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「イノベーションを起こす」とはどういうことか。ゲームクリエイターの鈴木 裕氏らが事例を紹介した「POPジャパン特別セミナー」聴講レポート
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印刷2013/04/12 18:39

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「イノベーションを起こす」とはどういうことか。ゲームクリエイターの鈴木 裕氏らが事例を紹介した「POPジャパン特別セミナー」聴講レポート

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 2013年4月7日,東京都内の「IID 世田谷ものづくり学校」に新設された“新時代のイノベーター養成プログラム”「イルカ(ILCA)の学校」にて,講座「POPジャパン特別セミナー 〜映画,ゲーム・アニメ・マンガの巨匠による最先端〜」が開催された。ILCA(INNOVATION, LEARNING, CREATIVITY AND ARTS)は,次世代カルチャーを担う若いクリエイター達の育成を目指すプロジェクトで,ゲームクリエイターである故・飯野賢治氏と,MITメディアラボ所長の伊藤穣一氏を中心とする有志によって発足された。「イルカの学校」は,ILCAと,飯野氏が代表取締役社長を務めていたフロムイエロートゥオレンジとが開設したプログラムだ。

 今回レポートする講座では,アニメーションプロデューサーの竹内宏彰氏がモデレーターとなって,作家/編集プロデューサーの角南 攻氏と,ゲームクリエイターの鈴木 裕氏がコミックおよびゲーム業界に起こしたイノベーションを,事例を交えて紹介した。


コミック誌業界にイノベーションを起こした角南 攻氏


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アニメーションプロデューサー 竹内宏彰氏(ILCA 発起人)
 講義の冒頭では,ILCAの発起人の一人である竹内宏彰氏が,この講座のキーワードとなるイノベーションについて解説した。そもそもILCAや,この講座がイノベーションを掲げているのは,ILCAの発起人達の間で,「今の日本には“カッコいい大人”が少ない」という話題が出たからだという。その背景の一つとして竹内氏は,2000年以降,世界における日本企業の勢いがなくなり,代わりにiPhoneやFacebookといった北米発の製品/サービスが台頭してきたことを挙げる。

 それでは日本と北米のどこが違うか,竹内氏はそれがマーケティングとイノベーションの比重にあるし,マーケティングとは,消費者の欲求を調査/分析し,合致する商品を提供する手法であるのに対し,イノベーションとは,これまでにない新しい商品を作り出し,社会や市場に変化をもたらすものであり,日本では前者の方が重視されがちであることを指摘した。

 また,竹内氏はイノベーションの大きな特徴として,目指すべき夢や将来像の存在を挙げる。たとえばハリウッドで莫大な予算をかけて大作映画の制作に関わる人々は常に,「この映画が世に出たら,世界やジャンルの概念が大きく変わる」といった,自らが生み出すイノベーションが周囲を大きく変えるようなビジョンを持っているそうだ。

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作家/編集プロデューサー 角南 攻氏
 さらに氏は,かつて自身が仕事で関わったスティーブ・ジョブス氏やビル・ゲイツ氏らについて,誰もが,大きなビジョンを持っていたと説明し,彼らを“カッコいい大人”と表現。そして,その“カッコいい大人”の代表として,ゲストの角南 攻氏と鈴木 裕氏を紹介した。

 角南氏は,集英社および白泉社のコンテンツにおいて,さまざまなイノベーションを成し遂げてきた人物である。1968年,集英社に入社した角南氏は,新たに創刊する少年コミック誌の編集部に配属されたが,初仕事は雑誌の名前を決めることだったという。角南氏が“ダッシュ”“エース”と候補を出していく中で,“ジャンプ”という言葉が当時の編集長の目に止まり,「少年ジャンプ」という名称が決まったのだ。ちなみに創刊当時の「少年ジャンプ」は月2回刊だったが,1969年11月に週刊誌としてリニューアルしている。

 「少年ジャンプ」にて,角南氏が最初に起こしたイノベーションは,永井 豪氏の描く「ハレンチ学園」の連載だ。当時の少年誌では例のない性的な表現(と言ってもスカートめくり程度なので,昨今のそれと比較するとソフトなもの)に挑戦したところ,物議を醸し,当時の和歌山市では雑誌ごと発売禁止になる事態となった。しかし,そのニュースが逆に世間の注目を集め,「ハレンチ学園」はヒット作となったのだ。

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 そのあとも角南氏は,「トイレット博士」で下ネタをあつかうなど少年誌のタブーに挑戦するが,車田正美氏の「リングにかけろ」では,また別のイノベーションを生み出した。それが同作品の特徴でもある,見開き2ページを使った大ゴマによる必殺技などの表現である。

 しかしその裏には,やむにやまれぬ現実的な事情もあったと角南氏。実は当時,背景担当を確保することができなかったそうで,車田氏が描いたキャラクターと,アシスタントの施すベタ塗りとホワイトだけで効果的な表現ができないか模索した結果,生まれたのがあの表現だったというのだ。
 そうした状況を振り返り,角南氏は「最初から全部揃えて,きちんとした形にしないとダメという考えは持たないほうがいいです。今,持っている力だけで何とかなることもある」と,聴講者に呼びかけた。

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 そして1979年,集英社が新たに創刊する「ヤングジャンプ」編集部に副編集長として移籍し,1983年からは編集長に昇格してその後の10年間を支えることとなる。
 ここでのイノベーションは,まず表紙に連載コミックのタイトルを表示しないことだった。その理由を角南氏は,当時のファッションを鑑みて,手に持っているときにコミック誌だと思わせず,他人から「その本,何?」と聞かれるような雑誌にする狙いがあったと説明した。

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 また「ヤングジャンプ」では,人気作と並行して,それほど有名ではない人物の功績にスポットを当てた「栄光なき天才たち」など,他誌にはない内容のものが連載されていたが,その中でも最も異色だったのが「少年アシベ」だ。
 当時,アルバイトとして編集部に在籍していた竹内氏は,「男臭い中に,こういう(可愛い)のがあるからいいんだよ」と角南氏が発言したエピソードを披露したが,角南氏自身には,少ないページ数のギャグ漫画に挑戦するという意図があったという。「少年ジャンプ」時代からコミック編集に携わってきた角南氏にとって,ギャグ漫画とは1回あたり15ページのものだったが,世間の流れを見て,より簡潔な内容を目指したわけである。なお「少年アシベ」には,女性読者40%増という効果もあったそうだ。

 またグラビアページにて,F1やコスプレといった,そのときどきの流行ネタを取り上げていったのも,角南氏のイノベーションである。角南氏は,コミック誌でありながら総合誌であることを目指し,とにかく「誰もやっていないことをやる」を目指していたと語る。
 これらのグラビアを手がけていたのが,アルバイトから編集者になった竹内氏だ。毎週100個のネタを提出するよう,角南氏から命じられていたと,竹内氏は四苦八苦していた当時を振り返っていた。

 その後,角南氏は1993年に,集英社の「メディアミックス部」を創設し,「ドラゴンボールZ」「ジョジョの奇妙な冒険」などのアニメを制作したのち,1997年には集英社の関連会社である白泉社の取締役に就任。白泉社では,集英社で培ったノウハウを生かし,アニメ「ベルセルク」「藍より青し」「エアマスター」「ガラスの仮面」「夏目友人帳」「しばわんこ」,そして映画「デトロイト・メタルシティ」および「大奥」といったメディアミックス事業を手がけた。

 白泉社にて,角南氏がメディアミックス事業の展開を口にしたときの社内の反応は,まず「予算もノウハウもない」だった。しかし,角南氏が人脈を駆使してプロジェクトを動かし,成果を出すと,社内の雰囲気も次第に変わっていったという。メディアミックスという将来像を角南氏が打ち出したことにより,白泉社の社内にイノベーションが起きたわけだ。


ゲームクリエイター 鈴木 裕氏が起こした数々のイノベーション


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Ys Net 代表取締役社長/セガ顧問 鈴木 裕氏
 もう一人の“カッコいい大人”として紹介されたのは,ゲームクリエイターの鈴木 裕氏だ。あらためて紹介しておくと,鈴木氏は1983年にセガに入社し,アーケードゲーム「ハングオン」「スペースハリアー」「アウトラン」「アフターバーナー」といった体感ゲームや,3Dグラフィックスの格闘ゲーム「バーチャファイター」など,数々の世界的なヒット作を手がけた。同じく鈴木氏が手がけ1999年にリリースされた「シェンムー」は,以降のオープンワールドスタイルのゲームに多大な影響を与えている。

 鈴木氏は,“ムービング筐体”を使ったタイトルとして,最初に手がけた「ハングオン」について,社内では大きな反対にあったことを明かす。つまり,日本人はシャイなので,大きな筐体にまたがって注目を浴びることを好まないだろうというわけである。
 しかし鈴木氏が,当時のゲームセンターの不健全な雰囲気を覆すべく,新たな客層を呼び込みたいと熱意を持って上層部を説得したところ,企画が実現した。結果,「ハングオン」を筆頭に,体感ゲームは次々にヒットし,のちのゲームなどにつながるイノベーションが起きたのである。

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 鈴木氏が次に起こしたイノベーションは,3Dグラフィックスをゲームに持ち込んだことである。1992年の「バーチャレーシング」は,リアルタイムの演算によって挙動や位置関係がリアルに表現される半面,当時のハードのスペックのせいで見た目には劣るものとなってしまったが,それがかえって人々の印象に残ったのではないかと氏は語る。
 鈴木氏自身は学生時代から3Dグラフィックスに関心が高く,いつかゲームも3Dの時代に入っていくだろうと予想はしていたそうだが,このタイミングになるとは考えていなかったという。

 続いて「バーチャファイター」の企画開発を手がけることになるわけだが,1対1の対戦格闘ゲームにしたのは,ハードによる制限が大きかったからと鈴木氏。たとえばサッカーでは同時に多数の選手を表示しなければならず,処理が追いつかないというわけである。

 鈴木氏と「バーチャファイター」シリーズがゲーム業界にもたらした最も大きなイノベーションは,「2」におけるテクスチャマッピングの採用である。それ以前のテクスチャマッピングは,軍事企業の最高機密にあたるような技術だったのだが,1991年のソビエト連邦崩壊にの頃から,北米にて民間企業も利用するようになったのだそうだ。

 とは言え,当時のテクスチャマッピング用チップには,一つが2億円というとんでもない価格が付いていた。当然,そんなものをゲームに採用するわけにはいかないのだが,北米に渡った鈴木氏が粘って交渉し,また量産によるスケールメリットなどが生じた結果,「バーチャファイター2」リリース後には,チップの単価が5000円以下になったという。以降,各社が3Dグラフィックスを駆使したゲームの企画開発に乗り出すことになるのだ。

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 次に鈴木氏が乗り出したのは,オープンワールドのゲームである。それまではゲームで複数の要素を成立させようとすると,一つ一つが浅くなってしまうことから敬遠されていたのだが,鈴木氏はAIを採用することでパターン化を防ぎ,深い内容を実現しようと考えた。それが「シェンムー」である。

 「シェンムー」は,現在のオープンワールドゲームの原型であり,ストーリーをどんどん進めてもいいし,ずっと街をブラブラしたりするだけでも楽しめる設計になっている。また1986年当時の横須賀の気象データを反映しており,日々天候がリアルに変化したり,300人前後の登場人物それぞれにバックボーンと生活パターンを持たせたりというような,当時としては極めて斬新なチャレンジもしている。

 こうした試みに対して,さまざまな方面から「それはゲームとしてどういう効果があるのか」という質問が常に浴びせられたのことだが,鈴木氏は「もう一つの現実世界がゲームの中に存在するからこそ,プレイヤーは没頭する。それがオープンワールドというものです」と説明していたそうだ。
 いずれも,現在のオープンワールドゲームでは当たり前になっている要素ばかりだが,鈴木氏が「シェンムー」で描いた将来像と,実際にもたらしたイノベーションがあってこそのものといえるだろう。

 そうした鈴木氏の活躍は,海外でも評判となった。会場にて,氏は,マイクロソフトがゲーム事業に乗り出す前,来日したビル・ゲイツ氏に面会を求められたときのエピソードを披露。ゲイツ氏は,「Windowsをどう思う?」という漠然とした質問をしてきたそうで,「何を言っても怒らないか」と念を押したうえで,「なぜ,あんなに挙動が遅いのか」と少し失礼とも取れる返答をしたという。するとゲイツ氏は怒るどころか,「キミもそう思うか」と返してきた。その後はしばらく二人でプログラムに関する談義を交わしたという。
 そのほか鈴木氏は,スティーブン・スピルバーグ氏にサインを求められたエピソードや,マイケル・ジャクソン氏のモーションキャプチャをしたときのエピソードなどを披露した。

 講義のまとめとして,竹内氏は,角南氏や鈴木氏のような“カッコいい大人”も最初からすごかったわけではないと前置きしてから,聴講者に自分のやりたいことや夢を実現するために必要な二つのポイントを示す。
 一つは,自分のやりたいことや夢を誰かに伝え,共感してもらい,味方になってもらうこと。そしてもう一つは,最初から大きな成功を目指すのではなく,今置かれている状況でできる最高を目指すことだ。それを達成することにより,次のステップでできることが増えたり,助けになる仲間が増えたりするというわけである。最後に竹内氏は,自身が直接顔を合わせたときにも聞いたというビル・ゲイツの言葉を引用し,講義を締めくくった。

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竹内氏が引用したビル・ゲイツの言葉
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