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ブラウザゲームは死んだのか? ブラウザゲーム開発最前線のメーカーが集った「ブラウザゲームの未来を考える」セミナーレポート
スマートフォン用ゲームのネイティブアプリへのシフトが進む中,ブラウザゲームの時代は終わりつつあると見なされているが,はたしてこの認識は正しいのだろうか。gloops,DMM.com,そしてDeNAという,ブラウザゲーム市場の最前線にある3メーカーからスタッフが集い,ブラウザゲームの今後に関して語った。
未来のブラウザゲーム市場を戦い抜くためにデベロッパが持つべき三つの事業の考え方
まずは小池氏によって,今回のテーマであるブラウザゲームを語るための現状確認が行われた。
現在,日本市場におけるネイティブアプリとブラウザゲームの市場規模は4:1だが,これがアクティブプレイヤー数の比率で見ると10:1となる。つまり,ブラウザゲームはアクティブプレイヤー数こそ少ないが,市場規模としてはまだまだ健闘している,というのが氏の分析だ。
ブラウザゲームを作るメーカーは減ったものの,ネイティブアプリ市場は多くの競争者でごった返しているため,「ブラウザゲーム市場は競争相手が少なく,強みを活かせればチャンスになりえる市場」であると氏は総括した。
1:事業運営の適正判断による利益貢献
2:ワンソース・マルチユースでの効率的な展開
3:ブラウザゲームを進化させるチャレンジ
といったものが提示された。
1に関しては,「ゲームのクオリティを保ちつつ,クリエイターの数や予算額のバランスが適正かどうかを見ていこうという」という経営判断の話だ。
最近では,運営が長期化して売上とコストのバランスが見合わなったときには,少人数で効率化した運営を行ったり,運営を外部のパートナー企業に移管してのコスト削減が行われているという。
中でも興味深いのは運営移管だ。移管に先駆け,1〜2か月間かけてgloops社内でパートナー企業との共同運営を行ってビジョンを共有することにより,運営コストを削減しつつ売上を伸ばすことが可能なのだという。もちろん,ここで優先されるのは「しっかりとしたUX(User eXperience:ゲームを遊んだときの体験)が提供できているか」という点で,いたずらに予算を削ったり運営を丸投げしているわけではないのだそうだ。
2は一つのゲームをさまざまなプラットフォームで提供するということだが,単に同じものを使い回すのではない。
「スカイロック」GREE版ではプラットフォームおよびトレンドに合わせた新機能を追加実装したという。「To LOVEる-とらぶる- ダークネス -Idol Revolution-」は作品のターゲットに合わせてDMMやAmebaを選定してゲームが提供されているが,DMMではプラットフォームの特性に合わせてPC版を用意するなど,さまざまなアレンジを加えている。
これにより,「スカイロック」GREE版は,Mobage版に対して7割の売上を上乗せしているとのこと。「To LOVEる-とらぶる- ダークネス -Idol Revolution-」では,全プラットフォームの総売上がマルチ展開前の約2倍に達したのだという。
3では夏賀氏に代わって小池氏が登壇し,ブラウザゲームを進化させていくということの意味が語られた。業界人の間ではブラウザゲームとネイティブアプリの違いや今後について盛んに議論が行われるが,プレイヤー視点においては,面白いものであれば,それがブラウザゲームだろうがネイティブアプリだろうがどちらでも関係はない。
事実,縮小傾向といわれるブラウザゲームであってもいくつかの大ヒットが生まれている。そうしたブラウザゲームに共通しているのは,コンセプトに独自性があり,これに連携したゲームデザインが成されていることだという。ブラウザゲームやネイティブアプリといった表現形態がヒットするか否かを決めるのではなく,あくまで中身が大切であるというわけだ。
gloopsでは,完全新作のブラウザゲームも用意しており,10月29日のセミナーをはじめとして,今後も情報を公開していくという。小池氏は,市場の状況に左右されず,ブラウザゲームを発展させるというチャレンジを続けていきたい……と語って講義を締めくくった。
ブラウザゲームはまだ死んでいない
講演は,林氏によるDMM.comとDMMゲームズの現状説明からスタートした。
DMMサービス全体のユーザー属性を見ると,平均年齢が36歳,男女比は男性82%・女性18%となり,30代後半の男性を中心に支持されているとのこと。しかし,これがDMMゲームサービスに限ると,20〜29歳のプレイヤーが55%を占め,男女比が男性78%・女性22%と変わり,もちろんタイトルの特性によって変動はあるが,DMMゲームサービスが若い層や女性を引きつけていることが見えてくる。
同社のヒット作となっている「某擬人化タイトル」2作品を見ても,タイトルAでは20代プレイヤーが中心,タイトルBでは20代女性が9割を占めるなど,明らかにDMMのほかのサービスとは異なった結果となっているという。
縮小傾向が指摘されるブラウザゲームの世界において,20代プレイヤーを多く惹きつけているだけでなく,女性中心のサービスが成立しているあたりは驚きで,ゲームのコンセプトがいかに大切なものであるかが分かる。
そんなDMMゲームズで期待を集めているのが「銀河英雄伝説タクティクス」だ。1982年に刊行されたSF小説「銀河英雄伝説」,そのOVA版を原作としたシミュレーションRPGで,2015年春にスタートする予定だったのだが,いまだ開発中である本作について,斎藤氏が語った。
「銀河英雄伝説タクティクス」はブラウザゲームとして開発されており,現時点ではネイティブアプリのリリース予定はないという。時代に逆行したようにも見える選択だが,DMMゲームサービスがブラウザゲームを中心に成長しているプラットフォームであること。そして,原作が幅広く,とくに30代以降からも強く支持されており,DMM.comのユーザーも30代以降が多いということから,ブラウザゲームに決定したのだという。
開発はDMMゲームズ社内で進められ,フロントはFlash,バックはPHPという,ブラウザゲームとしては標準的な技術が使われている。スマートフォンと違って機種依存問題がないこと,技術が熟成されており仕様変更のリスクが少ないこと,GPUレンダリングもできることなどが,Flashを使うメリットとのことだ。
では,なぜ開発が遅れたのかというと,これはひとえにリソース不足が原因だという。フロント部分を開発するエンジニア不足に加え,原作の世界観にボリュームがあるため,どこまでゲームにするかといった部分でも難航したという。Flashを使ったブラウザゲームだからこそ大きな問題は出ずにここまでこぎ着けたものの,ネイティブアプリだともっと厳しい状況になっていたのではないか,と斎藤氏は語る。
そんな「銀河英雄伝説タクティクス」だが,現時点での開発進行状況は85%で,今冬のリリースに向け,クオリティアップなどの最終段階に入っているそうだ。
最後に斎藤氏に替わって登壇した林氏は「某大型IP」の,一般向け新作ブラウザゲームを準備中であることを明かしたうえで,今後もブラウザゲームを盛りあげていきたいです,と意気込みを語った。
超ロングヒットゲーム運営の裏側 〜ブラウザゲームの長期運営から学べる教訓〜
2009年から「怪盗ロワイヤル」などさまざまなゲームを運営してきたDeNA。ロングヒットの秘密はプレイヤーの支持とゲームの面白さ,そして,ブラウザゲームのさまざまな課題と「泥臭く戦ってきた」からだという。すなわち,「上級者から初級者までプレイヤーが分散する」「プレイヤーが飽きる」といった長期運営ゆえの課題や,「アップデートしやすいがゆえに目先の反応を追う“反応癖”が出てしまう」「1か月サイクルで考えがち」「ターゲットプレイヤーを見失いがち」などが,ブラウザゲームならではの課題として挙げられていた。
そこで得られた教訓を,
1:ターゲットに対するUXビジョンを決める
2:UXビジョンを検証する機会を設ける
3:とことん配慮する
4:仕様は変えずにソーシャル性を活用する
5:仕様は変えずに目新しさをつくる
6:プレイヤーの目標を枯渇させない
7:PDCAサイクルを短期/中期/長期で複数回す
8:ペルソナもきちんとアップデートする
の8ポイントにまとめたのが講演の内容となる。
1:ターゲットに対するUXビジョンを決める
上級者から初級者まで,プレイヤー層がさまざまに分散すると,それぞれの層に向けた施策を打たなければならないような気分になるが,決してそうではないと田川氏は語る。どの層にどういったUXを提供するかを設定することにより,自然と現在のフェーズでやるべきことが決まってくるのだという。
2:UXビジョンを検証する機会を設ける
UXビジョンを決めるうえでは「仲間と共にワクワクする冒険を提供する」といった曖昧な言葉ではなく,「キャラクター同士の連携効果を考えてデッキ編成を楽しめる機会を提供する」というように,内容を明確化することが必要なのだという。こうしたUXへのビジョンはもちろん検証される必要がある。プレイヤーに望まれていない独りよがりなゲームでは意味がないからだ。
3:とことん配慮する
プレイヤー層の分散により,あらゆる層への配慮を行ったうえで施策を打つ必要が出てくるが,ここに特効薬のような考え方は存在せず,とことんまで考え抜いたうえで配慮を行わなければならない。ときには運営サイドが立てた仮説が誤っていることもあるため,妥協することなく考え続けなければならないのだという。ソーシャルゲームを運営する力の一つは,この“配慮力”なのではないかと田川氏は語っていた。
4:仕様は変えずにソーシャル性を活用する
プレイヤーがゲームに飽きてくるのは長期運営タイトルの宿命だ。しかし,新たな仕様・機能・遊びを入れていくことは,プレイヤーが遊び方を学ぶ手間と,運営コストが増えることでもあるため,ゲーム自体の仕様を変えることなくできることを考えるのが重要だと田川氏は指摘する。ここで有効なのがプレイヤー同士で盛り上がれるソーシャル性の活用なのだという。
5:仕様は変えずに目新しさを作る
プレイヤーに新たな負担を与えず,かつゲームに飽きさせないためには,見た目や演出の変更やコラボ,報酬の増加など,仕様を変えずに目新しさを作ることも有効だ。ここでは「利益に結びつけたい」というような欲を出さず,プレイヤーに喜んでもらうことを優先するのが成功の秘訣なのだという。ある原作モノゲームでは,原作ネタを使ったログインボーナスが大きな反響を呼んだそうだが,これなどは「仕様を変えずに目新しさを作る」考え方の好例と言えるだろう。
6:プレイヤーの目標を枯渇させない
プレイヤーの飽きを防止する基本は,目標を枯渇させない,つまり「やることがない」状態にしないことだ。そのためには短期・中期・長期の目標を作るのが有効。新カードを実装するにしても,後々まで使えたり,コレクション性を持つものがよいという。
7:PDCAサイクルを短期/中期/長期で複数回す
PDCAサイクルとは,「Plan(計画)」→「Do(実行)」→「Check(評価)」→「Act(改善)」の4段階からなる業務の流れだ。
ブラウザゲームはアップデートがやりやすく,これに対するプレイヤーの反応をチェックする環境も整っているため,運営していると,ついつい目先の反応を重視してしまう。こうした傾向を田川氏は“反応癖”と呼ぶ。この癖が付いてしまうと,中期・長期の目標を見失いがちになってしまう。キャリア決済の関係から,ブラウザゲームのサイクルが1か月であることもこれに拍車を掛けるという。
こうした事態を避けるためには,短期・中期・長期の目標をそれぞれ立てるのが有効で,アップデートのやりやすさなど,ブラウザゲームのメリットを活かしたうえで運営が続けられるそうだ。
8:ペルソナもきちんとアップデートする
ブラウザゲームの課題として田川氏が挙げるのが,ターゲットとするプレイヤーを見失いがちになるという点だ。家庭用ゲームとは違った層のプレイヤーも多いうえ,ネイティブアプリ市場という異なったフィールドの動向もあり,こうした現象が起こりやすいのだという。
そのためには,ペルソナ(ターゲットとして想定するプレイヤー像)も,時代に合わせてアップデートしていかなければならない。時間の経過と共に,プレイヤーのライフスタイルやほかにプレイするゲームなど,さまざまな状況が変化していくからだ。
最後に田川氏は,運営という業務は泥臭いものであり,頭でロジカルに考えた施策が毎回キッチリと決まっていくようなものではないと指摘した。氏は「お客様の満足度を高めることを目標とし,その結果として事業目標を達成していきたい」と語り,カンファレンスを締めくくった。
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