― レビュー ―
Radeon X1600と同じRV530コアの新製品にはどこまで期待できるのか
GC-RX165PG3-D3
GC-RX13XTG3-D3 Platinum
SAPPHIRE RADEON X1650 PRO
SAPPHIRE RADEON X1300 XT
Text by Jo_Kubota
2006年9月27日

 

 ATI Technologies(以下ATI)が,「Radeon X1650 Pro」,そして「Radeon X1300 XT」というGPU(グラフィックスチップ)を発表してしばらく経った。搭載グラフィックスカードはいずれも1万円台前半〜後半で販売されており,ミドルレンジ向けとしてはなかなか魅力的な価格帯にあるといえる。

 

Radeon X1650 Pro(左)とRadeon X1300 XT(右)。試用した個体だと,開発コードネーム(GPUコア)を示す分かりやすい刻印はなかった

 

 

製品レベルではほとんど変わらない可能性がある
Radeon X1650 ProとRadeon X1300 XT

 

 両GPUについては2006年8月23日の記事でひととおり紹介しているが,一言でまとめるなら,どちらもRV530コアをベースにしたGPUだ。表1にまとめたとおり,Radeon X1650 Proは,従来のミドルレンジ向けGPUである「Radeon X1600 XT」から,動作クロックがわずかに向上しただけ。一方のRadeon X1300 XTも,「Radeon X1600 Pro」と仕様的にはほとんど変わらない。ATIのマーケティング的な目論見はともかく,Radeon X1650 ProとRadeon X1300 XTの間に,スペック面の差はリファレンスのメモリクロック程度しかないことは,理解しておくべきだろう。

 

 

 さて,「リファレンスの」と断ったのにはワケがある。というのも,テストに当たって用意したグラフィックスカードが,どれも大なり小なりリファレンス仕様とクロックが異なっていたのだ。
 今回入手したのは,国内だと最近は玄人志向ブランド向けOEMで知られるGECUBE(Info-Tek Taiwan)製の「GC-RX165PG3-D3」と「GC-RX13XTG3-D3 Platinum」,“ATI派”主要メーカーの一社であるSapphire Technology製「SAPPHIRE RADEON X1650 PRO」「SAPPHIRE RADEON X1300 XT」の4枚。Catalyst Control Centerから動作クロックを調べた結果を含め,スペックは表2にまとめたので,ぜひ見比べてみてほしい。

 

 

 SAPPHIRE RADEON X1650 PRO以外では,動作クロックなどを変更可能な「ATI Overdrive」の項目が表示されなかったため,3Dアプリケーション実行時のコアクロックをチェックできなかったが,リファレンスクロックがほとんど当てにならないのは分かるだろう。Radeon X1300 XT搭載カードのなかには,Radeon X1650 Pro(やRadeon X1600 XT)とほとんど動作クロックが変わらない製品が存在するわけだ。

 

GC-RX165PG3-D3
メーカー/問い合わせ先:GECUBE(Info-Tek Taiwan)
GC-RX13XTG3-D3 Platinum
メーカー/問い合わせ先:GECUBE(Info-Tek Taiwan)
SAPPHIRE RADEON X1650 PRO
メーカー:Sapphire Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp
SAPPHIRE RADEON X1300 XT
メーカー:Sapphire Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店) info@ask-corp.co.jp

 

 以上を踏まえてテストに入っていくことになるが,Radeon X1600 XTのパフォーマンスがゲームにおいてGeForce 7600 GSに一歩(から二歩)及ばないレベルであることは,2006年6月21日の記事でお伝えしている。Radeon X1600 XTとほとんど変わらない仕様のRadeon X1650 ProやRadeon X1300 XTを,改めてGeForce 7600 GSと比べても結果は見えていよう。そこで今回は,より下位のGeForce 6600 GTクラス,あるいはそれ以下のGPUから乗り換えるのを前提に,1万円台で購入できるミドルレンジのRadeon X1000シリーズが持つ価値というものを考察してみたいと思う。

 

Sapphire Technology製の2製品を並べてみた。左の写真では左側,右の写真では上側がRadeon X1650 Proだが,カードのデザインは基本,まったく同じに見える

 

 というわけで,比較対象には,GeForce 6600 GT搭載製品と,安価なものであれば1万円台で購入可能なGeForce 7600 GT搭載製品を用意した。このほかテスト環境は表3のとおりだ。
 先に指摘したとおり,SAPPHIRE RADEON X1650 PRO以外ではATI Overdriveを有効にできていない。このため,今回は動作クロックをリファレンスまで落としたりするようなことはせず,カードのデフォルトで計測することにした。
 なお,ベンチマークテストに当たっては,4Gamerのレギュレーション1.1に準拠している。「Lineage II」に関しては,過去のデータと互換性がなくなっているので,この点は注意してほしい。また,グラフ中,Radeonについては「ブランド名+『Radeon』表記を省略した型番」で表記を行う。

 

 

 

Radeon X1650 ProとRadeon X1300 XTの間には
違いがほとんどない可能性あり

 

 さっそく,ベンチマークスコアをチェックしてみよう。
 全体の傾向を見るべく,「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のスコアを見てみる(グラフ1)。GeForceシリーズとのスコア比較は意味がないので,Radeonシリーズの4製品で比較してみると,SAPPHIRE RADEON X1650 PROのスコアが,Radeon X1300 XT搭載の2製品よりも低く出ている。Catalyst Control Center(のATI Overdrive)からチェックする限り,メモリクロックは同じなので,Radeon X1300 XT搭載2製品のほうが3Dアプリケーション実行時のコアクロックで上なのかもしれないという仮説が立てられそうだ。

 

 

 続いて「3DMark06 Build 1.0.2」(以下3DMark06)だが,こちらは順当に(?)Radeon X1650 Pro搭載の2製品がRadeon X1300 XT搭載製品より上になっている(グラフ2)。このため,先ほどの仮説は誤っていることになるが,だとすると,3DMark05となぜスコアの傾向が異なるのか説明がつかない。非常に不可解な現象といえよう。

 

 

 まあ,3DMarkシリーズは,あくまで傾向を見るためのもの。「今回の4モデルに関して,3DMark05/06におけるスコアの違いはほとんどない」と認識しつつ,ゲームのテスト結果に移りたい。

 

 まずは「Quake 4」(Version 1.2)からだ。GeForceシリーズに最適化されており,Radeonが圧倒的に不利なことで知られるQuake 4だが,グラフ3で明らかなように,案の定というかなんというか,標準設定ではGeForce 6600 GTの後塵を拝す結果となっている。今回取り上げた製品中で唯一グラフィックスメモリ容量が128MBのGeForce 6600 GTは,高負荷設定でさすがにスコアが落ち込み,結果としてRadeon X1650 Pro&Radeon X1300 XTが面目を保っているが,GeForce 7600 GTとは勝負にすらなっていない。
 なお,Radeonシリーズ4製品だけで比較する限り,3DMark06と同じような傾向を見せている点は,付記しておこう。

 

 

 続いて「F.E.A.R.」(Version 1.05)の結果をグラフ4にまとめた。
 Radeonシリーズ4製品の傾向は基本的にQuake 4と似ているが,描画負荷が高いこともあって,高解像度設定,あるいは高負荷設定時には差がなくなり,ほぼ横並びとなった。また,Radeonシリーズ4製品は,いずれもGeForce 6600 GT以上だが,GeForce 7600 GTには太刀打ちできないのも見て取れる。

 

 

 描画負荷の低いレースゲーム「TrackMania Nations ESWC」のテスト結果をまとめたのがグラフ5だ。標準設定の1024×768ドットでは,快適にプレイできるラインである60fpsをクリアしており,“軽い”3Dゲームをそこそこのディスプレイ解像度でプレイするには,Radeon X1650 Pro&Radeon X1300 XTの性能が十分なことが見て取れる。一方,高解像度,あるいは高負荷設定時におけるフレームレートの落ち込みは大きく,ここでもGeForce 7600 GTとは残念ながら勝負になっていない。

 

 

 最後に,MMORPG「Lineage II」のテスト結果である(グラフ6)。4Gamerのベンチマークレギュレーション1.1で採用した「クロニクル5」適用版Lineage IIは,レギュレーション1.0時代と比べて描画負荷が高まっており,スコアは以前よりも低めに出る傾向がある。また,クロニクル5では,HDRレンダリング設定を有効にすると,アンチエイリアシングが適用されなくなるため,スコアは標準設定のみとしている。
 さて,ここではRadeonシリーズ4製品がかなりの健闘を見せる。グラフィックスカードのパフォーマンスとして必要十分な基準ラインとなる30fpsを考えたときに,Radeon X1650 Pro&Radeon X1300 XTは,1024×768ドット設定時に悠々とクリアしており,一世代前のミドルレンジであるGeForce 6600 GTに対して,明快な違いを見せつけた点は強調しておく必要があろう。1280×1024ドット設定でも,まずまずのスコアとはいえる。

 

 

 

消費電力にも大きな差はない4製品
GPU温度を読み取れない仕様は残念

 

 ベンチマークテストに続き,消費電力もチェックしてみたい。
 ここでは,Windows XPの起動後,10分間放置した状態を「アイドル時」,3DMark05のGame Testをリピート実行し,30分間で最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」としてまとめている。
 結果はグラフ7にまとめたが,ワットチェッカーによる測定誤差を考えると,消費電力はまったく同じレベルと断じて問題ないだろう。

 

 

 続いてGPU温度といきたいところだが,残念なことに,Radeonシリーズ4製品のうち,温度を測定できたのはSAPPHIRE Radeon X1650 Proのみ。このため,GECUBE製品とSapphire Technology製品の直接比較は行えなかったため,グラフ8は参考程度となる。Radeonシリーズ搭載製品のミドルレンジやローエンド向け製品は,往々にしてこのような結果になりがちだが,なんとかならないものだろうか。

 

 

 

動作クロックに気をつける必要はあるものの
“軽い”3Dゲーム用の安価な選択肢としては面白い

 

2006年9月下旬時点では実勢価格1万8000円前後で販売されているSAPPHIRE RADEON X1650 PROの付属品一覧。ゲームタイトルの同梱はない

 細かいことをいえば,やはりRadeon X1650 Pro搭載製品のほうが上だが,それはあくまで相対的な話。今回試した4製品は,ほぼ同じものと言って過言ではないだろう。
 ちなみに,Radeon X1650 Pro搭載製品の価格は1万4000〜1万8000円前後。先に指摘したとおり,GeForce 7600 GT搭載製品が安価なものであれば1万円台後半で購入できる以上,予算が2万円前後であれば迷わずGeForce 7600 GTを購入すべきなので,積極的に勧めることはしない。だが,GeForce 6600 GT以下のGPUからの乗り換えるに当たって,1万5000円未満の予算で,3Dゲームがそこそこ動くカードを探しているなら,Radeon X1650 Proや,今回試した高クロック版Radeon X1300 XTカードは,悪くない選択肢といえそうだ。

 

 ただし,注意すべき点もある。今回入手したRadeon X1300 XTカードは2枚とも,リファレンスからクロックが大きく引き上げられた製品だ。しかし,2006年9月下旬時点において,1万1000〜4000円程度で販売されているRadeon X1300 XTカードの動作クロックは,ほぼすべてリファレンスどおり。つまり,今回のテスト結果と,流通している製品のスペックの間には少なからぬ違いがあるわけだ。「Radeon X1650 ProとRadeon X1300 XTはほぼ同じ性能なので,安価なものを買えばいい」とまでは,断言できないのである。

 

 ATI製品を扱うカードメーカーや代理店には,仕様を明らかにすることを求めたい。購入して動かしてみるまで,パッケージに記載の動作クロックが正しいのか,はたまたドライバレベルでオーバークロック設定が行えるか,GPU温度を計測できるか分からないというのは,明らかに異常だ。
 仕様がよく分からないケースというのはGeForceシリーズのローエンドモデルにもままあるが,Radeonシリーズはミドルレンジまでそれが目立つ。価格だけを見てRadeon X1300 XT搭載カードを購入し,後からそれがリファレンスクロック版だったと気づいたりするのでは,目も当てられない。

 

 テスト結果を踏まえると,Radeon X1650 Pro,あるいは高クロック版Radeon X1300 XTカードの適正価格は1万〜1万3000円前後と思われる。それだけに,価格面でのチャレンジも期待したいところだが,それ以前の課題として,ぜひスペックの明確化に取り組んでほしい。
 同時に,購入を検討している人は,“ハズレ”を引かないためにも,事前に仕様をしっかりと確認しておく必要があることを,肝に銘じておこう。

 

タイトル ATI Radeon X1600
開発元 AMD(旧ATI Technologies) 発売元 AMD(旧ATI Technologies)
発売日 2005/10/05 価格 製品による
 
動作環境 N/A

(C)2006 Advanced Micro Devices Inc.