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23世紀の国語がヤバイ! 「放課後ライトノベル」第49回は『僕の妹は漢字が読める』できらりん! おぱんちゅ おそらいろ
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印刷2011/07/09 10:00

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23世紀の国語がヤバイ! 「放課後ライトノベル」第49回は『僕の妹は漢字が読める』できらりん! おぱんちゅ おそらいろ



 先日「劇場版 戦国BASARA ―The Last Party―」を観てきた。
 かくいう筆者,原作を一作めから通してプレイしている,かねてからのBASARAファン。いい感じに発酵している麗しい方々(婉曲表現)が熱を上げているのを横目に見つつ,やりたい放題なキャラクターや世界観にたびたびコーヒーを噴き出したものだ。そのBASARAが映画になるとあっては,なんとしても観に行かねばなるまい,と万難を排して劇場に向かったのだが,いやはや,期待どおりの内容だった。

 ストーリー的には原作の「戦国BASARA3」PlayStation 3/Wii)をベースに,史実でいう関ヶ原の戦いが描かれるわけだが,蓋を開けてみれば本来主役であるはずの徳川家康・石田三成が霞んで見えるという安定のBASARA時空。武田信玄・真田幸村の主従は相変わらずの殴り愛だわ,荒野のど真ん中で鍋大会が開かれるわ,果ては例のあの人まで大復活するわの大盤振る舞い。上映前の諸注意からエンドロールまで,余すところなく楽しめた。いやあ,満足満足。

 それにしても,もはやなんの違和感もなく映画を楽しめてしまうとは,筆者もすっかりBASARA脳に毒されてしまった模様。冷静に考えると,やっぱり奥州筆頭こと伊達政宗が英語を喋るっていう設定はねーよな……とか思っていたら,驚くべきことに23世紀の日本人は,英語どころか日本語力も低下しているらしい。具体的には,ほとんどの人間が漢字の読み書きができなくなっているというのである。これは由々しき事態だ。

 ……ハッ,もしかして筆頭は戦国時代の人間でありながら英語を喋るという違和感を通して,言語教育の重要性を我々に訴えていたのか!? さすが筆頭! 最高にCoolだぜ! もう一生ついていきます,筆頭ぉーーーーー!!
 という戯言はここまでにして,今回の「放課後ライトノベル」は,我々読者にそんな衝撃的な未来像を提示してきた問題作『僕の妹は漢字が読める』を紹介したい。「えっそれがタイトル!?」と思った人,その気持ちはよく分かる。

 『俺がヒロインを助けすぎて世界がリトル黙示録!?』『彼女も僕もコスを愛しすぎてこまる』といったシュールなタイトルが増えてきた最近のライトノベルの中においても一際異彩を放つこの題名,刊行情報が出たころから密かに話題を呼んでいたのだが,実際の中身は予想のはるか斜め上を行っていた。本編未読の人は,しっかりと心を落ち着かせてからこの先を読み進めていただきたい。あ,漢字が読める人だけでお願いします。

画像集#001のサムネイル/23世紀の国語がヤバイ! 「放課後ライトノベル」第49回は『僕の妹は漢字が読める』できらりん! おぱんちゅ おそらいろ
『僕の妹は漢字が読める』

著者:かじいたかし
イラストレーター:皆村春樹
出版社/レーベル:ホビージャパン/HJ文庫
価格:650円(税込)
ISBN:978-4-7986-0250-9

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●しょうげき! これが23せいきのぶんがくだ!


 物語は作家志望の高校生イモセ・ギンが,妹のクロハと共に,敬愛する大作家のオオダイラ・ガイを訪ねるところから始まる。オオダイラ邸のあるトウキョウに向かう電車の中,『携帯小説全集十一 ☆→イケメン男子と恋するアタシ←☆ 原文版』なる本を読むクロハ。それを見て「相変わらず難しそうなの読んでるなあ」と思うギン。そんな折,車内の電光掲示板にニュースのヘッドラインが流れる。文面は「まほうしょうじょぞう◎はっくつ!」……。

 この時点で二,三度,いや四,五度ほど突っ込みたくなったであろう読者諸氏のために説明しよう。物語の舞台となっているのは,決して異世界などではない。れっきとした日本である。ただし,23世紀の。

 今から200年も先の時代となれば,文化も変わっていて当然。最大の違いの一つが,「漢字が一切使われてない」というもの。作中世界では,漢字というものは19世紀後半から21世紀にかけての近代文を最後に消滅し,現代文はすべて,ひらがなとカタカナ,記号を用いて書かれているのだ。ほとんどの人は漢字を読むことも書くこともできない。ギンの妹のクロハは,その数少ない例外の一人。そう,「妹は漢字が読める」のだ!

 もちろん,ただ漢字が使われないというだけではなく,小説や文学を取り巻く環境も現代とは大きく異なる。例えば作中では,ホミュラ賞なる権威ある文学賞(現代でいうと芥川賞あたりに相当すると思われる)が実施されているのだが,その候補になっているオオダイラの作品のタイトルは『いもうと すた☆あ』。さらにオオダイラが発表予定の新作の題名が『きらりん! おぱんちゅ おそらいろ』。極めつけは23世紀文学の祖であり,文学史に大きな影響を与えたとされる作品が『おにいちゃんのあかちゃんうみたい』……。

 さて,ここまで読んだ人は,一体23世紀どうなっちゃってるのと唖然,呆然としているに違いない。正直,上記の内容は本作のほんの序の口でしかないのだが,ここまでくればもう,筆者があれこれ言葉を尽くすより,実際に中身に目を通してもらったほうが早い。「こちら」(要Adobe Flash Player)から,多くの読み手を困惑に陥れた本文の立ち読みができるので,まずはそちらにアクセスしていただきたい。ただし,読了後精神を病んだりしても当方は一切の責任を負いません。


●きょうがく! かこのせかいにタイムスリップ!?


 上記の立ち読み版を読み終えた人なら,きっと今ごろ続き読みたさに書店に全力疾走していることだろうが,「まだだ……まだこの程度じゃ俺に本を買わせるには至らないぜ……」という人のために,その先の展開にも少し触れておきたい。大丈夫,そこから先の展開もぶっ飛んでいる。

 念願のオオダイラとの邂逅を果たしたギン。憧れの大文豪の才能に触れた感動もさめやらぬ1か月後,ギンはクロハと下の妹のミルを伴い,オオダイラと共に博物館に出かける。と,そこで異変が。皆の身体が突如として光り始めたと思ったら,その場から次々と消えていったのだ!

 一行が目覚めたのは,23世紀正統派文学の元となった概念「萌え」が生まれた時代――21世紀の日本。なんと一行は,200年前の世界にタイムスリップしてしまったのである。ギンたちは奥多摩で一人暮らしをしている女子高生,弥勒院柚(みろくいんゆず)の家に厄介になりながら,元の時代に帰る方法を探すことになる。

 近未来を舞台にしたシュールなギャグ小説から一転,タイムスリップものへと変わったことに正直,筆者も最初は戸惑いを覚えたのだが,こちらはこちらで笑える展開の連続。代表的なのが典型的な23世紀人であるギンの行動で,アニメのパンチラシーン(ギンの目からは“正統派文学”に見える)をありがたがったり,床にイラストを置いてぺろぺろ舐め回すという行動を「普通ですよ!」と断言したり。21世紀の現代ではどう見てもハイレベルな変態でしかないギンが,23世紀では普通だという事実に戦慄を禁じえない。

 ほかにも学校に通ったり(漢字が読めないギンがどうなったかは推して知るべし),ギンと柚(実は,ギンの憧れの少女である『おにいちゃんのあかちゃんうみたい』のヒロイン,タイテイ・ホミュラにそっくり)との恋愛模様が描かれたりと,「元の世界に戻る」という当初の目的が放り出されんばかりの勢いで話が進む。もっとも最後にはその問題にも決着がつき,終盤にはさらなる衝撃の展開も待っている。最後の1ページまで予断を許さないストーリーに,続刊が待ち遠しくなるに違いない。


●かんるい! じだいをこえるものがたりのちから


 文学という観点に着目し,いまだかつて誰も想像したことのなかった23世紀像を描き出した『僕の妹は漢字が読める』。一般的には,新機軸のギャグ小説として読む人が大半だろうが,実のところ本作が示した世界観は,ただただ笑って済まされるだけのものではない。

 作中の23世紀の文学観は,明らかに現在のライトノベルやアニメ文化の影響を(かなり誇張されてはいるが)強く受けている。つまり今後,ライトノベルが日本文学の中心になっていく……という想像のもとに書かれているわけだが,年間1000冊をゆうに超えるライトノベルが出版されている昨今,この想像はあながち突飛なものとも言い切れない。

 漢字が消滅し,ほとんどの人間が漢字を読めなくなったという設定は一見荒唐無稽だが,よくよく考えてみると現代でも,200年前の作品(『南総里見八犬伝』など)を原文ですらすら読めるという人間はそうそういないだろう。逆に200年前の人間に現代の小説を読ませたら「なんという低俗な小説だ!」と憤るかもしれない。言葉は生き物であり,時代と共に変わっていくものだということを思えば,作中の「正統派文学」を一概には否定できない

 そして何より大事なのは,いつの時代にもそれぞれの時代に即した物語というものがあり,そこに生きる人々の心を捉えているということ。我々が異世界ファンタジーや学園バトルで心躍らせているのと同じように,23世紀の人々はパンチラに希望を見出しているのかもしれないのだ。ぱっと見「空気の読めないオタク」的なギンだが,それも自分の愛する文学に誠実であるがゆえ。その情熱こそが,これまで新たなる文学の地平を切り開いてきた力の源泉ではないのだろうか。

 というわけで読者諸氏も,自らの趣味を後ろめたく感じることなく,己の想いに誠実に生きてほしい。その想いがもしかしたら,200年くらい先の未来に花開くかもしれないのだから(いそいそとマンガやラノベをカートに放り込みながら)。

■先鋭化を続ける,ライトノベルの妹もの

『この中に1人、妹がいる!』(著者:田口一,イラスト:CUTEG/MF文庫J)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/23世紀の国語がヤバイ! 「放課後ライトノベル」第49回は『僕の妹は漢字が読める』できらりん! おぱんちゅ おそらいろ
 妹萌えを世に知らしめた『シスター・プリンセス』から10年,すっかり萌え属性の一つとして定着した「妹」。ライトノベルもまたその例にもれず,日々新たな妹ものが生み出され続けている。本連載でもすでに『妹ドラゴン兄若ハゲ』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を紹介済みだ。
 もっとも,今や単なる妹というだけではほかとの差別化ができないのか,発表された作品を見ていると,あの手この手で「新たな妹像」を提示しようという動きが見て取れる。実際前述の2作も,それぞれドラゴンの妹,エロゲー好きの妹という新機軸(?)を打ち出している。
 そんな中登場した田口一の『この中に1人、妹がいる!』(MF文庫J)は,妹という存在をある種の「仕掛け」として用いているところに新しさがある。父の遺言によって,高校生活中に結婚相手を探すことになった帝野将悟。だがそのために転校した先には,兄との結婚を狙う腹違いの妹がいた。身分を隠し,兄に近づこうとする妹。表向きには存在しない妹の存在が知られ,あまつさえ結婚してしまったとあれば,父が築き上げ,将来自分が跡を継ぐことになる帝野グループに大きな打撃となる。かくして将悟は,妹からのアプローチをかわしながら恋人を探すことになる――という,前代未聞の「非妹萌えラブコメ」なのだ。
 なお,少し前にさかのぼれば『ロボット妹 改め 人類皆兄弟! 〜目覚めよ愛の妹力〜』(著:佐藤ケイ/電撃文庫),『超妹大戦シスマゲドン』(著:古橋秀之/ファミ通文庫)といった怪作も存在する。「ただの妹ものには興味ありません」という人は,ぜひ。

■■宇佐見尚也(漢字が読めるライター)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。いろいろと突っ込みどころの多い『僕の妹は漢字が読める』で,一番笑ったのは「魔界天使ジ●リール」のイラストが宗教画扱いされているシーンだったという宇佐見氏。「ということは,押入れの中に積まれている大きい箱の山を23世紀まで保存しておけば……」と,なぜかニヤリとほくそえんでおりました。ダメだこの人,早く何とかしないと……。
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