― プレビュー ―
時間軸を積極的にゲームシステムへ取り入れたMMORPG
ベルアイル
Text by 川崎政一郎
2005年02月16日

※2月18日,戦闘システムとテンポの問題を中心に記事を加筆しました。

 

■スキルベースの成長システムを採用した国産MMORPG


ベルアイルはスキルベースのMMORPG。自分の行動によって自然と能力面に個性が表れる仕様だ
 今回紹介する「ベルアイル」は,3DベースのファンタジーMMORPGだ。カードゲームを多数手がけるオーアールジーが企画を担当し,開発は「ディプスファンタジア」を制作したヘッドロックが行うという日本製のタイトルである。
 正式サービスの開始時期は2005年度内を予定しており,現在の開発状況としては,2月14日からクローズドβテスト・第2フェイズに入ったところだ。そのためゲーム内では頻繁にバージョンアップが行われている状態で,本稿では細かいバランス面はひとまず置いておき,主な特徴から紹介していこう。

 基本部分から触れていくとしよう。本作におけるキャラクターの成長は,スキルベースのシステムが採用されている。一般的なクラスやレベルといった概念はなく,自分の行動の一つ一つに応じて各スキルが伸びてゆき,それによってキャラクターが個性づけられる。
 本作に登場するスキルは合計で68種類あり,大別すると"各種武器" "防御" "魔法" "合成及び採取" "その他"といったところだ。スキル合計値には限りがあるため,あれもこれもというわけにはいかない。キャラクターの方向性を大きく分けると,実質的には「肉弾戦,魔法,生産」という3系統のいずれかに属することになるだろう。もちろん,ハイブリッドなスキル構成のキャラクターも育成可能だ。

 これらのスキルに関連した,ユニークなシステムがいくつかある。まず肉弾戦闘に関してだが,本作の戦闘はオートとマニュアルの2パターンから任意選択できる。ここでマニュアルを選択した場合は,タイミング良くクリックすることで「連続攻撃」,数秒間押しっぱなしによる「タメ攻撃」という,2種類の特殊攻撃が可能となるのだ。イメージ的には「ファンタシースターオンライン」に近く,MMORPGでありながらアクション性をも取り入れた戦闘システムとなっている。
 これらの特殊攻撃は,装備品による影響もあり,例えば「軽装備で間断なく連続攻撃を狙うアタッカー役」や「重装備で敵からの攻撃を一手に引き受けつつ,タメ攻撃を狙うタンク役」といった役割分担が可能である。また,攻撃系のスキル一つを取っても剣や斧,そして槍など10種類以上があり,同じ肉弾戦を専攻するキャラクターでも,さまざまなタイプが存在するのだ。

 魔法システムも実にユニークである。これらは「真言魔術」と呼ばれ,詠唱時には最初に,呪文書とペンを両手に持つ。そして各魔法に応じた名称を,キーボードから直接タイピングすることで発動させるのだ。
 オールドゲーマーなら「Wizardry」を思い出すシステムだが,ピンチに陥ったときでも決して慌てず,冷静に入力せねばならないというのがMMORPGとして新鮮だ。

 ゲーム全体の難度に関しては,ソロプレイとパーティプレイのどちらでもつまずかないよう調整されており,例えば一人でも遂行可能なクエストも豊富に用意されている。
 学生や社会人といった,まとまった時間を確保しにくいプレイヤーでも満喫でき,どちらかというとライト寄りのゲームバランスといえるだろう。

 

各スキルは個別に「増大/減少/固定」の指定を行える。これで予期せぬ方向への成長を,ある程度は防げる 呪文詠唱時は,画面中央のウィンドウに直接タイピングする。赤いゲージが制限時間なので焦らないように 時間内にタイピングが終わると,そこで初めて魔法が発動する。なんともユニークなシステムだ

 

倒した敵には,ナイフで皮を剥いだりといった加工作業を行える。もちろん,この作業にもスキル判定がある 合成を行うにはレシピを購入せねばならない。スキルの合計量に限りがあるため,どれを専攻するか悩ましい 斧を手に伐採している最中。資源採取時には,このように独自の工具が必要となる

 

 

■時間の概念がさまざまな局面に直接影響を与える


本作で選べる種族は人間のみ。年齢に応じた個性があるため,種族が少ないといった印象はそれほどない
 本作における最大の特徴は,「時間」の概念がゲーム内のさまざまなシステムに影響を与えていることだ。例えばキャラクターのステータス中には「年齢」という項目があり,実時間の経過に応じて増えてゆく。具体的には現実世界の30分が,ゲーム内の1日に相当。従って現実世界の約8日間で,ゲーム内の1年分に相当する計算だ。

 年齢の変化は,キャラクターに直接影響を与える。最も大きいのは,年齢に比例してステータス等の上限値が増えることだ。普通に考えて少年期より青年期,青年期より壮年期の方が人間的に熟達しているわけで,これをゲームシステム面に反映させている。
 さらにキャラクターのモデリングも,現状では19歳以上と未満とで2種類が用意されている(老人タイプも追加予定)。プレイヤーがログインしている/していないに関わらずキャラクターの年齢は自動的に加算されるため,ベルアイルの世界に実際に生きているのだという実感を得られるだろう。

 時間の経過による影響は,ほかにもある。現実世界の数日単位で四季が大きく変化し,それに応じてゲーム内の景観も変化するのだ。これはエリアにおける春夏秋冬の見た目だけに留まらず,例えば春先には草花が生い茂り,植物や動物からの資源採取量がアップする。冬の間にしか出現しない白ウサギといった動物も存在する。四季の変化が,冒険者にとっての実利面にも影響を与えているのだ。

 そのほか,ログインしていない間もキャラクターにとっての時間が経過することを利用した,ユニークなシステムがある。本拠地のみに限られるものの,ログオフするときに上げておきたいスキルを指定すると,そのスキルが自動的に成長するのだ(ゲーム中では「アウトオブゲーム」と記述)。もちろんログインして直接操作するよりも成長は緩やかになるものの,ライトユーザーには嬉しいシステムである。

 既存のMMORPGタイトルにおいて「時間」とは,ただ単純に昼夜が変化するだけに過ぎない場合が多かった。しかし本作においては,もっとさまざまな局面に直接係わってきているのが分かるだろう。

 

写真は成人の女性。国内メーカーが制作しているだけあって,キャラクターのモデリングに違和感は感じられない 18歳以下の場合は子供用のモデリングが用意されている。年齢が外見にもしっかりと反映されているのだ こちらは成人男性。本作はゆくゆくは結婚を想定しているためか,一部を除き美男美女のモデリングが多い

 

桜の咲く並木道。伐採時に得られる採取量が多いため,これを狙った冒険者が集まっている 一転してこちらは冬。同じエリアでも,季節によってその印象はがらりと変わってくるのだ ゲーム内の日時に合わせたカレンダーも存在する。ここまで時間の流れにこだわったMMORPGは初だろう

 

 

■結婚,出産,子孫への遺伝。今後が楽しみなMMORPG


従来のMMOにおける結婚はロールプレイ面での意味合いが強かったが,本作では子孫(次世代キャラ)の誕生という重要な意味を持つ
 現在のクローズドβテスト・第2フェイズではまだ実装されていないものの,本作にとってある意味最大の焦点となるため,念のためここで紹介しておこう。先述の時間経過に関連したシステムだが,18歳以上のキャラクターは異性と「結婚」ができる。しかもそれだけではなく「出産→子育て→教育」を経て,親の能力が子供へ継承される。そしてゆくゆくは新たなキャラクターとして,プレイヤーが操作可能となるのだ。

 0〜5歳の間は「育成期間」となっており,プレイヤーが操作することはできない。この期間中は親は子供に対し,公園であやしたり食べ物をあげたりと,さまざまな教育で見守るだけである。しかし,ここで手を抜いてはならない。親がどのような子育てをするかによって,子供の能力値に影響が出てくるのだ。
 そして6歳以降は,実際にプレイ可能なキャラクターとして追加される。ただし二世キャラクターでプレイするには,親キャラクターが引退する必要がある。作成できるキャラクター数はアカウントあたり1体のみだが,子供が誕生することでプレイ可能キャラクターが増えていくというわけではない。

 先述したように,本作では年齢に比例して能力値が変化する。よって,プレイヤーが操作できるようになった直後の6歳児の段階では,冒険者としてモンスター相手に大暴れ,といった活躍は考えにくい。しかし一方で街の中には,子供の成長を促進するための学校といった施設がある。
 さすがに結婚から出産への過程は簡略化する必要がありそうだが,養育費に頭を悩ませる冒険者パパや,公園デビューの若奥様,といったユニークな展開は大いに期待できる。このような光景は,今までのMMORPGではほとんどなかったものであり,少なくとも3Dタイプの作品では初だろう。

 ファンタジーMMORPGは,すでに多数のタイトルがリリースされているが,本作は時間を軸にした,ほかには見られないアイデアを,これでもかというくらいに数多く盛り込んでいる。
 現在はタイトルの発表から間もなく,認知度はまだまだこれからといったところだ。しかし,本年度のダークホース的存在となる可能性を感じさせる内容である。子孫や遺伝を始めとした,今後のβテスト展開に引き続き注目していきたい。

 

■2005年2月18日 追記

 2月16日に掲載した「ベルアイル」のプレビュー記事で,「戦闘」などのテンポの問題について,編集部サイドの意見を受ける形で追記文を掲載することにした。

 ベルアイルの戦闘は,連続攻撃やタイピング呪文詠唱といった手動システムをウリにしており,その結果,戦闘全体のテンポが若干遅い印象を受ける。おそらくは「アクション性を持つ手動戦闘」を実現するために,タイムラグを考慮したうえで,あえて現在のテンポに設定したものだと思われる。

 例えば「エバークエストII」や「リネージュII」の勢いある戦闘に比べると,「ベルアイル」の戦闘は,全体的にもっさりしているのは否めない。しかし,仮に現状のまま戦闘テンポを引き上げたとすると,パーティプレイ時の手動戦闘や魔法詠唱のタイピングにおいて,ライトゲーマー層はついてこれなくなる危険がある。一見かったるく感じるかもしれない戦闘だが,これは先述の手動戦闘システムに由来するベルアイルの個性と受け止めるべきだろう。

 現在はまだクローズドβテスト中であるから,プレイヤーからの要望が多く,また技術的に可能であれば,攻撃間隔を短めに修正することで改善される可能性もある。もっとも,戦闘以外でも目に付くテンポの悪さ,例えば移動の遅さといった面については,βテスト中の改善に期待したいところだ。

 

本作には,それぞれ個性の違う三つの国が登場。キャラクター作成時にどの国に所属するのかを選択できる キャラクターは条件を満たすことで,国に仕官できる。給金を貰えたりといった,さまざまな恩恵を得られる 街の出入口などの要所には自然と人が集まる。吹き出しによる会話も方々で行われ,とても賑やかな雰囲気

 

要所間を移動するための施設。振り子のような巨大な機械で,人が乗った球を飛ばすという豪快な仕掛けだ とくにチュートリアル関連がとても良くできていると感じた。個性豊かな仕様が多いだけにありがたい 従来のファンタジーとは一風変わった世界観にも注目。頭上を見上げると数多くの美しい月を眺められる

 

タイトル ベルアイル
開発元 ヘッドロック 発売元 VerX
発売日 2006/05/25 価格 基本プレイ無料
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 8.1以上),CPU:Pentium III/800MHz以上[Pentium 4以上推奨],メモリ:256MB以上[1GB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 4 Ti以上[GeForce FX以上推奨],HDD空き容量:6GB以上

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