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印刷2011/10/29 10:00

連載

京都観察会へようこそ。「放課後ライトノベル」第65回は『エトランゼのすべて』で素晴らしきキャンパスライフを見つけよう



 この秋もたくさんのアニメの新番組が始まった。いろいろと気になる作品がある中で,筆者が注目しているのは『ベン・トー』。「夜のスーパーで半額弁当を取り合って殴り合う」という設定には原作で一度お茶を噴いたものだが,アニメになると破壊力は2倍,いや3倍。スーパーの店内で敗北者たちが死屍累々となっているシュールさと言ったら……。

 なにを隠そう,筆者もかつては半額弁当奪取に血道を上げる《狼》の一人だった。そう……あれはなにかとお金のやりくりに苦労していた大学時代。近所のスーパーの半値印証時刻(弁当が半額になる時刻)をくまなく調査し,その時刻まで空腹を抱えつつ,スーパーにチャリを走らせる。それには日々刻々と変化する半値印証時刻を正確に把握する調査力,空腹に耐え抜く忍耐力,そして望みの弁当が売り切れていても泣かない意志の強さが不可欠であり,自分で言うのもなんだが,決して一朝一夕にできるものではない。大学時代,筆者の青春の大半は,半額弁当の獲得に費やされたと言っても過言ではないだろう。

 ……今ちょっと書いてて涙がこぼれそうになってきたが,打ち込むものがあるだけまだましと思ってもらいたい。今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『エトランゼのすべて』の主人公は,いまだ何をしようか迷っている大学1年生。彼も筆者を見習って,早く自分が打ち込めるものを見つけてほしいものである(ドヤ顔)。
 ……えっ? 彼の場合は代わりに周りに女性がいっぱい? そんなの許されないよ?

京都観察会へようこそ。「放課後ライトノベル」第65回は『エトランゼのすべて』で素晴らしきキャンパスライフを見つけよう
『エトランゼのすべて』

著者:森田季節
イラストレーター:庭
出版社/レーベル:星海社/星海社FICTIONS
価格:1260円(税込)
ISBN:978-4-06-138817-8

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●黒い魔女に誘われて入ったのは,奇妙奇天烈な「京都観察会」


 春。京都大学に入学した針塚圭介(はりづかけいすけ)は,ある志を抱いていた。それは「大学デビューすること」。田舎の高校で灰色の高校生活を過ごしてきた彼は,地元から遠く離れた大学でならバラ色の生活を切り開けると考えたのだった。そのために彼はまず,サークルに入ろうと決意する。

 だがそんな決意とは裏腹に,なかなか入りたいと思うサークルが見つからない。このままではサークルに入るタイミングを逃し,大学デビューに失敗してしまう。焦る圭介は,ある日掲示板でとあるサークルの勧誘チラシを目にする。そのサークルの名は「京都観察会」。チラシの「とにかく気楽に」という文句に惹かれ,圭介は京都観察会の新歓に足を運ぶ。そこで彼は,自分の過去や最近の行動をことごとく言い当てる,不思議な「魔女」と出会うのだった。

 魔女――京都観察会の“会長”と名乗る彼女を不気味に思いつつも,どこか惹かれるものを感じた圭介は入会を決意。かくして彼の,個性的な先輩たちに囲まれた,奇妙な1年間が幕を開ける――。


●空回りっぷりは悶絶必死。ああ,圭介のリア充は遠く


 「京都観察会」と名乗ってはいるものの,主な活動は週に2回ほど,食堂でダベるだけ。そんな,趣旨も目的も定かではないサークルに集うのは,主に5人の4年生と2人の新入生。

 就職や進学を間近に控えた4年生は,上記の会長を筆頭に,ホストっぽい外見や言動から「ヒモ島」とあだ名される綱島亮悟(つなしまりょうご),清楚な雰囲気の長月冴子(ながつきさえこ)。パンクファッションに身を包んだ勝原理沙(かつはらりさ),たまにしか顔を出さない大村(おおむら)。新入生のほうは圭介と,小動物然とした少女,中道香澄(なかみちかすみ)。そんな個性ばらばらなメンバーに囲まれながら,圭介は夢のリア充生活を求めるのだが,そんな安易な気持ちで得られるほど,リア充生活というのは甘くない。

 冴子にデートに誘われたと思ったら,とんでもないオチが待っていたり,理沙のバイトを手伝った先で,彼女の交友関係にビビったり,あるきっかけから,香澄の歴女っぷりを思い知らされて困惑したり……。一部不可抗力的な部分もあるものの,明らかに圭介自らフラグを折りにいっている場面もあったりして,はたから見ていて思わず顔を覆いたくなる。そのほか,圭介が微妙にピントの外れた発言をし,圭介もそれを自覚している……というような場面がたびたび登場し,読んでいて「もうやめて! 圭介のライフはとっくにゼロよ!」と叫びだしたくなること請け合い。

 こうした描写の数々が,巻頭に書かれている「著者の大学時代の体験に基づく生々しい描写」であることは想像に難くない。限りなくリアルなそれらの描写は,必ずや同様の経験のある読者の共感を呼ぶだろう。この作品,圭介の一人称で語られているのだが,その内面描写(地の文)からすらも「こいつモテそうにねえなあ……」という雰囲気がにじみ出ていて,その徹底ぶりには頭が下がる思いである(褒めてます)。


●恐れ,惑い,足踏みを続ける,すべてのエトランゼたちへ


 本作ではそんな,生々しく痛々しい一人の大学生の日々が短編連作形式で描かれていくのだが,やがて物語の背景から一つの疑問が浮かび上がってくるようになる。そもそも京都観察会とは一体何なのか。この,まるで京都を観察しないサークルは,いったい何のために作られたのか。すべての謎が一つにつながったとき,圭介にかけられていた魔法は解け,物語は終わりを迎える。

 ちょっと突けば簡単に割れてしまうような,薄い膜に閉じ込められていたのは,生ぬるい優しさで紡がれた真相。すべてが虚構だったと知ったとき,圭介はその虚構を壊すことを決意する。怒りからではない。彼もまた,その虚構を生むきっかけとなった不安を抱えていたからだ。

 世の中,強い人間ばかりではない。傘を盗まれた,ただそれだけのことで孤独のどん底に落ち込んでしまう人間だっている。人は一人では生きていけない,けれどたくさんの人間の中にあって自分を保てるほど強くもない。本書は教えてくれる――そんな優しすぎる人々が生きていくためには,同じ不安を抱える者同士,恐る恐る距離を縮めながら,寄り添うことが必要なのだと。

 京都が舞台で主人公が大学生というと,森見登美彦や万城目学の作品を連想する人も少なくないと思うが,本作『エトランゼのすべて』で描かれた主人公像はその両者のものとはまた異なる。ダメ大学生を自認してどこまでも堕ちていくわけでも,孤高のままに我が道を行くわけでもない。リア充にもなれず,オタクにもなれず,ただ集団の中でぽつんと立ち尽くすしかないエトランゼ(異邦人)……。本書はそんな人々が,ほんの少しだけ勇気づけられる,そういう本なのかもしれない。

■エトランゼにも分かる,森田季節作品

『お前のご奉仕はその程度か?』(著者:森田季節,イラスト:尾崎弘宜/GA文庫)
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京都観察会へようこそ。「放課後ライトノベル」第65回は『エトランゼのすべて』で素晴らしきキャンパスライフを見つけよう
 著者の森田季節は1984年生まれ。2008年,『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』で第4回MF文庫Jライトノベル新人賞・優秀賞を受賞し,デビュー。以後,主にライトノベルを中心に活動を続けているが,最近は『ともだち同盟』(角川書店),『不動カリンは一切動ぜず』(ハヤカワ文庫JA)といった,一般書籍やSF方面にも活動の場を広げている。
 デビュー作からして,ライトノベルのいわゆる売れ線からは外れた作品であり,その頃からすでに,現在の多方面での活躍の片鱗があったと言える。『ともだち同盟』や今回紹介した『エトランゼのすべて』などはその最たるもので,それぞれ思春期やモラトリアムの人々の心情を真に迫る筆致で描きながら,読後感はまったく異なるという,作風の幅広さがよく分かる作品となっている。その一方,近作の『お前のご奉仕はその程度か?』は,吸血鬼の国に迷い込んだ少年が,吸血鬼の少女の眷属としてあれやこれや奉仕させられるという軽快なコメディ。テンポのいい会話劇が楽しい,「ライトノベルらしい」作品となっている。

■■宇佐見尚也(ライター/古狼)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。「前フリで書いた半額弁当争奪戦ですが,書いてあるとおり結構ゲーム性があるんですよね。これ,ゲーム化すると面白いんじゃなかろうか。足を使って各店の半値印証時刻を調べ,空腹ゲージがMAXになる前に,テクニックを駆使してライバルより先に弁当をゲット……。な,なんか行けるような気がしてきたぞ! どうですか4Gamerさん!?」と目を輝かせて語ってくれた宇佐見氏ですが,設定の丸パクリはいけないと思います。
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