イベント
「World of Tanks」世界大会がポーランドで開催。世界のトッププレイヤーの手に汗握る戦いぶりを,余すところなくレポート
3日間にわたって行われたこのトーナメント,そのすべてをお伝えするには,あまりにも規模が大きいので,今回は地元チームである「Lemming Train」の活躍を中心に,ワルシャワが燃えた3日間をお伝えしたい。
まずは大会のルールから
まずは,大会のルールを簡単にまとめよう。これが結構,複雑だったりする。
基本的に,対戦は7人対7人。勝利条件は「敵を全滅させるか,敵基地の占領」となる。
使用可能な戦車はTier 8まで(課金戦車を使用しても構わない)。ただし,Tier 1あたり1ポイントとして,各チーム最大42ポイントを超えてはならない。
ちょっと分かりにくいので,具体例を挙げると,
・IS3(Tier 8)×3:8ポイント×3=24ポイント
・AMX 50 100(Tier 8)×2:8ポイント×2=16ポイント
・T1(Tier 1)×2:1ポイント×2=2ポイント
以上7両,合計42ポイントという具合だ。マップごとに,使う戦車は変更して構わない。
ちょっと分かりにくいのはここからで,The Grand Finalsでは,まず8チームによる予選が行われる。この予選に出場するのは,各地域の予選トーナメントで2位になったチームだ。4チームによるリーグ戦が2つ行われ,それぞれのリーグの優勝チームが,決勝トーナメントに出場できる。
決勝トーナメントに出場するのは,各地域の予選トーナメントで優勝した6チームと,予選の勝者2チーム。
トーナメントは予選,本選ともダブルイリミネーションで,簡単に言えば「1敗しても敗者復活戦に行けるが,2敗したらアウト」となっている。
言うまでもなくチームの勝敗はマッチの勝敗で決まるわけだが,それぞれのマッチの結果によって勝ち点が得られ,それにより勝敗を決定するシステムだ。
勝ち点の入り方は,以下のとおり。
・勝ったチーム:勝ち点1
・負けたチーム:勝ち点0
・引き分け:両者勝ち点1
なお決勝トーナメントでは「勝ち上がってきたチーム」と「敗者復活戦から戻ってきたチーム」がぶつかることがある。この場合,「勝ち上がってきたチーム」があらかじめ勝ち点1を持って試合開始になる。
もし両チームが同時に規定の勝ち点を得た(引き分けが連続した)場合,もう1試合して勝負を決めることになるが,これには「強襲戦」が使用される。強襲戦は,攻撃側と防御側に分かれ,攻撃側は防御側を全滅させるか,防御側の基地を占領すると勝利。防御側は,攻撃側を全滅させるか,10分間粘れば勝利というルールになっており,引き分けはあり得ない。必ず勝敗が決するわけだ。
……いきなり長くなってしまったが,トーナメントルールが把握できたところで,本編に突入したい。なぜこんな無味乾燥な説明を先にしたかと言えば,これが試合展開上,いたるところで関わってくるためだ。
「World of Tanks」公式サイト
関連記事:
e-Sportsとしての「World of Tanks」が語られた
「Wargaming.net League Grand Finals」直前のプレスカンファレンスをレポート
「World of Tanks」世界大会の会場でWargaming.netの
Victor Kislyi氏とMohamed Fadl氏にインタビュー
コンマ数秒をめぐる戦い
まずは初日の予選リーグ。
グループAはSynergy,WUSA,S.I.M.P.,Lemming Train。グループBはNOA,U Are Dead,Red Rush Unity,Energy Pacemakerという振り分けで,各グループの勝者1チームが,決勝に参加する権利を獲得する。
Lemming Trainの開幕戦の相手はSynergyで,使用マップは「エンスク」「プロクホロフカ」「ヒメルズドルフ」と決められた(選択可能なマップは7種類あり,両チームが1つずつ,使わないマップを選んでいく。マップがプレイされる順番も,両チームが交互に選ぶシステムだ)。
両チームとも編成は,AMX 50 100×3,IS3×2,T1×2と,市街戦マップの標準編成になっていた。
トーナメントフォーマットに馴染みのない人だと,Tier 1戦車であるT1は員数合わせにしか見えないだろう。実際,T1はT1以外の戦車にダメージを与えることがほぼ不可能だし,T1以外から撃たれると即死する。
が,T1はTier 1戦車としては――というかTier 8までの全戦車を通じても機動力が高い。この足を活かしてチームの目になったり,敵基地に対し占領プレッシャーをかけたり(通常の15人対15人の戦いに比べて,7人対7人の戦いは戦車の密度が低く,防衛線の突破が容易だ)と,戦略的に見て大きなカギを握る戦車となる。
Synergyは東側の市街地に重戦車をすべて投入し,自軍基地周辺にT1を配置。Lemming Trainが基地占領を狙ったなら,いつでも引き返せる体勢を作った。
一方,Lemming Trainはマップに広く布陣したので,火力の集中という点で言えばSynergyが有利,柔軟性という点ではLemming Trainが有利という雰囲気だ。
試合は冒頭から動く。SynergyのT1が西側の森林地帯に偵察に入ったところを,Lemming TrainのAMXが補足し,撃破する。これでSynergyの西側のセンサーが消滅した。だが,同時にSynergy側は「Lemming Trainの戦車が最低でも1両,西側にいる」という情報を確保したことになる。
西側からのラッシュを恐れたSynergyは東側の地歩を放棄し,一気に戦線を後方に引いて基地を守る体制に入った。このあたりの切り替えは,鮮やかの一言に尽きる。
だがこのとき,Lemming Trainもまた自軍の基地を守る体勢をとっていた。Synergyとの違いは,Lemming Trainは東側に2両,攻撃の手を伸ばしていたが,Synergyは全軍で引いて守っていたという点である。西側でT1が撃破されたという事実,そしてLemming Trainが攻撃を好むチームだという情報が,Synergyに全面的な守勢を取らせたわけだ。
勝負はその後,しばらく膠着していたが,残り5分の段階で再び動いた。Lemming Trainのラッシュはないと判断したSynergyは,勝利をもぎ取るため,戦車1両を基地に残して,ふたたび東側からの攻勢をとるべく移動を開始した。
だがこの侵攻は,建物の影に潜んでいたLemming TrainのT1によって察知される。「World of Tanks」では,視線が通っていなくても,一定距離以内に接近すれば自動的に索敵に成功する。T1は建物を挟んで,Synergy攻撃部隊の一部を発見した。
一方,自分が発見されたという情報は,Synergy側も把握できる。数分の対峙のあと,Synergyは攻勢をあきらめ,基地へと撤退していった。残り時間は3分を切っており,防御に務めれば引き分けとなる。無理攻めして損害を出すよりは,防御に徹すべしというのは,妥当な判断だ。
Lemming Trainはその機を逃さなかった。「攻撃を好む」という評判どおり,東側のIS3とAMXが一気に突入し,Synergyの防御を崩壊させた。
だが,まだゲームは終わっていない。残り時間は30秒で,戦場の戦車はいずれも機動力に優れた車両ばかり。Synergyは1両でも生き残っていれば,ゲームを引き分けに持ち込める。
残り20秒で,Synergyの戦車が2両撃破され,残り5秒で,Synergy最後の重戦車が撃破された。Synergyに残るのはT1のみ。しかし残り5秒は,リロード時間の長い「World of Tanks」において,あまりにも少ない時間だ。
T1の位置はもう把握されている。間に合うか,それとも逃げ切るか。T1は機動力を活かして建物の背後に逃げる。3秒,2秒,1秒。会場から,両チームを応援する大きな歓声が沸き起こった。
そして残り時間表示が0秒を指し示したその瞬間,遠距離からの砲弾がT1に突き刺さった。Lemming Trainの劇的な勝利だ。
……以上のように,7人対7人,しかもチームの編成や連携を事前に打ち合わせられるトーナメント戦では,戦況はめまぐるしく変化する。AMXシリーズのように高い機動力を持った戦車が重視されるのは,鈍足の戦車ではこの変化に対応できないし,変化を作ることもできないからだ。
次のプロクホロフカを引き分け,Lemming Trainは勝ち点2を先取。第1試合の勝者となったのである。
Lemming Train vs Synergy,因縁の対決
第2試合,Lemming TrainはS.I.M.P.と対戦したが,引き分けが2回続いて双方ともに勝ち点2となったため「強襲戦」に入った。防御側を取ったLemming Trainは善戦するも押し負け,これで後がなくなってしまった。
第3試合の相手は再びSynergyだ。Lemming TrainとSynergyには,因縁がある。ヨーロッパの大会で,Lemming TrainはSynergyに,自信を失いかねないレベルで負けているのだ。解説者も,チームの地力という点ではSynergyに分があると語っていたが,上記のように第1試合はLemming Trainが取った。
双方ともに,1敗しているので,もう負けられない。果たしてLemming Trainはかつての敗戦を乗り越えてSynergyより強くなっているのか。それとも第1試合はフロックだったのか。決勝戦への生き残りを懸けて,両チームがリベンジマッチに挑んだ。
第1戦の鉱山では,北から攻めるSynergyは,T32が南側の防御ポジションを確保したため,Lemming Trainは迂闊に中央のラインに入れなくなってしまった。
これに対するLemming Trainの選択は,損害を顧みず全員一丸となってT32を落とす,というもの。T32は防御力に優れるが,攻撃力はさほどでもない。Synergyが後方に配置した戦車からの攻撃も受けることになるが,大損害を受ける前に突破は可能……かもしれない。
Lemming Trainの猛攻が始まり,SynergyのT32は撃破された。だがこの過程で,Lemming Trainの攻撃の中核となるAMX 50 100が大きなダメージを受けてしまった。
それでもLemming TrainはSynergyを追い払うことに成功し,残り車両のHPも双方だいたいイーブンとなったので,情勢的にはLemming Trainやや有利かと思われた。
だが,攻撃の主力が大きなダメージを受けたことがここで祟り,ついにAMX 50 100が撃破されると,攻勢のプレッシャーが一気に落ちてしまった。Synergyは戦線を整理して火力を集中し,Lemming TrainのT32を撃破すると,そこから先は掃討戦となった。Synergy,勝ち点1を先取。
第2戦の崖は,広いマップということもあり,互いに中戦車と軽戦車を主体とした機動性重視の編成に切り替えてきた。
Lemming Trainは開幕から果敢に攻めるが,開始後1分,チームのエースであるButcherr選手のPershingが撃破され,さらにAMX 1390も甚大なダメージを受けてしまった。Synergy側のAMX 1390も瀕死だが,Lemming Trainの不利は拭えない――というか,ゲーム的には大勢は決したと言える状況だ。
すでに勝ち点1を奪われたLemming Trainは,このマッチに引き分けでも負け。Synergyは引き分けで勝ち点2を先取できるので,ひたすら堅く守っていればよい。
だが,無謀にも見えるLemming Trainの開幕突撃は,エースの喪失と引き換えに,大きな報酬をもたらしていた。この段階で,Lemming TrainはSynergyをマップの北の狭い範囲に押し込んでいたのだ。喪失したPershingはどちらかと言えば防御よりの戦車であり,Lemming Trainはまだ攻撃力を失っていない。
残り5分30秒の段階で,Lemming TrainのAMX 1390がマップ中央にある灯台へ到達した。ここからならば,Synergyの布陣全体が見下ろせる。もちろんSynergyの車両は茂みや岩陰などを利用して隠れているが,発砲などで位置が露見したら,灯台からの撃ち下ろしが待っている。
残り4分,SynergyのPershingの位置が露見し,灯台からの連続狙撃で撃破された。これでゲームは振り出しに戻り,情勢的にはLemming Trainの圧倒的優勢だ。
灯台からの砲撃を避けるため,Synergy主力は灯台のある丘陵の麓にはりついたが,そこはLemming Trainがエースの犠牲によって確保した2両の攻撃型戦車の射界だ。Lemming Train側は斜面を使って砲塔を見せるだけで攻撃が可能だが,Synergy側には申し訳程度の岩しか遮蔽物がない。
Synergyの戦車群は次々に炎上,Lemming Trainの逆転勝利となった。
逆転,また逆転
いよいよ迎えた第3戦はヒメルズドルフ。両陣営とも戦車は市街戦仕様,つまりAMX 50 100×3,IS3×2,T1×2である。
攻撃を好むという評判どおりの展開を見せるLemming Trainか,はたまた幾多の栄光を勝ち取ってきたSynergyか。決戦が幕を開けた。
驚くべきことに,Synergyは開幕からラッシュを仕掛けた。崖の意趣返しというところだろうか。Lemming Trainはいつものように幅広く布陣したが,ヒメルズドルフは狭くて障害物の多い市街戦マップであり,ラッシュで一気に戦線を突破されると,広がった布陣は裏目に出かねない。
Synergyの開幕ラッシュは成功し,基地の前で守備に入っていたLemming TrainのIS3は開始1分で撃破され,同時にT1も排除された。
一丸となって攻め上がったSynergyは,そこから戦果を拡張すべく広がっていくが,街の広場に出たAMXを丘に上がったLemming TrainのAMXが撃破したので,戦闘可能な車両数はイーブンになった。
丘の上にLemming Trainの車両がいることを知ったSynergyはまたしても鮮やかに方針転換し,Lemming Trainの基地の占領に入った。そして,多少の損害を出しながらも,占領を妨害しようとするLemming TrainのIS3とAMXを撃破した。
この段階で,SynergyはHP50%〜70%程度の重戦車4両に,T1が1両。Lemming Trainはおおむね無傷のAMX2両に,T1が1両という状況だ。地元ポーランドのチームであるLemming Trainを応援する観客席にも,これはもう終わったな,というムードが漂う。
だがLemming Trainはあきらめなかった。1両だけ生き残ったT1が,カウンターでSynergyの基地の占領を開始。このままでは先にSynergyの占領勝ちとなるが,占領には「占領している間にダメージを受けた戦車は,占領ポイントをすべて失う」という弱点がある。
Lemming Trainが,基地占領を進めるSynergy戦車4両すべてに射撃を命中させ,占領ポイントをチャラにすれば,Lemming Trainにもわずかながら勝利の可能性がある。
Synergyの占領完了まで残り3秒というところで,Lemming TrainのAMXが自軍基地に突入し,最初の射撃で1両に被害を与え,占領負けを回避した。2射めもまた命中させ,Synergyの占領ゲージはほぼゼロになってしまった。
このとき,Lemming TrainのエースであるButcherr選手が自軍基地に殴りこみ,奇跡の占領リセットを成し遂げたAMXがダメージを与えた車両を次々に破壊した。ほんの10数秒間に,基地を占領していたSynergy主力軍は全滅してしまったのだ。
だが,この攻撃でAMXは長いリロードに入ってしまう。ここが自動装填車両の苦しいところだ。だが基地にはSynergyのAMXが残っており,HPはまだ4割強残っている。Lemming TrainのAMXは占領のサポートのために敵基地へ急ぎ,Butcherr選手はその場に残った。だが,リロードを先に終えたSynergyのAMXがButcherr選手のAMXを撃破したので,これで互いにAMX1両,T1が1両の戦いになった。しかし,Lemming TrainのAMXは瀕死,一発受ければ撃破されてしまう。
しかしこのとき,Lemming Trainは奇跡の逆転を成し遂げようとしていた。先ほどから占領を続けていたT1によって,Synergy基地の占領度は80%近い。残り20秒で,Lemming Trainの大逆転が成立する。そしてSynergyのAMXは,20秒では自軍基地に戻れない。
あきらめない限り,勝負は終わらない
最後まで試合をあきらめないのは,Synergyも変わらない。彼らもまた,いくつものギリギリの勝負を戦ってきたのだ。
Lemming Trainの基地攻防戦を横目に,SynergyのT1は自軍基地に向かって走っていた。Lemming TrainのT1が占領を終えるまでに基地に辿り着き,T1を発見し,攻撃を命中させれば,ゲームは振り出しどころか,Synergy有利になる。
残り10秒。SynergyのT1が自軍基地に走りこみ,Lemming TrainのT1を発見した。しかしLemming TrainのT1は巧みに建物の背後に隠れる。残り5秒。観客席からは,Lemming Train大逆転を祝福するカウントダウンの声が沸き起こる。5,4,3,2,1,ゼロ! Lemming Trainの勝利だ!
これによって,Lemming Trainの占領度はゼロに戻る。大歓声をあげていた客席は,一瞬で水を打ったように静まり返った。
直後,SynergyのT1は撃破されたが,Lemming Trainにとって状況は絶望的だ。SynergyのAMXのHPは残り610。AMXが1発の砲撃で与えるダメージの平均値は300で,確率的には3発必要になる。一方でLemming TrainのAMXのHPは残り143であり,一発の命中弾で撃破されてしまう。
ここでLemming TrainのAMXは,線路側に退避した。解説者が「これはちょっと違うんじゃないですかね」と疑問を提示するムーブだ。Synergy側は「AMXを探していると,占領で負けるかもしれない」と考え,自軍基地のT1撃破を優先した。T1に装甲を抜かれる心配のないAMXだけに,落ち着いて撃破した。
だがこのとき,Lemming TrainのAMXが襲いかかった。セオリーに反するところに退避したAMXは,敵の行動を読んでいたのだ。しかし,砲弾は命中したもののダメージは期待以下で,残りHPは333対143となった。
敵味方2両のAMXは建物を挟んで,互いに間合いを測る。言うまでもなく,有利なのはHPの残りが多いSynergyだ。相手の位置が分かっている以上,これでチェックメイト。
SynergyのAMXが遮蔽物の背後から顔を出し,Lemming TrainのAMXが,これを迎撃した。次の瞬間,SynergyのAMXが爆散。先ほどは期待を下回ったダメージが,今度は大きく上向いたのだ。逆転に次ぐ逆転を制したのは,Lemming Trainだった。
会場は,割れるような歓声と拍手に包まれた。
王者NaVi
その後,Lemming Trainは一度敗れたS.I.M.P.と再戦して勝利を収めた。これが初の敗北となったS.I.M.P.と勝ち点が並んだため,決勝進出の切符をかけて再戦し,またしてもLemming Trainが勝ったことで,ついに決勝トーナメントへ進出を果たした。
決勝トーナメントでも,Lemming Trainは初戦の相手,ARETEを3-1で撃破したが,これには,土曜日とあって一気に増えたポーランド人サポーターの声援が,彼らを後押ししていたのは間違いない。
これまで善戦に善戦を重ねてきたLemming Trainだったが,王者NaViとの戦いは,一方的なものとなった。攻撃は跳ね返され,反撃の波に呑まれる。Lemming Trainは3戦全敗で敗退してしまった。
後がなくなったLemming Trainは,敗者復活の望みを託して,The Red Rush: Unityとの勝負に挑んだ。だがNaVi戦の敗北で緊張の糸が切れたのか,Lemming TrainはThe Red Rush: Unityにも圧倒され,3-0で敗北した。
かくして,Lemming TrainのThe Grand Finalsは終わった。
王者NaViだが,最終日の第1回戦,Virtus.PROとの戦いを3-2で落とした。これは番狂わせがあるか? と会場は沸いたものの,The Red Rush: Unityとの戦いを3-2で勝利し,決勝戦へコマを進めた。
決勝は,再びNaVi対Virtus.PROという顔合わせになった。勝ち点4を先取したチームが「世界一」の名誉と,それにふさわしい賞金を得るのだが,結論から言えば,NaViは圧倒的だった。
これによって,困ったのはむしろVirtus.PROで,高台を取ったのはいいが,NaViは無傷のまま,鉄壁の守りを固めている。ここに踏み込んだら,ただでは済まない。
このとき,事実上,勝負はついていた。
攻め手を失ったVirtus.PROは,無為に時間を消費する。もちろん,それが悪いわけではない。なにしろ彼らは勝ち点1をリードしているのだ。このまま3回引き分ければ,優勝が転がり込む。NaViが鉄壁の守りを誇示して引きこもるなら,放置すればいい。
しかし,NaViはしたたかだった。Virtus.PROが攻撃をあきらめたと見るや布陣を組み変え,T32を丘に向かわせた。なんの不自然さもない行動だ。なにしろNaViは1本取らねばいけないのだから,攻撃の起点となるこの行動は,むしろ当たり前のことだ。
そのまま,攻防が続いた。T32が稜線から頭を出して撃ち,反撃は装甲で弾く。お互いにその繰り返しだ。
しかし,このありきたりさに,Virtus.PROは呑まれてしまった。
NaViは,密かにAMX 1390をT32の後ろに集結させ,T32の頭がいつものように稜線を超えるのに合わせて,丘に向かってダッシュを開始した。ほぼ同じテンポで頭を出してきたT32に対し,Virtus.PROはラインを下げて,撃たれまいとする。
Virtus.PROがラインを下げたことで,丘に滑り込んだ3両のAMXは,攻撃を受けるどころか,視認さえされないまま前進し,単身,丘を守っていたVirtus.PROのT69を即座に血祭りにあげた。
文句のつけようのない,完璧な勝利だ。
勝ち点をタイに戻したNaViは,その後の3マッチを引き分けとし,双方のチームが同時に勝ち点4を確保したため,強襲戦によるタイブレークマッチが行われた。
Virtus.PROは攻撃側を選び,NaViは防御を選んだが,防御に定評のあるNaViがこのマッチを勝ち取り,名誉と優勝賞金を手にしたのは,ごく自然な流れに見えた。
祭りのあと
数多くのドラマが生まれたGrand Finalsだが,NaViを筆頭とする,ロシアチームの圧倒的な強さは壮観の一言に尽きた。とくにNaViには,同じロシアのチームと比較しても,レベルの違い(戦術研究のレベルの違い)を感じさせられた。
一方,日本で「World of Tanks」を楽しむ我々にとっても,この大会は大きな意味を持つものとなった。ASIAサーバー代表である「PvP Superfriends」が,4位に入ったのだ。
「World of Tanks」プレイヤーの間では,しばしば「ASIAサーバーは,プレイヤーのレベルが低い。ヨーロッパやアメリカのサーバーとはまるで違う」と言われることがある。だが,ASIAサーバーの代表が4位(そして上位3位がすべてロシアのチーム)に入ったということは,「少なくともASIAのトップは,世界と渡り合えるどころか,対等以上に戦える」ということを示す。
NaViの選手も優勝インタビューで「数年以内には,ロシアチームがベスト3を独占できなくなり,アジアのチームがそこに入ってくるだろう」と語っていた。
また,今回Lemming Trainにスポットをあてて取材したが,やはり地元のチームが出場しているかいないかは,大会の盛り上がり方を大きく左右するというのが実感だ。
日本のe-SportsシーンではRedbull5Gが「東西戦」という試合形式を取っているが,こういった「自分達の地元のチーム」感は,もっと重視されていいように感じた。実際,プロ野球も,Jリーグも,地元との関係抜きには語れない。
ちなみにLemming Trainは,いわゆる「それだけで生計を立てている」という意味におけるプロチームではなく,全員がセミプロ,あるいは「普通のゲーマー」だそうだ。スポンサーもついておらず,ほかの強豪チームのように「大会前の集中合宿」などは行えないという。
作戦も「初動の30〜40秒は決めているが,その後は個々の判断が大きい」という。ヨーロッパでプロゲーマーが参加する大会と聞くと,「ゲームに人生を賭けた,真剣になりすぎている人達だけが出場する」というイメージがあるかもしれないが,それはあくまでイメージに過ぎないということだ。
Lemming Trainのマネージャー的立場の人は「みんなで楽しく『World of Tanks』を思い切り遊ぶ,それがチームの結束を固めるし,そうなると,もっと楽しい」と語っている。もちろん,スポンサーや賞金といった,経済的な付加価値があればなおいいかもしれないが,主眼は「楽しいかどうか」だ。
日本でどんなe-Sportsが盛り上がるのか,また,どのような形で盛り上がるのか,まだまだ未知数な部分も多い。そしてそこに「World of Tanks」がどう関わっていくかも,これからの物語だ。
今は,これだけ多くの観客を熱狂させる力を持ったコンテンツが確かに存在しているのだということに,しっかりと注目しておきたいと思う。
「World of Tanks」公式サイト
- 関連タイトル:
World of Tanks
- この記事のURL:
(C) Wargaming.net