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印刷2010/12/25 10:00

連載

完璧に調和のとれた押し付けの理想郷。「放課後ライトノベル」第24回は伊藤計劃最後の長編『ハーモニー』で人間が人間であることの意味を問う



 7月にスタートした,この「放課後ライトノベル」。当初は「ゲーム情報サイトでラノベレビューコーナーなんて無茶ッスよ,ハハハ」などと言っていたのが,気づけば年の瀬まで走りきってしまった。2010年の更新は今回が最後ですが,来年も引き続き毎週更新していきますので,どうぞよろしくお願いします。

 思えば最初は割と真面目に作品紹介をしていたのが,途中からだんだんタガが外れてきて,最近ではいかに出オチ感を演出するかに心血を注いでいるありさま。ゲーム好きにも親しめるライトノベルを紹介するのが目的だったはずなのに,やたらとアニメの話ばっかりしてる気がするし。これでいいのか? と思いつつも,それもまあこの連載の味ということで,今後も自重せず,さらにリミッターを振り切る方向へと謎の努力をしていく所存です(編注:自重してください)。

 とはいえ年末最後の締めくらいは,初心に返って真面目にお送りしたいと思う。紹介する作品も,これまでとちょっと毛色を変えて,ライトノベルど真ん中というよりは,その周辺,あるいは境界線上に位置する作品をピックアップしてみた。早世の異才,伊藤計劃最後の長編『ハーモニー』だ。「人間が人間であること」とは何かという重い問いかけを放つ,2010年を締めくくるに相応しい1冊なので,まずは本稿に目を通したうえで,この12月に待望の文庫化がなされた本書をぜひ手にとっていただきたい。

完璧に調和のとれた押し付けの理想郷。「放課後ライトノベル」第24回は伊藤計劃最後の長編『ハーモニー』で人間が人間であることの意味を問う
『ハーモニー』

著者:伊藤計劃
出版社/レーベル:早川書房/ハヤカワ文庫JA
価格:756円(税込)
ISBN:978-4-15-031019-6

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●誰も死なない(死ねない)社会への,少女たちの反抗――それがすべての始まりだった


 舞台となるのは,我々が生きる現代からそう遠くない未来。21世紀初頭に起きた「大災禍(ザ・メイルストロム)」――核の使用を含む,地球規模での大暴動をきっかけに,人類社会は超高度医療社会へと転換した。国を単位とする「政府(ガバメント)」の代わりに「生府(ヴァイガメント)」が人々を統治し,「生命主義」と呼ばれる理念のもと,その構成員の健康が最優先される社会が誕生したのだ。

 それはひと言で言えば「病気のない社会」。体内に取り込んだWatchMeと呼ばれる機構によって人間の健康状態はリアルタイムでモニタリングされ,些細な異常があれば即座に医療分子(メディモル)が治療を行う。

 プライバシー(作中では猥褻な意味を持つ言葉とされている)の領域が大幅に縮小される代わりに,システムによって完全な健康が保障される社会。構成員を社会のリソースと見なし,自殺や,酒・タバコなど健康を損なうものの摂取が「悪」と見なされる社会。自身の身体的状況のすべてを他者による管理のもとに明け渡し,それと引き換えに手に入れた“健康的で人間的な生活”を送ることが,社会の有用なリソースの一部である市民に求められる社会。それが『ハーモニー』の舞台だ。

 主人公・霧慧(きりえ)トァンは,WatchMeによってもたらされる,穏やかで,それでいて真綿で首を絞められるような息苦しさを感じる社会に強い疑問と不信を抱く同級生・御冷(みひえ)ミァハに同調し,友人の零下堂(れいかどう)キアンと共に自殺を試みる。何よりも貴重な社会的リソースである自分自身を自ら傷つけることだけが,その身体がほかの誰でもない,自分自身のものであることを証明するために少女たちに残された,ただ1つの手段だったのだ。

 だが計画は失敗に終わり,トァンとキアンは生き残り,ミァハただ一人が命を失う。やがて成長し,世界保健機構の上級監察官となってなお,トァンは高校時代のその出来事を引きずり,社会の中に身の置きどころを定められずにいた。そんな折,全世界で6582人が同時に自殺を試みるという事件が発生。事件の真相を追うトァンは,その裏にもういないはずのミァハの影を見る……。


●社会に仇なす集団自殺事件――その先に待つ結末とは


 物語はいきなり見慣れないソースコードのような文章で始まり,文中にもタグらしきものがたびたび挿入されるなど,一見とっつきにくく感じるかもしれない。しかし,ひとたび読み始めれば,本作が驚くほど読みやすく,優れたエンターテイメント作品であることがすぐに分かるはずだ。

 何の前触れもなく起こった,6582人による全世界同時自殺(未遂)事件。自殺が強く忌避される社会であるということを差し引いても,十分に衝撃的な展開だ。事件の真相は? 犯人の目的は一体何なのか? 真実を追い求めて,トァンは日本からバグダッド,チェチェンへと飛ぶ。全世界が動揺する中,彼女が一歩,また一歩と真相に近づいていく展開は実にサスペンスフルだ。

 同時にこの物語は,3人の少女の物語でもある。社会に反抗し続けたミァハ。若き日の行為を過去に埋葬し,社会の一員となることを選んだキアン。そしてミァハに置いて行かれながら,社会に溶け込むこともできないトァン。彼女たちが互いをどう思い合っていたのか,物語は多くを語らない。
 だが彼女たちが語る,繊細な言葉の端々から,読者は彼女たちの思いを読み取ることができるはずだ(余談だが,著者自身本作についてブログで「テーマは百合」と記しており,実際『ハーモニー』は「コミック百合姫」(一迅社)でコミカライズされることが発表されている)。

 そうして読み進めていった先に待つのは,衝撃的でありながら静謐に満ちた結末。先に挙げたソースコードの意味も,そこで明らかになる。ハッピーエンドとも,バッドエンドともとれるその結末は,読者にひと言では言い表せない余韻を残すことだろう。


●すべてが調和した世界――そこは真の理想郷か,それとも


 本作の物語は,我々に多くのことを考えさせる。
 例えば,高度医療化社会の是非。誰も病で死ぬことがない社会というのは一見,人類が追い求め続けてきたユートピアのように思える。しかし,個人の身体が社会リソースの一部と見なされ,本人すら自分の身体を自由にできない社会は,果たして本当に理想郷といえるのだろうか。

 肉体だけではない。作中世界では,視聴者にトラウマを与えかねない映像は人々の目から厳重に隔離されている。それは創作物でも例外ではなく,事実作中では,過去に制作された映画のほとんどが閲覧困難になっている。また,公共の場で過度に興奮するなど,対人的に好ましくない精神状態になった人間には,WatchMeから警告が発せられる。精神活動すら,WatchMeという外部の機構,ひいては社会規範によってコントロールされているのだ。

 その先にあるのは,個人の自由意志と引き換えに,“絶対の健康と幸福”を約束する社会。人類が追い求め続けてきた,争いがなく,誰も自殺したりしない,美しく調和した夢の社会。ならば,人の意志というものにはどんな意味が,価値があるのだろうか。意志を代償に理想の社会へ辿り着いたとき,そこにいるのは果たして人間といえるのだろうか。人間は,なぜ人間なのか――帯に書かれたこの問いこそが,本作の背景に横たわる最大のテーマである。

 物語は,我々に1つの結末を提示するが,解説によればそれはあくまで現時点での答えにすぎないのだという。著者はあとに続く作品で,さらにその先にある答えを探そうとしていたようだが,残念ながら我々がその結果を見ることはかなわなかった。年末年始,この物語を読みながら,著者が描こうとした「その先」について思いを馳せてみるのも悪くないのではないだろうか。
 それでは皆様,よいお年を。

■夭折した天才作家,伊藤計劃の作品を振り返る

『虐殺器官』(著者:伊藤計劃/ハヤカワ文庫JA)
→Amazon.co.jpで購入する
完璧に調和のとれた押し付けの理想郷。「放課後ライトノベル」第24回は伊藤計劃最後の長編『ハーモニー』で人間が人間であることの意味を問う
 著者・伊藤計劃は1974年生まれ。2007年6月,『虐殺器官』で小説家デビュー。同作は第七回小松左京賞で最終選考に残りつつも落選したところを,編集者の目に留まり,書籍化に至ったという経緯を持つ。その後,2008年6月にゲーム「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」のノベライズである『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』を上梓。2008年12月に発行された『ハーモニー』は第3(オリジナル作品としては第2)長編にあたる。以後もますますの活躍が期待されていたが,以前から癌を患っており,2009年3月20日,闘病生活の果てに,34歳という若さでこの世を去った。
 『虐殺器官』は新人のデビュー作にして『SFが読みたい! 2008年版』&『SFが読みたい! 2010年版』の「ゼロ年代SFベスト」で共に第1位に輝き,さらに第1回PLAYBOYミステリー大賞をも獲得。『ハーモニー』も,著者の死後『SFが読みたい! 2010年版』第1位,第40回星雲賞日本長編部門,第30回日本SF大賞をそれぞれ獲得している。
 以上のように,伊藤計劃はデビュー当初から今後のSF界を担う旗手と目されており,それだけに多くの作家や評論家,ファンがその早すぎる死を悼んだ。なお,長編以外の短編小説や評論などが『伊藤計劃記録』に収録。2011年3月には『伊藤計劃記録:第弐位相』の刊行も予定されている。

■■宇佐見尚也(ライター/ハンターランク6)■■
着々とハンターランクを上げつつある,『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。気づけば今年は両手で数えられるくらいしかゲームをやっていないという宇佐見氏。最近は,「パラサイト・イヴ」の1と2をプレイした身としては「The 3rd Birthday」をやらないといけない気がするし,「キャサリン」も気になるしと,ソワソワしているご様子。来年の抱負は,「もっとゲームするぞ!」だそうです。
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