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[CEDEC 2017]日本で高額賞金のe-Sports大会を開催するには? 刑法賭博罪・景表法・風営法による規制が解説されたセッションをレポート
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印刷2017/09/02 00:00

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[CEDEC 2017]日本で高額賞金のe-Sports大会を開催するには? 刑法賭博罪・景表法・風営法による規制が解説されたセッションをレポート

画像集 No.001のサムネイル画像 / [CEDEC 2017]日本で高額賞金のe-Sports大会を開催するには? 刑法賭博罪・景表法・風営法による規制が解説されたセッションをレポート
 CEDEC 2017の初日である2017年8月30日,「カジノIR,及びeSportsを含む賞金制コンピューターエンターテイメントの現状と未来について」と題された講演が行われた。登壇したのは国際カジノ研究所の木曽 崇所長である。

 日本では,「賞金付きのゲーム大会を開催したら違法」「そもそも賞金が出なくてもゲーム大会は違法」といった風説がネットを中心に飛び交っており,その都度さまざまな「法的見解」が示されたり示されなかったりしている。

 これに対し,木曽氏は「刑法賭博罪」「景表法(不当景品類及び不当表示防止法)」「風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)」の3点から現状を整理した。また,高額賞金が懸かったe-Sportsイベントの未来についても「IR実施法(案)」の見地から,その可能性を解説した。本稿でその模様をレポートしよう。

 なお,このレポートより,ざっくりとした解説が「黒川塾 四十六」でも木曽氏と山本一郎氏によって為されているので,そちらのレポートを先に読んでおくといいだろう。

 なお,話題によっては各種関係省庁の「公式発表・見解」ではなく,木曽氏による「解釈」が含まれているものもあるので,スライドにある注意書きは十分に注意してお読みいただきたい。
 法律が絡むので,省略してお伝えしづらく,長いレポートとはなるが,興味のある人は最後までお付き合いいただければ幸いだ。

国際カジノ研究所 所長 木曽 崇氏
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最初の関門,刑法賭博罪


 まずは刑法賭博罪の観点から,何が問題で,何が問題とならないかが解説された。

 刑法賭博罪(刑法185条)によると,「賭博をした者は,50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは,この限りではない」とある。

 つまり大原則としては日本においてギャンブルは禁止されているのであるが,だからといってすべてのギャンブルが禁止されているわけではない。

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 気になる「ただし一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」という一文だが,これは一般的に「一万円程度以下の日用品を賞品(賞金ではないことに注意)として提供する場合」「その場ですぐに消費される飲食店などの支払いを賭けた場合」とされている。
 よって,例えば「じゃんけんに負けた人は飲食店の支払いを全部持つ」といった行為は賭博とみなされない可能性が高い。

 またもうひとつ,「そもそも賭博とは何か」というポイントがある。刑法賭博罪は「賭博をした者」を対象としているので,そもそも「賭博とは何か」が問題になってくるというわけだ。
 これに対し木曽氏は,賭博の定義には以下の3要素があると解説する。

(1)偶然の勝敗により
(2)財物・財産上の利益の
(3)得喪を争うこと


 このうちどれか1つでも“当てはまらない”ものがあれば,その行為が賭博として罪になることはない,ということになる。
 だが(1)については,ことゲームに関して言うと,事実上回避不可能であると木曽氏は指摘する。というのも「偶然の勝敗」とあるものの,実際には完全情報ゲーム(偶然が関与しないゲーム)である囲碁や将棋ですら「偶然の勝敗によるもの」を満たすとされるからだ(つまり賭け碁・賭け将棋は賭博に当たる)。

 となると,例えば「参加料を徴収して開催する賞金制のゲーム大会」が賭博とならないためには,(2)か(3)で攻めるしかないということになる。

 これを踏まえて,(2)財産・財産上の利益ということについて見てみよう。

 昨今のゲームにおいて,「財産・財産上の利益」に「ならないもの」の代表例は,「プレイヤー間のアイテム交換機能がないゲームにおけるレアアイテム」である。
 レアアイテムは,プレイヤーにとっては間違いなく価値があるが,構造的に流通しない(=交換機能がない)となると,これを財産として認定できなくなる。このため,こういったゲームにおいてレアアイテムを賭けたり,あるいは賞品として大会を行っても,これは違法にはならない。

 ただしそのゲームがアイテム交換機能を持っていた場合は「難しい」ことになり,「『△』または『?』と言うべき状態」になると木曽氏は指摘する。
 例えばゲーム内の機能として,プレイヤーが手に入れたアイテムを現金で売買できるようなシステムを持つような場合,これは相当に「危ない」(=賭博と見なされる可能性が高い)とのこと。

 さらに難しいのは,第三者市場を利用し,アイテムを金銭で交換できる場合だ(いわゆるRMTはこれに該当する)。これについて,木曽氏は「分からない」としていた。「公式な規約では禁止しており,プレイヤーが勝手に第三者市場を利用して金銭でアイテムを取り引きしているだけ」という方便が立つかどうか判断できないというわけだ。
 「分からない」とはいえ,リスクがあるのは間違いなく,木曽氏としては「やめたほうがいい」という案件となる。

 ちなみにこの取り引きにおいて「現実の通貨を使うのではなく,仮想通貨であれば問題ない」と言う人がよくいるそうだが,2016年の改正資金決済法により「仮想通貨は準通貨である」と定義されている。このため仮想通貨を使っているからOKという逃げ道はもはや存在しないと木曽氏は指摘した。

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 ともあれ,実際に賞金が動いてしまうとなると,これは否定しようもなく「財産・財産上の利益」であり,(2)を回避して「参加料を徴収して開催する賞金制のゲーム大会」をクリーンに成り立たせるのも不可能ということになる。

 となると最後の望みは(3)の「得喪を争うこと」である。そしてここにおいて,打開点はちゃんと存在している。

 「得喪を争う」とは,プレイヤー同士が獲得と喪失を争うものであり,そこには相互性が必要であるとされる。簡単に言えば,自分が得をしたら対戦相手は損をし,自分が損をしたら対戦相手は得をするという構造である。

 従って,もし「参加費無料で,第三者から賞金が出される」のであれば,参加プレイヤーは得をしたとしても損はしない(=得喪を争っていない)のであるから,「相互性」が崩れる(囲碁や将棋の賞金制大会はこれに基づいて行われている)。

 また,たとえ参加費を徴収したとしても,参加プレイヤーから適切な金額の参加費を徴収し,それを大会の運営費用として使う,つまり参加プレイヤーが「そこでプレイする」というサービスを得るための対価を払っているのであれば,これも参加プレイヤーが損をしたことにはならず,同様に「相互性」は崩れる。ゴルフの賞金制大会は主にこの方式で,賞金は別途第三者であるスポンサーから提供される。

 つまり後者の方式に則れば,「参加料を徴収して開催する賞金制のゲーム大会」は問題なく開催できるということになる。だが,だからといってすべての「参加料を徴収して開催する賞金制のゲーム大会」がOKということにはならない――参加費を徴収して,その参加費から賞金を出すことになれば,「得喪を争う」状況が成立するため,アウトとなるわけだ。

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 では「ならばよし! 参加費無料の賞金制大会を開催するぞ!」と突き進めるかというと,そう簡単には話が進まない。景品表示法という次なる関門が待ち構えているのだ。


第二の関門,景品表示法


 景表法は,一般消費者の保護が目的となる法律である。簡単に言うと,「消費者が適正な判断ができなくなることはダメ!」という法律だ。

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 さて,景表法の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」だが,ではいったいここで言う「景品」とは何なのだろうか?

 景品とは,

(1)顧客を誘引するための手段として
(2)事業者が自己の供給する商品・サービスの取り引きに付随して提供する
(3)物品,金銭その他の経済上の利益


 として定義される。つまり再びの話だが,この3点のいずれかが崩れれば,それは「景品」ではない。一方でこの定義に基づき「景品」として認められる場合,景品類の上限金額が法律に基づいて設定されることになる。つまり,無闇やたらに高額な景品(当然ながら現金も含まれる)をちらつかせて客をかき集めるのはNG,という規制にひっかかるわけだ。

 さて,ここにおいて「特定ゲームを利用したe-Sports大会に,デベロッパ自身が賞金を拠出することは景表法の規制する範疇に入るのか?」という疑問が発生する。つまり,あるゲーム会社が,自社が作っているゲームを使った大会を開催し,賞金も自社から提供することにした場合,賞金の金額は景表法によって規制されるのかどうか,という疑問である。

 この疑問について,2016年8月29日,木曽氏が率いる国際カジノ研究所は,消費者庁に対してノンアクションレター制度による法令適用確認を行った。要は「このような事業においてこういうことをしたら,法律による規制は適用されますか?」と,所管の行政機関(この場合は消費者庁)に対して直接確認したのである。

 ここから先の解説は,スライドの写真にもあるとおり,「個別具体的な事業活動に関して消費者庁から得られた回答を元に,国際カジノ研究所が一般論としての解釈を加え,まとめたもの」を踏まえていることに注意されたい。個々の判断については,原典にあたるべきである。


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 このノンアクションレターを巡っては,木曽氏と消費者庁との間でかなり踏み込んだ討議が何度も為されたという。なにしろ消費者庁が,現在のゲーム産業において具体的に何がどのように起こっているかを細かく把握できているはずがない。このため状況の説明や確認においては,かなりの苦労があったそうだ。

 さて,それはともかくこの問題について論点は2つあるという。

 最初の論点は,「景品が顧客誘引の手段となっているか」という点である。要は「大会でこれだけの賞金を出します」ということが,ユーザーを増やす役に立っていると判断できるのか,という問題だ。

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 この問題の要点は,「そのゲームに対してお金を払っているプレイヤーが,大会において有利になるかどうか」であると木曽氏は指摘する。
 そしてこの点を踏まえると,家庭用ゲームやアーケードゲームがこの部分を乗り越えるのは非常に難しい。というのも,そのゲームをよりうまくプレイできるようになって賞金を勝ち取りたいと思ったら,多くの家庭用ゲームならそもそも購入するしかないし,アーケードゲームにおいてもクレジットを投入するしかない……というのが,現段階での消費者庁の判断であるという。

 ただし木曽氏は(消費者庁判断ではないことに注意),「有料プレイヤーが有利になるとは限らないゲーム」に関しては,この問題を乗り越えられるのではないかと見ている。
 例えば麻雀ゲームであれば,なにもその特定の麻雀ゲームを購入(ないしクレジット投入)してプレイしなくても,他の麻雀ゲーム(または実際の麻雀)で練習しても構わない。
 実際,別段ある特定の麻雀ゲームばかり遊んでいるわけではないプロ雀士が,その麻雀ゲームの大会に出場して,上位に食い込むといったことは,普通に発生しているのである。
 よって,このようなケースにおいては,「そのゲームに対してお金を払っているプレイヤーが,大会において有利になる」とは言えないのではないか――というわけだ。

 そのうえで,可能性があるのは基本無料ゲームである。これらのゲームは「お金を使ってはいませんが,このゲームには勝てます」という状況を作り出せるからだ。
 そして大会という状況に限定すれば,「課金プレイヤーが必ずしも有利にならない」状況を実際に作ることが可能だと木曽氏は指摘する。

 例えばスタミナを消費して経験値などを得てキャラクターがどんどん強くなっていくタイプのゲームの場合,「課金プレイヤーが必ずしも有利にはならないならOK」という判断が消費者庁からは出ている。例えば「レベル制のゲームではあるが,大会においては参加者全員が同じレベルのキャラクターで競技します」ということであれば,「課金プレイヤーが必ずしも有利にはならない」という“強弁が成り立つ”というわけだ。

 またアイテム課金のゲームであれば,「アイテムをどれだけ持っているかはプレイヤーがお金を払っているかどうかで変わってくるが,それらのアイテムはゲームの結果に影響を与えない(=キャラクターのスキンなど)ため,課金プレイヤーが必ずしも有利にはならない」のであるとか,「大会においては参加者全員が同じアイテムを保有して競技を行うので,課金プレイヤーが必ずしも有利にはならない」と説明することが可能になる。

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 このように,「〜という仕様なので,課金プレイヤーが必ずしも有利にはならない」と説明できるかどうかが重要だ,と木曽氏は指摘する。
 そしてそうである以上,e-Sportsを念頭に置いているゲームデベロッパは,ゲームの仕様策定の段階で「課金プレイヤーが必ずしも有利にはならない」と説明できることを考えたほうが無難だ,ということになる。

 もう1つの論点は,取り引き付随性だ。その景品が「事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供するもの」となっているかどうか,という問題である。ここを回避できれば,景表法の規制からも逃れられるということになる。
 と,ここで誰もが考えるのが,「事業者が」「自己の供給する」という部分を回避すること――つまり誰か別の人にカネを出させればいいじゃないか,というアイデアだと木曽氏は語る。よくあるパターンは,パブリッシャが賞金を出すというパターンだ。

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 だが,一般消費財メーカーと小売店の間での取り引きに「付随する」と見なされるものには「メーカーと小売業者の共同企画を行う場合の当該小売業者」などが含まれるとされている。
 ゲームについて実際にどうなるかは消費者庁に対して確認が必要だが,「デベロッパとパブリッシャの共同企画を行う場合の当該パブリッシャ」は,ここでの判断が準用され得るという。そして実際にその判断が出されてしまえば,そこで「別の人にカネを出させる」案は景表法の規制範囲内に入ることになる。

 ……となると次に出てくるアイデアが,「ゲームセンターが自前で賞金を出せばいいじゃないか」というものだと木曽氏は語る。ゲームセンター側から見れば,大会に使うゲームはそもそも自分たちの商品ではない(ほかのゲームセンターでプレイしてもうまくなれる)のだから,景表法の規制範囲外のはずだ,という理屈である。
 ところがこの理屈の前に,三つ目の関門となる風営法が立ち塞がる。


第三の関門,風営法


 風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)もまた,商品提供規制を有する法律である。
 風営法第23条第4項には「第二条第一項第四号のまあじやん屋又は同項第五号の営業を営む者は(中略)遊技の結果に応じて賞品を提供してはならない」という規定がある。ゲームセンターはこの「同項第五号」にあたるため,ゲームセンターが賞金を出すというのは風営法から見てアウトということになるわけだ。

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 それでもなお,ギリギリの可能性は残っている。というのも,当該のケースであれば風営法は“ゲームセンターを営業する事業者”にのみ適用される法律であるからだ。
 よってゲームセンターを第三者が借り切って大会を開催する場合,この規制は準用されないと解されていると木曽氏は指摘する。

 だがここにもまた,いろいろと難しい問題が待ち構えている。
 まず,「ゲームセンター」と言ったとき,我々は一般的な「ゲームセンター」を想像するが,法律上「ゲームセンター」と解釈されるものは,想像以上に多いのだ。

 風営法の規制から確実に外れる方法は「参加費無料」である。風営法は営利目的の事業者を対象としているため,儲けのためにやっていないものなら規制の対象とならない。
 しかし参加費を取った途端,さまざまな状況によって規制の対象内に入っていく。
 例えばその会場が仮設のものであった場合,2日以下(1泊2日)の連続開催であれば規制の対象外だが,それ以上の期間の開催となると規制対象となる(つまり「2泊3日以上で入場料あり」とかいったゲームイベントは非常に危険だ)。

 加えて,たとえ2日以下の開催でも,6か月に1回以上の頻度で繰り返し開催すると,これもまた常設と見なされる。
 さらに面倒なことに,これらの「2日以下ならOK」といった規制は,木曽氏によれば「運用解釈」であり,実際の運営にあたっては所轄の警察に問い合わせる必要がある。つまり明文化されてはいないのだ。

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 また常設のものであっても,ゲームによって規制の範囲が変わることがある。
 実際に何がOKかということになると,まずアーケードゲームや家庭用ゲームは全滅となる。風営法は提供するゲームをアーケードゲームに限っていないので,たとえば家庭用ゲームを有料でプレイさせたら,それはゲームセンターになってしまうわけなのだ。
 木曽氏が規制対象外になるだろうと考えているものとしては,まず「携帯ゲーム機を客が持ち込んで,その場で遊ぶ」ような立て付けが挙げられるという。同様にスマートフォンを客が持ち込んでプレイしてもらうというパターンも,多分大丈夫だと木曽氏は語った。

 問題になるのはPCゲームだ。
 例えば,「e-Sportsカフェ/バー」と呼ばれる業態が存在するが,現状これらはインターネットカフェとして営業されており,ゲームセンターとしての登録はなされていない。だが「ゲームをさせる」という側面が表に出てきている以上,「危ない状態」ではある。

 ただ,風営法として確実にアウトなのかと言われれば,「分からない」というのが木曽氏の見解だ。実際,摘発事例も聞いたことがないという。
 この問題の要点は,インターネットカフェとe-Sportsカフェの境目である。「このPCは汎用機と言っているけれど,ゲーム機として使っているだろう?」と言われた途端,e-Sportsカフェは苦しくなる。

 現状のe-Sportsカフェは「我々はあくまでインターネットカフェであり,客がたまたまゲーム好きばかりで,PCを使ってゲームしかしない」という方便で乗り切っている状況であって,たとえばその部分を厳密に突っ込まれたら危ない,というのが木曽氏の見解だ。

 特に最初から「ゲームカフェだ」と広告を打ってしまっているような場合,「ここはゲーム施設としてプロモーションしているではないか」と問い詰められる可能性がある。

 また風営法上は,「ゲームを観覧させる」のは規制対象外だが,「ゲームを観覧させ,その場で解説者を立てたり,応援をさせたり」といったことを始めると,規制対象内に入ってくる。特に深夜営業(夜12時以降も営業)し,飲食物も提供したうえで,「ゲームを観覧させ,盛り上げる」ような業態には,特定遊興免許が要求されるようになるためだ。

 もしこれが映像ではなく,実際にゲームをプレイしているところを見せるとなると,「盛り上げる」部分がなくても特定遊興免許が要求される。要するにこれは,「深夜営業し,飲食を提供し,ステージでショーを提供する」という業態なので,まさに風営法のど真ん中というわけである(逆に言えば,深夜営業ないし飲食の提供を回避すれば問題はない)。

 「店員が一緒にゲームをする」というのも,風営法の規制対象に引っかかる。風営法的には,その行為が「接待営業」の範疇に入る(つまりキャバクラなどと一緒)ためだ。
 唯一逃れ得るのは,「ゲームを教授する(教える)施設」である。ゲームを一緒に遊ぶのではなく,ゲームを教えているという状況がちゃんと作れるならば,風営法の規制対象外になる可能性があるという。

 実際にこの「教えている」ことで規制対象外になっているのは,シミュレーションゴルフの施設だ。この施設は普通に営業すればゲームセンター扱いだが,「ゴルフスクールの中でインストラクターが教えている」という状況を作れれば,風営法の規制対象にならないという判断が出ているという。

 これはゲームに対しても同じことが考えられる。よって「プロゲーマーと一緒にプレイできる」のではなく,「プロゲーマーが教える」という立て付けにしたほうがベターになるだろう,と木曽氏は指摘する。


カジノがe-Sportsの可能性を広げる?


 最後に木曽氏は,IR実施法案(おおざっぱに要約すれば,日本にもカジノを作ろうという法案)がe-Sportsに対して持つ可能性を解説した。

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 IR実施法案はあくまで「法案」であり,その詳細が確定しているわけではない。だが現状すでに,「日本におけるカジノで提供されるゲームはどのようなものであるべきか」については,政府に対して提言書が出されている。

 ここにおいて重要なのは,「どんなゲームはダメか」という部分だ。いまのところ,以下の5ジャンルについては不可となっている。

(1)顧客同士が賭けあう,対戦型のゲームはNG(ディーラーと客が勝負するようなゲームのみがOK)
(2)スポーツの結果に対して賭けるなど,俗に言う外馬賭けはNG
(3)カジノ施設の外からオンラインでアクセスしてプレイできるような仕様はNG
(4)宝くじはNG
(5)風営法が定めるパチンコ・パチスロはNG(現状ではパチンコ・パチスロは遊技機だからOKという構造になっている以上,これが「賭博」場に入ってくるのはダメ)


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 しかるにこの「どんなゲームならOKか」という議論の中に,e-Sportsが入っていける可能性が残されていると木曽氏は指摘する。

 可能性その1は,「トーナメントゲーム」と呼ばれる方式の可否だ。
 カジノにおけるトーナメントゲームは,参加者全員がカジノ事業者に対して参加費を払い,事業者は参加者が残したゲームの成績に基いて,それぞれの参加者に対し賞金を払い戻す,という形式だ。

 現状の提言書では「単純な顧客同士の賭けは不可」となっているが,トーナメントゲームは顧客同士で金銭を賭けあっているわけではないため,現状では「議論の余地あり」として検討が進んでいるという。

 もしこのトーナメントゲームでポーカーがOKということになれば,麻雀のトーナメントゲーム(マカオでは行われている)もOKということになる。
 そうなれば,この「トーナメントゲーム」という構造を使って,高額な賞金の出るe-Sports大会を「カジノの中で」開催できる可能性が生まれると木曽氏は語った。

 可能性その2は,マシンゲームに対する技術介入の導入の可否だ。
 マシンゲームとは,スロットマシーンのようなものを想像するのが一番早い。このスロットマシーンをプレイするにあたり,そのプレイヤーが技術を駆使すると,より多くのお金が払い戻される――これが「技術介入性のあるマシンゲーム」である。

 現在,アメリカを中心としてこの手のマシンゲームは認可が進んでいる。そして「プレイヤーの技術介入によって結果が良くなるマシンゲーム」という構造は,すなわち,我々がよく知るコンピューターゲームそのものなのだ。
 実際,技術介入性が認められた新しいマシンゲームは,一般的なコンピューターゲームとそれほど大きな差がなくなってきていると木曽氏は指摘する。

 例えば「Danger Arena」(GameCo Inc.)はいわゆるFPSであり,Kill数に応じてより多くの払い戻しがあるという構造になっている。
 昨年発表された「Lucky's Quest」(IGT)はパズルRPGで,驚くべきことにスマホ連動すらしている(もちろんスマホから現金が得られるゲームができるのではなく,スマホで育てたキャラクターを使ってカジノでプレイできる,という構造)。

 極めつけは「Jetpack Joyride」(Gamblit Gaming)で,これはHalfbrickがリリースしたスマホゲーム「Jetpack Joyride」をカジノスロットに移植したものだ。プレイヤーは「Jetpack Joyride」そのものをプレイし,その成績に応じて払い戻し受けるということになる。

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 このように,アメリカでは「技術介入性のあるマシンゲーム」と「普通のゲーム」の差が,確実になくなってきている(ちなみに技術介入によって払い戻しにどれくらいの差が出るかはパーセンテージで厳密に決められているそうだ)。ということは,ここにe-Sportsが入り込む余地も十分にあるというわけだ。


選手に対するリスペクトを


 講演の最後に,木曽氏は改めて「日本の法律は賞金制大会に厳しい」と指摘。
 しかしながら,かつて木曽氏が消費者庁にノンアクションレターを出したことが日本におけるe-Sportsの状況を変えるひとつの契機となった(「木曽は地雷を踏んだ」とさんざん言われた,という)以上,「それなりに責任は取ろうと思う」と木曽氏は語った。

 その「責任を取る」ために新たに木曽氏が立ち上げる法人が,「bettle」である。
 bettleでは,今ある法律や各種規制の範疇において,いったい何が「シロ」なのかを探るとともに,その「シロ」と定まった範囲内でやれる限りをやろう,という趣旨の団体であるという(詳しいことは10月ごろに続報があるとのこと)。

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 「e-Sportsを盛り上げる」にあたって,法的にグレーな領域を「今のところクロではないっぽいから大丈夫」という姿勢で突っ走れば,最悪の場合,警察のご厄介になる可能性がある。熱意と善意をもって「日本のe-Sportsシーンを盛り上げたい」と願ってプレイする選手が逮捕されかねない状況で事業を続けるのは,あらゆるスポーツ事業において基本となる「選手に対するリスペクト」を土足で踏みにじる行為と言えるだろう。
 そんな状況を安易に招かないようなシステムの整備を,個人的には強く望みたいところだ。
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