Blizzard Entertainmentが開発する
「Overwatch」(
PC /
PS4 /
Xbox One)は,クオリティの高いシネマティックトレイラーもファンの間で話題になった。その制作秘話に迫るメイキングセミナーが,2016年10月22日に都内で開催された。
ボーンデジタルの主催で開催されたこのセミナーで,同社が扱う製品のユーザー向けに,Blizzard Entertainmentのムービー制作チーム
「Blizzard Animation」によるいくつかのセッションが行われている。本稿ではそのうちの「シネマティックトレイラー」のメイキングセッションをお届けしよう。
このセッションでは,2014年のBlizzconにて初披露された,本作のシネマティックトレイラーのメイキングについて,Blizzard Animationの開発スタッフが,貴重な資料や映像とともに,その制作秘話を語った。
これまで
「World of Warcraft」「Diablo」などのシリーズでもシネマティックムービーを制作してきた,Blizzard Animation。これらの作品では,ディテールを極限まで細かく表現した,フォトリアルなシネマティックムービーを制作してきたが,同社の約18年ぶりとなる新規IPとしてリリースされたOverwatchでは,これまでのBlizzardのゲームとはグラフィックスの方向性がまったく異なり,ムービーもそれに合わせる必要があったため,制作はかなり大変だったという。
登壇者は左からBlizzard AnimationのSeth Thompson氏(Environment Modeling Supervisor),Steven Chen氏(Senior Supervisor),Taka Yasuda氏(Lead Production Supervisor)
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2人の男の子を通じてOverwatchというゲームの世界観が語られるというこのムービーは,ゲーム本編の開発とほぼ並行して制作されたものだ。
その制作は,まず
「ビートボード」という,ディレクターによるざっくりとした手描きのスケッチから始まる。これは,ムービーのキーとなるシーンをチームに伝えるために作られる,日本で言う絵コンテのようなもので,ムービーチームだけでなく,ゲームチームともやりとりされ,何度も描き直されることで,ムービーのストーリーが決まっていくのだ。
次にゲームチームからゲーム中の各種ビジュアル設定が届き,ムービーチームがそれをできるだけ忠実にムービー用の3Dで再現していく。これまでのフォトリアルなムービーとは異なる描写となるため,過去のノウハウの一部は生かすことができず,この世界観を表現するための環境の構築に苦労したそうだ。またそれと並行して手描きによる2Dのアニマティクスによるストーリーボードも制作。これによってどんなシーンが必要で,どう編集すればいいのかを決定していくという。
ゲームのビジュアル設定と,ムービーチームが制作した3DCG。後者はまだ制作途中のものだ
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ムービーの背景となる博物館の様子。展示物はすでに配置され,ライティングがここで決まる
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手描きのアニマティクス。止め絵のようだが,実はパラパラアニメのように動いている
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続いては,ムービーに登場するキャラクターデザインだ。ムービーの主人公となるのは,ゲーム本編には登場しないブライアンとティミーという兄弟で,作品の世界観に合わせることを徹底してムービーチーム主導でキャラクターが制作されている。
ゲームチームから提供されたキャラクターのアートワークと並べてみて,同じ空間に存在しても違和感がないことを常に意識しつつ,ゲームのアートディレクターと密にやりとりをしながらキャラクターを構築していったとのこと。
ティミー(左)とブライアンの兄弟。弟のティミーは右手にケガをして,ギプスをはめている
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ゲームチームによるトレーサーのアートワーク。これに合わせて兄弟のアートワークを制作
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アートディレクターによって細かく指示が入れられ,修正が重ねられる。服のシワや折り目まで指示されるそうだ
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またムービーには,ゲームキャラクターであるトレーサー,ウィンストン,ウィドウメーカー,リーパーが登場している。ムービーの場合,シーンによってキャラクターの表情などを作る必要があることに加えて,カメラがズームしたときのために,細部のディテールはゲームの設定画からさらに細かいところまで作り込む必要があったそうだ。
加えて,ムービーのキーアイテムとなっている博物館に展示されたガントレットは,
「Doomfist's gauntlet」という,ムービーチームオリジナルデザインのアイテムで,これを見たゲームチームはそのデザインを大いに気に入り,ゲームのステージである
「ヌンバーニ」のペイロードに載せてしまったという逸話も明かされた。
ムービー制作のために,より細かなキャラクター設定がほどこされた
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博物館の展示物「Doomfist's gauntlet」。ヌンバーニのゲームプレイ時に確認してみよう
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こうして設定された背景やキャラクターは,手描きのアニマティクスからCGによる仮のプリビズ(プリビジュアライゼーション)が制作され,それがアニメーションチームに送られてアニメーションとなり,最後にレンダリングやライティングが施されて完成となる。
次に解説されたのは,ムービーのCGの質感を施すサーフェシングの作業について。こちらもやはりゲームを忠実に表現することが大原則で,フォトリアルにならないことを意識しつつもディテールは細かくするというバランスを取った表現は,チームにとっては大変な作業だったという。
その制作例として挙げられたのが,ムービーに登場するウィンストンのCGだ。ゲームキャラクター然とした姿のウィンストンだが,その要所には現実に存在するマテリアルを参考にしたテクスチャーが施されている。
このように,シネマティックトレイラーでは,フィクションとして存在するキャラクターと現実世界のバランスを常に考慮して制作が進められていった。
ウィンストンのフレーバーシート。部位ごとに参考にした素材がわかる
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こちらは博物館に展示された歩行兵器のフレーバーシート
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「ターンテーブル」と呼ばれる,CGモデルを確認するための画面。右上の写真はサーフェスチームのスタッフだ
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ウィンストンの顔はアートディレクターのチェックによって,理想的な顔に仕上がった
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ティミーのモデル。左がプリレンダ直後のもの,右がアートディレクターの指示が入ったもの。とくに肌の質感にこだわったという
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こちらが完成したティミー。ちなみにギプスに描かれている絵は,Warcraftに登場するMurlocだそうだ
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ガントレットは金属素材の光沢と,ミリタリーテイストを感じさせるマットな素材を融合した質感に
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ムービーには数秒しか登場しない個性的な警備員や,博物館の展示物などもしっかりと作られている
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こちらはキャラクターに施される各種のエフェクト。ゲームチームから提供される素材を写実的になるように手を加えている
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こうして幾多の苦労のもと,ゲームチームとの連携を取ることで,Overwatchの世界観をより膨らませる傑作ムービーが,シネマティックトレイラーとして完成した。こうしたメイキングを踏まえて,改めてムービーを見たりゲームをプレイしたりしてみると,また新しい発見があるかもしれない。