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フルCG映画「バイオハザード ダムネーション」の制作過程を監督とCGディレクターが公開。デジタルハリウッド大学の特別講義をレポート
「ディノクライシス3」から続く
カプコン,神谷氏,デジタル・フロンティアの関係
ここで参考までに,講義を聴講している学生がデジタル・フロンティアに入社した場合,「何をやることになるか」についても紹介された。土井氏いわく,入社1年目ではあまり主要ではないキャラクターや背景,アニメーションなど,細かいものや部分的なものから手がけることとなるという。映像の核となるフェイシャル(顔/表情)などの部分を手がけるデザイナーや,キャラクター班/背景班のリーダーは,いずれも10年以上のキャリアを積んでいるとのことである。
■シナリオの作成からロケハンまで
神谷氏は今回,学生向けの講義ということで,あえてシビアな話をしたと述べ,ハリウッド映画なら,実作業での負担を減らすべく,こういったプリプロダクションにもきちんと予算を割いていることを紹介した。
そしてシナリオの決定稿が出た2010年10月,今作の舞台となるウクライナへロケハンで向かう。神谷氏は,実は前作でもきちんとロケハンをしたかったのだが,スケジュールの都合でできなかったと説明。しかし今作の舞台となる東欧は,スタッフ同士のイメージの共有が難しいため,実際に自分達で現地の雰囲気や住民の様子を確かめることにしたという。
神谷氏は,ウクライナが旧ソ連だったこともあり,現地では古い地下道や石畳の街,それと対になる豪華な宮殿,そして核兵器基地跡の博物館など,非常に興味深い光景が見られたと話す。
■キャラクターのデザイン/モデリングから画コンテまで
具体的なキャラクターの外見の設定については,上記のとおり,カプコンから提供されるデータをもとに,イメージを壊さないよう作っていく。例えばレオンならイケメンで,髪型がこうなっていて,銃器の扱いに長けていて……というイメージだが,今作では新たに“ワイルド”というキーワードが加わった。実は前作まではレオンに“ヒゲ”はNGだったのだが,カプコンの最新設定ではOKになったとのことで,今作では無精ヒゲの少しワイルドなレオンが描かれているというわけである。
またカプコンから,オリジナルの衣装を作ることも許可されたので,ボディアーマーやプレートキャリアといった実物のミリタリー装備をベースに,レオンの衣装デザインを起こしたという。神谷氏はその理由を,ミリタリー装備は機能ありきで作られているため,実物を見ながらでないとデザインができないからであると説明する。ちなみにこれらの装備のほとんどは,神谷氏の私物とのことだ。
さらに装備がゴテゴテしているので,3DCG特有の“めり込み”を解消するため,位置の調整にもかなり苦労したと土井氏は語った。
左からワイヤーフレーム,シェーディング,完成形のレオン。キャラクターのレンダリングには「mental ray for Maya」,アニメーションには「MotionBuilder」が使われている |
さまざまな表情を作るために,目元や口周りのメッシュがかなり細かくなっていることが分かる |
重要人物の一人となる女性大統領に関しては,前ウクライナ大統領のティモシェンコ女史を参考にしたという。ただし,あくまでも彼女はアイデアやイメージの参考であり,外見的に似せることはタブーとされた。いくつかラフデザインが上がるなか,最も風格があり女性大統領にふさわしいものを選んで2Dでデザインを起こしていくのだが,そのベースとなるのはコラージュである。つまり,さまざまな人物の顔写真からパーツを抜き出して組み合わせ,それをレタッチすることで最終的なデザインを作っていくのだ。なお,この作業は,のちに3D化するとき支障が出ないよう,キャラクターデザインの恩田氏にチェックしてもらうなど,かなり入念に行うそうである。
画コンテは,どんなシーンを使った映画にするかという,いわば設計図で,CG映像作品ではスケジュールや予算を踏まえ,どんなCGやオブジェクトが必要なのかを決める重要な段階であり,またスタッフ間のイメージの共有をする意味でも重要なものである。神谷氏の場合は,自分で画コンテを切るのではなく,1カットずつ細かく説明しながら専門の画コンテマンに起こしてもらうとのことだ。
そして画コンテに合うよう,シーンの舞台となる部屋などのレイアウトを決めていく。レイアウトが決まったら,次は必要最低限のものだけを置いた部屋のローポリゴンモデルを作り,モーションキャプチャによる芝居とライティングを決定。
その一方では,背景となる部屋の詳細なデザインを,キャラクター同様,まずは2Dで起こしていき,それを3D化していく。
■キャラクターに生命を吹き込むアクターとアニメーション
一つの役に対し,映像を見て3〜5人に絞り,そこから実際に役者同士を組み合わせた演技という形でオーディションを行った結果,レオンの身体の動きを演じるボディ役はKevin Dorman氏に決まったという。なおボイス役は,当然ながらゲームと同じMatthew Mercer氏だが,彼はボディ役の最終オーディションにも残っていたそうだ。
ちなみに今作では,ほとんどのキャラクターでボディとボイスに異なる役者を起用しているが,唯一,JDというキャラだけはボディ/ボイス/フェイシャルと,すべて同じ役者が演じている。神谷氏いわく,むしろ役者の演技がキャラクターを決めていった珍しいケースだったという。
オーディションの動画も上映された,中央がJD役である |
画コンテとボディの芝居,フェイシャルの芝居を並べた画像 |
そして実際に3Dアニメーションの作業に入っていくわけだが,最初の段階では,ボディの演技だけのアニメーションで動きをチェックしていく。それでOKなら,次はフェイシャルのアニメーションを加えて表情をチェックするのだが,初めて見るときは思い描いていたイメージと異なり,神谷氏は「ああ,そう来たか!」と思うこともしばしばあると話す。
またライティングは,まずどういう感じにするかのイメージボードを起こす。今作では1250カット中,指針となる130カット分を,土井氏が実際にボードを起こし,作業を進めたとのことである。
それらの素材を「AfterEffects」にて合成して映像を作るわけだが,合成前の素材は1カットあたりのキャラクター1体で20前後,背景が15〜20程度あるという。また合成のやり方によって,カットの質感がまるで変わってしまうとのことで,神谷氏は「合成が最後のキモ」と表現していた。しかし今作では合成の期間が短くなってしまい,最終週に400カット前後を仕上げるという地獄のような状態になっていたと土井氏は明かした。
合成前の素材を並べた様子 |
合成すると,こういった映像になる。このあと,全カットのトーンを統一する「カラコン」などの作業を加え,完成となる |
講義の最後には,スペシャル映像として,神谷氏自身が役者となってモーションキャプチャを行っている模様が披露された。神谷氏は,ゾンビやクリーチャーなどの演技指導をしているとき,以前から「俺がやったほうがうまくできるんじゃないか?」と考えていたそうで,今回,それがついに実現したとのことである。
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(C)CAPCOM CO., LTD. 2012 ALL RIGHTS RESERVED.
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