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良いゲームを商業的に失敗させる細かなミスに立ち向かう,客観的調査と評価の重要性とは
いったいこの差はどこで生まれるのだろう? 一般的には「広告宣伝の差」で片付けられることが多いこの問題について,クロアチアで開催されているゲーム開発者向けイベント,「Reboot Develop 2016」のセッションにおいて,意外な(そして実は自明でもある)側面が解き明かされた。
「Reboot Develop 2016」公式サイト
「良いゲームなのに,売れないゲーム」
講演者はゲームのプレイテストやプレイヤーの調査を行う専門会社,Player ResearchのGraham McAllister氏だ。同氏はまず概論として,ゲームには4種類があると定義した。これは実にシンプルな区分で,「良いゲーム」と「ダメなゲーム」,そして「売れるゲーム」と「売れないゲーム」の組み合わせになっている。
このうち,「良いゲームで売れるゲーム」と「ダメなゲームで売れないゲーム」については,いちいち議論するまでもないだろう。
問題となるのは,そうでない2つの組み合わせ,つまり「ダメなゲームで売れるゲーム」と,「良いゲームで売れないゲーム」である。
前者については,実は具体例を挙げるのは難しい。個人の好みを越えて万人が認める「ダメなゲーム」で,かつ「売れるゲーム」というのは希少である。
そんなレアケースの中から,McAllister氏は良いサンプルとして,「Call of Duty: Black Ops II」をピックアップした。この作品は,単体として見ると「ダメなゲーム」ではない。というかこれがダメなら,世のゲームの非常に多くが「ダメなゲーム」に分類され得るであろう(実際,プロのレビュアーによる評価は必ずしも高くはないが,低いわけでもない)。
この作品について低い評価を下しているのは,実は一般のプレイヤーである。CoDシリーズは回数を重ねすぎており,長年のファンほど「なんだかんだいって,また同じ」という失望を感じてしまうからだ。
McAllister氏は,この珍しいケースの代表例として,「Punch Quest」をピックアップした。この作品は多くのユーザーから大絶賛されたのに,マネタイズには大失敗したという稀有な作品である。
そして重要なことだが,Punch Questがマネタイズに失敗した理由は,おそろしくくだらない理由だった。つまり,課金アイテムの購入を行うためのボタンが小さすぎ,いわゆる「課金導線がダメだった」というパターンである。だがこの小さな「弱点」は,ときにビジネスの行方を決めてしまう。
ゲームを商業的に失敗させる,無数の落とし穴
こうして見てみると,最近のゲームは実に簡単に商業的失敗を迎え得るということが分かってくる。Punch Questに見られる「課金アイテム購入ボタンが小さすぎた」的な落とし穴は,無数に存在しており,不思議なことに,歴戦のゲームデザイナーですら,この「落とし穴」をすべて回避するのは難しいというのが現状である。
というのも,現代の,とくにモバイルゲームにおいて中心的な存在となっているFree-to−Playにおいて,ユーザーが実際にお金を払うまでの過程には,実は非常に多くのステップが含まれているからだ。
McAllister氏はこのステップを大きく3段階に分割した。「ユーザーの興味喚起」「プレイヤーの体験」「支払い」である。そのうえで,「プレイヤーの興味喚起」と「ゲーム体験」の間には,「ゲームに対する理解」と「ユーザビリティ」というステップが挟まってくる。
一方で,多くのゲームデザイナーはゲーム体験に集中するが,これは仕方ないことで,そもそもゲームを作るとは,プレイヤーの体験をデザインするという行為だからだ。
このように,ゲームを収益化するために実際に重要となるポイントと,ゲームデザイナーが注力するポイントがズレている――より正確には,ゲームデザイナーだけでは必要となるポイントのすべてをカバーできない――ことが,「良いゲームなのに売れないゲーム」を作り上げてしまう。
この問題に対し,McAllister氏はコンセプト設計からローンチまで,ゲーム開発のすべての工程において,適切な検証を行い続けることが,ビジネス的な成功の秘訣であると語った。
「たかが」に潜む罠
この指摘はもっともなのだが,デベロッパからは「それくらい当然やっている」という意見が出てくるという。McAllister氏のPlayer Researchがこういった問題点を洗い出すプロなら,デベロッパもゲームを(総合的な商品として)つくり上げるプロなのだから。
だが,現実は厳しい。デベロッパがどんなに「これで大丈夫」と考えても,開発者として長い期間ゲームに携わるゆえに,(あるいは,同業他社のゲームをそこまで長時間かけて研究する余力を持てないゆえに)思わぬ落とし穴にハマってしまうケースは,非常に多いのである。
McAllister氏はここでその顕著な例として,「Clash of Clans」などBase Builder系の作品をピックアップした。サンプルとなったのは,Clash of Clansのほか,「Boom Beach」「Game of War: Fire Age」そして「Star Wars: Commander」(以下,SWC)だ。
SWCは,平たく言えば,Clash of Clansのクローンで,IPとして「スター・ウォーズ」を使うという,コンセプトだけを見れば失敗しようのないタイトルである。
Clash of Clansのテンプレートを使い,そこに世界的IPであるスター・ウォーズを乗せるのだから,これで失敗するとすれば「広告宣伝費を使いすぎた」とか「権利問題でもめた」とか,その手のきわけて政治的な話になるはずだが,SWCはそうしたトラブルがなかったにもかかわらず,芳しいセールスを得られなかった。
SWCがコケた理由は,どこにあるのか? McAllister氏は会場にそう問いかけた。会場からはコンセプトのミスマッチ(スター・ウォーズファンの年齢と,Clash of Clansファンの年齢がフィットしない)などが挙げられたが,McAllister氏は「実は失敗の原因は,そういう『大きな』ところにあるのではない」と指摘した。
同様に,SWCはアイコンのデザインも非常に悪い。スター・ウォーズに登場するさまざまなメカをアイコン化しているのは良いのだが,スター・ウォーズのコアなファンでなくては見分けがつかないようなアイコンでは,多くのユーザーの心を掴むゲームには成り得ない。
こういった,ゲームの操作および勝敗に直結するアイコンもまた,プレイヤーの判断を助けるものでなくてはならないのである。
さらに,課金アイテムの説明にも罠がある。例えば「Game of War」の場合,「お得なセット」としてパック商品が紹介されているが,パックされているアイテムがあまりにも多すぎて,画面をスクロールさせないとそれがどんな内容なのか把握できない。同様に,「今なら40%お得」といった表記も,4割引きなのか,それとも4割余分にゲーム内トークンを得られるのかがはっきりしない。
客観的な調査と評価が,作品の最終的な質を決める
このように,一つ一つを見ていけば「そりゃそうだよな」と納得させられる細かな問題点が,うまく行かなかったゲームの中に山積しているのである。これはしばしば「ユーザー視点が足りない」と言われる問題だが,ゲーム制作側が(さまざまな理由で)見落としてしまう問題でもある。
Player Researchのような調査会社は,こういった「細かいけれど,積もり積もってユーザーの離脱点になる問題」を綿密に洗い出し,ドキュメントとして開発者に提供するサービスを行っている。「でもお高いんでしょ?」と思ったのだが,必要となる費用は「ゲームの規模による」とのこと。実際,Player Researchが行う調査の60%はインディーズゲームが対象であるという。
客観的な調査と評価は,作品の質を大いに向上させる。
人間は,ものを作っているときは,どうしてもハイな精神状態になりがちだ。そうした,ある意味で異常な精神状態では気づかない問題点を,冷静な第三者は教えてくれる。それゆえに,自分が作ったゲームの面白さには自信がある,これは絶対に楽しんでもらえるはずだ,という自負があるゲームデザイナーほど,こういった第三者による調査を利用することを勧めたい。
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