,CPUの製品名と動作クロックの間に「/」(スラッシュ)記号を入れるため,製品名は「Pentium 4/1.70GHz」といった感じで表記するが,仮にゲームの動作環境が「Pentium 4/1.70GHz以上」の場合,Pentium 4の「スタート」における最大値が1.50GHzなので,それより少し上くらいが動作条件となる。つまり,Pentium DやCore 2,Athlon 64,Athlon 64 X2,Turion 64 X2なら100%クリア。Pentium MやCore,Athlon XP,Turion 64は動作クロック次第ということが見えてくるというわけ。
 あるいは,手持ちのPCが搭載するCPUがMobile Pentium 4-Mの場合,“派生元”となるPentium 4の動作クロックとして考えれば大丈夫ということも,図は示している。

 この図はサブブランドもまとめてざっくり示したものなので,かなりデフォルメされており,ケースによってはいろいろな間違いを含んでしまう可能性がある。しかし,「動作環境にはPentium 4/3GHz以上って書いてあるんだけど,自分のPCのスペックを見る限り,CPUはCore 2 Duoなんだよね」という場合には十分役に立つはずだ。

 ときに,ブランド名と動作クロックはどこでチェックすればいいのかという話だが,察しのいい人はもうWindowsのスタートボタンをクリックしているかもしれない。そう,PCのスペックといえばDxDiagである。
 第2回でDxDiagの実行方法を説明したとき,最初に「システム」タブが表示されることを憶えている人も少なくないと思うが,このタブにある「プロセッサ」の項目が,CPUの製品名を示す。PCメーカーがWebサイトやカタログに用意しているスペック表の場合,たいていは一番上のほうにCPUの欄は設けられているので,そこを見ればOK。
 DxDiagの場合,「プロセッサ」の項目にブランド名と動作クロックが書かれている。Intel製CPUなら「@」の後ろ,AMD製CPUなら「~」の後ろが動作クロックだ。

 

上はIntel製CPU,下はAMD製CPUを搭載するPCでDxDiagを実行したところ。拡大してチェックしてみてほしい。「プロセッサ」の項目に「Intel」や「AMD」という文字が見えるほか,@あるいは~の後ろに動作クロックが表示されていることもチェックできる

 

「ロスト プラネット エクストリーム コンディション」公式Webサイトより。ゲームによっては「Hyper-Threading Technology対応Pentium 4」を要求していることもあるが,Pentium 4は2002年11月以降の製品がほぼすべて対応。ここ3〜4年の間に購入したPCなら,「Hyper-Threading」(ハイパースレッディング,「HT」と書かれることもある)について考慮する必要はない

 GPUと同じくCPUも「必須動作環境」と「推奨動作環境」が用意されていることが多いが,(GPUほど分かりやすくはないものの)CPUもGPUと同じように考えて構わない。つまり,「必須」は,快適かどうかはさておき,とりあえずゲームが動作する最低レベル。「推奨」は,快適に動作するために必要な最低レベルとなる。サーバーとデータのやりとりを行う必要がある分,オンラインゲームのほうがオフラインゲームよりもCPUへの要求が高くなるので,オンラインゲームをメインにプレイするなら,CPUパフォーマンスは推奨動作環境をある程度上回るのがベターだ。

 

 

 とにもかくにも図1,2を参照してもらえば,手持ちのPC,あるいは2007年夏の時点でこれから購入しようとしているPCのCPU性能が,ゲームの動作環境に対してどれくらいの位置にあるのかはざっくりチェックできると思う。ざっくりで構わないことは,本稿の序盤で説明したとおりだ。
 しかし,今回は前編ということで,CPUの動作環境をチェックするうえで重要な二つの要素については,まだ語っていない。

 二つの要素とは,上で少しだけ触れた「ブランド名の後ろに並ぶ英字や数字」と,本稿ではあえて触れなかったローエンドCPUだ。次回はこの2点について説明し,ゲームの動作環境とCPUの照らし合わせ方法をチェックすることで,万全を期したいと思う。ゲームの動作環境におけるCPUの欄に,動作クロックではない英字や数字が書いてあった,あるいはDxDiagでCPUの製品名を調べてみたら「Celeron」「Sempron」と書いてあったという人は,次回を待っていてほしい。(ライター:石井英男)

 

タイトル 連載:PCゲームのお作法
開発元 N/A 発売元 4Gamer
発売日 - 価格 N/A
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/pc_manners/006/pc_manners_006.shtml