■人材を核とした宮廷管理と王国経営
「ナイツ オブ オナー 日本語版」のメイン画面。右上に見えるのがアルスターの街で,周辺には村落が広がる。雲などのエフェクトはオプションからオン/オフ可能だ |
プレイヤーは神聖ローマ帝国やアラゴン,リトアニア,ファーティマ朝イスラム,東方の騎馬民族国家までのさまざまな勢力から担当国を選び,その繁栄を目指す。国家の運営には経済,外交,内政,軍事,宗教といったさまざまな要素が絡み合うが,本作ではそれらが"宮廷の人材"を核に組み上げられている。
特定産物の輸出入,軍隊の指揮,諜報,布教など重要な統治行為には,宮廷の誰かを必ず担当に就ける必要があり,プレイヤーはその担当に命令を下すという形でコマンドを実行する。担当は兼任できないので,例えば軍隊2部隊とスパイ,貿易担当が欲しければ必ず4名の人材が必要になる。その一方で国がどれだけ大きくなろうと宮廷の構成人員は9名が上限,つまり貿易ルートはどうやっても9本,軍隊は9部隊までしか持てないということだ。
収税や建設はゲーム上半自動的に処理されるが,これらの効率を上げる「領主」「建築家」といったスタッフも置ける。ただし彼らも9人の枠を消費するのでなかなか頭が痛い。
宮廷の人材を確保するには,「廷臣から雇う」か「王家の家族を就任させる」ことになる。前者で起用した人材は歳をとって亡くなることはなく(一族の世襲職のようなものだろう),積み上げた経験,とくに軍隊指令官で重要な特殊スキルも維持されるが,ときに国庫を圧迫するほどの給与を支払う必要がある。一方後者は無給で働くし,技能にも習熟していくのだが,こちらには寿命がある。限られた人的資産のなかで,国の現況に合わせた人材管理と育成を行うのがプレイのポイントになる。
本作において,王家の子孫は男女各3名までしか誕生しない。男子のうち1名が将来王国を継ぐわけだが,王位継承者はプレイヤーが指定でき,その段階で兄弟姉妹はゲームから消滅する。均分相続やら長子単独相続やらといったヒストリカルな相続制度に縛られてはいないわけだ。また,国王の直接の血筋が存在しない場合,宮廷のメンバーのうち誰かが自動的に国王になる。
廷臣から雇われたスタッフが王位に就くと,さすがに"歳をとっても死なない"特性は外される。それゆえ――これは実にリアリティを欠いた痛みだが――最前線で戦い続けてきた優秀な将軍が国王になってしまうと,プレイヤーのショックは実に大きい。
ちなみに,本作において後継者争いはイベントとして起こる。「世継ぎ問題」イベントが発生すると大規模な反乱に発展し,独立国家が生まれることもあるので,油断は禁物だ。
ゲーム開始前の国選択画面。国家のバリエーションはかなり広い。イスラム圏など"異教徒"の国家も選択できる | 軍隊司令官を選択。現在どういう状況にあるかが一目で分かること,またショートカット移動がボタンで実装されているのは便利 | 国家予算のバランスシート。外来品(香辛料,象牙など)の輸入に莫大な投資をしているが,人件費も意外とばかにならない |
商人に取引先を選ばせる。右側の数値は,その国との交易で得られる財貨。利益を求めるもよし,特定産品の入手に重きをおくもよしだ | スパイを他国に送り込んで反乱を煽動することもできるが,国内に置いておけば自動的に他国からのスパイ対策をしてくれる | 王家の一覧。このゲームはタイムスケールが明らかでなく,「いま何年か」ははっきりしない。国王の年齢についても同様だ |
■「都市」に施設を建てて内政と軍事を充実させる
街の情報。王室に慶事があると反乱の可能性が下がるのは面白い。一方,外交的失敗は反乱の発生率上昇につながる |
都市にはそれぞれ「生産物」が設定され,軍事/生産施設を建てられるスロットが18個用意されている。生産施設には,特定の資材が作れる都市にしか建設できないものもある。例えば「造船所」なら「索具」の生産が前提となるし,索具の生産には「蜜蝋工場」「道具鍛冶」「麻畑」が必要だ。さらに蜜蝋工場は「養蜂場」が必須で,そもそもこれらの施設を建てるには,その都市に"肥えた土地"があるかどうかが問題になる。
国を豊かにする生産物や強力な軍事ユニットほど必要条件が増え,結果として多くのスロットを消費する。18スロットもあるのだから問題なかろうと思うのは早計だ。例えばその都市に軍事関係施設が1個もないと軍隊の新規雇用ができないし,「城壁」を作らなければ無防備なままになるが,これも1スロットを消費する。
さらに都市住民,ひいては国民の満足度パラメータを上げるためには「宿屋」や「彫刻家ギルド」なども建てる必要があり,18スロットなど瞬く間に埋まってしまう。これをどうにかするには,生産できない物を海外から輸入するしかない。他国と貿易協定を結んで宮廷に管理スタッフを置けば,物資をまかないつつ,利益を上げることも可能になる。
政治マップ。この画面で見ると,このゲームの「エリア」管理の考え方がよく分かる。ほかにも各種の重要情報が整理されている | 街に施設を建設する。このように,1か所の街が備える18の建設スロットなど,経済と軍事の必要からあっという間に埋まってしまう | メリットの大きな施設の建設には,たいていいろいろな前提条件がある。例えば「港」の建設には,前提として「船着場」が必要だ |
街で兵士を雇用する。強力なユニットの雇用には,これまた前提条件が多く,軍の補給源となる街はたいていそれ一色に染まる | まず貿易協定を結ばないと,その国との交易はできない。新国家が誕生すると,周辺で活発な貿易協定外交が展開される | 「王国の利点」。「外来品」が条件として含まれるものが多いので,経済的に強固な国づくりをしないとコンプリートは難しい |
■RTS戦闘の存在意義はプレイスタイル次第
いや,別段筆者はイスラム教徒ではないが,とりあえず一つの成果として。ファーティマ朝のような非キリスト教国でも頑張れるのがよいところ |
最大で9部隊+攻城兵器が指揮でき,長射程の兵科で有用な"横隊",防御に強い"方陣",騎兵で多用される突撃用の"楔形"陣形,混戦時に有利だが射撃に弱い"密集"隊形,それとちょうど逆の"拡散"(……散兵?)という,5種類の陣形を使い分けつつ戦う。
操作はいたってオーソドックスだが,気をつけたいのが部隊の方向だ。陣形にもよるが,各部隊は側面や背後を突かれるともろいので,「旋回」をうまく使って自軍の正面で敵軍の側背面を突けるよう工夫したい。
また,指揮官が戦死すると即敗北。マップはけっこう広いので足の速い部隊の動向には注意しておきたい。もちろんこれを逆用して一発逆転を狙うことも可能であり,寡兵を以って多数に対するときの基本戦術ともなる。
では先刻の指揮官の問いに,ノーと答えるとどうなるか? RTSに移行せず,戦略画面のまま戦闘が自動解決されるのだ。せっかく作り込まれたRTS戦闘を,本作ではスキップ可能なのである。
だが,ここがまさに本作の優れた点だと筆者は思う。戦場で兵を縦横に駆使して敵を打ち破るのも確かにゲームの楽しみだが,本作はそれ以前に内政の整備,経済の活性化,外交の妙を追求する戦略級ゲームだ。そして,戦略レベルで事がうまく運んでいるなら,個々の戦闘では必ずしもムチャな頑張りを見せなくてもよい。本作はそのように設計されている。
とはいえRTS戦闘そのものがムダなのかといわれれば,決してそんなことはない。あらゆるゲーム内要素を動員して不利な国でヨーロッパ制覇を目指す場合はもちろんのこと,例えばゲーム内で集計される「いま最も愛されている国王」ランキングを意識してプレイするなら,RTSでのぎりぎりの勝利追求は欠かせない道具立てだ。ストラテジーゲームで国民に愛され,外交的にも誠実さを謳われるプレイがどれだけ荊の道かは,今さら説明するまでもないだろう。
そうしたこだわりに基づくプレイはさておき,本作には"ヨーロッパ最高皇帝"に選ばれるという勝利の形もある。これには最強クラスの国々のうち3分の2の賛同を取りつける必要があり,いわば外交的勝利というべきものだ。
また,ゲーム内で10種類設定された高度な成果(物)「王国の利点」がすべて自国にもたらされるようにするという勝利方法もある。1種類ごとに獲得される達成ボーナスも重要なのだが,香辛料や輝石など海のかなたから輸入するほかない物品も必要で,これはつまり経済的・技術的勝利である。
リアリティの見地でいえば,本作には多分に誇張された,あるいは捨象された要素があり,歴史好きには少々食い足りないかもしれない。また,施設の建設命令がスタックさせられない,メイン画面に用意されたコマンドボタンが少ないといった瑣末な不満は確かにある。
だが,ゲーム性や遊びやすさは総じて高レベルにあり,日本語でプレイできる西洋史ゲームとしては類作皆無の貴重なポジションを占めている。冒頭でも述べたが,気軽に遊べる西欧中世版"三國志"として広くお勧めできる好ゲームである。
リアルタイム性の強い戦闘シーン。慣れないと多数でかかっても簡単に撃破されてしまう。指揮官が死ぬと負けなのがポイントだ | 左の写真とほぼ同じ地域での戦闘だが,RTS戦闘をスキップしてみた。軍隊の質・量と指揮官の練度で勝っているなら,こちらもアリ | オンラインヘルプの画面。一部の用語が付属のマニュアルと食い違っていたりもするがプレイに必要なことは一通り解説されている |
戦闘開始直後。左上の騎士のシルエットのうち,人物像の入っていないほうをクリックすると,近くにいる味方への援軍要請になる | 投石器で城壁を破壊したところ。城門を歩兵に壊させることも可能だが,飛び道具による迎撃で大損害を受ける恐れがある | 城の内部に侵入する。前面を重歩兵が支え、その後方から火矢が敵軍に雨あられと降り注ぐ。比較的オーソドックスな戦い方だ |
ヨーロッパ最高皇帝(……って何?)の選挙。これに勝つのはかなり難しいので,反対票を投ずるような国王と国家は即打倒である | 神聖ローマがアルスターと不可侵条約,レンスターと同盟状態のとき,アルスターがレンスターに宣戦。揺れる意思がゲージに出ている | ランキング項目は多岐にわたり,難しいのが「尊敬度」。これらを踏まえて「いま最も愛されている国王」などの発表がある |