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良いゲームを商業的に失敗させる細かなミスに立ち向かう,客観的調査と評価の重要性とは
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印刷2016/04/30 15:41

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良いゲームを商業的に失敗させる細かなミスに立ち向かう,客観的調査と評価の重要性とは

 日々大量のタイトルがリリースされるゲーム市場。「これ,どこかで見たことがあるなあ」という作品もまた,膨大な量が発売され続けているが,面白いことに,そういった「クローン作品」は,必ずしも本家と同じような成功を収められないことがある。さらに興味深いことに,世の中には「成功するクローン」と「うまくいかないクローン」があったりもする。
 いったいこの差はどこで生まれるのだろう? 一般的には「広告宣伝の差」で片付けられることが多いこの問題について,クロアチアで開催されているゲーム開発者向けイベント,「Reboot Develop 2016」のセッションにおいて,意外な(そして実は自明でもある)側面が解き明かされた。

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「Reboot Develop 2016」公式サイト



「良いゲームなのに,売れないゲーム」


 講演者はゲームのプレイテストやプレイヤーの調査を行う専門会社,Player ResearchのGraham McAllister氏だ。同氏はまず概論として,ゲームには4種類があると定義した。これは実にシンプルな区分で,「良いゲーム」「ダメなゲーム」,そして「売れるゲーム」「売れないゲーム」の組み合わせになっている。
 このうち,「良いゲームで売れるゲーム」と「ダメなゲームで売れないゲーム」については,いちいち議論するまでもないだろう。

Graham McAllister氏
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 問題となるのは,そうでない2つの組み合わせ,つまり「ダメなゲームで売れるゲーム」と,「良いゲームで売れないゲーム」である。

 前者については,実は具体例を挙げるのは難しい。個人の好みを越えて万人が認める「ダメなゲーム」で,かつ「売れるゲーム」というのは希少である。
 そんなレアケースの中から,McAllister氏は良いサンプルとして,「Call of Duty: Black Ops II」をピックアップした。この作品は,単体として見ると「ダメなゲーム」ではない。というかこれがダメなら,世のゲームの非常に多くが「ダメなゲーム」に分類され得るであろう(実際,プロのレビュアーによる評価は必ずしも高くはないが,低いわけでもない)。
 この作品について低い評価を下しているのは,実は一般のプレイヤーである。CoDシリーズは回数を重ねすぎており,長年のファンほど「なんだかんだいって,また同じ」という失望を感じてしまうからだ。

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 さて,いよいよ問題の「良いゲームで売れないゲーム」だが,実はこれも,具体例を挙げるのはそれほど簡単ではない。誰もが良いゲームだと認めているということは,いわゆる「存在が認識される」ためのハードルは超えているため,もはや広告宣伝の問題ではない。ゆえに「誰もが認める良いゲームなのに,商業的には大失敗した」というケースは(ビジネスのバランスを欠いたとかいう話を除くと),実はそこまで多くない。
 McAllister氏は,この珍しいケースの代表例として,「Punch Quest」をピックアップした。この作品は多くのユーザーから大絶賛されたのに,マネタイズには大失敗したという稀有な作品である。
 そして重要なことだが,Punch Questがマネタイズに失敗した理由は,おそろしくくだらない理由だった。つまり,課金アイテムの購入を行うためのボタンが小さすぎ,いわゆる「課金導線がダメだった」というパターンである。だがこの小さな「弱点」は,ときにビジネスの行方を決めてしまう。

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ゲームを商業的に失敗させる,無数の落とし穴


 こうして見てみると,最近のゲームは実に簡単に商業的失敗を迎え得るということが分かってくる。Punch Questに見られる「課金アイテム購入ボタンが小さすぎた」的な落とし穴は,無数に存在しており,不思議なことに,歴戦のゲームデザイナーですら,この「落とし穴」をすべて回避するのは難しいというのが現状である。
 というのも,現代の,とくにモバイルゲームにおいて中心的な存在となっているFree-to−Playにおいて,ユーザーが実際にお金を払うまでの過程には,実は非常に多くのステップが含まれているからだ。

 McAllister氏はこのステップを大きく3段階に分割した。「ユーザーの興味喚起」「プレイヤーの体験」「支払い」である。そのうえで,「プレイヤーの興味喚起」と「ゲーム体験」の間には,「ゲームに対する理解」「ユーザビリティ」というステップが挟まってくる。

左の写真では興味喚起,体験,支払いが比較的ストレートな図になっているが,実際には右の図のように急激にやせ細っていく(つまり,人が減る)ことに注意が必要
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興味喚起とゲーム体験の間にあるもの
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 一方で,多くのゲームデザイナーはゲーム体験に集中するが,これは仕方ないことで,そもそもゲームを作るとは,プレイヤーの体験をデザインするという行為だからだ。
 このように,ゲームを収益化するために実際に重要となるポイントと,ゲームデザイナーが注力するポイントがズレている――より正確には,ゲームデザイナーだけでは必要となるポイントのすべてをカバーできない――ことが,「良いゲームなのに売れないゲーム」を作り上げてしまう。
 この問題に対し,McAllister氏はコンセプト設計からローンチまで,ゲーム開発のすべての工程において,適切な検証を行い続けることが,ビジネス的な成功の秘訣であると語った。

あらゆるステップで検証が必要なのだが,それ以前の段階として,「こういうステップがある」ことが理解されていない
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「たかが」に潜む罠


 この指摘はもっともなのだが,デベロッパからは「それくらい当然やっている」という意見が出てくるという。McAllister氏のPlayer Researchがこういった問題点を洗い出すプロなら,デベロッパもゲームを(総合的な商品として)つくり上げるプロなのだから。
 だが,現実は厳しい。デベロッパがどんなに「これで大丈夫」と考えても,開発者として長い期間ゲームに携わるゆえに,(あるいは,同業他社のゲームをそこまで長時間かけて研究する余力を持てないゆえに)思わぬ落とし穴にハマってしまうケースは,非常に多いのである。

100本のゲームについて,プレイヤーの離脱点になる9つのポイントを精査したところ,「この仕様では確実にプレイヤーが離脱する」と評価するしかない問題点が,ほぼすべてのゲームにおいて存在した
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 McAllister氏はここでその顕著な例として,「Clash of Clans」などBase Builder系の作品をピックアップした。サンプルとなったのは,Clash of Clansのほか,「Boom Beach」「Game of War: Fire Age」そして「Star Wars: Commander」(以下,SWC)だ。
 SWCは,平たく言えば,Clash of Clansのクローンで,IPとして「スター・ウォーズ」を使うという,コンセプトだけを見れば失敗しようのないタイトルである。

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 Clash of Clansのテンプレートを使い,そこに世界的IPであるスター・ウォーズを乗せるのだから,これで失敗するとすれば「広告宣伝費を使いすぎた」とか「権利問題でもめた」とか,その手のきわけて政治的な話になるはずだが,SWCはそうしたトラブルがなかったにもかかわらず,芳しいセールスを得られなかった。

 SWCがコケた理由は,どこにあるのか? McAllister氏は会場にそう問いかけた。会場からはコンセプトのミスマッチ(スター・ウォーズファンの年齢と,Clash of Clansファンの年齢がフィットしない)などが挙げられたが,McAllister氏は「実は失敗の原因は,そういう『大きな』ところにあるのではない」と指摘した。

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 例えばSWCの場合,プッシュ通知(建物が完成したとか,敵から攻撃されたとか)の文言が非常に悪かった。継続率を高めるうえでプッシュ通知は重要だが,重要であるからこそ,そのメッセージの文章にも気を使う必要がある。プレイヤーが判断を行ううえでプラスになるような情報を提供できなくては,「ウザい通知」になり,プレイヤーはプッシュ通知をオフにしてしまう。

 同様に,SWCはアイコンのデザインも非常に悪い。スター・ウォーズに登場するさまざまなメカをアイコン化しているのは良いのだが,スター・ウォーズのコアなファンでなくては見分けがつかないようなアイコンでは,多くのユーザーの心を掴むゲームには成り得ない。

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 戦闘時に使用する消耗品のアイコンも,SWCでは見分けにくい。消耗品などの「特別なアイテム」はしばしば課金アイテムとして提供されることがあり,課金アイテムとして見分けがつきにくい結果,間違って使用したプレイヤーは,「クソUIのせいでカネを無駄にした! もうやるかこんなクソゲー!」と叫んでゲームをやめてしまう(この点で言うと,実はClash of Clansの「呪文」も分かりにくいUIだが,SupercellはBoom Beachでこれを改善した)。
 こういった,ゲームの操作および勝敗に直結するアイコンもまた,プレイヤーの判断を助けるものでなくてはならないのである。

写真中央に見えるのがSWCの消耗品。これを区別しろってのは無理でしょ……
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 さらに,課金アイテムの説明にも罠がある。例えば「Game of War」の場合,「お得なセット」としてパック商品が紹介されているが,パックされているアイテムがあまりにも多すぎて,画面をスクロールさせないとそれがどんな内容なのか把握できない。同様に,「今なら40%お得」といった表記も,4割引きなのか,それとも4割余分にゲーム内トークンを得られるのかがはっきりしない。

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客観的な調査と評価が,作品の最終的な質を決める


 このように,一つ一つを見ていけば「そりゃそうだよな」と納得させられる細かな問題点が,うまく行かなかったゲームの中に山積しているのである。これはしばしば「ユーザー視点が足りない」と言われる問題だが,ゲーム制作側が(さまざまな理由で)見落としてしまう問題でもある。
 Player Researchのような調査会社は,こういった「細かいけれど,積もり積もってユーザーの離脱点になる問題」を綿密に洗い出し,ドキュメントとして開発者に提供するサービスを行っている。「でもお高いんでしょ?」と思ったのだが,必要となる費用は「ゲームの規模による」とのこと。実際,Player Researchが行う調査の60%はインディーズゲームが対象であるという。

ちなみに,同社のレポートはこのような感じ。微に入り細を穿つがごとくの詳細さで,しかもこれは「課金周り」についてだけのレポート
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 客観的な調査と評価は,作品の質を大いに向上させる。
 人間は,ものを作っているときは,どうしてもハイな精神状態になりがちだ。そうした,ある意味で異常な精神状態では気づかない問題点を,冷静な第三者は教えてくれる。それゆえに,自分が作ったゲームの面白さには自信がある,これは絶対に楽しんでもらえるはずだ,という自負があるゲームデザイナーほど,こういった第三者による調査を利用することを勧めたい。

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