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[CEDEC 2010]モバゲーは世界を目指し,同士を募集中。DeNA南場氏が語る「ゲームプラットフォームの未来」とは
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講演は,「なぜ,日本のモバイル市場はガラパゴスなのか」に関する話から始まった。
次に示されたのは,電車の中での写真で,みんな携帯電話に向かっているという,ある意味ごく日常的な風景だ。ただ,外国人が不思議そうに座っている。老若男女誰もが携帯電話を使うというのは,すでに日本では当たり前の光景になってしまった。「電車で携帯電話をいじっていないのは外国人だけ」という指摘もされていたが,まあ,実際そうかもしれない。
日本の携帯電話事業は,ガラパゴスとはいわれつつも,世界的に突出して進化した業態を持っている(少なくとも,ある程度までは)。日本で大きな成功を収めた事業者は,当然のように海外の携帯電話市場に打って出ているのだが,そのすべての試みが失敗に終わっているという。その理由を,南場氏は「うまみがない市場だったから」とまとめている。
海外では,国別,キャリア別,端末別,世代別と大きく市場が細分化されており,すべてを合計すると巨大ではあるものの,それぞれ単独のパイはかなり小さいのだという。日本と違って,同じキャリアでも端末メーカーごとの差異が大きく,キャリア自体も非常に数が多い。イギリスの例では,6100万人の携帯人口のうち,Vodafoneが最大手で21%のシェア,端末ではNokiaが30%,最新世代の端末はさらにその30%で,市場としてはせいぜい120万人規模のものにしかならないことが示された。100%の普及というのは望むべくもないのだが,ユーザーの5%に遊ばれたとしても,6万人程度しか見込めないということになる。
さらに,旧世代の機種も多く,大きな市場を狙うとなると,どうしても下の機種に合わせた仕様にせざるをえない。言語,文化,法律など多くの点で差異があり,キャリアごとに営業部隊や,端末それぞれにサポート部隊を用意するとなると,運営コスト,ローカライズコストなどでまったくうまみがない状況だったのだ。これだけ労力をかけて6万人単位でしか市場が広がらないのだったら,国内でキャンペーンでもやったほうが効率はよさそうだ。
iPhoneは,国別,キャリア別,機種別の差異を吸収した統一的なプラットフォームを形成しており,細分化されすぎていて手の出しようがなかった市場のなかで,初めて大きなビジネスになりうる市場を形成していたのだ。
南場氏は,プラットフォーム統一には功罪があるとはいうものの,安心してサービスできる環境が整ってきたことを素直に歓迎しているようだった。「統一的なプラットフォーム」による大きな市場が携帯ゲーム業界を一気に活性化している。それが現在の携帯電話市場の状況である。
そのような状況で,コンシューマゲーム業界はどうなったかというと,2000年あたりから市場規模の停滞が見られるようになっていることがCESAの資料で示された。
南場氏は,前節からの文脈と同じ流れにはなるが,ソーシャルゲームや携帯電話ゲームというものが,それまでは(海外より規模は大きいとはいえ)各社各機種ごとに展開するのが基本だったものが,iPhoneに限らず,追随するスマートフォンは同様の戦略をとっていることですべて統一的に扱われるようになったという,プラットフォームの統一と拡大という点で評価しているようだ。
同社のモバゲータウンは,各キャリア,端末による差異を吸収する部分をDeNAが提供することで,同じゲームをいろいろなキャリアのユーザーとも一緒に遊ぶことができる。ゲームメーカーはもちろん,1種類のゲームを作ればそれだけで対応できる。ユーザーにとっても,メーカーにとってもメリットが大きいことは分かるだろう。
南場氏は,スマートフォンでもクロスデバイスのプラットフォームを通じて,同じような展開が可能だと主張している。
ゲームは,これまでのようなハードウェアやOSに縛られたプラットフォームから,デバイスフリー,OSフリーの方向に進んでいくとの見解を示した。
このように,携帯電話というものが世界的な規模のゲームプラットフォームとして成立しつつある状況で,DeNAはどうしていくのかというのが,次の論点だ。
携帯電話では,Webブラウザ上でのソーシャルゲームくらいしか表現力がなかったものが,スマートフォンでは,携帯ゲーム機以上の表現もできるようになってきている。これが世界規模で大きな市場を形成しつつあるのが現在の状況だというのは,多くの人が認識しているところだろう。ここで,その市場を取りに行く,トップ企業を目指すというコンセプトが明かされた。
ある程度大きなプラットフォームにまとまったことで,世界規模の市場は魅力的であり,端末を問わず遊べる環境が求められている。これは確かに大きなチャンスではあろう。
日本企業が海外の携帯電話市場に参入しようとして,ことごとく失敗していた話はすでに紹介しているが,状況は変わってきている。そういった世界的な流れに取り残される形で,「ガラパゴス」と昨今呼ばれている日本の携帯電話市場だが,南場氏は,携帯小説を例に日本のアドバンテージを挙げた。
かつて,モバゲーでは全ユーザーの4%の人が携帯小説を書いており,同社はそれを快挙として発表したのだそうだ。海外からは,日本特有の事例だろうといわれていたという。それが,最近アメリカで携帯小説を展開した例では,実に8%が携帯小説を書いたのだそうだ。こういったものが日本に特有のものではなく,世界的に通用するサービスであることが数字として示され,南場氏は奮い立っているようだ。こういった携帯電話ユーザーが求めるものを察知することにかけては,日本にはまだ1年のアドバンテージがあると南場氏は語る。逆に,遅れ気味といわれる技術的な部分についてはまったく問題にしていないという。市場のニーズを的確に捉えて商品化していくことができれば,十分に勝機はあると見ているようだ。
南場氏は,海外にはGoogleなど若い企業が世界のトップに立っている例が数多くあるのに,日本では若い企業の世界進出がないことを嘆き,DeNAが新しいゲームプラットフォームで世界的に打って出る宣言を行っていた。同時に,会場に集まった開発者に向けて,一緒に世界を目指しませんかと呼びかけた。
CEDECは開発者向けの情報交換を目的とした場ではあるのだが,講演の全編を通してヘッドハンティング用のスピーチに徹していた姿は,いっそすがすがしいほどであった。
どんなゲームを作るかというテーマは会場で公募されており,集められた用紙から南場氏が引き当てたのは「プラットフォームウォーズ」と題されたゲーム(苦笑していた)。いわく,mixi,GREE,モバゲーの3社が社員と顧客を奪い合いつつ戦い市場制覇を目指すといったマネジメントゲームであった(変形三国志?)。現在,DeNAの5人のスタッフによって会場の一角で開発が進められている。その開発コーナーでも「人材募集しています」とにこやかに連呼している様子は,なかなかの商売上手といえそうだ。
さて,日本でソーシャルゲームといえば,mixiアプリのオープン化,最近行われたGREEのオープン化などと並んで,DeNAのモバゲータウンなどが挙げられる。どれも基盤となっているのはGoogleが主導するOpenSocial系のソーシャルゲーム環境である。ある意味,各社がこれをベースにそれぞれ差別化して囲い込みを行うという,コンシューマでのプラットフォーマーと同じことをしているわけである。
ここまでの文脈からいくと,ユーザーにとってもゲームメーカーにとっても枠組みが大きなほどよいわけだろうから,クロスコミュニティなゲーム基盤を目指していくのは必然という気はする。mixiとGREEとモバゲーで争うというゲームではなくて,協業できるメタなプラットフォームを探す方向もアリなのかもしれないと感じた。
世界を目指す同社の今後の展開に注目したい。
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