― 連載 ―

賑やかな女の子キャラが活躍するファンタジーストラテジー「エンジェリック・ヴェール新伝 エフェメール島綺譚」。戦術選択の幅広さも大きな長所だ
 今回取り上げるのは,クロムシックスが2005年3月10日に発売したファンタジーストラテジー「エンジェリック・ヴェール新伝 エフェメール島綺譚」。"エンジェリック・ヴェールシリーズ"の第3弾に当たる本作は,フルボイスの女の子キャラがしゃべりまくるアニメチックな演出を採用しながらも,PCゲームたるにふさわしい適度な難度と,選択肢の広い戦術要素を備えた,テンポのよいストラテジーゲームだ。
 戦闘ステージの合間では,ローポリゴン3Dキャラクターによる演技と,表情付きの顔グラフィックス,キャラクターボイスの組み合わせからなる会話劇が展開され,ストーリーが説明される。いや,ストーリー上別に必須でないベタベタなギャグが演じられたりするのも,見逃せない魅力というべきではあるのだが。

 すでに当サイトの「こちら」には,レビュー記事も掲載済みであり,ゲーム全体の雰囲気や大まかなゲーム性は掴んでもらえていることと思う。そこで本連載では,いつものようにキャラクター/ストーリー要素に関してやや突っ込んだコメント(制作側の振ったボケに対するツッコミ?)を展開しつつ,前作,前々作から受け継がれた要素と,今作で盛り込まれた新機軸について,整理していきたい。


エリーゼ女王一行の前に現れるや,いきなり正体がバレてるっぽい「闇夜の騎士」。コメディタッチでテンポのいい会話も本作の特徴である
 今作の舞台となるエフェメール島は,主人公らが仕えるベルーナ王家の保養地。シリーズ第1作で描かれた戦乱により窮迫した財政を立て直すため,この島を売却することになり,エリーゼ女王らおなじみの登場人物達は休暇を兼ねて視察に向かう。だがこの島は,案に相違して正体不明の人工生物達が巣食う物騒な土地になっており,おまけに到着早々エリーゼ女王その人が誘拐されてしまう。女王を救出し,この島に隠された秘密を解き明かすのが,今回の冒険内容というわけだ。
 エフェメール島で出会うのは,一本気で生真面目な海軍士官アロンドラ,決して手荒い真似はしないはずという,なにやらワケありっぽい盗賊のエスパーダ,記憶を失った状態で保護される,半機半人の少女ソレイユといった女性達。萌え記号のみ抽出すれば「一途なクールビューティ」「ショートカットのボーイッシュ」「ロボット+保護対象」といったところか。いや,ロボットがそうなの? と疑問に思う向きもあろうが,少なくとも1997年以降は確定形で語ってよい命題だろう。

 ちなみに"エフェメール"とは,フランス語で「儚い」という意味。その語を冠した島で語られるのは,ちょっぴり悲しい小さな物語だ。大河ドラマ的な第1作「エンジェリック・ヴェール」とは異なり,第2作「エンジェリック・ヴェール・プログレス 〜ウェスペールの迷宮〜」に近い1エピソード作品だが,途中の攻略順が選べる複数シナリオ構成になったのが目新しいところである。
 これがプレイに与える影響は後述するとして,とにかく最後までプレイしてみると,物語全体のモチーフとシナリオの中身がある程度関係付けられているのが分かるはず。構成要素が少ないせいか,先の展開がある程度読めてしまうのは残念なところだが,クリア後にシナリオタイトルの意味をもう一度考えてみるのも一興だ。
 「ウェスペールの迷宮」ほど明確でははないにせよ,フルボイスでアニメライク,軽妙な会話の魅力はもちろん健在であり,難しいことを考えなくても十分に楽しめる。

アロンドラ

エフェメール島の警備と治安維持を担当する,ヴァッサーラント公国海軍の女性士官。職務上エリーゼ女王一行に同行するが,いたってまじめで一途な性格設定ゆえ,何事にもユルい女王一行に対するツッコミ役も務めているようだ。本来は凛とした麗人のはずなのだろう。クラスはコマンダーで水属性。(CV:小林沙苗)

エスパーダ

エフェメール島に隠されたベルーナ王国の秘宝を狙う冒険者。裏表のない性格でボーイッシュ,思っていることを素直に口にするタイプである。腕っ節には自信ありの"レンジャー"で土属性,動物耳に見える髪形は,近年の流行を取り入れたチャームポイントだと思うが,このヒトの場合は犬なのだろうか?(CV:松岡由貴)

ソレイユ

記憶を失った状態で保護される"半機半人"の少女。"出来損ない"のロボットで耳がアンテナ,性格が正反対で優秀なシリーズ機種あり,クラス名が"ウォーメイデン"という設定の組み合わせは,さすがにヤバくないか? ちなみに"ソレイユ"とはフランス語で太陽,対になるキャラ名"エトワール"は星である。(CV:田村ゆかり)

スピカ

第2作「エンジェリック・ヴェール・プログレス 〜ウェスペールの迷宮〜」でしっかりレギュラー入りを果たしたネコミミのルーキー。ドジっ子のルシアンの妹さんとして,性格設定は正反対で寡黙かつキツめ,姉のナチュラルなボケを突き放すのが得意技のしっかりさんである。クラスは"コトゥーカ"で火属性。(CV:川澄綾子)

闇夜の騎士

プレイヤーが操作できる主要キャラクターとして唯一の男性となり,顔まで隠されてしまったのはキャラゲーの宿命なのか。公式サイトには堂々と「主人公たちを影(原文ママ)から支えて活躍します」と書かれてしまったが,それでは主人公とは誰なのか? 正体はバレバレなのに謎は深まるばかりである。(CV:萩原秀樹)


シナリオによって登場人物が異なるのが,本作の大きな特徴。例えば物語の序盤で,コトゥーカの母娘3人は女王一行と別行動に入る
 本作の戦闘部分に関しては,先ほどのレビュー記事も参照してほしいが,スクエア(正方形で区切られた)マップでチャージ制イニシアティブ(行動順)ルール付きのターン制ストラテジーである。キャラクターのAGL(agility。敏捷性)が高いほどチャージの溜まりが早く,先に,そして回数多く行動できる。
 剣や斧,銃による物理攻撃でも魔法攻撃でも,重要になるのが火・水・風・土・光・闇という属性で,組み合わせによって攻撃が完全に無効化されたり,2倍のダメージが入ったりする。また,攻撃には「恐怖」「眠り」「魅了」「毒」という付帯効果を伴う場合があり,例えば打撃に優れた戦士系キャラが魅了されてしまうなど,こちらのほうが厄介な局面もある。
 こうしたステータス異常には魔法やポーションで対処できるほか,未然に防ぐアイテムやスキルも用意されている。武器や防具,アイテムのバリエーションはいたって豊富で,敵の特殊な攻撃にも,対抗し得る装備やスキルが必ず用意されている。このあたりは歴代作品含め,実に素直な作りである。

 本作独自の部分といえば,"一斉攻撃"と"特殊技"のルール変更が挙げられよう。従来作における一斉攻撃は,指揮官(主要キャラ)ユニットとその配下1名がタイミングを合わせて攻撃するというもので,配下の攻撃力が上がる,敵の反撃が(高い防御力を持つ)指揮官のみに適用されるといったメリットがあったわけだが,今作では同じ敵を囲むすべてのユニットが参加する形になった。敵の真っ只中に踊り込ませた戦士系ユニット,射程の長い射撃ユニットなどは攻撃のたびに支援に加われるため,二重三重に働く。
 いっぽう,必殺の攻撃だったり広域魔法だったりとキャラごとに異なる特殊技は,従来MP(マジックポイント)を消費して発動させていたわけだが,今作では専用の"スピリットゲージ"で管理される形になった。このゲージは敵を倒していくことでチャージされ,いっぱいになったところで使用可能になる。分かるような分からないような設定だが,まあ要するにウルトラマンがいきなりスペシウム光線だけ撃って帰っちゃいけないということだ。
 これらの要素を含んだ本作の戦闘は屋内/屋外とりまぜたもので,ステージとキャラクターの属性によって,大きなボーナスやペナルティが付くところは「ウェスペールの迷宮」から引き継がれたコンセプトである。

 前述のように,シナリオに合わせて登場キャラクターが入れ替わるのが本作の大きな特徴なのだが,注意しておきたいのは,そのとき行動を共にしていないキャラクター同士も,所持金やアイテムインベントリが共通で管理されている点だ。先にプレイしたシナリオで得たアイテムや資金は,そのシナリオと登場キャラクターがまったく重ならない後のシナリオにも,そのまま持ち越される。幸い,セーブデータのスロットはふんだんに用意されているので,1ステージ終わるごとにきちんとセーブしながらプレイを進めたい。

 プレイの核心を述べるなら,地形を利して寡兵よく衆を破ることが求められる第1作とも,ダンジョンのパズル的な仕掛けを楽しむ第2作とも異なり,前述のシナリオ構造および,敵のトリッキーかつクリティカルな攻撃への対処を楽しむのが主眼となっている。戦闘はやや平坦な展開が目立ち,キャラのステータス成長を決める秘石や,多様な武器などを工夫する必要性はあまり感じられない。第1作で鮮烈だったギリギリの緊張感や,少しでも戦力を押し上げようと詰めていく楽しさは,いささか薄まっている気がした。
 とはいえ,細かな工夫が活きるルールでありながらテンポよく進む戦闘,思いがけないところで痛打を受けたときの考えどころ,大技を繰り出すときのカタルシス(開放感)などは健在であり,ファンタジーストラテジーとして実によくまとまっている。むしろ本作をプレイしてから第1作に"進む"のが,ベストな楽しみ方であるかもしれない。

キャラクターのステータス画面。ここから武器,防具,アクセサリの変更が行えるほか,スキルや魔法の習得や秘石の交換も可能だ 武器/防具やスクロール,書物など各種アイテムを購入できるSHOP。もっとも,今作ではむしろドロップアイテムに面白いものが多い ゲームの進行は例によって,地図上でマーカー(キャラクター)を移動させる形になっており,サブクエストもいくつか用意されている

いずれも本作の戦闘シーン。パーティクルエフェクトで魔法や打撃の効果を表現する,派手な演出が特徴だ。第1作以来,キャラの攻撃力はインフレ傾向を続けているわけだが,今作では敵のカタさもなかなかのものなので,釣り合っているかも

■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
本誌編集者。「ミリタリー担当」「世界史担当」「キャラゲー担当」「アニメ担当」「エンジェリック担当」「ツンデレ担当」「潜水艦担当」「ヘルメット担当」「メガネの位置直し担当」「書類未提出担当」「無断喫煙担当」「ボイラー室担当」など,虚実取り混ぜて多くの肩書きを持つ。ちなみに担当分野は,事あるごとに増え続けている。
タイトル エンジェリック・ヴェール新伝 エフェメール島綺譚
開発元 クロムシックス 発売元 エレクトロニック・アーツ
発売日 2005/03/10 価格 通常版 7140円,限定版 9240円(ともに税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium II/500MHz以上[Pentium III/1GHz以上],メインメモリ:384MB以上,グラフィックスチップ:GeForce 2 MX以上もしくはRADEON 7000以上,グラフィックスメモリ:32MB以上,HDD空き容量:1GB以上

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