― 特集 ―

2004年の3大FPSを振り返る

 

 2004年も残り少なくなったが,本記事の趣旨は「2004年のFPSを振り返る」。
 数年越しの超大作,ダークホースの秀作などさまざまな"当たり"のFPSが発売されたこの2004年だが,その中から3本を抽出し,最後に一回キチンと振り返って考察してみようという企画だ。3本というだけあって,誰もが大作と認めるであろう「FarCry」「DOOM3」「Half-Life2」の3作を選んでいるわけだが,これがそれぞれどんなゲームだったのか,簡単に振り返ってみたいと思う。
 いずれも,ほどほどのネタバレを含んでいるので,そのあたりは予めご了承頂きたい。いつもの筆者の記事とは違ってハードウェア系バリバリの内容ではないので,そのへんはご安心(?)を。

 

■FarCry

 

実はFarCryの開発期間も結構長い

 

 ドイツのゲームスタジオCRYTEKが開発したFPS「FarCry」は,2003年のE3にて大々的にプロモーションされた後,2004年のE3前には発売されてしまったことから,DOOM3やHalf-Life2などと比較して,意外にスピーディに登場してきたイメージがある。しかし,実際の開発はGeForce3登場当初の2001年くらいから行われており,実際2001年のE3ではテクノロジーデモとして最初のバージョンが公開されている。
 当初は「恐竜惑星での大冒険」的な荒唐無稽なSFアクションシューティングという設定だったのだが,翌2002年にはミリタリー色を強くした内容に方針転換し,UbiSoftでの販売が決定する。より正統なミリタリー物としてUbiSoftが持つ強力なブランドである「Tom Clancy's」の冠が付くという噂もあったが結局はそうならず。まぁ,だからこそ,後半の改造人間型バイオ兵器みたいな展開が出来たワケなんだろうが。

 

GeForce3登場時に公開されたFarCryの前身となる「XISLE」の映像。これはこれで完成形を見たかった気もする

 

 

FarCryのここが良かった

 

 FarCryは,2004年に展開されたNVIDIAとの強力なパートナーシップの影響で,そのグラフィックスばかりが取り沙汰されぎみだが,ゲームとしても,よくできていると思う。細かく分析すれば色々なところが見えてくるのだろうが,私が個人的に素晴らしかったと感じたのはとくに2点。
 一つめは……ちょっと一言では言い表しにくい。思いつくイメージを書きつづると,「南海の孤島で繰り広げられる1対大勢のスケール感とプレイヤーの孤独感」「そしてそこから醸し出されるサバイバル感と自然発生的に強いられるスニーキング性」。……なんだかやはり分かりづらかった。申し訳ない。イメージが伝わればいいのだが。
 プレイヤーは元特殊部隊の凄腕コマンドーだったというありがちな設定ではあるものの,自分の意志ではなく,ひょんなことから単身,武装テロリスト達が守りを固める南海の孤島に降り立つことになる。しかもそこで,大した武器も持たずに大勢の敵を相手に戦い始めなければならなくなる。

 

FarCryの主人公ジャック・カーヴァー。歴戦を戦い抜いた元傭兵という設定の割には,若い。島でスニーキングをするにはやや不釣り合いな,赤い派手なアロハシャツが彼のトレードマーク

 

 ゲーム開始直後の短い洞窟を通り抜けて屋外に出てびっくりさせられるのは,目の前に広がるその島の情景の広大さ。最初の立ち位置がその島の比較的高い位置なのも非常に効果的だとおもうが,眼下に広がるのはうっそうとした原生植物,そしてその先に広がる海岸線,さらにそのはるか遠くには,水平線が目に飛び込んでくる。さらに目を凝らせば,遠くに見えるのがテロリスト達のキャンプで,小さいながらも物騒な武装で身を固めながら徘徊しているのがちゃんと見える。
 小さな島とはいえ,人間と比べれば大きいわけで,この圧倒的なスケール感のコントラストが,ゲームとはいえプレイヤーに圧倒的な「取り残され感」を与え,ググっとゲーム世界にぐっと引き込んでくれる。

 

景色が描き割りでなく,はるか奥までリアルタイム描画されているという事実に驚愕。このスケール感こそFarCryの醍醐味 はるか遠くの景色も,双眼鏡の望遠を使うとちゃんと見える 夕闇の中をハングライダーで滑空。こうした大規模な移動を行ってもロードがほとんど発生しない設計にも感動

 

 これはFarCryのゲームエンジンであるCRYエンジンご自慢の,近場から遠くまでフォグで描くのをごまかさないエピックスケール表示なLOD(Level of Detail)付き地形表示エシステムだからこそなせる技。とはいえ単なる技術デモではなく,ゲームの臨場感を高めるためにしっかり貢献していることに「うむぅ」と唸らされる。
 さすがの元スーパーソルジャーの主人公も,一度に大勢の敵を相手に出来ない。不幸中の幸いで,この島には原生植物がうっそうと茂っているので,身を潜める場所には事欠かない。大勢の敵を相手にするには身を潜めながら敵に忍び寄り,なるべく一度に多くを相手にしないゲリラ戦法しかない。「スニーキングアクション」にジャンル分けこそされなかった本作だが,実際にプレイすると,スニーキングの重要性を思い知ることになる。
 このゲームはアクションです,このゲームはスニーキングです,と言わんばかりの,あらかじめ遊び方が限定された感じがなく,「やれることはいっぱいあるが,今やれることはどう考えてもこれしかない」というプレイヤーの行動が自然にそういう方向に向けられるデザインが見事だった。またこれが臨場感に結びつき,さらにはリアリティとして感じることが出来たのだと思う。

 

隠れる場所はいっぱいある。自発的にゲリラ戦法を仕掛けるようにし向けられるFarCryのゲームデザイン 同じ場所で敵を殺しているとどんどん死体が溜まっていくのが凄かった。まさに地獄絵図。死体同士がめり込まず正しく積み重なる物理エンジンの優秀さも,特筆に値する

 

 二つめは,敵AIの賢さ……というか,有機的に動いてこちらを攻撃してくる部隊AIの賢さ。
 FarCryでは,敵傭兵が部隊として登場してくるが,ほぼ間違いなく指揮官と部下の関係が設定されており,こちらが発砲すると,こちらの位置のおおよそを掴み,陽動作戦や囲い込みを行ってくる。
 FarCryは決してホラーではないが,目に見えている敵ばかりを相手にしていると,突然の後ろからの攻撃に仰天させられることになる。これは敵がワープしてきたのではなく,敵も植物や岩などを利用してスニーキングしつつ,こちらにいつの間にか近づいて来ていたのだ。
 何度か攻撃したら場所を変える…これがFarCryのセオリーであり,こうした行動を取らされることにもわくわくさせられたものだった。

 

双眼鏡で敵の位置を確認して動体センサーでマーキング。こうしておくと,レーダーマップに敵の動きが表示される。逆にこうしておかないと,敵は思わぬところから攻撃を仕掛けてくるのだ

 

気になった点

 

 と褒めてばかりきたが,気になった点もなかったわけではない。
 動きこそ賢くて張り合いがあったが,敵兵がどれもGIジョー人形みたいで,どうにも無表情なのが頂けなかった。

 

 

 そして,後半から登場するバイオ兵器的なモンスター。デザインがちゃちで,なんというか「HALOやHalf-Life2にあった,三つ巴戦をやりたいために無理矢理登場させた第三勢力」という感じで,とってつけた感じが強い。

 

ゲーム後半は,突如としてバイオハザード系の展開になる。このモンスターはFarCryの世界観にとけ込めていない感じで,ゲーム開発後半で突然盛り込んだ要素だったのでは?と思われる

 

 ストーリーを進める上での敵キャラクターは数人いたが,プレイヤーが戦う相手は基本的にはどれも雑多な雑兵で,ドラマチックなバトルがない。一応,FarCryもストーリーベースのゲームなので,一人や二人は好敵手的な存在が欲しかった気がする。まぁ「そういうのがいないのがリアリティだ」という意見もあるのだろうが。

 

ゲーム後半で行動を共にすることになるヒロインのヴァレリー・コンスタンチン。最近,映画でも流行の男勝りな設定

 

 あと,エンディングが……。まぁ,洋ゲーにありがちな「はい,終わりっす。お疲れ〜」的なものにはもう慣れっこですけど。

 

 

■DOOM3

 

※DOOM3の画面は,そのまま撮影するとあまりにも暗いので,ガンマ補正をかけて明るくしてあります。ご了承ください。

 

DOOM3は日本で公開されたのが先?

 

 「DOOM3」の衝撃的な一般公開は2002年のE3だったわけだが,実はその一年前,日本で開催された2001年2月のMacワールドエキスポでも公開されていた(「こちら」)。どうでもよいトリビアだが。まぁ,とにかくDOOM3の開発も長く,それこそGeForce2時代,プログラマブルシェーダ時代以前から始まっており,5年近い長いプロジェクトとなった。
 NVIDIAのGeForce FXの時代あたりからNVIDIAとの強力なパートナーシップをアピールし始め,GeForce FX5900シリーズより登載された「UltraShadow」機能は,ほとんどDOOM3専用機能とまでいわれた。DOOM3に採用された技術のうち,ホットトピックとなったのはステンシルシャドウボリューム技法と呼ばれる影生成技法で,UltraShadowはこの影生成をアクセラレーションするもの。詳しくは「こちら」を参照してほしい。
 おそらく歴史的に見ても,DOOM3はステンシルシャドウボリューム技法を実装したゲームタイトルの代表格として今後も記憶に残るタイトルとなるだろうが,開発元id Softwareのカリスマ技術責任者ジョン・カーマックは,早速この技法の限界に見切りを付け,次世代エンジンではシャドウマッピング技法の実装を公言している。

 

GeForce6600シリーズは,「DOOM3 GPU」の異名をひっさげて2004年夏に登場。GeForce6シリーズでは,ステンシルシャドウボリューム技法による影生成アクセラレーションは二世代目のUltraShadowIIを搭載

 

 

DOOM3は究極の「遊園地のお化け屋敷ゲー」

 

 DOOM3は,知らない人にとっては,映画「エイリアン」を彷彿とさせるSFホラーというイメージを持つかもしれない。たしかにシリアスなホラー的な雰囲気は全編を通して貫かれているが,ストーリーライン的にはむしろオカルト寄りで,SF的というよりは,実はかなり荒唐無稽なドタバタ劇だ。
 というより振り返ってみれば,DOOM3にとっては,それほどストーリーラインは重要ではなかったように思える。陰謀と策謀を描いたそれなりにまじめなストーリーラインもあるにはあるものの,それは後付け感バリバリ。物語を主人公の視点で楽しむというよりは,「悪者をバカンバカンやっつけて突き進むことの楽しさ」に重きを置いた,直観的なエンターテインメント作品……というのが,DOOM3というゲームの本質なように思える。

 

ぐちょぐちょ表現に,蝋燭の火と怪しげな魔法陣。もう,SFホラーというよりはオカルト 出てくるものは全部敵。そもそもルックスからして,見るからに"悪そう"なヤツラばかりなので良心の呵責はない

 

 ゲームは,簡単なスイッチ押し下げパズル程度のものはあるものの,基本的には一本道。敵にやられることなくゴールを目指す,かなりアーケード的なコンセプトになっている。イメージ的にはアーケードのガンシューティングに近いか。

 

リモコン操作のマニピュレータで,薬物の入ったドラム缶を廃棄孔まで運ぶパズル

 

 ステージクリアと言う概念はなく,究極的なラストシーンまでシームレスに続くスタイルではあるが,大局的に見れば細かいステージ構成はたしかに存在し,先に進めば進むほど,手強い敵が嫌らしい攻撃を仕掛けてくるようになる。ステージの切れ目(とおぼしき場所)にはちゃんと(?)ボス戦もある。

 

ボス戦もあるあたりが,何となくアーケードっぽい。ボスとして登場した敵も,以降は要所要所で雑魚キャラとして使い回されたりもしてるけど

 

 敵の出現は基本的にプレイヤーの位置情報がトリガーになっており,「プレイヤーがその場所に来たとき,どこそこからモンスターが出現する」といったイベントが,シーンのさまざまなところに設置されているといった感じだ。
 「ある決められた場所に行くとバーンと出る」は,まさに遊園地のお化け屋敷のシステムであり,この「お化け屋敷」という表現がDOOM3の本質をもっともよく捉えていると思う。
 ゲーム中,見通しの悪い迷路の中をこわごわとゆっくり進んでいると,突然大きな効果音と共にコワモテのモンスターが出現。驚き叫びつつ,モンスターにもみくちゃにされながらもなんとか撃ち倒すというのが,DOOM3のオーソドックスな楽しみ方になるんじゃないだろうか。

 

グロテスクなデザインに気持ち悪い動き。同じモンスターでも,FarCryのものよりもDOOM3のモンスターのほうがリアルな気持ち悪さが伝わってくる

 

 突き詰めていってしまえば,DOOM3は基本的に覚えゲー。なので,何度も繰り返してプレイして,「グラディウス」みたいなシューティングゲームのようにパターンを暗記し,二度目以降のプレイで被ダメージを最低限にしてタイムアタックを競う……なんていう楽しみ方もあるかもしれない。
 いずれにせよ,どうにも小難しい映画的なストーリーを無理矢理体験させようとするFPSが増えている中で,「撃ってやっつけるカタルシス」に特化したデザインは今や潔い感じすらある。「プレイできるときに一気にプレイして終わらせないと物語を忘れてしまう」といった心配もないので,プレイしたいときにプレイして,終わりたいときにはそこでセーブして終わるといったプレイスタイルが許されてしまうのだ。その意味では,週末の空いた時間にだけゲームを楽しむような,カジュアルゲームプレイヤーにこそプレイしてほしい作品だと思う。

 

 ところでゲーム中,デザイン的に「うまい」と思わせられたのは1点。銃器と懐中電灯が同時使用できないという制約だ。
 照明が限定的にしかともされていない宇宙基地が舞台となるDOOM3では,至るところが暗闇に閉ざされており,奥を見通すためには手持ちの懐中電灯に頼るしかない。しかし,懐中電灯を構えているときには武器の使用ができないのだ。だから,モンスターがババーンと現れたらとっさに武器に持ち替える操作をしなければならない。すると照明が消えるので再び真っ暗になる。大体モンスターがいたあたりに銃をぶっ放すとその銃口からの閃光であたりが一瞬だけ明るくなる。動きの早い敵だとすぐにまた暗闇に消える。そして再び懐中電灯に持ち替える……この一連の操作のまどろっこしさが,かなりプレイヤーを不安にさせ,恐怖感の増長に一役買っている。よく見えないから怖い。これも実は,お化け屋敷に共通する部分だ。

 

音がしたと思ってその方向の暗闇にむかって懐中電灯向けると,こんな感じの情景が広がっている。そりゃびっくりしますって

 

気になった点

 

 気になった点を挙げるとすれば,ステンシルシャドウボリューム技法の弊害なのかもしれないが,登場するキャラクタのポリゴン数が少なくて,アップになるとかなり表面のカクカク感が露呈してしまうところ。
 あと,2002年のE3では積極的にアピールされていた物理エンジンが,ゲームの本質に何の影響も及ぼしていなかった点もちょっと肩すかしを食った感じだ。

 

登場キャラクタは,大写しになるとその頂点数の少なさが露呈する

 

 また,ゲーム途中から登場するソウルキューブとよばれる必殺攻撃システムは,結構な独自システムのように言われていた割には,ボス戦においてちょっと有効なくらいで,あまり効果的な仕組みになっていなかった。遊園地のお化け屋敷じゃ物足りないかなぁと色気を出して追加した要素が,結局は蛇足に終わったという雰囲気。
 エンディングは,ゴールに到達した余韻をある程度は噛み締められるものになっており,FarCryやHalf-Life2と比べればずっとマシ。ちゃんと続編というかアナザーストーリーに通ずる伏線までが残されているし。「4」はあるのか!?

 

グラフィックスは,グロテスクなアニメーションと明暗のはっきりしたハイコントラストなライティング効果が実に独特。まさにDOOM3ビジュアルと呼ぶにふさわしかった 火を吐きながら飛び回る生首。なんとなく妖怪図鑑に出てきそうな雰囲気。ここまで丁寧な作りのお化け屋敷ゲームは近年希に見るものであり,将来的にも,ここしばらくはDOOM3だけの独自性として語り継がれると思う

 

 

■Half-Life2

 

発売前のHalf-Life2ブームを振り返る

 

 「その年の9月末には発売」という触れ込みで,2003年のE3で衝撃のデビュー。その翼月からのアメリカのPC雑誌は「Half-Life2を快適にプレイするために」みたいな特集記事が氾濫したりして凄い盛り上がりを見せる。
 しかし結局2003年9月には発売されず,その後ATIが2003年10月にアルカトラズを貸し切りにして盛大に行ったRADEON9800XT発表会では,Valve代表のGabe Newell氏が「Half-Life2は,ATI RADEON 9800XTでGeForce FX5900 Ultraの2.5倍のパフォーマンスになる」と爆弾発言。さらにRADEON9600/9800シリーズにはHalf-Life2購入クーポンを同梱させるという強力タイアップを展開。業界を震撼させた。
 その後は,Valveが何者かにハッキングを受けて"疑惑"の開発リソース流出事件が勃発。その影響か2003年内の発売を断念。結局,1年後の2004年11月に発売となった。
 2004年にはATI,NVIDIA共に新世代GPUを投入し,2003年に熱く語られたパフォーマンス差はほとんどなくなってしまった。いやな言い方をすればユーザーはValveのセールストークに踊らされ,ATIのアルカトラズでの発表会は「夢のごとく」であったわけだ。
 まぁでも,なんだかんだいって2003年はValveのおかげで業界が熱くなったし,活性化したようにも思えるので,今では良き思い出という感じか。

 

RADEON 9800XT発表時にValve側のプレゼンで示された「Half-Life2はRADEON 9800XTでウハウハ」という意味のスライド。結果的にウハウハできるまでこの時点から1年間待たされることになったんだが

 

 

Half-Life2はFPSならぬFPC

 

 Half-Life2も,FarCryやDOOM3と同じくゲームデザイン的にはオーソドックスなFPSスタイルを採用するが,ゲームの面白さを表現する上での切り口が全然違う。
 FarCryは,広大な地形の中でプレイヤーに徹底的な自由度を与え,その中で自分ならではのプレイスタイルを構築する楽しさがあった。DOOM3は,アーケードライクで単純明快な3Dシューティングゲームとしての爽快感の体現を目指していた。これらに対しHalf-Life2は,インタラクティヴなアクションシネマ(映画)を目指している。

 

シティ17に入植することになるプレイヤー。町の中のあらゆる場所に設置された大画面テレビからシティ17がいかに素晴らしいところであるかのプロパガンダが流れており,この世界の異常性をプレイヤーは感覚的に感じ取ることになる。映画的な導入部だ

 

 Half-Life2は,世界観こそ重厚で,ゲーム世界の奥行きを非常に感じさせられるが,基本的にゲームの展開は一本道。極端な表現が許されるなら,プレイヤーの進むべき道は迷路状にさえもなっていない。まさに映画のように始まりがあって終わりがあるだけのシーケンシャルな構造を取っている。それでもその過程には,物語として起伏となるさまざまな事件/障害が挿入されており,そのたびにプレイヤーはしばし立ち止まることになり,ゲームプレイとしての問題解決能力を求められる。

 

欲望を押し殺して,ひっそりと質素な生活を営んでいるシティ17。自由はないが貧富の差もない。窓の外を見れば,攻撃的な抜き打ち手入れを行っている治安維持部隊の姿が。世界観の説明には,結構な時間が割かれる

 

 そしてその起伏の部分に極上のアイデアが詰め込まれており,その盛り上げ方が実に映画的なエンターテインメントになっているのだ。いわばHalf-Life2は,FPS(First Person Shooting:一人称シューティング)というよりは,FPC(First Person Cinema:一人称シネマ)といえるかもしれない。
 例えば,大勢の敵が橋の上で簡易的な要塞を形成し,プレイヤーに対して容赦ない攻撃を仕掛けているというシーン。プレイヤーはこの敵を打ち破って先に進まなければならない。ふと橋を支えている支柱の方に目をやれば,可燃性の化学物質を詰め込んだドラム缶が! プレイヤーは,当然このドラム缶に銃弾を撃ち込む。ドカーンと橋ごと敵が吹っ飛ぶ。

 

見るからに「そうしてください」と言わんばかりの情景。ベタといえばその通りだが,そこがまた映画的といえなくもない

 

 プレイヤーに立ちはだかる事件や障害の一つ一つはかなり「やらせ」に近い単純明快なものなのだが,こうした障害が実にリズムカルに要所要所に設置されており,なおかつそれによって得られる結果が実に爽快でド派手であるため,それぞれをこなしていくことが,「楽しい」と感じられるのである。
 このイベントの演出技法も,Half-Life2は独特だ。ゲーム世界の設定は「エイリアンに侵食された未来の地球」というダークでシリアスなものなのだが,その演出の味付けにはどことなくユーモアが隠されている。
 頭部を侵食された人間のゾンビを,重力反動ガンでノコギリを射出してまっぷたつにするシーンや,これまで散々こちらを苦しめてきた敵歩兵に対して虫型エイリアンをけしかけて惨殺するシーンなどは,表現としては残虐なのだが,「笑い」のエッセンスの後ろ盾を感じる。このブラックな笑いも,Half-Life2の独特な楽しさの一つだ。

 

今まで敵だったエイリアンを,味方にできるようになる。彼らを使って敵兵を八つ裂きだ ゾンビを火あぶり。残虐な表現なのだが,なんだかブラックな笑いがこぼれてくる

 

 BGMの挿入演出法も秀逸。BGMなしの効果音オンリー,環境音楽的で前面に出てこない控えめなBGM,ポップでダンサブルな派手なBGMなどを,シーンに連動して流してくるのだが,これもHalf-Life2の独特な雰囲気作りに多大に貢献をしている。とくに,ポップでダンサブルなBGMは,ゲーム中のド派手な戦闘シーンに実にマッチしており,プレイを盛り上げてくれる(雰囲気的には,ウィル・スミスあたりが主演してそうなSF映画の感じ)。

 

 このほかHalf-Life2の特徴として特記すべきなのは,FarCryやDOOM3では隠し味的にしか使われていなかった,物理エンジンの効果的な活用。
 プレイヤーのジャンプ力では到底届かない場所への到達が必要な場合,周囲にある箱やドラム缶などを積み上げて足場を形成し,これを登って行くのがHalf-Life2式の解法だ。ほかにも,物の重さを応用する天秤トリック,周囲に落ちている「浮く物」を集めてその浮力を応用しなければならないトリックなど,"物理パズル"はゲームの流れの緩急を付ける意味合いで適度に配置されている。

 

空気の入ったタルを仕掛けにセット。すると,ジャンプ台が水面から持ち上がって浮上。あとはここをジャンプして飛び越えろ

 

 そして,Half-Life2の独特なスピード感にとって重要な要素となっている"乗り物"。これも,そうした物理エンジンの究極の応用形だ。
 Half-Life2に登場する乗り物は,小型船舶と四輪自動車の2タイプ。一人称視点のゲームの場合,乗り物に乗ったところで画面に描かれる景色にそう大差はない。しかし本作では,この車両物理エンジンと船舶物理エンジンによって算出される,その乗り物特有の荷重移動感覚や接地感/浮遊感が,時間積分的なリアリティをもたらす。ジャンプしたり,敵を轢き殺したり,敵の攻撃をかわしたりといった映画ライクなアクションを一人称視点でリアルに自ら行えるようにするための原動力として,物理エンジンがアグレッシブな活躍を見せているのだ。
 乗り物が登場するFPSは,今や珍しくない。しかしこれまでの多くのFPSでは,乗り物は移動手段や強力な武装としての役割のみだった。Half-Life2では,この乗り物を,劇中のスタント・エンターテインメントを一人称で体感させるための小道具として活用しているのだ。これまでのゲームならばオフラインレンダリングのCGムービーで片づけてしまいそうな部分を,あくまでシームレスに一人称視点で体感させることに全力を注いでいるのである。

 

Half-Life2で乗り物に乗ることは,すなわち,スタントを一人称視点で体感することに相当する

 

 もう一つHalf-Life2の特徴として挙げられるのが,登場キャラクタによるリアルタイムな演技システムだ。これも映画のようなドラマ展開を一人称視点で進行させることにこだわった好例だろう。なお,その技術的背景については本サイト内「ここ」で解説しているので,詳しくはそちらをどうぞ。

 

リアルタイム演技のリアルタイムグラフィックスで綴られるイベントシーン。キャラクター達の迫真の演技は,Half-Life2の魅力であり最大の特徴ともいえる

 

昆虫型エイリアンのボス登場。ゲームがあまりにもハリウッドのアクション映画的にスピーディに進むので,体感的には前作と比較して体感プレイ時間は短く感じてしまうかもしれない

 

 

気になった点

 

 ゲームプレイで得られた楽しさという点においては,まったく文句はない。しかし,インタラクティヴシネマとして見ると,不満点は少なくない。
 なんといっても,前作からのファンでHalf-Life2のストーリー展開に期待していたなら,結末を見て「なんだかなぁ」と思った人が大半だろう。あれだけ「2では,1での謎が解明される」といっていたのに,前作から引き続き登場するGメンについての正体は謎のままだし,ストーリーを盛り上げるために登場した各重要キャラクターの行方がまったく分からずじまいというのはあんまりだ。そしてなんといってもあのラストシーンは,「開発をここで打ち切って発売させられました」感がバリバリだ。まぁValveのことなので,かつてHalf-Life1でやったように,バーニー編とアリックス編を,あとで拡張シナリオで出したりするための布石ということなのかもしれないが。
 あと,さんざん言われてきたことだが,最先端と言われてきたグラフィックスは,実はそうでもなかったというオチ。いわゆる現行PC 3Dゲームの標準的なクオリティであり,とくに目立った新技術もなく,影生成に至っては時代遅れ感がある。初の「本物のハイダイナミックレンジレンダリングベースのゲーム」という触れ込みも,蓋を開けてみれば全然違っていた。逆にこのおかげで,それほどハイスペックなPCでなくても快適に動作することにもなったわけだが。

 

Half-Life2という世界観のキーパーソンとなっているGメンの正体は,今作でも明かされずじまい

 

 

まとめ

 

 これら3タイトルを最後までランクノーマル以上の難易度/チート無しでプレイした筆者一個人の正直な意見でいうと,ゲームプレイしたときの直観的な面白さは
 FarCry > Half-Life2 > DOOM3
という具合だろうか。時間の合間にちょくちょくプレイしたくなるのは,
 DOOM3 > Half-Life2 > FarCry
という感じ。
 逆に,一気に通しでプレイしたくなってしまうジェットコースター的な魅力を持っているのは,
 Half-Life2 > DOOM3 > FarCry

 

 ストーリーラインの面白さに関しては,今回の3タイトルは残念ながらどれもイマイチ。名作「HALO」のまとめ方の完成度には,遠く及ばない。
 3作とも,お正月の休み期間中に集中してプレイすれば終わらせられる程度の長さなので,ここで取りあげたタイトルのうち「ちょっと面白そう」と思ったものがあれば,ぜひプレイして頂きたい。なんのかんのと書いてきたが,2004年を代表するFPSであることには変わりないのだから。(トライゼット 西川善司)

 

 

「FarCry」
 →日本語公式サイトは「こちら」

 →紹介ページは「こちら」

 

「DOOM3」
 →日本語公式サイトは「こちら」

 →紹介ページは「こちら」

 

「Half-Life 2」
 →日本語公式サイトは「こちら」

 →紹介ページは「こちら」

 

FarCry

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