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無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
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印刷2013/11/14 11:30

インタビュー

無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ

無難にゲームを作りたいというのであれば,それは「いいとこ取り」をしたいだけ――クリエイターとはそういう職業ではない


4Gamer:
 3年前のあの長いインタビューのとき,稲船さんは「展開がないまま,ただ今という時を回しているだけ」っていう話をしていましたよね,端的に言うと。
 キッチリそれにカウンターを打って,この3年は全然無難に回してないようですね。

画像集#021のサムネイル/無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
稲船氏:
 そうですね(笑)。無難にやっていきたいのであれば,やっぱりゲームクリエイターを辞めるべきだというのは,今でも変わっていません。クリエイターは,無難に生きる仕事ではないですから。
 確かに世の中には“無難な”仕事もあると思うので,そういうのがしたかったら,ちゃんとそっちに転職すべきだと思うんです。もし無難にゲームを作りたいというのであれば,それは「いいとこ取り」をしたいだけであって,そこから生まれるモノなんてないわけじゃないですか。

4Gamer:
 まぁ端から見ていても,ゲームクリエイターって「無難に」生きていけない筆頭職な気がします。

稲船氏:
 だから,いかに自分が無難に過ごさないかとかは割と気をつけています。それでいて「もうどうでもいいや」とかいう妥協のなかで生きていかない,とか。でも精神的には,なるようになれっていう精神も必要かな,って。

4Gamer:
 確かに,考え過ぎないとか,あまり深く捉えすぎないとか,結構重要ですよね。

稲船氏:
 ね。それまで練習を一生懸命やってきて,何も考えずに無になってバッターボックスに立つということですよね。それまでやってきた練習があるし。きっとオリンピックとかでもそうだと思うんですよ。スタートラインに立った時点で無になれるかどうか。
 そこに立つまでは必死で考えてるんですけどね。悩むし,考えるし,トレーニングするし。でもバッターボックスでは,トレーニングのことを考えたり,先のことを考えたり,以前悔しかった出来事を考えたり,そういうことは全部NGじゃないですか。
 なので僕も,ゲーム制作をしているときには,そういうのは考えないようにしてます。

4Gamer:
 それをするには相当な「心の強さ」が必要だと思うんです。

稲船氏:
 ええ。考えちゃダメだと思えば思うほど,不安になってしまうものですよね。夜も眠れないという人も,考えなきゃ眠れるのに,目をつぶってもなお「どうしよう,どうしよう」って考えてるわけですよ。

4Gamer:
 私はそういうの全然ないんですが,稲船さんは?

稲船氏:
 ないですよ。

4Gamer:
 お互い脳天気なようです。

稲船氏:
 (笑)。でもそれって一種の「訓練」ですよね。「稲船さんまったく悩みがなくていいですね,脳天気で」って思ってるかもしれませんけど,そんなことあるわけないじゃないですか(笑)。

4Gamer:
 経営者に悩みがないわけがないという。

稲船氏:
 ええ。悩みごとも多いし,どこまでいっても孤独ですよね。最終的には誰も助けてくれないわけですし。

4Gamer:
 分かります。

画像集#022のサムネイル/無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
稲船氏:
 もちろんスタッフのみんなも,いろいろと手伝ってくれるしやってくれますけど,最終的には一人で乗り切らなきゃいけないんですよね。だから,誰よりも強い精神力を持った人がリーダーをやるべきなんです。
 だから今,いつもどおりすごく大それたことを言いますが,日本のゲーム業界のリーダーをやらなきゃいけないのかな,とも思うんですよね。誰も望んでいないかもしれないけれど,そういうのって望むとか望まないとか関係ないですし。
 もちろん,望んでやるリーダー,望まれてやるリーダーが一番いいんですけど。望まれていないとしても,リーダーをやらなきゃいけない時ってありますよね。

4Gamer:
 世の中がそれを求めているかどうかが重要だと思うんですよね。三国時代や戦国時代じゃないですが。

稲船氏:
 そうですよね。だから,やっぱり自分がリーダーをやらなきゃいけないな,自分がゲーム業界を変えていかなきゃいけないな,と今でも思っています。
 自分で出来る範囲という問題はもちろんあります。お金をいっぱい持ってる大企業さんじゃないですからね。やれることはたかが知れてるかもしれませんが,自分のやれる範囲の中でリードはできるはずなんですよ。


辞めて1年後に何か世に出していることを目標に――「3年経ってもタイトル発表しただけじゃん」と言われるのが嫌だった


4Gamer:
 あの時から全然ブレてないんですねえ。
 ふといま気になったんですが,comceptを立ち上げてから作品って何本出しましたっけ。

稲船氏:
 ソーシャルを入れると8本です。本も4冊出してます(笑)。

4Gamer:
 ことさらに報道はしませんしリリースも打っていませんが,それって普通に考えたら結構すごいことなのでは?

稲船氏:
 そうですね。辞めてから3年で一本も出してない人もざらにいますし。
 辞める時は,それがすごく嫌だったんです。それまでの多くの人がそうだったし,独立するっていうのはそういうものんだと思ってる人も,いっぱいいるわけじゃないですか。

4Gamer:
 だって一本作るのに3年かかるじゃないですか,的な。まぁでも実際にそういう部分があることもよく理解しているつもりですが。

画像集#023のサムネイル/無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
稲船氏:
 でもじゃあ,その3年間をどうやって食っていくのか,っていう話ですよね。3年間,一体誰に食わせてもらうのか。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。だから難度が高い,という話なんです。

稲船氏:
 3年間を給料ゼロで働いてくれる人がいるならそれでもOKですけど,そんなわけないですよね,普通。そうなってくると,やっぱり3年かけてたらダメなんです。
 じゃあ会社作って翌月にゲーム出します,って言いたいところですが,それも事実上不可能です。1年くらいは耐えなきゃいけないだろうけど,やはり1年後に何か出てることを目標にやってきました。

4Gamer:
 稲船さんってフワフワして脊髄反射で生きてるように思われがちですが,意外と手堅いですよね。

稲船氏:
 そうですよ?(笑) で,2年が経ち,2年半が経ち……と積み上げてきたものが,むろん小さいものが多いですけど8本だってということです。まぁ発表しているものも合わせてですけど。
 コンシューマタイトルで「ソウル・サクリファイス」のような割と時間がかかりそうなものも2年以内に出せたっていうのもあるし,それはやはり大きな自信になりましたね。

4Gamer:
 有限実行ですね。

稲船氏:
 そう。「しょせん稲船なんて,3年経ってもタイトル発表しただけじゃん」って言われるのは,やっぱり嫌だったんで。

4Gamer:
 今開発中のラインって何本ぐらいあるんですか?

稲船氏:
 いままで作った数の倍くらいはありますよ。ソーシャルは別枠で特に多くて,全部で15本とかあるんじゃないかな。

4Gamer:
 15本……?

稲船氏:
 まあソーシャルに関しては,僕は最初から言ってるんですけど,まず「何打席,打席に立つか」だと思うんです。どんなに良いゲームを作るか,ではないんです。打てようが打てないが,まず打席に立つ。

4Gamer:
 打席に立たなきゃボールも打てませんし,宝くじも買わなきゃ当たらない。

稲船氏:
 そう。立たなかったら,ボールに当たるわけないんです。
 でも実際には,打席に立ててない会社も多いですよね。ソーシャルやります!って言ってからもう1年以上経つけどタイトル出てません,みたいな。やっぱりソーシャルは,10打席立って何本当てるか,だと思うんですよね。

4Gamer:
 それって,単純に確率論の話をしているわけではなくて,打席数を増やすことによって何か得られるものがあるということですよね,きっと。

画像集#024のサムネイル/無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
稲船氏:
 そうです。結局思い起こすと僕らって,コンシューマで仕事してた最初の頃に,知らず知らずにですけど,とにかく試合にたくさん出たんですよね。ファミコンでは,大体3か月,4か月で1本作って,休憩入れてもやっぱり半年に1本は出してきたわけです。
 ファミコンで3年経ったときに「稲船が関わったタイトルは何本ありますか」ってなったときに,それは3本とかじゃないんです。8本とか9本あるわけですよ。あれが自分を育ててくれたと思うんですよね。

4Gamer:
 あのころはそんな時間の流れ方だったんですね。速い……。

稲船氏:
 結局何かっていうと,作るっていう工程を経験することが大事ですよね。「3年間ゲーム作ってました」ではダメなんです。

4Gamer:
 なるほど,理解できます。

稲船氏:
 3年間ゲーム作りしてました。でもロムアップは経験してません,という人がホントにいるわけですよ。修羅場になるあの地獄の“最後の一瞬”を知らないと――無闇に精神論の話にするわけじゃないですが――勝てないものがあるんです。
 何が言いたいのかっていうと,今のゲーム業界に入って3年間,例えばPS3とかPS4とかのタイトルをやる人と,あのころの僕らが同じ年代で業界に入って3年間やった経験値の違いっていうのは,歴然とあるわけですよ。

4Gamer:
 別に年寄りぶって「昔はよかった」という懐古論をここでやるつもりはないですが,メディアなんかでもそういうのはちょっと感じます。紙の時代の「地獄の校了」を経験してない人は,何かにつけ甘いんですよね。すぐ逃げたり諦めたり。

稲船氏:
 なるほどね。ゲームで言うなら,必要となる技術力とか難易度調整とか,そういう部分では,確かに今の方が大変かもしれません。でも僕らは,ファミコンではあったけど,3年間で8本作ったということを経験してるわけです。

4Gamer:
 8回の修羅場を見てるわけですね。

稲船氏:
 そう,「場数」なんです。やっぱりそこは全然違うと思います。
 で,話を戻すと,ソーシャルゲームに早く自分達が慣れるには,結局のところ場数を踏むしかないんです。そして場数を踏むためには,時間とお金をかけたらダメなんです。

4Gamer:
 特に時間は。

稲船氏:
 そう,だから3か月とか4か月っていう期間のなかで確実に仕上がる企画を作って,その中で,使えるお金を制限していく。一方でその状況下とはいえ「開発費が安いから面白くないのは当たり前だ」とか「制作期間が短いからこんなもんだけど仕方ないよね」とか,そんな甘えは許されるわけがないじゃないですか。

4Gamer:
 ユーザーにとってはどうでもいいことですから。

稲船氏:
 まったくですね。自分の遊んでるソーシャルゲームに1億かけてるのか,それとも1000万で作ってるかなんて知ったこっちゃないしどうでもいいことですよ。面白ければいいんです。3億かけようが5億かけようが,面白くないものは誰もダウンロードしてくれないんです。

4Gamer:
 プレイヤーとしての自分を考えれば,まさにそうですね。

稲船氏:
 とくにFree to Playの場合は,そういう厳しい世界ですよね。だから,ユーザーの琴線に触れるものを,どうやって早く世の中に出していくかが重要です。「ヒットしました」「じゃあ続編作ろう」っていうロジックじゃないんですよね。ヒットするかどうかは分からないけど,とりあえず仕込んでおけ,という。

4Gamer:
 言葉で聞いている限りは「まさにそうでしょう」と同意できるんですが,でも実際問題としてそれは相当リスクの高いことじゃないでしょうか。いくらコンシューマより開発費の安いスマホ系とはいえ。

稲船氏:
 もちろん相当の覚悟が要りますよ。その金も誰かから出してもらうわけじゃなくて自分で調達するわけですから,リスクもあります。それはやはり,コンシューマメーカーにいる限り,やらない――というかできない――ことですよね。

4Gamer:
 しかし,そもそもクリエイターとして,そのあたりの気持ちの切り替えはできるものなんでしょうか。スタンスもさることながら,作り方もだいぶ違うわけじゃないですか。

画像集#025のサムネイル/無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
稲船氏:
 僕はできますよ。面白いか面白くないかが重要なだけですから。
 例えばゲームは面白いし,コミックだって面白い。飲み会に行っても面白いし,ダーツで遊んでも面白い。つまり「面白い」っていうのは,別にその対象がなんであれ関係ないんですよね。

4Gamer:
 そう聞くと極めて当たり前のことに聞こえますね。

稲船氏:
 だって当たり前ですから(笑)。
 何を使っても「面白い」ことはできるわけです。そう考えたら,別にコンシューマだろうがアーケードだろうが,PCだろうがスマホだろうが関係ないですよね。

4Gamer:
 まったくもって。

稲船氏:
 だから,相手が面白いと思うであろうことを一生懸命考えて,「これ面白いね」って言わせればいいだけのことなんです。そこに注力するならば,こういうことをやりたい,ああいうこともやりたい,ということが1つに限られる必要はないということに行き着きますよね。

4Gamer:
 “コンセプター”らしい発言です。

稲船氏:
 コンセプトもそうですが,僕自身もいろいろなことやりますしね。ゲームクリエイターという立場じゃなくて,ユーザーとして。例えば,きっと何百億もかかったであろうハリウッドの大作映画も観ますし,YouTubeで自主制作の作品も観ます。お金がかかっていようがいまいが,「いやこれおもろいわー」ってなるわけじゃないですか。

4Gamer:
 確かにそうですね。

稲船氏:
 一つだけではなくて,人にはいろんな志向があるわけですよね。そこをくすぐればいいんだと思います。ハリウッド大作を観ている人はYouTubeを観ないかというと,そんなことはない。逆に,YouTubeを観ているが大作映画を観ないかというと,もちろんそんなこともない。

4Gamer:
 でもゲーム業界には,割と根強くそういう部分が残ってる気がするんですよね。最近はインディーズなんかも市民権を得て,そういう空気が払拭されつつありますが。

稲船氏:
 確かに変わってきてるとは思いますよ。例えば最近の話で言うなら,パズドラやったことない人ってあんまりいないと思うんですよ。

4Gamer:
 まぁきっと触ったことくらいはある人が多いでしょうね。

稲船氏:
 そう。ハマったかハマってないかは別として,あんだけ話題になってるならやっとこうか,って。それで,パズドラと並行してコール オブ デューティやってる人もいるし。

4Gamer:
 その口ぶりだと身近にいるんですか?

画像集#026のサムネイル/無難にやっていきたいのであれば,ゲームクリエイターは辞めるべき――Mighty No.9で勢い付く稲船敬二氏に聞く“ゲームを作る”ということ
稲船氏:
 うちの息子(笑)。
 コール オブ デューティやりながら,空いた時間にパズドラやってます。まぁとくに若い子は多様性ありますし,こだわりがないですよね。垣根がないというか。「うわソーシャルゲームきもい」とか言わないし。

4Gamer:
 気をつけます……。

稲船氏:
 (笑)

4Gamer:
 いやまぁ,それは冗談ですが,僕ぐらいの年齢――言うならば子供の頃にファミコンの洗礼を受けた第一世代,かな?――だと,やはり頭で分かっていてもココロが対応しづらいといいますか。

稲船氏:
 あー……(笑),確かにそうかもしれませんね。でも変な意識を持たないほうがいいんじゃないですか?

4Gamer:
 そうなんですよね。頭ではよく分かってるんですが「要するにカード集めでしょ?」とか思ってしまって,実際にプレイしても想像どおりのものなので,なかなかこれが……。

稲船氏:
 なんかソーシャルゲームそのものが悪いというかイヤなものだというか,そういうイメージってやっぱりまだゲーマーの中にはありますよね。でもまぁ別にやらなくたって人生楽しいんだから,あまり悩むようなことでもないと思うんです。

4Gamer:
 でもまぁほら,仕事柄やはりいろいろ見ておかないと,と思って。

稲船氏:
 あぁ,4Gamerの人はやらなきゃダメです(笑)。

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