レビュー : クロックアップ版「GeForce 8800 GTX」搭載カード PV-T80F-SHD9

クロックアップ版GeForce 8800 GTXカードの「買い得感」を探る

PV-T80F-SHD9

Text by Jo_Kubota
2007年1月12日

 

PV-T80F-SHD9
メーカー:PINE Technology(XFX)
問い合わせ先:シネックス(販売代理店)
info@synnex.co.jp

 「GeForce 8800」シリーズの発表から約2か月。サードパーティ各社による搭載製品ラッシュも落ち着きを見せ始めた2006年末から2007年1月上旬というタイミングで,クロックアップ版「GeForce 8800 GTX」搭載カードが,複数のメーカーから発表された。これまでリファレンスクロックの製品しか存在しなかったGeForce 8800 GTXカードに,カードメーカーの保証付きで,クロックの引き上げられた製品が突如として登場したわけだ。
 なぜ今の今まで1枚もなく,ここに来ていきなり複数のメーカーから発表されたのか。その理由について噂レベル以上の情報はないため,ここでは割愛するが,2007年1月時点で世界最速のGPU(グラフィックスチップ)を搭載するカードが,さらにその速度を引き上げられたと聞けば,注目する人も少なくないだろう。

 

 今回4Gamerでは,そんなクロックアップ版GeForce 8800 GTXカードのうち,市場へ真っ先に投入されたPINE TechnologyのXFXブランド(以下XFX)製品,「PV-T80F-SHD9」を入手したので,ウルトラハイエンドグラフィックスカードの動作クロックをさらに上げることが,ゲームプレイにどのような変化をもたらすかについて,掘り下げてみることにしたい。

 

 

クロックはコア,メモリとも10%前後の引き上げ
分かりにくい製品ボックスに注意

 

 「XFX 8800 GTX XXX Edition」と別称され,特別モデルであることが謳われているPV-T80F-SHD9の動作クロックはコア630MHz,メモリ2GHz相当(1GHz DDR)。GeForce 8800 GTXのリファレンスクロックは順に575MHz,1.8GHz相当なので,コアクロックが約10%,メモリクロックは約11%引き上げられている計算になる。

 

別の角度から。GeForce 8800 GTXリファレンスカードと,クーラーに貼られたシール以外では区別できそうにない

 カードの外観に,これといった特徴はない。リファレンスクロック版のGeForce 8800 GTXと何ら変わったところはなく,見た目では区別できないだろう。
 さらにやっかいなのは,同じXFXのリファレンスクロック版GeForce 8800 GTX搭載カードと,製品ボックスのデザインが同じであることだ。PV-T80F-SHD9である“証拠”は,製品ボックス前面に貼られた「630MHz CORE」というロゴと,側面の流通関係者向けシールに貼られた型番しかないのである。しかも,リファレンスクロック版の型番は「PV-T80F-SHF9」で,PV-T80F-SHD9とは一文字異なるだけ。実際に購入するときは,間違えないよう十分気をつけたい。

 

製品ボックスは,XFXのリファレンスクロック版GeForce 8800 GTXカードとほとんど同じ。違いは,向かって右下にクロックを示すシール,そして側面に型番を示すシールが貼られている程度だ

 

 

リファレンスクロック版GeForce 8800 GTXカードと
“10%”の違いを比較

 

 比較対象としては,リファレンスクロック版のGeFore 8800 GTXカード,そして,リファレンスクロック版の「ATI Radeon X1950 XTX」カードを用意した。基本的に,リファレンスクロック版GeForce 8800 GTXとの違いを見るため,下位モデルとの比較は行わない。GeForce 8800 GTXと,GeForce 7世代の間に性能面でどの程度の違いがあるかを知りたい人は,2006年11月9日の記事を参照してほしい。

 

 ベンチマークレギュレーションはバージョン3.0に準拠。このほかテスト環境はのとおりだ。

 

 

付属品一覧。ゲームCD-ROMはとくに付属していない

 なお,GeForce 8800 GTXの高負荷設定においては,独自のアンチエイリアシングモード「CSAA」(Coverage Sampled Antialiasing)を有効化している。詳細はGeForce 8800のアンチエイリアシングとフィルタリングの精度について検証した2006年11月24日のレビュー記事を参照してほしいが,ForceWareからアンチエイリアシングモードを「拡張されたアプリケーション」にすると同時に,各ゲームの描画オプションからアンチエイリアシングモードを有効(2xもしくは4x)を選択している。
 記憶力のいい読者は「高負荷設定の4xアンチエイリアシングなら,MSAAになるんだから,そんなことしなくてもいいんじゃないの?」と思うだろう。確かに,GeForce 8800の4xアンチエイリアシングはMSAAで行われる。だが,2007年1月時点の最新版ForceWareでは,CSAAを有効化した状態にしておかないと,一部のアプリケーションで正しくスコアが得られない場合があるのだ。そのため,このような設定を行っているので,あらかじめご了承を。

 

 また,細かい話だが,比較対象となるグラフィックスカード2製品は,以下,GPU名で表記するので,この点も注意してほしい。

 

 

重要になってくるGPU以外のパフォーマンス
GPU以外がボトルネックにならなければ相応の意義が

 

 以上を踏まえて,テスト結果を見ていこう。
 グラフ1,2は,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)のそれだが,動作クロック1割増しの割には,思ったよりスコアが低い印象だ。

 

 

 

 Feature Testで,もう少し細かく見てみたが,やはり傾向は変わらない(グラフ3〜5)。

 

 

 

 

 「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)のスコアも,3DMark06と同じ傾向だ(グラフ6,7)。10%という動作クロックの違いは,少なくともベンチマークアプリケーションにおいて,さほど効果がないと言い切ってしまっていいだろう。

 

 

 

 以上を踏まえつつ,実際のゲームアプリケーションにおけるパフォーマンスを見ていくことにするが,まず「Quake 4」(Version 1.2)の標準設定では,比較うんぬん以前に,スコアが不可解なことになってしまった。先に「ForceWare 96.94」を用いたときには,1024×768ドットで170fpsという高いスコアが出ていたのだが,「ForceWare 97.44」を用いた今回のテストでは,環境の再構築からやり直しても,スコアは150fps台に留まったのだ(グラフ8)。
 2007年1月中旬時点で,完成度についてはまだ全幅の信頼を与えられないRelease 95世代のForceWareを用いて,GeForce 8800 GTXにとっては“軽すぎる”標準設定のQuake 4を実行したのでは,何も読み取れないというわけである。

 

 

 ただし,高負荷設定を行って描画負荷をかけると,グラフ9のとおり,3DMark06/05を踏襲したようなスコアに落ち着いた。十分に負荷の低いFPSをプレイするにおいては,動作クロックが10%程度向上しても,ほとんど意味はないことがこのスコアから判断できる。

 

 

 続いて「Half-Life 2: Episode One」だが,同タイトルでもPV-T80F-SHD9のメリットは感じられない(グラフ10,11)。高負荷設定時における1600×1200ドットのスコア(120fps超)から明らかなように,Half-Life 2: Episode OneもGeForce 8800 GTXにとっては軽いゲーム。そうなると,3DMark06/05やQuake 4と同じような結果に落ち着くのはやむを得ないところだ。

 

 

 

 ただ,2007年1月を迎えても,描画負荷の高さではかなりのレベルにある「F.E.A.R.」(Version 1.08)では,様相が異なってくる。テスト結果はグラフ12,13にまとめたとおりだが,低解像度を中心に,クロックアップの効果が明らかに見て取れるのだ。1024×768ドットでは,標準設定で約9%,高負荷設定で約11%。動作クロックの向上分,確実にフレームレートが上昇している。
 高解像度になると,CPUやらメインメモリやらといった,“描画に関わるグラフィックスカード以外のデバイス”がボトルネックとなり,スコア差は縮まっていくが,純粋に描画負荷が高い特定の局面なら,ハイエンドグラフィックスカードをクロックアップすることのメリットが見えてくるようだ。

 

 

 

 RTS「Company of Heroes」(Version 1.4)のスコアも,F.E.A.R.と同じ傾向を示す(グラフ14,15)。ベンチマークレギュレーション3.0の解説記事で説明されているように,Company of Heroesでは,描画負荷をできる限り高めてあるため,これはある意味,予想されていた結果ではあるが,高解像度環境でも,リファレンスクロック版の製品に対してクロックアップ分を上回る10%以上のスコア差をつけているPV-T80F-SHD9のメリットは明白である。
 また,本題とは異なるため深くは掘り下げないが,ATI Radeon X1900 XTXとの圧倒的なスコア差にも注目したい。

 

 

 

 続いて,「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(Version 1.1)の結果をグラフ16,17にまとめた。負荷の低いタイトルということもあり,結果は一言「Quake 4と同じ傾向」である。高負荷設定では,Half-Life 2: Episode Oneと同じく,若干の優位性を見せるが,特筆すべき水準ではない。

 

 

 

 最後に「Lineage II」のテスト結果を見てみよう(グラフ17)。Lineage IIは,GeForce 7世代のミドルレンジGPUがあればグラフィックスパフォーマンスは十分ということもあり,GeForce 8800 GTXのクロック違いに有意な差を求めるのがそもそも筋違いだ。解像度が高くなると,それなりにスコアの差が出てくるが,ゲームの体感には影響しないレベルである。

 

 

 

(相対的には)意外にも高くない消費電力
リファレンス版との違いは意識せずともOK

 

 10%のクロック上昇ということで,ただでさえ高い消費電力が,さらにどれだけ上昇するのか気になる人もいるだろう。そこで,いつものようにワットチェッカーを用いて,システム全体の消費電力を比較することにした。
 OS起動後,30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間で最も消費電力の高かった時点「高負荷時」として,それぞれの状態におけるシステム全体の消費電力をまとめたのがグラフ19だ。

 

 PV-T80F-SHD9は,アイドル時高負荷時ともに,リファレンスクロック版の製品に対して約10W高い消費電力を示した。これを「10Wも」と考えるか「10Wしか」と考えるかは意見の分かれるところだが,そもそもGeForce 8800 GTXを使うユーザーであれば,電源ユニットの容量にはある程度余裕があるはず。10Wの差は無視できるレベルだろう。もっとも,いずれにせよ褒められたものではないのだが。

 

 

 グラフ19の状態におけるGPU温度を見てみよう。
 ここでは,コの字型のカバーを外したため,限りなくバラックに近い状態になっているAOpen製のデスクトップケース「HX95」にシステムを取り付けた状態で,温度を計測している。
 その結果はグラフ20にまとめた。グラフを見る限り,外観が同じGPUクーラーを搭載するPV-T80F-SHD9とリファレンスクロック版GeForce 8800 GTXに,温度面での違いはほとんどない。ただし,アイドル時,高負荷時ともPV-T80F-SHD9のほうがファン回転数は高いようで,PV-T80F-SHD9のほうがわずかにうるさく感じられた点は付記しておきたい。

 

 

 

価格的なハードルはほとんどなく
用途が明確なら選択する価値がある

 

 2007年1月中旬時点におけるPV-T80F-SHD9の実勢価格は8万8000円前後。XFXのリファレンスクロック版カードだと8万5000円前後なので,差は3000円程度しかない。一部メーカーのリファレンスクロック版は8万円前後で販売されているので,これと比べるとやや割高だが,目くじらを立てるほどではないのも確かだ。

 

Release 95世代のForceWareでは,nTune 5.05以上をインストールすると,NVIDIAコントロールパネルからオーバークロック設定などを行えるようになる

 リファレンスクロックのGeForce 8800 GTXをオーバークロックすれば,PV-T80F-SHD9と同等になるのではという考え方もある。だが,実際に今回用いたASUSTeK Computer製カードを用いて,NVIDIA製のGPU環境設定ユーティリティ「nTune」(Version: 5.05.18.00)から試したところ,ベンチマークソフトはともかく,実際のゲームではコアクロックを600MHz以上にすると高負荷設定時に高い確率でシステムが停止。とてもではないが常用できるレベルではなかった。
 もちろん個体差があるので,なかにはPV-T80F-SHD9を超えるクロックで動作するものはあるかもしれないが,それに賭けるくらいであれば,コア630MHz,メモリ2GHz相当でメーカーレベルの動作保証が受けられるPV-T80F-SHD9を素直に選ぶべきだ。

 

 ただし,クロックアップの効果を最大限に享受できるのは,特定の局面に限られることは覚えておきたい。それを十分理解したうえで,とにかく最高レベルのグラフィックスカードが欲しいというのであれば,PV-T80F-SHD9はその期待に応えてくれるだろう。

 

タイトル GeForce 8800
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/11/09 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/xfx_8800_gtx/xfx_8800_gtx.shtml