インタビュー
ZERO LATENCYのCEO ティム・ルーズ氏にインタビュー。東京ジョイポリスの「ZERO LATENCY VR」,多人数参加型VRの未来とは
このVRアトラクションは,もともとオーストラリアの新興ベンチャー企業「ZERO LATENCY」が開発したアミューズメントシステムで,最初のサービス展開はオーストラリアにて行われた。
今年7月の日本進出に際しては,ZERO LATENCYのCEOであり,創設者でもあるティム・ルーズ(Tim Ruse)氏が来日しており,単独インタビューをする機会に恵まれた。掲載が遅くなってしまったが,画期的なアミューズメントシステムの未来が垣間見えるインタビューをお届けしたい。
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東京ジョイポリス「ZERO LATENCY VR」特設ページ
現在は最大16人同時参加も対応可能に
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
このたび,センセーショナルに上陸したZLVRですが,ZERO LATENCYという会社のことを知っている人は少ないと思います。ぜひバックグラウンドを教えてください。ただ,すごい社名ですよね。「遅延なし」という意味ですから。
挑戦的でしょう?(笑)。この社名には「我々が自分達に課した目標」という意味合いも含まれているんです。会社を創設したのは4年前の2012年で,その翌年にはZLVRのプロトタイプを作り上げています。
4Gamer:
創設者はルーズさんを含めて3人いらっしゃいますね。
ルーズ氏:
私自身はIT系の企業で働いてきた経歴があります。創設者に名を連ねるScott Vandonkelaarも自分と同じくソフトウェア系エンジニアで,過去にはIBMにいました。もう一人のKyel Smithはコンピュータエンジニアですが,どちらかと言えばハードウェア系の専門家です。
4Gamer:
ソフトウェアとハードウェア,両方の専門家で創設されたんですね。
ルーズ氏:
ええ。我々が会社創設から継続的に開発してきたのが,独自の位置検出(ポジショントラッキング)システムです。VR空間において,複数の参加者の位置をリアルタイムかつ継続的に把握する技術です。これにはソフトウェアとハードウェア,どちらのノウハウも不可欠でした。
最初期の試作版の映像をYouTubeで見たことがあります。複数のPlayStation Eyeを円周状にくくりつけたシステムを使っていましたね。
ルーズ氏:
そうです(笑)。ベースとなる技術は試作版で開発しましたが,現在のものとはまったく違います。当初は5m×5mの範囲での位置検出が限界でしたが,現在は20m×20mの規模にまで拡張できるようになりました(東京ジョイポリスのアトラクションスペースは17m×17m)。
現在,メルボルンの開発実験室では,最大16人同時参加での位置検出が可能になっていますよ。
4Gamer:
それはすごい! より大きなルームサイズで,より多くの同時参加人数も技術的には可能なんでしょうか。
ルーズ氏:
我々の技術のポイントはそこにあり,非常にスケーラブルな設計になっています。我々の位置検出システムは,単純にマーカーの位置を画像認識ベースで取得するだけでなく,広大なスペースでの同時多人数の位置検出システムを実現しました。そのコア技術はネットワークにある,と言ってもいいかもしれませんが……これ以上はお話できません(笑)。
4Gamer:
ということは,開発した技術の特許申請を行っていると?
ルーズ氏:
もちろん,コア技術に関しては特許を申請しています。
広い空間における多人数同時参加型のVRシステムで,各プレイヤーの位置をリアルタイムに取得しつつ,いかにハイフレームレートかつ低遅延を維持するのか。特別なVR体験を実現するために,我々が開発した技術はなかなか真似の難しいことだと思います。
ZLVRのハードウェアの秘密
4Gamer:
ZLVRでは,背中にリュック型PCを背負いますよね。このシステムについて少し教えてください。
ルーズ氏:
リュック型PCのシステムは,Alienwareと開発を進めてきました。バッテリー部分を分離型にしたりとか,アミューズメント施設で運用しやすいようにアイデアを盛り込んでもらっています。
4Gamer:
E3 2016のAlienwareブースにも展示されていましたね。Alienwareはどの程度まで開発に携わっていたのでしょうか。
ルーズ氏:
PC自体の開発と製造はAlienwareが行っています。我々は開発に協力したという立ち位置です。
4Gamer:
なるほど。端には2つの小型モジュールがありますが,どういう役割をしているものですか。
ルーズ氏:
詳しくは話せないのですが,先ほど説明した,我々が独自開発した位置検出用のデバイスになります。
4Gamer:
VR HMDには,HTCの「Vive」やOculusの「Rift」ではなく,「OSVR」製品を使われていますが,どういった理由からでしょうか。
ルーズ氏:
ZLVRの実現にあたっては,VR HMDの仕様も我々のシステムに適合するようにハードウェア,ソフトウェアの両面からアプローチし,カスタマイズする必要がありました。それを行いやすかったのが,OSVRのVR HMDでした。
4Gamer:
ZLVRのVR HMDは,これからもずっとOSVRということですか。
ルーズ氏:
そうとは限りません。ご存じのように,VR HMDは短期間で急速な進化が予想されますから。今後,異なるデバイスを選択する可能性はあり得ます。
ZLVRはどのように動作しているのか
4Gamer:
ZLVRの動作の概念についても教えてください。各プレイヤーがVR HMDで見る映像は,それぞれが背負っているリュック型PCでレンダリングされていますよね。
ルーズ氏:
ええ。そして,各プレイヤーの位置情報はバックグラウンドにあるゲームーサーバーで処理されています。ゲームの進行や各種処理(衝突判定等)もゲームサーバー側となります。
4Gamer:
身近な例を挙げると,オンラインゲームのスタイルですね。
ルーズ氏:
当初は,ゲームの映像自体もゲームサーバー側で描画して,その映像をストリーミング配信するという実験を行っていました。しかし,やはり遅延が大きく,「広い部屋で多人数同時参加型システムをスケーラブルに設計する」ことを目指すと,この手法は不適当であると判断するしかなかったんです。
4Gamer:
全プレイヤーにそれぞれのゲーム映像を配信するのは,ローカルネットワークとはいえ負荷が大きそうです。
ルーズ氏:
ただ,現在の実装でもネットワーク上を往来するデータ量は,相当膨大になっています。
4Gamer:
ゲームサーバーから各プレイヤーに対して,ほかのプレイヤーの位置情報やゲームの進行情報などを無線LAN経由で提供する仕組みですよね。東京ジョイポリスのように,携帯電話を持った来場者が多数の場所で,安定的な無線通信を実践するのは大変ではありませんか。
ルーズ氏:
大丈夫です。そのあたりのノウハウも我々は持っていますから(笑)。
メルボルン版のZLVRは体験時間が45分。参加者は2kmも歩く!
4Gamer:
現在,東京ジョイポリスではZLVRの第1弾ソフト「ZOMBIE SURVIVAL」がプレイできます。襲い来るゾンビと戦うアクションゲームですが,このほかにもZLVRで提供されるコンテンツはありますか。
ルーズ氏:
東京ジョイポリスで稼動しているコンテンツは,オーストラリアのメルボルンで稼動中のものをコンパクトにした内容です。これを別として数えるならば,2種類ということになりますね(笑)。
それは冗談で,ZOMBIE SURVIVALのほかにも2〜3つのオリジナルVRゲームを開発中です。
4Gamer:
東京ジョイポリス版の料金は,1人あたり平日1800円/土日祝日2000円であるのに対して,メルボルン版では88オーストラリアドル(日本円で約7000円)とだいぶ開きがあります。
ルーズ氏:
東京ジョイポリス版は体験時間が約15分,メルボルン版は約45分です。そのボリュームの差が料金に反映されています。
4Gamer:
体験時間が3倍違うと,まるで別ものでしょうね。
ルーズ氏:
どちらも世界設定は共通ですが,メルボルン版は起承転結のあるストーリーがベースにある,言わば「VR体験映画」のようなものになっています。東京ジョイポリス版はメルボルン版のクライマックスをコンパクトに凝縮し,「ゲーム色」を強めたコンテンツです。
4Gamer:
メルボルン版も楽しそうです。
ルーズ氏:
メルボルン版の同時参加人数は,東京ジョイボリス版と同じく6人ですが,体験スペースは少し広く,ゲームには9か所のロケーションが登場します。なんと参加者はストーリーに合わせて,2km近く歩くことになるんですよ。
4Gamer:
それは驚きですね。
ところで,ZOMBIE SURVIVALは協力型ゲームですが,対人戦を実装する予定はありませんか。
ルーズ氏:
現在,開発しているというか,実験を試みているところです。とても面白いものになりそうなんですが,課題も出てきています。
4Gamer:
どんな課題ですか。
ルーズ氏:
お互いに撃ち合う銃撃戦の場合,必然的に素早く動かなくてはならない。なぜなら,すぐに殺されてしまいますからね。しかし。VR HMDとヘッドフォン,リュック型PCを装備したお客さんに,それをさせるのは難しい問題です。相当,暑くなりますし。
それに何より,ZLVRでは危険防止のため,体験中に走ってはいけないんです(笑)。
4Gamer:
言われてみればそうですね(笑)。
ルーズ氏:
友達同士だけでなく,見知らぬ者同士が参加するケースを考えると,協力プレイのほうがソーシャル効果が上がります。それでいて,獲得スコアを競うという要素もあります。なので,現状では今の形が最良であると判断しました。
4Gamer:
すると,参加者同士が戦うような同時多人数参加型VRコンテンツは実現が難しいということですか。
ルーズ氏:
そうでもありません。たとえば,複数の部屋を用意して,部屋単位の参加者を1チームとするチーム戦形式であれば,先ほどの課題は解消できると考えています。
4Gamer:
なるほど。オンラインゲームのパーティ戦のようなイメージですね。
ZLVRはVRプラットフォームとして成長を目指す
4Gamer:
今回,メルボルンに続き,日本での展開となったわけですが,どのようなきっかけがあったのでしょうか。ZERO LATENCYとセガ・ライブクリエイションはビジネスパートナーという位置づけで合っていますか。
セガ・ライブクリエイションが,我々のカスタマー(お客様)という位置づけですね。出会いは,フロリダ州のオーランドで毎年開催されているテーマパーク用のアトラクションエキスポ「IAAPA」のブース出展で,セガの担当者がZLVRを気に入ってくれたんです。
4Gamer:
今後,ほかの地域でもZLVRの採用事例がありそうですね。
ルーズ氏:
そうですね。すでにヨーロッパとアメリカでの稼動に向けて,プロジェクトを進めているところです。
4Gamer:
ZLVRのシステムを使って,「セガが独自のVRゲームを開発する」という展開も期待したいところです。
ルーズ氏:
そういう展開は,我々も期待しています。ZLVRのシステムは,サードパーティの参加も想定して設計しています。我々以外の企業が,ZLVR向けのVRゲームを開発することは可能です。
4Gamer:
それは興味深い話です。ZLVRのシステムは,どのゲームエンジンをベースにしていますか。
ルーズ氏:
Unityですよ。ZLVRの位置検出システムやネットワーク統合システムなどのUnity向けプラグインを開発して,Unity上でZLVRを開発しました。このプラグイン自体は少しの改変で,ほかのゲームエンジンへの転用が容易なので,Unreal Engineへの対応も進めています。
4Gamer:
すると,ソフトウェア開発キット(SDK)のようなものがあるのでしょうか。
ルーズ氏:
ええ。今までに18か月の年月をかけて開発を進めてきたものです。このSDKを実際に活用して制作したのが,メルボルンや東京ジョイポリスで稼動しているZOMBIE SURVIVALなのです。この開発を経たことで,我々のSDKはだいぶ洗練されたものになりました。
4Gamer:
であるならば,なおのことセガによるオリジナルVRゲームに期待してしまいます。
ZLVRは自由に歩き回れる同時多人数参加型VRとして,そしてVRアトラクションとして,画期的な存在となっていますが,今後はどのような進化が考えられますか。
ルーズ氏:
まだ始まったばかりですから,進化の振り幅や期待値は相当大きいでしょう。我々は,ZLVRをVRアミューズメント向けのプラットフォームとして成長,そして拡張させたいと考えています。そのために,とくに注目しているのは「Haptics」(触覚学)の分野です。
4Gamer:
触覚におけるフィードバックを得るテクノロジーですね。銃撃の弾丸発射時に衝撃が伝わってきたり,敵から攻撃されたときの感触がプレイヤーに伝わってきたりという部分ですか。
ルーズ氏:
そのとおりです。現在の「VRゲームを同時多人数参加型に拡張した」「自由に歩き回れるようにした」というイノベーション以上のものをもたらしたいと考えています。
4Gamer:
今後の展開を楽しみにしています。
どうもありがとうございました。
東京ジョイポリス「ZERO LATENCY VR」特設ページ
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