・カレイドスコープ
共通の「ローダ」部分と,シナリオ部分が別に販売されるという仕組みで話題になった作品。実現はソーサリアンより先だが,難度が高すぎるなど問題も多く,残念ながらシナリオは計2本しか販売されなかった
さて,では初代「ソーサリアン」に話を移します。ゲームの基本部分とシナリオが別々に用意されているというゲームシステムは,当時としてはかなり画期的なものでしたよね。HOT-Bの「カレイドスコープ」(1985年)も同じところを目指していたのだと思いますが,このシステムのアイデアは,どういったところから生まれてきたのでしょうか?
木屋氏:
ソーサリアンについては,実は「コンストラクションキットを作りたい」というのが,そもそもの出発点です。誰もがシナリオを作れるように,というつもりだったんですが,さすがに一般の人にはちょっと難しすぎたみたいですね(笑)。
4Gamer:
なるほど,コンストラクションキットだったわけですか。でも実際,ソフトベンダーTAKERU(ブラザー工業)など,ファルコム以外でもシナリオが作られたわけですから,その目論見は半ば成功といえるのではないでしょうか。そういった,ファルコムや他社による追加シナリオによる拡張が,ソーサリアンの魅力の一つになっていましたよね。
ではほかには,どういったものがソーサリアンのアイデアになっていますか?
木屋氏:
ドラゴンスレイヤーや,その後の作品を作っていく中で,やりたいと思ってもできなかったいろいろなことが,自分の中に溜まっていったんですね。しかし,だんだん技術力もついてきて,そういったものが実現可能になった。それらを,とにかく入れられるだけ詰め込んだのが,ソーサリアンなんです。
4Gamer:
具体的には,どういった部分でしょうか?
木屋氏:
技術的な部分では,全画面スクロールとマルチウィンドウの実現に意地になっていましたね。
・ハイドライドII
木屋氏にソーサリアン開発の動機を与えることになった,「ハイドライドII」。こちらもまた,日本PCゲーム史に残る名作である。グールに話しかけて,その返事に思わず脱力してしまったのは筆者だけではあるまい
あれ,確かT&E SOFT(※3)の「ハイドライドII」(1986年)が,マルチウィンドウをウリにしていましたよね。
木屋氏:
ええ,まさに。ザナドゥを作ったときに,「ハイドライドIIはマルチウィンドウだ」と言われたわけですよ。でも,自分はファルコムで,Macintoshとか見ていましたから,「ハイドライドIIはマルチウィンドウとは違う」と思っていたんです。ただ重ね描きするのは,本当のマルチウィンドウではないと。それで,自分で作ってやろうと考えたんです。
ソーサリアンの街の画面では,お店などでたくさんのウィンドウが開くんですが,それが重ね描きだと思われるのが悔しいので,わざと下にあるウィンドウから閉じたりとか,やっていましたね(笑)。
4Gamer:
そんな戦いがあったんですね(笑)。やはり当時は,木屋さんとしてもハイドライド(※4)などを意識していたんですか?
木屋氏:
意識していないと言えば,ウソになりますね。ただ,そのゲームそのものを意識していたんじゃなくて,当時のゲーム雑誌の人気ランキングで,一位になってやろうというこだわりの持ち方ですけどね。
4Gamer:
ザナドゥでは確か,約1年半もの間,ランキング一位にいましたよね。もちろんソーサリアンも,長期間ランキング一位でした。ソーサリアンの何が,これほどまでに受け入れられたのだと思いますか?
木屋氏:
ただ純粋に,当時のゲーマーの要望にマッチしていたんでしょうね。
4Gamer:
しかし,その後も家庭用ゲーム機などに移植されたり,リメイクされたり,いまでは携帯電話でプレイしている人もいますよね。さらにその延長線上には,「ソーサリアンオンライン」も存在します。そう考えると,長く愛され続けている理由は,どこかほかのところにあるのでないかと思うのですが。
木屋氏:
それはやはり,ソーサリアンがPCゲームの創世期に作られた,というところに理由があるんじゃないでしょうか。ソーサリアンにしても,誰も思いつかないような,特別なことをやったというわけではないですよね。いまでも多くの人の印象に残っているのは,周りを見渡してみてもまだ何もなかった頃に,自分が最初にやらせてもらったから,ということだと思います。
4Gamer:
木屋さんがパイオニアといえることは,いろいろあったと思います。ラスボス以外にも,ザコモンスターとシステム的に明確に分けられたデカキャラ(ボスモンスター)がいるというのは,ザナドゥ以前にはほとんど見た記憶がありませんし,「ザナドゥ シナリオII」では,ステージごとにBGMが変わるという,これまた今では当たり前のことに,感動した記憶があります。色々な先取り要素がありますよね。
木屋氏:
先取りというより,単にその時代にゲームを作っていただけですよ。ソーサリアンのゲーム内容について言えば,あとは星魔法の合成がありますね。これも,やってみたかったからやったことですが,確かに当時としては珍しいでしょう。
4Gamer:
そうそう,ありましたねー。作れる魔法,120通りくらいでしたよね。
木屋氏:
127通りの組み合わせを用意していて,それをプレイヤーが自分達で見つけていくというものだったんですが,……実際にはいくつか作れないものもあったんですよ(笑)。二つくらいかな。
4Gamer:
ええと,必死に,まだ発見されていない組み合わせを探した記憶が……。私も被害者のようです。
(※3)……ティーアンドイーソフト,現ディーワンダーランド。ただし同社から独立したディープが「ティーアンドイーソフト」の商標権を獲得。さらにディープは,横山俊朗氏(ティーアンドイーソフトの創業者の一人)が設立したデジタルゴルフに吸収合併されており,現在はデジタルゴルフがティーアンドイーソフトのブランド名を使用している。木屋氏と並び称される当時の人気プログラマー内藤時浩氏をはじめ,旧ティーアンドイーソフトのスタッフの多くが今もデジタルゴルフに所属しており,ゲーマーから見た場合の「ティーアンドイーソフトの後継」は,デジタルゴルフといえそうだ。
(※4)……ティーアンドイーソフトから発売されていた,大ヒットアクションRPGシリーズ。木屋氏が東の横綱なら,西の横綱は,ハイドライドの生みの親,内藤時浩氏だろう。