レビュー : Core 2 Duo E4300/1.80GHz

800MHzシステムバスのローエンドCore 2 Duoに価値はあるのか

Core 2 Duo E4300/1.80GHz

Text by 宮崎真一
2007年1月22日

 

Core 2 Duo E4300

 2007年1月21日,Intelはデスクトップ向けCore 2 Duoシリーズの最下位モデルとなる「Core 2 Duo E4300/1.80GHz」を発売した。従来のCore 2 Duo E6000番台から差別化された,E4000番台のプロセッサナンバーからも想像できるように,スペック面でいくつか明確な制限が設けられるローエンド向けモデルとなる。

 

 スペックは下の表1に示すとおりだが,一言でまとめるなら,Core 2 Duo E4300が持つ最大の特徴は,システムバスクロックが従来の1066MHzから800MHzに抑えられた点だ。これに伴って,Intel 975X ExpressやIntel 965 Expressシリーズといった既存のCore 2ファミリー正式対応チップセットに加えて,Intel 945 Expressシリーズのチップセットも新たにサポートされるようになった。

 

 

 PCパーツ市場の動向に詳しい読者なら,Intel 965 Expressのリリース以降,Intel 945 Expressを搭載しながら,Core 2 Duoをサポートした製品がいくつか発売されたのを覚えているだろう。あれはあくまでマザーボードメーカーの独自対応であって,Intelの保証外だったが,Core 2 Duo E4300では,CPU側で正式にIntel 945 Expressをサポートする。そのため,PCメーカーも,大手を振ってIntel 945 ExpressマザーボードとCore 2 Duo E4300を組み合わせた安価なCore 2ファミリー搭載PCを製造できるというわけだ。誤解を恐れずに断じるなら,Core 2 Duo E4300は,安価なラインナップを拡充したいPCメーカー向けの製品なのである。
 Intel 945 Express搭載マザーボードは,そもそもPentium 4/Dファミリー向けのため,Core 2ファミリーに非対応のものが多い。Core 2 Duo E4300は,確かにIntel 945 Expressマザーボードに対応したが,一昔前のPentium 4/Dシステムから,CPUを乗せ換えるだけでCore 2へ移行できるアップグレードパスではないので,くれぐれも注意しておこう。

 

Core 2 Duo E4300(左)とCore 2 Duo E6300(右)の“底面”を比較してみた。部品の実装点数が少なくなっている

 表1に戻ると,L2キャッシュ容量は「Core 2 Duo E6300/1.86GHz」と同じ2MBだが,実は内部構造が大きく変更されている。というのも,Core 2 Duo E6300(や「Core 2 Duo E6400/2.13GHz」)は,L2キャッシュ容量4MBの上位モデルから,2MB分を無効にして実現したCPU。「Allendale」(アレンデール)という開発コードネームこそ与えられているものの,実質的には「Core 2 Duo E6600/2.40GHz」以上の「Conroe」(コンロー,開発コードネーム)と同じCPUコアなのに対し,Core 2 Duo E4300は,はじめからL2キャッシュ容量が2MBとなっているのだ。これは,製造コストなど,さまざまな理由によるものと思われ,Intelの関係者によれば,今後はCore 2 Duo E6300/E6400も,Core 2 Duo E4300と同じ,新しいコアへ置き換わっていくという。
 このほか,4Gamerの読者にはあまり関係のない機能だが,Core 2 Duo E4300では仮想化技術「Intel Virtualization Technology」が用意されていないのも,上位モデルとの差別化ポイントとなる。

 

「CPU-Z 1.38」の実行結果。CPUIDは「6F2」(06F2h,製品版でも同じ。ステッピングもL2で同じだ)で,Core 2 Duo E6000番台の「6F6」とは異なっている(※画像をクリックすると別ウインドウで全体を表示します)

 

 

試用した個体では
オーバークロックで動作周波数3GHzを実現

 

 新しいCPUコアを採用することで,オーバークロック耐性が心配になった人も少なくないだろう。Core 2 Duo E6300や同E6400のオーバークロックテストは以前行ったことがあるが,果たして既存モデルと同じような耐性があるのかどうか。コスト重視でCPUを選択する人は,そこが気になることと思う。

 

FSB 200MHz×9が規定動作となるCore 2 Duo E4300をFSB 333MHz×9で動作させることに成功した

 そこで今回は,4Gamerが独自に入手した,Core 2 Duo E4300のPCメーカー向け性能検証用サンプル(=エンジニアリングサンプル)を用いて,オーバークロック耐性を検証してみることにした。
 オーバークロックに当たっては,BIOSからFSBクロックのみを変更することで動作クロックを高めていき,4Gamerハードウェアベンチマークレギュレーション3.0が規定しているテストすべてが問題なく動作する最高動作クロックを調査するという手段を採用。すると,FSB 333MHz(1333MHzシステムバス),動作クロック3GHzでの動作を確認できた。なお,CPU製品ボックス付属の空冷クーラーでは,これ以上電圧設定を上昇させてもクロックは上がらなかった。

 

 ただし,先ほども触れたように,今回入手した個体はエンジニアリングサンプルなので,製品版とは傾向が若干異なっている可能性が否定できない点は,あらかじめお断りしておきたい。
 また,個体差も当然ある。すべてのCore 2 Duo E4300が3GHzで動作するわけではない。オーバークロック動作はメーカー保証外の行為であり,最悪の場合はCPUを壊してしまったり,CPUの“寿命”を著しく縮める危険があるので,試してみる場合は,あくまで読者自身の責任において行う必要がある。本稿を参考にオーバークロックを試みた結果,何か問題が発生したとしても,Intelやショップはもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負わないので,十分に注意してほしい。

 

 今回は,この3GHz動作のCore 2 Duo E4300(以下Core 2 Duo E4300@3GHz)を,似た動作クロックの「Core 2 Extreme X6800/2.93GHz」と比較してみることにする。また,定格動作時の性能をチェックするため,同じ価格帯に属するCore 2 Duo E6300並びに「Athlon 64 X2 4200+/2.2GHz」(Socket AM2,L2キャッシュ512KB×2,90nmプロセス製造,TDP89W)も,比較対象として用意した。
 ただし,機材調達の都合上,Athlon 64 X2 4200+に関しては,編集部で独自に入手した「Athlon 64 X2 5000+/2.6GHz」からの倍率変更で対応する。

 

 以上を踏まえつつ,テスト環境は表2にまとめた。ベンチマークレギュレーションはVersion 3.0準拠だが,CPUの性能差を見るため,グラフィックスカードの依存性が高い「高負荷設定」時およびディスプレイ解像度1920×1200ドット時のスコアは計測していない。

 

 

 

Core 2 Duo E6300比で5%前後の性能ダウン
3GHz動作時はCore 2 Extreme X6800を超える場面も

 

 まずは,「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3DMark06)のテスト結果から(グラフ1,2)。CPU Scoreだけを抽出した場合,Core 2 Duo E4300はCore 2 Duo E6300やAthlon 64 X2 4200+よりも低いスコアとなっているが,総合スコアではそれほど大きな差になっていない。
 また,Core 2 Duo E4300@3GHzに注目すると,いずれの場合もCore 2 Duo X6800と互角以上のスコアとなっており,実クロック3GHzの威力を確認できよう。

 

 

 

 グラフ3は「3DMark05 Build 1.3.0」の総合スコアを比較したもの。3DMark06よりも描画負荷が低いためか,グラフ2と同じような,「Core 2 Duo E6300>Athlon 64 X2 4200+>Core 2 Duo E4300」という関係になっている。
 Core 2 Duo E4300@3GHzとCore 2 Extreme X6800がほぼ互角のスコアなのも,3DMark06と同様だ。

 

 

 実際のゲームにおけるパフォーマンス比較に移ろう。まず「Quake 4」(Version 1.2)における平均フレームレートを比較した結果をグラフ4にまとめた。
 はっきり言って,Core 2 Duo E4300のパフォーマンスは今一つである。Core 2 Duo E4300@3GHzはL2キャッシュ容量がCore 2 Extremeの半分しかないこと,定格となる1.80GHz動作時には,純粋に動作クロックが低いことがマイナスに影響しているのが見て取れる。

 

 

 続いて,「Half-Life 2: Episode One」のテスト結果を見てみる(グラフ5)。
 Half-Life 2: Episode Oneでは,解像度が高くなるに従ってCPUの違いがスコアに表れにくくなるが,低解像度だと,Quake 4とは異なり,Core 2 Duo E4300のスコアがAthlon 64 X2 4200+のそれをしのいでしている。Core 2 Duo E4300@3GHzはCore 2 Extreme X6800と互角の結果だ。
 L2キャッシュ容量の“しきい値”が512KB〜2MBの間にあって,それをクリアすると,L2キャッシュ容量の差が出にくくなっている,そんな印象を受ける。

 

 

 L2キャッシュ容量の違いがフレームレートを左右しやすい「F.E.A.R.」(Version 1.08)だと,そのしきい値がもっと高くなるようで,Core 2 Duo E4300@3GHzがCore 2 Extreme X6800に置いて行かれる(グラフ6)。一方,定格動作時はAthlon 64 X2 4200+に完勝だ。

 

 

 「Company of Heroes」(Version 1.4)は,描画負荷が高いため,F.E.A.R.ほど分かりやすくないものの,傾向としてはF.E.A.R.と同じ(グラフ7)。GeForce 7900 GTXと組み合わせた今回のテスト環境に限って述べるなら――現実的なRTSのプレイ解像度は最高でも1280×1024ドットがいいところなのを考えると――Core 2 Duo E4300でも問題なくCompany of Heroesは遊べると言っていいだろう。逆に,オーバークロックのメリットはほとんどない。

 

 

 グラフ8は「GTR2 - FIA GT Racing Game」(以下GTR2)のテスト結果だ。  GTR2は動作クロックの影響力が強いようで,少なくともCore 2ファミリーにおいては,L2キャッシュ容量を問わず,純粋に動作クロック順のスコアとなっている。Athlon 64 X2 4200+が一歩置いて行かれているが,ハイエンドグラフィックスカードを利用したときの合格ラインが平均60fpsなので,いずれも問題ないレベルにあるとは言えそうである。

 

 

 最後に,扱うデータ量がL2キャッシュでまかなえる量を大きく超えるため,動作クロックとメモリアクセス性能がスコアを左右しやすい「Lineage II」のテスト結果をグラフ9にまとめた。
 ここでは,純粋に動作クロックが高いCore 2 Duo E4300@3GHzと,メモリコントローラを内蔵するAthlon 64 X2 4200+の優位性を確認できる。

 

 

 

動作クロックが1.20GHzまで下がる
アイドル時の低消費電力は出色

 

 システム全体の消費電力を,ワットチェッカーで測定してみた。ここではOS起動後30分放置した直後を「アイドル時」,なるべくCPUのみに負荷をかけるべく,MP3エンコードソフトをベースとしたベンチマークソフト「午後べんち」を30分間実行し,最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれにおける消費電力を計測した。
 ここで注意してほしいのは,前述したとおり,Athlon 64 X2 4200+がAthlon 64 X2 5000+からの倍率変更で実現したものであることだ。当然,消費電力のスコアは参考程度となるため,誤解を招かないよう,直接の比較に適さないスコアは以下バーの色をグレーに変更してある。このことを踏まえて,結果をスコアとしてまとめたグラフ10を見てほしい。

 

 アイドル時においては,Enhanced Intel SpeedStep Technology(EIST)もしくはCool’n’Quiet(CnQ)の有効/無効を分けてデータ化したので,参考にしてほしい。Core 2 Duo E4300は,アイドル時のクロックが1.20GHz(Core 2 Duo E6000番台は1.60GHz)が低いこともあって,消費電力は確実に低下している。
 また,オーバークロックを行なうと消費電力も大きく上昇してしまっているが,それでもCore 2 Extreme X6800と同等レベルで,悲惨な状況にはなっていない。消費電力面に不安はなさそうだ。

 

 

 グラフ10のアイドル時と高負荷時におけるCPU温度を計測した結果をまとめたのがグラフ11である。
 ここでは,CPUのデジタル温度センサーで計測される値を読み取るため,マザーボードに依存しない温度測定が可能な汎用のCPU温度測定用フリーソフトウェア,「CoreTemp」を用いているが,やはりここでも,アイドル時に大きく動作クロックを落とすCore 2 Duo E4300のメリットを確認できる。PCケースに組み込まない,いわゆるバラックの状態で測定した今回のテスト環境において,Core 2 Duo E6300より一段低いレベルを実現している点は素直に賞賛すべきだ。
 高負荷時はCore 2 Duo E6300と同程度であるものの,両者のTDP(熱設計消費電力)は同じ65Wなので,これは当然といえば当然の結果。Core 2 Duo E4300@3GHzは,L2キャッシュ用のスペースがはじめからない分だけ,Core 2 Extreme X6800より冷却面で有利なようである。

 

 

 

ネックは価格だけか?
E6300より安価になれば面白い

 

 最後にゲーム以外,システム全体のパフォーマンスを「PCMark05 Build 1.2.0」で取得して,参考までグラフ12にまとめてみた。CPUテストの詳細は別途表3に示したので,こちらも興味のある人はチェックしてみてほしい。

 

 

EISTを有効化して,アイドル時に動作クロックが1.20GHzまで低下した例

 さて,ここまで主にゲーム用途におけるCore 2 Duo E4300の有効性を探ってみたが,定格動作を行う限り,やはりCore 2 Duo E6300には一歩及ばない結果となった。
 価格はCore 2 Duo E4300と同E6300の両方とも2万3000円前後(2007年1月22日現在)。もちろんショップによって若干の違いはあるが,基本的には同じ価格帯なので,定格動作を前提に考えるなら,Core 2 Duo E6300が正しい選択だ。「どうしてもCore 2ファミリー対応のIntel 945 Express搭載システムで使いたい」とか,「消費電力をできる限り抑えたい」とかいうのでなければ,ゲーム用途を考慮してCore 2 Duo E4300を積極的に選択する理由はあまりない。

 

 同じく1月22日時点の実勢価格で2万1000円前後となるAthlon 64 X2 4200+との比較では,Quake 4とLineage II以外でCore 2 Duo E4300が優位という結果だった。やはりCore 2ファミリーらしいゲームでの強さはあるものの,2万円前後という枠内で比較するなら,総合的にはほぼ互角と見るのが正しいと思われる。

 

 ただ,オーバークロック動作が“ハマった”ときの性能向上度合いは,実に素晴らしい。2万円程度で購入できるCPUが,13万円近くするCore 2 Extreme X6800に迫るスコアを叩き出した点は特筆に値する。
 FSB 266MHzの7倍設定(=Core 2 Duo E6300)とFSB 200MHzの9倍設定(=Core 2 Duo E4300)。そのどちらにより魅力を感じるかは人それぞれだが,Core 2 Duo E6300の価格はそのままに,Core 2 Duo E4300だけが店頭価格で2万円を割り込んでくるようなことがあれば,オーバークロックを試したいユーザーにとって,面白い存在になってくるのは確かだろう。

 

タイトル Core 2
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/07/27 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A

(C)2006 Intel Corporation

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http://www.4gamer.net/review/core_2_duo_e4300/core_2_duo_e4300.shtml