― レビュー ―
大航海時代が舞台の本格派交易シムのシリーズ最新作
ポートロイヤル2 −カリブ大航海記−
Text by Sluta
2nd Dec. 2004


■17世紀のカリブ海で大商人を目指せ


シリーズ最新作として最も素晴らしい改良点は,画面を切り替えることなく早送りができるようになったこと

 「安く買って高く売る」というのが,交易の基本。だが,この単純な事実の裏には,需要と供給の織りなす複雑な仕組みが潜んでいる。なぜ,ある場所では安く買えるのか? ただ単にあちこちを行き来して,安く買えるところを探すのでは運の問題になってしまうが,安いのには理由がある。それを見抜き,あるいは予想し,儲けへとつなげるというのが,交易の醍醐味ではないだろうか。
 その醍醐味を十二分に味わえるのが,これから紹介する「ポートロイヤル2−カリブ大航海記−」(以下,PR2)である。

 

 PR2は,17世紀のカリブ海を舞台にした海洋交易シミュレーションだ。プレイヤーは一人の冒険家となり,各地を航海しながら商品の売買/生産を行い,ときには軍事力も使いながら自らの交易事業を拡大していく。
 プレイヤーのやれることは多岐に渡り,交易はもちろん,町の人々から仕事やミッションを請け負ったり,海賊や敵国の船と戦ったり,財宝や行方不明になった船を捜したり,さらには海賊のアジトや敵国の港を攻撃したりといったこともできる。いずれは新しい町を丸ごと一つ貰い,自分だけの街作りができるようにもなる。

 

 しかしどういう風にプレイしていくにせよ,初めは1隻の船とわずかな資金しかないので,港町の商品を売買する交易からゲームを始めることになるだろう。

 

 PR2では全部で19種類の商品が用意され,その内訳は,4種類の必需品,4種類の原材料,4種類の加工品,4種類の特産品,3種類の輸入品となっている。また,港町は全部で60あり,12の総督の町(あるいは副王の町)と48の植民地の町に分かれている。
 どの町も,生産できる商品は5種類まで。総督の町は3種類の必需品と2種類の加工品,植民地の町は2種類の必需品と2種類の原材料と1種類の特産品,というように,作れる種類は決まっている。実際に何が生産できるかもあらかじめ固定されており,中でも原材料と特産品は地域ごとで決められている。

 

 説明が抽象的になってしまったが,どの商品も決められた町でしか供給されないというのがポイントだ。すべての町で全19種類の商品が消費されるが,例えば衣服を作る町では綿花が大量に必要で,建物の建設が頻繁に行われている町では木材やレンガの需要が大きく,ヨーロッパからの船が来訪する総督の町では特産品が売れるというように,どの商品が多く必要とされているかは町によって異なる。

 

一見すると無秩序な取引も,背景が分かってくると法則性が見えてくる 海賊は隠れ家を中心に活動するようになった。討伐せず放っておくとどんどん強大に 財宝の在り処を示した地図を収集中。この状態じゃ,まだ何にも分からないが……
海上で漂流物に出会うこともある。ときにはこんなレアアイテムの発見も コーンを赤のオランダ周辺で買い,黄のスペイン周辺で売りさばけば儲かりそうだ 町の人をクリックすると,町の状況を始め,いろいろなことをしゃべってくれる

 


■需要と供給の仕組みをじっくり観察して商機をうかがおう


船は合計16種類。各国に固有の船も2種類ずつあるが,すべての船を造船所で購入できるわけではない

 PR2の優れている点は,需要と供給の世界を分かりやすく,かつ奥深い形で再現していることである。すべての町で5種類の商品しか作れないなど,必ずしもリアルとはいいがたいが,ゲームとして分かりやすくデフォルメしてある点には非常に好感が持てる。
 最初は,ただやみくもに安いものを買って高いものを売っているように感じられ作業的に思うかもしれない。しかしゲームの背景を理解してくるにつれ,何をどこで売買すれば良いのか見通しが立つようになり,俄然面白くなってくる。
 「どこで」という空間的な概念のほかに,「いつ」という時系列的な概念も考慮に入れておこう。倉庫に商品を保管できるので,安いときに買い占めておくこともできる。
 ゲーム中に発生するイベントも,商機になりえる。例えばイギリスとオランダの間で戦争が起きたとする。すると両国の間を往復する商船はめっきり少なくなるので,両国は相手の国の地域で生産している商品が品薄になってくる。そこでプレイヤーが,不足する商品をたっぷり積んで船を出せば,莫大な利益が得られるのだ。ちなみに国ごとの商品の平均価格はゲーム中の年表で調べられる。また酒場にいる商人から,そうした品薄な商品の取引を直接持ち掛けられることもあるだろう。

 

 資金に余裕が出てきたら,次は自分で商品を生産する。ただし生産施設を建設するには,その町での「建設許可証」が必要で,建設許可証を購入するには,その町で十分に交易実績を残し,町と友好的な関係でなければならない。
 自分で生産事業を始めるとしても,町では決められた5種類の商品しか作れないため,船による交易は引き続き重要である。その生産施設で働く労働者や原材料は自分で調達しなければならないなど面倒なこともあるが,自分で商品を生産できるようになると,利益率はぐっと高まる。
 さらに次の段階で挑戦したいのが,商品の独占だ。とくに生産できる町が少ない特産品と加工品は,十分にチャンスがある。自分だけで独占するには,ほかの商品を廃業させるか,買収してしまえばよい。具体的な方法に関してはマニュアルにも書かれているので,これ以上のことに関してはプレイヤー自身で開拓してみてほしい。
 また,交易とは商売の問題だけにとどまらず,ときには政治的な問題も絡んでくる。町は需要がすべて満たされると景気が上昇し,人口も増え,住民の満足度も増す。これを利用して,その町が属する国を繁栄に導いたり,逆に商品を買い占めてしまうことで衰退に追いやったり,その町を属する母国から寝返らせるといったこともできる。政治と経済は常に不可分なのである。
 PR2の交易は,ここで紹介したことがすべてではないし,筆者自身がまだ発見できていないセオリーが,ゲーム内にはたくさんあると思う。それほどPR2における17世紀のカリブ海世界は秀逸にシミュレートされており,プレイするたびに新しい発見があるゲームだ。

 

スペイン,フランス,オランダ,イギリスの勢力図。4国間では頻繁に戦争が起こる 副王のミッションを達成すると新しい町をもらえる。自分だけの街作りができるのだ 自分の町はコストがかかるが,愛着もひとしおだ。カリブ海一の町へと育て上げよう
自動交易路の設定画面。巡回する港を指定するだけで,あとはAIに任せることもできるが,どの港で何をいくらで売買するかを自由に設定できるのが素晴らしい。倉庫番による自動売買を併用すれば,プレイヤーの単純作業は限りなくゼロに近づけられる

 


■交易シムとしては類をみない完成度


戦闘では,なぜか1対多数の戦いに。だから不利だというわけでもなく,うまく動けば互角以上に戦える

 PR2のそのほかの特徴についても目を向けてみよう。まずは海戦だが,これにはちょっと失望した。航海は1〜10隻からなる船団単位で行われるが,船団同士が海上で出会い,衝突すると海戦が起こる。ところが実際に戦闘を始めてみると,プレイヤーが海戦に投入できるのは一度に1隻だけなのである。最初に出した1隻が沈むか拿捕されるか逃げるかすると,次の船を出してまた同様に戦う。一方,敵は最大5隻いっぺんに向かってくる。これは不可解としかいいようがない。
 こういった仕様になった理由は,操作性とお手軽さを優先した結果だろうと予想できる。1隻ずつの投入ならばプレイヤーは1隻の操作に集中できるので,操作に負担を感じることがない。船の砲弾には巨弾/連弾/散弾とあるのだが,それぞれ船体へのダメージ,帆へのダメージ,乗組員へのダメージと役割が決まっている。その使い分けも重要なので,海戦自体は単調というわけではなく面白い部分もあるのだが,アーケードライクとでもいおうか,この軽いノリは交易の本格さと比較してしまうと,物足りない感じだ。
 町を攻撃する場合も同様で,1隻ずつ出して港に建設してある砲台と撃ち合うだけ。艦隊で町を攻撃できるという設定自体はエキサイティングだが,戦闘のシステム自体はもうちょっと練り込んでほしかった。

 ゲームプレイモードは,チュートリアル4本を含む合計8本のシナリオと,自由なプレイができるフリープレイの2種類がある。シナリオでは次に何をすればよいかの指針を絶えず示してくれるので,行動に迷うという人はシナリオからじっくり取り組んでみるといいだろう。なお,本作はシングルプレイ専用となっている。

 

 最後に,ほかの関連作品についてまとめておこう。PR2はシリーズ3作目にあたり,1作目が「ポートロイヤル −カリブ大航海記−」で,PR2の前作ともいえる作品。グラフィックスや基本システムは似通っているが,操作性の大幅な改良,AIの強化,プレイ自由度の拡大など,ほとんどすべての点でPR2は大幅にグレードアップしている。2作目は「ポートロイヤル −カリブ海戦記−」で,こちらは開発元は同じだが,ちょっと毛色が異なり"海戦"にフォーカスした内容。PR2の海戦システムは,この作品を基にしている。
 "パトリシアン シリーズ"も開発元は同じAscaron社だが,こちらは13世紀の北欧が舞台。ポートロイヤルシリーズと共通する要素も多いが,こちらはハンザ同盟都市を中心に据えたゲームデザインで,都市の発展や同盟内での出世といったことに重点が置かれている。
 このような関連作品の実績と積み重ねもあり,PR2は交易シミュレーションゲームとして一つの完成形ともいえる成熟が感じられる。インタフェース,操作性,グラフィックやサウンドなどは,どれもよく出来ている。
 また,筆者の手元には日本語製品版があるが,ローカライズも丁寧で,ゲーム本体はもちろん,マニュアルと付属の地図も含め,日本語訳やフォントの具合も自然な感じでとてもいい(ナレーションは英語だが)。交易シミュレーションに興味のある人には,ぜひお勧めしたい良作だ。

 

砲弾は船体の側面から発射される。風向きも考慮しつつ,常に有利な位置取りを 海賊の隠れ家を攻撃。港に建つ砲台を全部破壊すれば勝利となる 敵国の町を攻める場合,陸戦を選ぶことも可能。海から攻めるよりラクな場合も
町の戦闘では門を破壊すれば勝利となるが,その前に司令官に決闘を申し込まれることが多い 決闘はタイミングよくクリックするだけのアクションゲームだが,緊迫感はよく出ていて,雰囲気はなかなかいい コツさえ掴めば,気を抜かない限り負けはない。決闘に勝つと戦闘は終結し,残った者達の命は全員助かる
タイトル 「ポートロイヤル2 −カリブ大航海記−」
発売元 カプコン
開発元 Ascaron Entertainment
発売日 2004/11/26
価格 7140円(税込)
動作環境 Windows 98SE/Me/2000/XP,PentiumIII/700MHz以上(Pentium4/1.6GHz以上推奨),メモリ 256MB以上(512MB以上推奨),HDD空き容量 700MB以上,VRAM32MB以上搭載したビデオカード(VRAM64MB以上推奨),DirectX 8.1以降
コピーライト (C) 2004 Ascaron Entertainment GmbH