― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted

 小規模な開発会社や販売会社の作品は,まったくメディアで紹介されないという悲劇的な状況に陥ることがしばしばある。その理由は決して"宣伝が足りないから"ばかりでなく,E3などのゲームショウで大々的に出展されてもなお,周囲のタイトルの陰に隠れてしまうこともあるくらいで,マイナーソフトがマイナーソフトたる原因は非常に複雑だ。今回は,インターネットの情報の洪水の中で埋没している,そんなマイナーソフト達を紹介してみたい。



 ゲームの内容は面白そうなのだが,なぜだか誰からも注目されていないゲーム。そんなソフトは,PCゲーム市場には山ほどある。筆者のように,世界中の新作を紹介するメディア関係者はもちろんのこと,"ツウ"の領域に達したゲームファン達にも,ふとした機会にそのようなソフトと出会うことがあるだろう。その後,情報が出るたびにひいき目で見てしまうのも,「自分が発掘した」とは言わないまでも,何か親近感のようなものが芽生えているからに違いない。
 最近では,「Liquidator」が好例だ。このFPSは,アメリカでもほとんどのゲーマーに制作を知られることなく,2005年1月になっていきなり体験版(「こちら」)がリリースされた。このゲームを開発するのはParallax Arts Studio社。アメリカ南西部のジョージア州に拠点を置いているゲーム開発チームはほとんどないが,これまでメディアのスポットライトを浴びてこなかったのも,そんな地理的要因が一役買っているはずだ。あまりにも期待していなかったためかもしれないが,遊んでみると妙に面白く感じた。
 Parallax Arts Studios社の公式サイトからたどっていくと,Tool Media Corporation社という同じ町にあるゲーム開発ツールの制作会社が母体になっていることが分かる。このLiquidatorも,そもそもそのツールセットのポテンシャルを知らしめるために制作されたもののようで,ほかにも「Utopia City」という女性が主人公の新作FPSも控えていることが発見できた。

 Webサーフィンで未知のゲームを探すのは,筆者のようなインターネット情報社会の末端で生きる者にとっての,究極の余暇の過ごし方である。妙なゲームやデモムービーをダウンロードしてしまい,「これなら普通に好きなゲームで遊んでいるべきだった」などと後悔することも多々あるが,今回はそんな暇つぶしで探し当てた,ニュースになりにくい……だけど"なんだか気になる"新作4本を紹介してみたい。


Hollow

開発元:Zootfly Games

「Hollow」が無名なのは,まだ販売元によって正式に発表されていないためだろう。2005年のE3後の知名度躍進に期待したいところだ
 「Serious Sam」に代表されるように,今やバルカン地域は,「ヨーロッパの火薬庫」ならぬ「誰も知らないゲームの宝庫」である。「Hollow」は,なんとスロベニアで開発中のFPSで,「Xubl」という独自エンジンを引っさげて2005年中には華々しくデビューしてくれそうな気配だ。すでに,大手販売元との契約にもこぎつけたという。
 Hollowの舞台となるのは,'70年代のロサンゼルス風の巨大都市セントロープで,タイラー・キルモアという新聞記者が主人公。婚約者のために命を投げ出し,「ディスコ至上主義国家」という理想を掲げた支配政権と争うことになるというハチャメチャな内容となっている。
 ゲームは一見して普通のFPSだが,「Tom Clancy's Splinter Cell」のように(自分に当たる)光量のゲージをチェックしながら進行していく場面もあれば,「Halo 2」のように乗物を利用する展開もあるようだ。さらには"サイコマトリックス"と名付けられた機能で敵キャラクターの心理状態を確認しながら戦えるようになっているし,九つのエピソードにはそれぞれクライマックスがあるなど,とにかく盛りだくさん。もちろんマルチプレイヤーモードも搭載される予定だ。


Mourning

開発元:Limitless Horizons Entertainment

MMORPG「Mourning」。公式サイトも「こちら」にあるものの,開発中の仮タイトルのままであるためか,検索でさえ見つけづらいのが難点だ
 ゲームメーカーが「MMORPGを成功させてウハウハ」なんて夢を追っていたのは数年前の話。未だ量産を続けるアジア各国でも,無料のβテストが終われば別のゲームに移ってしまうプレイヤーが多いのは開発会社の悩みの種の一つだし,欧米に至ってはサーバー管理費の捻出段階で頓挫してしまうこともしばしば。成功に導くには相当な技術やノウハウが必要なわけだが,それでも誰にも知られない形で細々と開発されているMMORPGは後を絶たない。
 ルーマニアを拠点とするLimitless Horizons Entertainment社も,新作MMORPG「Mourning」で北米市場に殴り込みをかけようという,勇気ある開発チームの一つ。人間,ドワーフ,エルフ,オークの種族が共存する中世風の世界観という,MMORPGでは王道中の王道をゆく世界設定で,ギルド戦などにも重点を置いたゲームとなる予定だ。ここまで正統派のゲーム内容だと,「なぜ月額料を払ってまで,見慣れたゲームに参加するのか」という命題から逃れ難いが,早くも今月(2005年2月)末にはβテストを始め,早ければ5月には北米でサービスが開始される予定だという。
 なお,その後はヨーロッパでのサービスも予定されており,韓国でもAbyss Interactive社と提携を済ませているなど,世界的ゲームに大バケする可能性も十分にある。あとは,どうやってゲーマー達に存在を知ってもらえるかだ。


Desperados 2:Cooper's Revenge

開発元:Spellbound Software

ヨーロッパには,評判が良くなくても続編を作り続けることでヒット作になった"Hitmanシリーズ"のような例もある。「継続はチカラなり」が,「Desperados 2:Cooper's Revenge」が目指すべき格言といえる
 PCのゲーム開発者には,市場での成績は悪くても続編を作ろうという熱血漢も多い。それは単に,「今度こそはうまくやろう」というだけではあるまい。そこに見えてくるのは,自分の作品に対する"愛"である。
 前作「Desperados:Wanted Dead or Alive」は,Infogrames(現Atari)からリリースされた,"Commandos風"のアクションストラテジーゲームである。数人のチームを操作して,ミッションをパズルのように解いていくというこのジャンルは,あいにくCommandos以降はまったくといっていいほど成功例がない。
 前作が2001年7月にリリースされたときの評価はまずまずだったが,やはりセールスに結びついたとは言い難く,ほとんど評判になることもなく忘れられていった感が強い。
 新作でも,6人のキャラクターを操って,派手なアクションやスニーキングによってゲームを進めていくという点に変わりはない。しかし,今回は完全3Dになった美しいグラフィックスで荒野の赤い大地が表現されていて,少なくともビジュアルのインパクトには素晴らしい進化が認められる。なお,すでに基本的なゲーム開発は終了しているらしいが,現在でも販売元との正式な提携には至っていない。


Star Wolves

開発元:X-bow Software社

「Star Wolves」はゲーム的にもなんの特徴もなく,メディアの情報網をスルリとかいくぐってしまった模様。不遇と言うべきか,自業自得と言うべきか……
 人気のないジャンルなのかありがちなタイトル名のせいか,はたまた魅力のないグラフィックスのためかは知らないが,どうしても報道されにくいゲームというのが存在する。「Star Wolves」は,そんな作品の代表例。E3でも2003年,2004年と2回公開されていたはずだが,4Gamerはもとより欧米の各ゲームサイトでもほとんど取り上げられることもなく,本国ロシアでは2004年末にリリースされてしまっている。
 Star Wolvesは,戦略性に富んだシミュレーションゲームにRPGのシステムを加味したようなゲームで,銀河を支配する三つの巨大企業の狭間で生活する男が主人公という,どこか「Freelancer」に似た設定となっている。ストーリーラインはほとんど存在せず,好みのミッションやサブクエストを選択するという方式でゲームが進行し,稼いだお金で船や武器をアップグレードしていく。
 販売を手がけるのは,ロシアではかなりの知名度を誇る1C Company社だが,2004年だけで70本以上もリリースした同社では,まともに広告が打たれない作品も少なくないらしく,本作に限っては公式サイトでも紹介されていない"不遇の一本"である。



次回は,ゲームとアメコミについてレポートしよう。アメコミファンじゃない人も,お楽しみに。


■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近風邪をこじらせたとのことで,頭痛のために週末は1日15時間以上寝て過ごしていたという。さらに咳とクシャミのコンボ技が効いてか(?)腰にまで影響が出ているらしく,さらにその腰をかばうために支えた手をねんざするという,なんだかわけの分からない状態になっている模様。奥谷氏は「読者のみなさんも季節の変わり目にはぜひ気をつけてほしい」と言うが,気をつけていなくても,風邪が原因で手をねんざしたりはしないと思う。


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