レビュー : MB-N680-ILT

nForce 680i SLIチップセットの廉価版がもたらすメリットを考える

MB-N680-ILT

Text by Jo_Kubota
2007年3月26日

 

»  4Gamerの誇るユーティリティプレイヤー,Jo_Kubota氏が,NVIDIAの最新チップセットをチェックする。某PC専門誌で毎月のようにマザーボードを触ってきた氏は,nForce 680i SLIの廉価版をどう見るだろうか。

 

MB-N680-ILT
メーカー:PINE Technology(XFX)
問い合わせ先:シネックス(販売代理店)
info@synnex.co.jp
予想実売価格:2万8000円前後(2007年3月6日現在)

 日本時間2007年3月26日,NVIDIAは新型チップセット「nForce 680i LT SLI」を発表した。
 nForce 680i LT SLIという名でピンときた人も多いと思われるが,同チップセットは2006年11月9日に発表されたIntel製CPU向けのNVIDIA SLI(以下SLI)対応製品「nForce 680i SLI」の廉価版となる。NVIDIAの想定するマザーボード価格は,nForce 680i SLIが249ドル(3月26日時点の為替レート換算で約2万9500円)以上に対して,nForce 680i LT SLIは199ドル(同2万3500円)とされており,従来より2割程度安価になるという理解が正しそうだ。
 では,この廉価版では,何が制限されているのだろうか。そしてそれはゲームプレイを考慮したときにマイナスにならないのだろうか? 今回はPINE Technology(のXFXブランド,以下XFX)製の搭載マザーボード「MB-N680-ILT」を借用できたので,このポイントをチェックしてみたいと思う。

 

 

サウスブリッジは「nForce 570 SLI」
大きな違いはSLIとメモリサポート周り

 

サウスブリッジとなるnForce 570 SLI。チップ上の刻印は「NF570-SLI-N-A2」だった

 チップセット構成は,ノースブリッジとなるSPP(System Platform Processor)がnForce 680i LT,サウスブリッジとなるMCP(Media and Communications Processor)が「nForce 570 SLI」となる。断言はできないが,チップ上の刻印が“そのまま”であることからして,後者はnForce 570 SLIチップセットで採用されているのと同じものではなかろうか。

 

 さて,肝心の「nForce 680i LT SLIで何が制限されているか」だが,最も大きなものは,SLIでサポートされるグラフィックスカードの枚数である。
 nForce 680i SLIは3本のPCI Express x16スロットをサポートし,16レーン+16レーン+8レーンで3枚のグラフィックスカードを差せる。今のところ3枚差しのメリットはそれほどないが,将来的には3枚めのグラフィックスカードによる物理演算が予定されており,実現すればプレミアムなハイエンド環境を構築できるのがウリだ。
 これに対してnForce 680i LT SLIでサポートされるグラフィックスカードの枚数は2。16レーン×2の,いわゆるフルスペックSLI構成は可能だが,3枚めのPCI Expressグラフィックスカードは利用できない。

 

こちらがnForce 680i LT SLIノースブリッジ。試用した個体では刻印が「NF680ILT-SLI-N-」となっており,nForce 680i SLIとは別の個体と分かる。正式リビジョン表記はなかったが,NVIDIAロゴの下に「A2」という文字が見て取れるので,おそらくA2だろう

 また,サポートされるメインメモリも両チップセットでは異なる。nForce 680i SLIは“DDR2-1200”(PC2-9600相当)に対応し,CPUオーバークロックのマージンが大きく確保されているのに対して,nForce 680i LT SLIでは「Intel P965 Express」チップセットと同じ,PC2-6400までの対応となる。
 システムバスクロックのサポートが最大1333MHzなのは,nForce 680i SLIとnForce 680i LT SLIで共通だ。これは,次期Core 2でシステムバスクロックが1333MHzに引き上げられるのを見越してのもの。TDPが大幅に増えたりしなければ,次期CPUも問題なく動作すると思われるものの,実際に動作するかどうかはCPUが登場するまで分からないうえ,「次期Core 2が確実に動作する」と保証されているわけでもない点には注意したい。
 なお,そのほか主要なポイントにおける違いは,表1を参照してほしい。

 

※マザーボードによってPCI Express x16スロット数は1本の場合あり。また,16レーン/4レーンというのは一例であり,16レーン/2レーンという構成が取られていたり,設定に何らかの制限が設けられていたりする場合もある

 

 

NVIDIAリファレンスデザインとなるMB-N680-ILT
“アクティブ”チップクーラーは意外に静か

 

電源は3フェーズ構成と思われる。ボードは6層基板だ

 視点をマザーボード――MB-N680-ILTに移そう。
 MB-N680-ILTはXFX製マザーボードというほかに,「Designed by NVIDIA」,つまりNVIDIAリファレンスデザインのマザーボードという側面も持つ。nForce 680i SLIでは,リファレンスデザインの製品ほか,ASUSTeK ComputerやGigabyte Unitedなどによるオリジナルデザインの製品が存在し,早い段階から後者の存在が明らかになっていたりした。しかし,nForce 680i LT SLIに関しては,発表時点でXFX以外のリファレンスデザインマザーボードや,オリジナルデザインの製品はラインナップされていない。将来的には何ともいえないものの,当面はMB-N680-ILTが唯一の選択肢になりそうだ。

 

 そんなMB-N680-ILTだが,チップセットの冷却は,SPPとMCPいずれもファン搭載のチップクーラーによる,いわゆるアクティブクーリングとなる。nForce 680i SLIリファレンスボードでは,MCP用クーラーはファンレスで,そこからヒートパイプでSPP用のファン搭載チップクーラーへ熱が運ばれていたので,ここにコストダウンの影響を見ることはできよう。
 しかし,これらファンの動作音はかなり静か。騒音計などを用いて厳密に計測したわけではなく,あくまで筆者の主観だが,このサイズのファンは高域の音が耳につきがちなのに対し,MB-N680-ILTのそれは,ほかと比べて格段に静かといえる。さすがにCPUファンを静音タイプ,グラフィックスカードもファンレスにすると音が気になるようになるが,マザーボード標準のチップクーラーとしては問題のないレベルだ。

 

長いSLIブリッジが付属する

 拡張スロット構成はPCI Express x16 ×2,PCI Express x1 ×2,PCI×2。nForce 680i SLIリファレンスボードから,単純にPCI Express x16スロットが1本省かれたと見て問題ない。2スロット構成のグラフィックスカード,例えば「GeForce 8800 GTX」や「GeForce 7900 GTX」などといったハイエンドカードのSLI構成時には,(サウンドカードなどに)利用できるPCIスロットが実質1本だけになる点は憶えておきたい。
 このほかオンボードの機能としては,チップセットの仕様について比較した表1でも示したとおり1000BASE-T LANが1系統になっている。細かい点だが,nForce 680i SLIリファレンスボードにあった,BIOSのPOSTコードを表示する7セグメントLEDや,オーバークロックテスト時に便利なオンボードの電源/リセットボタンが省かれているのも,MB-N680-ILTの特徴といえる。

 

 メモリスロットの近くに置かれている4ピンの電源コネクタは,PCI Express用の補助電源入力とされており,ここに電源を供給することでパフォーマンスの改善があるとマニュアルでは説明されているものの,実際に試した限りベンチマークスコアに差はなかった。万全を期するなら差す,くらいに考えておくといいだろう。

 

MCPのファンの右隣には横に寝かせられたFDDケーブル用コネクタとSATAコネクタがある(左)。こうすれば長尺のカードを差したとき邪魔にならないわけで,GPUメーカーらしい配慮だ。一方,マザーボードデザイン経験の浅さが出たのが,フロントパネルコネクタの配置。ATX電源やリセット用の端子はほかのケーブルに囲まれた場所にあり,使ってみると非常に不便。改善を求めたい

 

P5N32-E SLI
独自設計のnForce 680i SLIマザーボード
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店)
news@unitycorp.co.jp
実勢価格:3万円前後(2007年3月26日現在)

 というわけで,ここからは実際のベンチマークテストを通じて,マザーボードの素性を明らかにしてみたい。テスト環境は表2のとおりで,比較対象としては,nForce 680i SLIを搭載するASUSTeK Computer製マザーボード「P5N32-E SLI」と,Intel P965 Expressを搭載する同社製品で,2007年3月時点の4Gamerリファレンスボードである「P5B Deluxe」を用意。グラフィックスカードはGeForce 8800 GTX搭載製品にすることで,ボトルネックを極力減らしている。
 BIOS設定は,CPU省電力機能とオーバークロック機能はすべて無効,オンボードデバイスはすべて有効化し,最新のデバイスドライバをインストールしてある。

 

 

 テスト方法はベンチマークレギュレーション3.0に準拠しているが,スコアがグラフィックスカード依存となる「高負荷設定」は行わず,「標準設定」のみでテストする。また,2007年3月15日に行われたSteamのアップデートによってデモファイルのデコード(≒再生)プログラムが変更され,従来のデモが再生不能となったため,「Half-Life 2: Episode One」はやむなくテストから外した。これについては,近日中にレギュレーションのアップデートを行いたいと考えている。
 なお,以下グラフ中において,スペースの都合でチップセット名を省略してある。この点はあらかじめご了承いただきたい。

 

 

パフォーマンスはIntel P965並みだが
一部に気になるスコアも

 

 というわけで,とくにオーバークロックを行わない状態での“素性”を探ってみる。まずグラフ1,2は順に「3Dmark06 Build 1.1.0」「3DMark05 Build 1.3.0」のテスト結果だが,はっきりいって「すべて横並び」。差と呼べるほどの違いはない。

 

 

 

 この結果からして,ゲームパフォーマンスに関しても,それほど大きな差はありそうにない。以下「Quake 4」(Version 1.2),「F.E.A.R.」(Version 1.08),「Company of Heroes」(Version 1.4),「GTR 2 - FIA GT Racing Game」(Version 1.1),「Lineage II」のスコアをまとめて見てみよう(グラフ4〜7)。

 

 低解像度&標準設定では,低解像度で負荷が軽くなりすぎるため,スコアは若干荒れるが,それを踏まえるに,Quake 4とF.E.A.R.,Company of Heroes,Lineage IIは,グラフ1,2と同じ傾向といえるだろう。
 興味深いのは,GTR 2 - FIA GT Racing Gameの結果だ。体感できる差かどうかはさておき,Intel P965 Expressが頭一つ抜け出ている。これだけで原因を特定することは不可能だが,特定のゲームでは,Intel P965 ExpressとnForce 680iシリーズの間に差が出る可能性のあることは覚えておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

消費電力には意外な違い
チップセットレベルで何らかの省電力化が?

 

 続いて,消費電力を見てみる。ここでは,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。
 ただし,言うまでもないことだが,チップセットの消費電力を個別に計測するのは不可能。テスト結果は,ほかの環境を揃えた状態におけるマザーボード同士の比較となる。マザーボードの搭載部品はそれぞれ異なるため,この結果がそのままチップセットの消費電力差というわけではないので,この点は注意してほしい。

 

 以上を考慮しつつ,スコアをまとめたグラフ8を見てみると,チップクーラーを2個搭載するMB-N680-ILTがやや不利になるかと思ったのだが,結果はそうならなかった。nForce 680i SLIを搭載したP5N32-E SLIと比べて,アイドル時,高負荷時とも30Wほど低い。ワットチェッカーの測定誤差を加味しても,十分に「消費電力が下がった」といえるレベルだ。
 機能を削減しただけにしては,nForce 680i LT SLI(MB-N680-ILT)とnForce 680i SLI(P5N32-E SLI)の差はかなり大きい。いくらなんでも「PCI Expressの仕様見直しと,1000BASE-T LANコントローラの削減」だけで30Wもの差がつくとは思えないため,チップセット自体がある程度省電力化された可能はありそうだ。

 

 

 

グラフィックスカード×3の将来性がカギ
価格が下がれば……

 

I/Oインタフェース部。主要部にはルビコンなどの日本製コンデンサ,それ以外はSamxon製コンデンサがメインで用いられている

 そもそもスペックで差別化されている部分,具体的にいえばオーバークロック周りやSLIを除き,純粋にチップセットのポテンシャルやマザーボードの完成度について見てきた。

 

 半ば結論じみた話から入ると,16レーン×2のSLIをCore 2プラットフォームで実現したいかどうかが,nForce 680i LT SLIを選ぶかどうかの,最初のポイントになる。チップセットの基本性能は,Intel P965 Expressとほとんど変わらないので,SLIを考慮しないのであれば,買おうと思えば1万円台前半から入手できるIntel P965 Expressマザーボードを選ぶべきだろう。わざわざnForce 680i LT SLIを選択する理由はない。

 

NVIDIAがプレス向けに提供しているレビュワーズガイドより。サムネイルだと文字が小さいので,ぜひクリックして拡大のうえ見てみてほしい。nForce 680i SLIでサポートされる3枚めのグラフィックスカードは,明確に「Physics」が割り当てられている

 ここで,SLIを構成したいと思ったときに,次の“チェックポイント”として,3枚めのグラフィックスカードに,2007年3月の時点でどれだけの価値を見いだすかという点が浮上してくる。SLI+物理演算というプレミアムな響きには惹かれるものがあるが,現実問題として,今のところそのようなソリューションは存在していない。そのソリューションが市場へ投入されるころには,NVIDIAが新しいチップセットを投入しているかもしれないわけで,その意味において,nForce 680i SLIは“やり過ぎた”感が否めなかった。
 もちろん,徹底したオーバークロックへの配慮は,一部のユーザーにとって魅力的かもしれないが,それよりはむしろ,現実的な仕様で少しでも安価になったほうが,より多くのユーザーにとって意味がある。その点において,nForce 680i LT SLIは価値があるといえそうだ。

 

 ……といった感じで,安価さを理由にMB-N680-ILTをお勧めしたかったのだが,秋葉原ショップ筋の情報を総合するに,MB-N680-ILTの予想実売価格は2万8000円前後。199ドルというNVIDIAの想定売価と比べるとかなり割高である。比較に用いたnForce 680i SLIマザーボード,P5N32-E SLIの実勢価格は3万円前後で,一部には2万円台後半で販売されている例もあるため,MB-N680-ILTを勧める理由に説得力がなくなってしまう。
 199ドルという想定価格にふさわしい価格,せめてハイエンドクラスのIntel P965 Expressマザーボードと渡り合える2万5000円以下で販売されれば,フルスペックのSLI環境を構築できるマザーボードとして,MB-N680-ILTは検討に十分値する存在と言えるようになるのだが。
 

■■Jo_Kubota(ライター)■■
PCに関連した守備範囲の広さに定評のあるテクニカルライター。それを生かして――というより,長い付き合いの担当編集からそこに目を付けられて――4Gamerでは,グラフィックスカードやCPU,サウンドカードなどといったハードウェアから,OSなどソフトウェアの検証に至るまで,八面六臂の活躍を見せる。DOS時代からThrustmasterのステアリングコントローラを握り続けている,無類のレースゲーム好きという顔もアリ。
タイトル nForce 600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2006/11/09 価格 N/A
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2006 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/nforce_680i_lt/nforce_680i_lt.shtml